収束する世界

第七十五話≪収束する世界≫

殺し合いが終わった後、真紀は迎えに来たヘリコプターに乗せられ、
ゲーム会場である孤島から東に数㎞離れた小島に連行された。
そこで真紀を待っていたのは、このゲームの主催者――というよりは、運営役である、柴田行隆と名乗る、
長身痩躯の人間の男。その声は紛れも無く、開催式でのあの男の声、そして放送でのあの男の声であった。

大型エレベーターを使って地下に下り、応接間のような部屋に通された真紀は、
そこで行隆からねぎらいの言葉と共に、優勝者への褒美としてこの殺し合いを開催した目的について聞かされた。

「この殺し合い、バトルロワイアルは――実験だったんですよ」
「実験……?」
「ええ、ある方の提案でしてね。
大人数の一般人を狭いフィールド内で殺し合わせると、プレイヤー達はどのような行動を取るか、
という事を検証するためのものだったんです。有名プロ野球選手や世界最高齢の女性といった有名人を、
プレイヤーとして参加させるのはどうかと思ったんですが、上層部の意向でしてね。
但し世界最高齢の女性である菊池やとさんは、流石にそのままでは戦う事は愚か歩行すらままならないので、
拉致した際にちょっとした肉体改造を施したんですけどね。
いやあそれにしても、皆さんよく戦ってくれましたよ。おかげで貴重なデータが数多く収集出来ました」
「……」

行隆が話したこのバトルロワイアルの開催の目的は、参加者達、もちろん真紀からしても、
実に身勝手で理不尽かつ馬鹿げたものだった。
一体どこの誰がそんな馬鹿げた実験を提案したのかは知らないが、お陰で自分は知り合いを一人失ったのだ。
殺人については完全に自分の意思で行ったものなのでその責任を擦り付けるような事はしない。

「……アンタらは何者なの?」
「俺らは……まあ、政府公認の超法規的組織って奴ですかね。余り詳しい事は言えませんが。
ごく一部、ほんの一握りの絶大な権力者、実力者の願いや考えを実現してあげるのが仕事なんですよ。
今回のバトルロワイアルもその一つです。しっかし苦労しました。舞台の用意に支給品の準備。
参加者の拉致にマスコミや国家警察への根回し……超過労働ですよ、ホント」
「アンタらの苦労話に興味なんか無いんだけど」
「ですよねー」

しかし行隆の言っている事が事実なら、この殺し合いはどこぞの権力者――恐らく大物政治家か、
非合法組織の頭領か、強大な軍事力、政治力を持った大名家か。
とにかく馬鹿げた考えを起こした奴が発端となってこのバトルロワイアルが起きたという事になる。

(全くいつの世になってもはた迷惑な奴はいるもんよね……おかげでとばっちり食うのはいっつも一般の民間人よ)

その提案者に呆れと怒りが混じった感情を抱きながら、真紀が溜息をつく。

「そう言えば会場になった島、住民はどうしたのよ? 追い出したの? っていうかこんな事して騒ぎにならないの?」
「住民? ああ、今でも島で普通に平穏な日常を送っていますよ」
「……へ? どういう事?」

行隆の言った事が理解出来ず真紀が疑問の声をあげる。

「この世界は元々あなた方が暮らしていた世界とは別次元の世界なんです。
本当なら海しか無いんですが、このバトルロワイアルのために、ある離島を島ごとコピーして、
そのコピーした島を会場にしたって訳です」

要するに、今自分達がいるこの世界は元々自分達が暮らしている世界とは違う世界で、
あの島は自分達が住む国のとある離島のコピーらしい。
なので住民は元々あの島にはいなかった。いや、住民はコピーの元となった島で今も普通に暮らしている、という事だ。
ややこしい話だが、真紀は何とか理解した。

「それに、先程も言ったと思いますが、マスコミ、つまり報道機関は完全に我々の支配下にありますからね。
騒ぎになんてなりゃしませんよ。まあ、一日で一気に50人も行方不明者が出たのですから、
多少は騒ぎになるでしょうけど、すぐ収まります」
「……へえ……」

どうやらこの男の所属する組織とやらは、相当な影響力を持った強大な組織のようだ。

「とにかくまあ、あなたはもうすぐ家に帰れますよ。
安心して下さい。殺人の事も、このバトルロワイアルの事も、あなたが自分から話しでもしない限り、
誰にも分かりません。このバトルロワイアルに参加する前と同じ、平穏な暮らしに戻れます」

簡単に言うな、と真紀は心の中で行隆をなじる。
自分は人を8人も殺している。事故などでは無い、正当防衛などでも無い。自分の意思で、だ。
全く罪悪感を感じていない訳では無い。自分はそれを一生背負わなければならないというのに。
それで「平穏な暮らし」というのも、語弊がある気がするのだが。

「それじゃあ、おやすみなさい」
「え?」

行隆がそう言ったのと同時に、再び首輪から電流のようなものが発せられた。
そして、真紀の意識は、静かに遠退いていった――。


気がついた時、そこは、真紀が住むアパートの一室、自分の寝室のベッドの上だった。
上体を起こし、辺りを見回す。
カレンダー、机、クローゼット、目覚まし時計。
間違い無い。何もかもが、殺し合いに拉致される直前の、夜の時のまま。
時刻は朝の8時23分。カーテンが閉められた窓から柔らかな太陽の光が差し込んでいた。
カーテンを開けると、そこにはよく見慣れた街並みが広がっている。
犬の散歩をする老人。自転車で遊びに行く子供達。買い物に出かける女性。
紛れも無く、いつも見慣れた、自分の町。

帰ってきたのだ。

「夢……?」

一瞬、夢だったのだろうか、と、真紀は錯覚した。
首輪にはめられていたあの首輪は跡型も無くなり、傷も全て癒えていた。
ボロボロになっていた衣服も、元通りになっている。
長い、とても長い夢を見ていた――そんな気分だった。

だが、居間に移動してテレビを点けた時、それは間違いだという事に気付く。
テレビの画面の中では、見慣れたニュースアナウンサーがニュースを読み上げていた。
日付は――自分が殺し合いに拉致される前日の夜の、次の日の日付だった。

『……続いてのニュースです。××ウィングズ所属の投手、長谷川俊治さん(27)が、先日より行方が分からなくなっています。
関係者の話によりますと……』
「夢じゃ、無かったんだ……」

やはり、夢では無かったのだ。あの殺し合いは、本当にあった。
それは殺し合いの参加者の一人であり、自分が殺した有名野球選手が、行方不明になっているというニュースを見て、確実なものとなった。
あの後、どうやって帰されたのかは知らないが、とにかく自分は、ここに帰還した。
つまり、自分は人を殺した。そして、知人を一人――失ったのだ。

「……」

真紀は、急に怖くなった。
あの殺し合いの時は、なぜか恐怖というものを感じなかったというのに。
なぜ今になって、こうも恐怖心が湧いてくるのか。
だが、理由は分かっていた。

自分は、人の命を奪ったのだ。
本来なら、重刑は免れない、殺人の罪。
だが、それは真紀本人しか知らない事実。
真紀がその罪で裁かれる事は無い。

それが、真紀は怖かった。

その罪を一生、誰にも言う事無く、背負い続けていかなければいけない。

「……やるしか、ないわよね」

真紀は拳を握り締め、意を決したように言う。
自分は人を殺めた。決して許されない罪。しかし裁かれる事の無い罪。
だが、逃げてはいけない。逃げた所で、罪はどこまでも追いかけてくる。
その罪を、一生、忘れずに、死ぬまで背負い続けるしか無いのだ。

「襲禅……多分、アンタは馬鹿にするだろうけど。
私、生きるよ。それはもう、しわくちゃのばあさんになるまでね」

真紀は、死んでしまった知人――狼獣人の不良警官、須牙襲禅に、自らの決意を述べた。




殺し合いという壮絶な修羅場を勝ち残り、生還した彼女は、この後、どのような人生を送るのか。




それはまた、別のお話。





【新藤真紀――――バトルロワイアルより、生還】

【俺のオリキャラでバトルロワイアル   完】



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最終更新:2009年12月11日 23:36
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