願わくば、一時の別れであれ

A-3の森の中に、二人の男女がいる。
錬金の戦士、津村斗貴子。
ギャンブラー、伊藤開司。
当初は緊張していた二人だったが、やがてその緊張も解け、二人は情報を交換し合う。
そこで得た情報は、カイジからすれば信じられない話の連続だった。
ホムンクルス、核鉄、錬金戦団――その全てが聞いた事のない単語だった。
「何とも奇妙な話だな。私は君の言う『帝愛』とやらは見たことも聞いたこともない…君がホムンクルスに関する事を知らないのも無理はないだろうがな。」
「ああ、まるで漫画の話のようだ……秘密にされるのも無理はないだろうがな。」
「…どういう事なんだ、これは……?」
二人が疑問に思うのも無理はない。
二人は、住む世界事態が違うのだから。
だが、その事を二人は知る余地もない。

「そう言えばカイジ、君に支給された支給品はなんだったんだ?もし核鉄だったら譲ってほしいのだが。」
「あ……すまない、まだ確認していなかった。」
慌ててごそごそとデイパックを調べるカイジ。
その中に核鉄は――存在した。

「これは!隊長の!」
出てきた核鉄は斗貴子のそれではなかった。
彼女が所属する錬金戦団の戦士長、防人衛の核鉄である核鉄Cだった。
「斗貴子、これはあんたのじゃないのか?」
「ああ……だが使えるな。」
そう言うと斗貴子は核鉄を構えた。
「武装錬金!!」
核鉄はその形を変え、一瞬にして全身を覆う。
テンガロンハット風の帽子、襟の長いコート、スラックス、長手袋、ブーツ。
まぎれもなくそれは、防人衛の武装錬金――シルバースキンだった。

「……どういうことだ?」

斗貴子は知らない。
この殺し合いが行われている場においては、核鉄は誰にでも使えるように制限が加えられている事を。
だがその事実は、斗貴子の冷静な頭を混乱させていく。
黙り込んでしまった斗貴子を見かね、カイジは口を開いた。
「…なぁ、斗貴子。」
「なんだ?」
「その…核鉄とやらは、俺にも使えるものなのか?」
「……素質さえあれば、な。尤も、私には君がそうだとは思えないのだが。」
はっきりとものを言う斗貴子にカイジは苦虫を噛み潰す。
「…だが、万一ということもあるだろう。」
そう言って、斗貴子はカイジに核鉄を手渡した。
手渡されたその核鉄を、カイジはそっと自分の胸元にあてがった。

「…武装ッ……錬金!!」

次の瞬間斗貴子の前には、シルバースキンを装着したカイジが立っていた。
「…これは。」
「…ッ!できた!できたぞ斗貴子!」
「そんなにはしゃがなくても見れば分かる、カイジ。」
溜息をつきながらも、斗貴子は思考を張り巡らす。
――なぜ、バルキリースカートは出なかったのか。
そしてなぜ、何の力も持たないと思われるカイジにシルバースキンが使えるのか?

…分からない、分からない。
自分の中での常識が、どんどん崩壊していく。



「どうしたんだ斗貴子?」
「…いや、何でもない。それよりカイジ、これからの行動についてなんだが。」
いくら考えても分からない事が多すぎる。
それより今やるべきことは今後の動向についてだ。
斗貴子には、錬金の戦士としてこのような腐った殺し合いを止める責務がある。
誰かの死をもって殺し合いを強要させようとするメガネの男のいいなりになるような趣味は、斗貴子はもっていない。
それにこの場には目の前のカイジのように何の力も持たない一般人もいるし、自分と同じ錬金の戦士である武藤カズキもいる。
彼と一緒ならば、どのような困難にも打ち勝つことができる。
そう、斗貴子は信じていた。

「これからのって……そりゃ脱出するために色々するんだろ?」
「ああ、そのためにも一旦ここで別行動をとろう。」
「なっ…!なんでだ!?」
「まあそういきり立つな。」
慌てるカイジを窘めつつ、斗貴子は冷静に語り出す。
「この場は、殺し合いの場だ。それは分かっているなカイジ?」
「ああ……それなのになんで別行動をとろうなんて…」
「ここが『殺し合い』の場だからだ、カイジ。」
そう言う斗貴子の目はカミソリのように鋭く、何か言おうとしたカイジは絶句した。
有無を言わせない、氷のような冷たさを湛えたその眼を前にして我を通すほどの心力を持った者は、そうそういない。
「良いか、カイジ。ここが『殺し合い』の場ならば少なからずその場に『乗って』しまう者もいるだろう…私はそんな輩から力無きものを守るのが使命なんだ。」
「……お前の言いたいことも分かる。だがだからと言ってなんで別行動を。」
「はっきり言おう。私は君を守りながら戦うことには限界はあると思う。私一人が襲われたとしてもそれを撃退する術は浮かぶが君を守りながら戦うとなるとどうなるかは分からない。」
「つまり、それって――」
カイジが何か言おうとした瞬間、銃声のような音が遠くで聞こえた。

「……どうやら、もう始まってしまっているようだな。」
「くっ……!」
「…分かっただろう、カイジ。この場はいわば戦場だ。戦闘に慣れていない君が出る幕ではない。」
「ならっ……俺は、どうしたらいいんだ……!」
「そう情けない声を出すな、これをお前に託す。有効に使え。」
そう言い斗貴子はカイジにポン、と核鉄を放り投げた。
「え……良いのか?斗貴子。」
「良いも何も、それは元々君の支給品だろう。私がどうこうしていいものではない。」
「そりゃまあ……そうだが……」
カイジは受け取った核鉄と斗貴子を交互に見ながら、どこか煮え切らない態度で話を聞いていた。

「…しかし、斗貴子。お前は大丈夫なのか?もし襲われようものなら…」
「それもそうだな…カイジ、すまないが他に何かなかったか?」
斗貴子に促されるまま、カイジはデイパックを漁ったが、基本支給品以外に出てきたのは酢昆布だけというありさまだった。
これには斗貴子も溜息しか出なかった。
と、その様子にカイジは一つある事に気付いた。

「…なあ、斗貴子。一つ聞いても良いか?」
「なんだ?」
「お前……ナイフ持ってるんじゃなかったのか?」
「ナイフ……?」
「ああ、俺をその……俺から話を聞く時に使ったナイフだよ。」
そう言った瞬間にあの時のひんやりした感触が首元に思い出され、汗が噴き出そうになる。
だが目の前の斗貴子は動じることもなく淡々とした眼でこちらを見ていた。
「何を言っているんだカイジ?私はナイフなんて持っていないぞ?」
「…え?」
「私が持っていたのはな…」
そう言うと斗貴子はデイパックを漁り、あるものを出した。
「……なっ!!?」

出てきた『それ』は、どの家庭にもある――ものよりはほんの少し格調高いティーポットだった。
まさかこのティーポットを首筋に当てて質問をしていたというのだろうか。
そんな馬鹿げた話があるだろうか。
いやそれ以前にこの場は殺し合いという馬鹿げた狂気の沙汰。
何があってもおかしくはないが――
カイジの頭の中で様々な考えがごちゃごちゃに混ざりあいまともな思考はもう保たれない。

「…何を呆けているのだ、カイジ。」
「……まさかとは思うが、斗貴子、あの時俺の首に当てられていたのは……」
「ああ、このティーポットだ。」
「…………」
がっくりと、カイジの膝の力が抜けカイジはその両膝を地面に打ち付けた。
自分のされた行為とその行為で自分がどうなったかを思い出したカイジの頭を支配するのはただ、自分に対する情けなさと羞恥だけであった。



「それじゃあカイジ、一旦別行動と行こうか。」
カイジが立ちなおると見ると、斗貴子はもう動こうとしていた。
「ちょっと待ってくれ斗貴子。」
「なんだ?集合場所なら橋にすると決めただろう。」
「いや……斗貴子、本当にお前武器も持たずに行くのか?」
「仕方ないだろう、ティーセットの他に入っていたのはこれしかないんだから。」
そう言う斗貴子の手の中には、けん玉が一丁握られていた。
「…ま、けん玉も馬鹿にしたものではないぞ。振り回してぶつければなかなかの威力になる。」
「そりゃまあ……確かにそうだが。」
「それじゃあ、もうこれ以上無駄な時間をかけるのはやめだ。私は北に行こう。」
そう言うと、斗貴子はデイパックを担ぎ直しカイジに背を向けた。
しかし、三歩ほど進んだ所でふと立ち止まると、はっきりとした声でカイジに声をかけた。

「――死ぬなよ。」



そしてその場にはカイジだけが残された。
「――死ぬなよ、か。」
カイジとて、死ぬ気は毛頭ない。
だが今のカイジはあまりにも無力であった。
それでもカイジは自分の手に残された核鉄をそっと握りしめると――

「…武装錬金ッ……!!」





【A-3森/1日目午前】
【津村斗貴子@武装錬金】
[状態]:健康、決意
[装備]:けん玉@せんせいのお時間
[道具]:ウェッジウッドのティーセット@ジョジョの奇妙な冒険、基本支給品一式
[思考]1:殺し合いを打倒するために、カズキと合流したい。
   2:放送が鳴ったら、カイジとB-3橋で合流する。
   3:殺し合いに乗った相手には容赦しない。

【伊藤開司@カイジ】
[状態]:健康、冷や汗
[装備]:シルバースキン@武装錬金
[道具]:基本支給品一式、酢昆布@銀魂
[思考]1:殺し合いには乗らない。
   2:出来る限り多くの協力者を集める、が、無理はしない
   3:放送が鳴ったら、斗貴子とB-3橋で合流する。
   4:帝愛が絡んでいるのか?



【支給品情報】

【シルバースキン@武装錬金】
伊藤開司に支給。
元は錬金戦団戦士長である防人衛の武装錬金。
全身をくまなく覆うタイプの武装錬金であり、あらゆる攻撃を防ぐが当ロワでは制限されている。

【ウェッジウッドのティーセット@ジョジョの奇妙な冒険】
津村斗貴子に支給。
川尻家で使われているティーセット。
ティーポットとティーカップが一組ある。
流石にこれで人を殺そうというのは無理があるな……

【酢昆布@銀魂】
伊藤開司に支給。
神楽がいつも食べてるアレ。
そよ姫曰く「じいやのわきより酸っぱい」。

【けん玉@せんせいのお時間】
津村斗貴子に支給。
元はクリスマス会の時に委員長が工藤にプレゼントしたもの。
名前の響と見た目のかわいらしさから、工藤はあっという間に気に入った。






047:凶兆の黒猫 投下順 049:Lilium
047:凶兆の黒猫 時系列順 049:Lilium
004:Scar Faces 伊藤開司 :[[]]
004:Scar Faces 津村斗貴子 :[[]]

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最終更新:2012年02月10日 22:43
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