ナイトメア

第七十一話≪ナイトメア≫

「……朱雀、さん……」

二回目の放送が終了した後、美琴は呆然としていた。
いや、もはや心神喪失に近い状態だった。

「葛葉、さん……」

傍にいたやとは、美琴に掛けてやれる言葉が見付からなかった。
先の放送で呼ばれた18人の死者の中に、美琴の知人である「朱雀麗雅」の名前があったのだ。
当然、行動を共にしていた「中山淳太」の名前もあった。
美琴はただ呆然とアスファルトを見つめるばかり。
なぜか悲しくは無かった。涙も出なかった。
余りに実感が湧かなかったのだ。

「……」

ショックが大きかったのは、やとも同じだった。
やとはこの殺し合いには知り合いこそ呼ばれてはいなかったが、
放送主の男が告げた残り人数に愕然とした。
自分達を含めて、もう残り9人しかいないというのだ。
自分達を除くと、7人。この7人の中に、殺し合いを覆そうとする者が何人いるのだろうか。
あの緑髪の女性、名前が分からないので生き残っているのかどうかは分からないが、
もし生き残っていたとするならば、自分達以外に殺し合いに抗っている可能性がある者は6人となる。
――はっきり言って、状況はかなり絶望的だ。
だが――悪い方向に考えても仕方無い。賭けるしか無い。
とにかく、市街地へ向かおう。

「く、葛葉さん、あの、とりあえず、こんな開けた場所に留まっていると危ないです。
なので、えーと……」

やとが路上にへたり込んだままの美琴に立ち上がるように促す。
美琴の気持ちは痛い程分かるが、いつまでも留まっている訳にもいかなかった。
呆然としながらも、美琴は頷き、ふらふらと立ち上がった。
辛うじて理性は残っている、という感じだった。

「この道を真っ直ぐ行けば、市街地に着くはずです。行きましょう」
「うん……」

二人は再び市街地へ続く幹線道路を進み始める。
街灯がポツポツと灯り、暗い夜道を照らしていた。

そして、数十分の時間を掛け、進行方向向かって右手に林が広がる場所を通り抜け、遂に民家や電信柱が建ち並ぶ、
市街地へと二人は辿り着いた。
二人は安堵したが、市街地は小規模とは言え歩いて探索するには余り有る広さである。
まずどこから人を探すべきか、と、二人は歩きながら話し合った。
病院とその周辺は禁止エリアになっている。
もし人が集まり易いとするならば、市街地の中央付近に位置する島役場だろう、と、二人は結論付けた。

「頑張らなきゃ……まだ、四宮さんも生きている。まだ、へこたれる訳にはいかないよね」
「そうですよ……頑張りましょう、葛葉さん」
「そうだね。ありがとう、菊池さん」

美琴は未だ精神的に不安定だったが、何とか自分を奮い立たせる。
確かに知人の一人、朱雀麗雅は死んでしまったが、まだもう一人の知人、四宮勝憲が残っている。
とにかく、四宮さんと合流しよう。なぜか分からないけど、もうすぐ近くにいるような気がする。
やとも美琴を懸命に励ました。



ダダダダダダダダダダダッ。


突然、タイプライターにも似た音が響く。
同時に、やとと美琴の身体を、背後から無数の銃弾が貫いた。
やとと美琴の二人は、自分の身に何が起きたのか分からなかった。

分かる前に、彼女達の意識は、もう失われていた。



志水セナはF-3の仲販家の中で第二回目の放送を聞いた。
忘れようも無いあの主催の男の声は相も変わらず神経を逆撫でしたが、
特に気に留める事も無く、死者の発表に耳を傾けた。
そして「川田喜雄」の名前が呼ばれた時、セナは「やっぱり」と小さく溜息をついた。

「……川田さん……やっぱり死んだのね」

大体予想はついていた。ただの食堂経営者の中年男性が、こんな「殺し合い」という
死と隣り合わせの異常状況でそう長く生き延びられるはずも無い。
どういう死に方をしたのかは気になるが、それだけだった。
引き続き死者の発表に耳を傾け、呼ばれた名前をペンで横線を引いて消していく。
呼ばれた名前は18人。これで残りは自分を除き8人。
「大崎年光」「四宮勝憲」「金ヶ崎陵華」「菊池やと」「葛葉美琴」「新藤真紀」「藤堂リフィア」「松宮深澄」の8人だ。
続いて禁止エリアの発表があったが、三つとも現在位置からは遠く、
これから行く予定も無い場所ばかりだったので、特に気に留める必要も無いと判断した。
主催の男の話によれば、最低二人は自殺したらしい。
最後まで生き残る自信や人を殺す覚悟も無いならそういう選択も有りだろう。
もしかしたら発狂して前後不覚になった末に自殺したのかもしれないが。

「終わったみたい……残りは私を覗いて8人か。これは……優勝出来るかもしれない、本当に」

セナの心中に優勝への望みが膨らむ。
残り人数はたったの8人だ。自分の武装はサブマシンガンとショットガン。
十分に優勝を狙える。

「今度は、逃がさないようにしなきゃ……」

セナは二回、襲撃した他参加者を取り逃がしていた。
もしかしたらいずれも既に死んでいるのかもしれないが、
一度襲った獲物を取り逃がすのは良い気分では無い。
思えば山頂で三人殺してから自分は一人も殺していない。
次こそは、次こそは、と、セナは心の中で何度も自分に誓いを立てる。

数十分後。

リビングで武装の確認とこれからの目的地について思案していたセナの狐の耳がピクリと動く。
何か気になる音を察知したのだ。

(話し声? どうやら女性が二人……近付いてくる!)

セナはニヤリと笑みを浮かべ、イングラムM11A1サブマシンガンを手に取り、
足早に玄関へ向かった。
静かに玄関の戸を開け、門柱の陰に隠れる。
間違い無い。足音が聞こえる。こちらの方向に向かって歩いてくる。
セナは息を殺し、じっと待った。イングラムのグリップを握る右手に、自然と力が籠るのが分かった。

「頑張らなきゃ……まだ、四宮さんも生きている。まだ、へこたれる訳にはいかないよね」
「そうですよ……頑張りましょう、葛葉さん」
「そうだね。ありがとう、菊池さん」

そして、セナが身を潜める仲販家の前を通り過ぎようとしている二人の同年代ぐらいの少女を確認した。
暗くて良く分からないが、片方は犬科の獣人のようだ。
こちらには気が付いていない。まさに絶好の機会。

後は簡単だった。
二人の少女の背中に向かって、イングラムを掃射した。
少女二人は無数の45ACP弾に身体を貫かれ、路上に崩れ落ち、動かなくなった。

「やった……やっと仕留められたわ」

銃口から煙を噴き上げるイングラムを携えながら、セナは嬉しそうに尻尾を振り、歓喜の声を上げる。

「そういえばこの子達、名前呼び合ってたわね。葛葉に菊池とか。
そう言えば『葛葉美琴』と『菊池やと』って名前があったな。消しとこう」

セナは上機嫌に、たった今殺害した二人の少女の荷物と武装を漁り始めた。


【一日目/夜/F-3仲販家前】

【志水セナ】
[状態]:健康、上機嫌、優勝への望み、葛葉美琴・菊池やとの荷物を物色中
[装備]: イングラムM11A1(0/30)
[所持品]:基本支給品一式(食糧四人分、消費中)、レミントンM31(2/2)
イングラムの予備マガジン(30×6)、12ゲージショットシェル(38)
[思考・行動]
基本:優勝を目指す。他参加者を積極的に殺していく。
1:今殺した二人の少女(葛葉美琴、菊池やと)の荷物を漁る。
2:次の目的地は……。
[備考]
※水色ショートヘアの少女(桂川八重)を殺したかどうか分かりかねていますが、
薄々死んだのではないかと思い始めています。



【菊池やと  死亡】
【葛葉美琴  死亡】
【残り7人】


※F-3一帯に銃声が響きました。



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最終更新:2009年11月23日 23:09
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