Open Death Trap

「殺し合いを打破する為に、我々が為さねばならないことは三つあります」

マオカラースーツを着た男は、指を三本立てた。

「一つ目には、殺し合いに乗った参加者を打倒しつつ、殺し合いに乗っていない人間がある程度のまとまりを造ること」

はい、と力強く頷いたのは、どこにでもいそうなツンツン頭の高校生。
しかし見る者が見れば、その顔に宿る、場数を踏んだ精悍さに気づくだろう。

「二つ目は、首に刻まれた『呪い』とやらの解除。
これを達成しない限り、我々の命は『キヨタカ』という男に握られたままになります。
しかしいかんせん、私たちの持ち得る魔術では、『呪い』を解除する手段は思い当りません」
「魔法使いのホアンさんたちでも無理なんですか?」

少年――武藤カズキは、『魔法使い』という単語を、あっさりと受け入れて口にした。
そして『魔法使い』呼ばわりされた男――ゲーリー・ホアンは、その反応に対して満足げに答える。
もっとも、ただ満足げなだけではなく、少々残念そうに。

「恥ずかしながら、私は現代魔法を学び初めて半年とたたない未熟者です。
私にできることは、初心者用の簡単な魔法コードを組むこと。そして、実行された魔法プログラムを逆アセンブルして解析することぐらいでしょう」

ホアンは三つ目の指を折った。

「そして三つ目には、この会場から脱出するということ。
この三つ目が、最も困難な目標であると言っていいでしょう」
「どうしてですか? オレたちは拘束されてないんだから、呪いさえ解ければ会場から出られると思うけど……」
「何故なら、この殺し合いの会場が、我々の住む世界にあるとは限らないからです」
「世界……って、どういうことですか?」
「我々の使う『魔法』が、『異世界の産物をこちらの世界に持ち込む術』だという理論は、既に説明しましたね」
「はい。宇宙にはたくさんの並行世界があって、俺たちが住んでいるのとほとんど同じ世界もあれば、『違う法則』の世界もある。
簡単に行ける異世界もあれば、二度と戻って来られない世界もある。
そういう『違う法則』の世界から、術を持ってくるのが魔法……でしたよね?」

カズキは覚えたての知識を、自信なさげに復唱した。

「はい。そして、武藤さんの言う錬金戦団やホムンクルスの話を、私は聞いたことがありません。
いくら戦団の存在が秘匿されているとしても、錬金術の研究をしていた組織を、魔術結社が知らないということはあり得ない。
だいいち、武藤さんがお話しになった『錬金術』は、私の知る『錬金術』とは明らかに系統が異なります」
「それって……ホアンさんと俺も、違う世界に住んでるかもしれないってことですか?」

ホアンは断言した。

「『かもしれない』ではなく、間違いなくそうでしょう。異世界の法則を呼び出すことで魔術を使う我々と、自らの能力のみを使って戦闘を行う錬金戦団。
この二つは、明らかに『違う世界の法則』によって動いています」

ホアンはここで言葉を切り、カズキが理解に要するだけの時間を与える。
カズキはしばらく目を白黒させて頭を整理していたが、「分かりました」と頷いた。
しかしあまり、納得のいった様子ではない。
『理屈はよく分からないけど、ホアンさんは嘘をつくような人にも見えないから信じる』というレベルだろう。

「話を進めましょう。私たちが違う世界から呼ばれている以上、異世界から呼ばれた参加者はまだまだいる。
また、私たちがいる会場も、我々の住むどちらの世界とも違う、全く別の世界である可能性さえ出てくる。
つまり、元の世界に帰還する為には、異世界を渡る方法を考えねばなりません。
三つ目が一番困難だと言ったのは、これが理由です。
……もちろん、『主催者から異世界移動の手段を奪う』という方法もありますが」

限りなく困難なことだと言わんばかりの説明に、カズキは付け焼刃の知識を頭でこねまわして考える。

「ホアンさんたちの『魔法』で、元の世界に戻ることはできないんですか?」
「『異世界に繋がる穴をあける魔法コード』は存在します。
しかし、とても初心者である私に扱える魔法ではない。私の知る参加者も、扱うことはできないでしょう」

がっくりとうなだれるカズキ。
ホアンは糸のような眼で少年の反応を観察してから、口にした。

「しかし、方法がないわけではありません」

顔をあげると、そこには微笑をたたえた自称魔法使い。

「私の知る『ある参加者』の力を以ってすれば、全員が元いた世界に帰還することができます。
それだけではなく、その方の魔術を使えば、おそらく『呪い』を解く魔法コードを組むこともできるでしょう」

手のひらを返したような楽観論。
しかも、打開できる知り合いはいないという直前の発言と矛盾する。
これには人の良いカズキも、大きな困惑の表情を浮かべた。
もしかして、もしかしてオレは担がれたのか、と

そんなカズキの当惑を楽しむように、ゲーリー・ホアンは説明を始めた。



☆   ☆  ☆


中世ヨーロッパに、ジギタリスという高名な魔女がいた。
もちろん、ホアンのいた世界での話だ。
高名と言っても、『悪名』という意味での偉人だった。
その生涯で殺した人間は10万人。
元は『魔女狩り』という不条理を強いる教会に盾ついたことが引き金だったそうだが、
人間をこれだけ殺せば誰からも擁護はされまい。
しかし、後にも先にも、彼女ほどの天才は現れなかった。
その生涯で創り出した魔法コードの数は、6万5千。
それこそ、ありとあらゆる魔法を担うことができたと言っていい。
しかしそれは、500年ばかり昔のことだ。
大魔女は、戦いの果てに敗北した。
世界を呪いながら、火あぶりにされたと伝えられる。
そのせいで、ジギタリスが創った6万5千の遺産も、ほとんどが消失した。
ジギタリスの魔法コードは多くの人間を殺したが、しかし魔法という『道具』に罪はない。
文字通り、『ありとあらゆる魔法』である。
6万5千の遺産が現存していれば、文明も数世紀は早く発展していたことだろう。

しかし、その人類の希望は、完全に消失したわけではなかった。
6万5千の魔法を記憶した文献が、一つだけ現存している。

ジギタリスが生涯をかけて集めた全ての魔法コードを記した魔導書(グリモア)。
魔導書の名前を、『魔女のライブラリ』と俗称される。
それは書物ではない。眼に見える形ではなく、人の頭の中にある。
大魔女ジギタリスの、記憶そのもの。
ジギタリスの肉体(ハード)は火あぶりにされたが、大魔女は死に際に魂(メモリ)を転生させていた。
その転生の秘術と、ジギタリスの記憶(データメモリ)こそが、『魔女のライブラリ』そのもの。
何の因果か、この会場には、その記憶を宿した少女も呼ばれている。
だから、その少女に『大魔女の記憶』を呼び覚ましてもらえばいい。
『ライブラリ』について研究していたホアンなら、それができる。
記憶を取り戻した少女は、生前の大魔女が持つ記憶と魔力を、そのまま受け継ぐことになる。
人類史上最強の魔法使いが、ホアンたちの味方として蘇る。
その力さえあれば、『魔女の口づけ』という呪いだって、いとも容易く解呪できるだろう。
どころか、『清隆』という主催者を打倒することさえ簡単にできるはずだ。
『清隆』の陣営にはよほど優れた大魔法使いがいるのかもしれないが、『魔女のライブラリ』は、人類史上最強の魔導書である。
6万5千の魔導書には、人間が思いつくありとあらゆる呪いと、その解呪法が全て記録されている。
魔女のライブラリを受け継いだ少女が、主催者に負ける道理などあり得ない。

その少女の名を、一ノ瀬弓子クリスティーナという。



☆   ☆   ☆


「以上が私の策になります。策と言っても『一ノ瀬さんを私の元に連れてくれば大丈夫』という、大雑把な考えですが」

ホアンは熱っぽい声で『ライブラリ』の説明を終えた。

武藤カズキが真っ先に気にしたのは、
「その『大魔女の記憶』が復活したら、一ノ瀬さんっていう子はどうなっちゃうんですか?」
一ノ瀬弓子という少女の、安否だった。

「俺、あんまり頭良くないから、たぶん全部は理解できてないと思います。
でもホアンさんの話だと、ライブラリが復活すれば、悪い魔女の記憶もよみがえっちゃうんですよね。
まさか、魔女に体を乗っ取られちゃうなんてことはありませんか?」
「だとしたら、武藤さんはどうしますか?」

「その作戦に協力することはできません」
きっぱりと答えた。即答だった。
ホアンの突飛な話を、信じないというわけではない。
ホアンという人間を、信用しないというわけでもない。
たとえ大勢が助かるアイデアでも、誰かが犠牲になるなら見過ごせないという、純粋な正義感の発露だった。

「なるほど、武藤さんはとても強い正義感をお持ちのようですね。
しかし、その心配は要りませんよ。魔女を復活させると言っても、それはあくまで『魔女の記憶』というデータに過ぎないのですから。
『一ノ瀬弓子』というPCの上で『ジギタリス』というプログラムを動かしたとして、それが原因でPCの機能が損なわれたりはしないでしょう?
一ノ瀬弓子という少女に危害が及ぶことはありませんし、『魔女の記憶』には彼女の任意でアクセスすることができます。
乗っ取られるようなことは、絶対にありません」
「なんだ、おどかさないで下さいよ」

武藤少年は、ほっと胸をなでおろした。
しかし、その曇り顔が完全に晴れたというわけではなかった。

「じゃあ、その一ノ瀬さんを見つければいいんですね。
でも、本当にそれだけで、上手くいくのかな……いや、ホアンさんを疑ってるんじゃないんです。
オレはその弓子っていう子のことを知らないけど、ホアンさんの世界では割と有名な魔法使いなんでしょう?
そんな子をわざわざ『儀式』に呼んだのに、その子が持つ一発逆転の魔導書に気づかないなんて、おかしくないかな……?」

男は「ほう」と感心したような吐息を漏らした。
いかにも素直そうな、自称『頭の良くない』少年が、思いのほか鋭い疑問を呈したからかもしれない。
しかし、即座に解答を用意する。

「その点についても心配ありません。
一ノ瀬さんが『魔女のライブラリ』の『匡体』だと知っている人間は、そう多くありませんから。
私と私の協力者であるギバルテス氏、そして現代魔法使いの姉原美鎖さんと、亡くなられた一ノ瀬さんのお爺様ぐらいでしょう。
もちろん、この四人とも、そのことを迂闊に漏洩するような真似はしていません。
第一、『魔女のライブラリ』は何らかの小細工が通用するようなモノではありませんから。
ライブラリの解放をある程度封じることはできても、ライブラリ自体を消したり制限することはまず不可能です。
『決して侵されないし消去されない』ことまで含めて、ジギタリスの魔術なのですから」
「そうなんですか」

カズキは、理解が追いつかないなりに納得をして頷いた。
しかし、彼にしては珍しく、大人しい反応だった。
本来の彼ならば、飛び跳ねるようにして立ち上がり、『良かった!! 皆が助かる方法があるんだ』と叫んで歓喜すべき場面だった。
しかし、『そうなんですか』の一言だけで同意した。
ホアンの考えには納得したけれど、その案には乗りきれない、というように。

武藤カズキという少年は、恐ろしいほどのお人好しだった。
初対面のホアンを、『乗っていない』という言葉ひとつで、あっさりと信用してしまった。
しかし、彼はただの愚者でもなかった。

カズキは直感する。
ホアンさんの『考え方』は危うい。


ホアンは、『魔女のライブラリ』の力を信じ切っている。
その力さえこちらの手にあれば、全てが解決すると疑っていない。


なるほど、キヨタカと名乗った男は、魔女がどうたらと話していた。
ことはホアンの専門分野なのだろう。だから、カズキがあれこれと考察して口をはさめる余地はない。
ホアンの説明も、噛み砕いた形なりに分かりやすかった。
殺し合いを止める3つの条件の話だって筋が通っていて、誠実さと説得力を感じさせた。

でも、『魔女のライブラリさえあれば、全て上手くいく』という話は、どこか飲み込めない。
あまりにもご都合主義だ、という感じがする。
カズキは、超常の力が起こす奇跡を知っている。
例えば、錬金術の力で死人を蘇らせる。あるいは、錬金術の力で人造生命体を創り出す。
他ならぬ武藤カズキ自身も、『超常の力によって生き返った』ことがある。
だからこそ、知っている。
『奇跡のような力をノーリスクで手に入れる方法などない』ことを、身を持って思い知っている。
武藤カズキは、『核金』という錬金術の産物で、蘇生することができた。
人を守る力を手に入れた。
けれど、その『核金』をきちんと扱えるようになり、いっぱしの戦士になるまで、二か月は費やした。
それも、通常より短期間で戦士を育てる為の、猛特訓だった。
力とは、タダで手に入るものではない。
それだけではなく、カズキを蘇らせた力には、『代償』も存在した。
無差別にエネルギーを吸収する怪物、ヴィクターへの進化。
禁忌とされる『黒い核金』の力で蘇った結果が、それだった。
今のカズキは、味方だった錬金戦団から『ヴィクターⅢ』として命を狙われる境遇にあった。

だから、カズキはその身をもって知っている。
何の代償も無く、巨大な力を都合よく手に入れることなどできるはずがない。

それでも、一ノ瀬弓子捜索を断念するつもりはなかった。
弓子という少女も殺し合いに呼ばれた被害者なのだから、カズキが守る対象に含まれる。
それに、たとえ失敗に終わるとしても、その方法を試す価値はある、ぐらいには期待していた。

「じゃあ、まずは一ノ瀬さんの捜索を優先しましょう。
斗貴子さんや蝶野とも合流できれば、きっと協力してもらえるだろうし」
「ええ、まさに問題はそこにあります」

ホアンはカズキの言葉を遮って、立ち上がった。

「一ノ瀬さんには一刻も早く、私と合流していただかねばなりません。
殺し合いの犠牲者を増やさない為にも、一ノ瀬さんの身の安全の為にも」

ただならぬ空気の変化に戸惑いながら、カズキは頷く。
ホアンは、微笑をたたえたまま続けた。



「ですから、私たちはこれから、他の参加者を殺して回ろうと思います」



「え? ホアンさん、オレ、何か聞き違えたかな。よく分からないんですけど」

カズキの笑顔が、凍りつく。
ホアンはよどみなく語り始めた。

「そうせねばならない理由は、二つほどあります。
第一に、この脱出計画は、一ノ瀬さんが生きている事が大前提となるからです。
その為には、一ノ瀬さんの生存率を少しでも上げなければならない。
例えば、一ノ瀬さんを殺す可能性のある人物を排除しておく。
あるいは、一ノ瀬さんの足を引っ張りそうな、足手まといを減らしておく」

カズキの茫然とした顔が、時間をかけて憤激に染まっていく。

「そして第二に、こちらがより重要な理由です。
仮に私が『一ノ瀬弓子という少女を連れてくれば全てが解決する』と主張したとして、何人の参加者が信じると思われますか?
『魔女のライブラリがあれば全て解決する』と言われて、なかなか納得できるものではない。
現に『魔法』を信じられた武藤さんでさえ、どこか現実味がない様子。
……おまけに、私は一ノ瀬さんとはあまり友好関係を築けていませんから、なおさら信用度は低いでしょう
ですから、私は要求します。武藤さんだけでなく、戦力と判断した全ての対主催派にも、同じことを言います。
『私の殺人を止めたければ、一ノ瀬弓子クリスティーナを、一刻も早く私の元へ連れてきてください』」

「無茶苦茶だ!! 参加者を助ける為に参加者を殺していくなんて、歪んでる!」

持ち得るエネルギーを全て怒りに転化して、カズキは叫んだ。
椅子を蹴るようにして立ち上がる。
穏やかに微笑むホアンを、不気味なものを見るように凝視する。

「より多くの参加者を助ける為だとしても、ですか?」
「さっきも言ったはずだ! 俺は誰かが犠牲になるやり方を選ばない!」

ホアンは笑みを崩さなかった。

「しかし、私の言うことに従う他はないと思いますよ? 私は一ノ瀬さんを連れて来られない限り、この方針を続けます」
「そうさせないようにオレが止める。武装――」
「デリバード!」

山吹色の閃光を放つランスが顕現したと、同時。
ボン、とテーブルの下から煙が弾けた。
ひっくり返ったテーブルを盾にする形で、赤い影がジャンプする。
赤いコートのような羽毛をまとった、ペンギンのような生き物。
ペンギンもどきが何かを指揮するように、短い腕(羽根?)をひと振りする。

――カキン!

「なっ、氷!?」

足元に冷気が集まり、瞬間的に氷結。
小型の突撃槍を片手に突っ込もうとしたカズキの両足が、膝下まで氷づけられた。

「では武藤さん、今度は一ノ瀬さんと一緒にお会いしましょう」

ホアンは紅白の球体に謎の生き物を収めると、脱兎のように喫茶店から撤退した。



☆   ☆   ☆


「くそっ……!」

サンライトハートのエネルギーで氷を溶かし、武藤カズキは取り残された喫茶店に1人たたずんでいた。
ドン! とサンライトハートの石突を、床に叩きつける。
うつむいた顔に影を落とすのは、悔しさとやるせなさ。

「足手まといから殺していくなんて、どうかしてる……!」

より多くの参加者を助ける為だと、ホアンは言った。
その想いは本当なのだろう。
ホアンの目的は対主催だ。それは、間違いない。
殺し合いに乗っていて罠を仕掛けるのだとしたら、もっと効率的なやり方がいくらでもある。
また、一ノ瀬という少女の奉仕目的で人を殺すのならば、その本人を誘い出すような方法を取る必要もない。
だからあの男は、自分勝手な理由ではなく、より多くの人間を助ける為に、手を汚そうとしている。
ホアンもまた、錬金の戦士のように、己の信念を貫いて人を守ろうとしている。
でも、その正義は歪んでいる。

「簡単に命を切り捨てちゃだめなんだ。
だから、殺し合いは止めるし、ホアンさんだって止める! 止めてみせる!」

武藤カズキは、自分が甘いことを自覚している。
状況は殺し合い。
皆を助けようという理想論が、無謀であることも分かっている。
けど、もっと良いやり方があるはずだ。
もっと多くの命を、助ける方法があるはずだ。
『ある人間を確保するのに手っ取り早いから』なんていう理由で、人を殺してはならないはずだ。

だからカズキは、ホアンの殺人を止める。
敵としてではなく、同士として、止める。

「守るものが同じなら、きっといつか戦友になれる。
再殺部隊の連中だって、止められたんだ。ホアンさんとだって、いつか分かりあえる」

ただ、そういう人間――錬金戦団のように、正義の為ならば悪となれる人種――を止めたけらば、戦いが避けられないことも知っている。
それでも……できるだけ被害を減らそうと思うなら。

「……………………やっぱり、一ノ瀬さんを探すしかないのかな」


一ノ瀬という少女を見つけさえすれば、ホアンが人を殺す必要はない。
仮に『魔女のライブラリ』を使った刻印の解呪が不可能だったとしても、ホアンを止める為にはそれが一番手っ取り早くはある。
何より、『一ノ瀬弓子の為に人を殺す』ような輩がいたのでは、一ノ瀬という少女当人も、余計な騒動に巻き込まれかねない。
彼女自身の安全の為にも、捜索は必須だ。


結局は、ホアンの要求に従うしかないところが、歯がゆかった。


【E-7/市街地の喫茶店/一日目・深夜】

【武藤カズキ@武装錬金】
[状態]健康
[装備]サンライトハート改@武装錬金
[道具]基本支給品一式、不明支給品1~3(確認済み)
[思考]基本:殺し合いの打破。
1・ゲーリー・ホアンの殺人を止める。その為にも一ノ瀬弓子を探す。
2・斗貴子さん、蝶野との合流。

※参戦時期は、少なくともヴィクターⅢ認定を受けた後。


☆   ☆   ☆


「瀬田、ひとつ確認をしたい」
「何でしょう?」

坂崎嘉穂が、安否を気にかける友人は3人いた。
友人の森下こよみ、一ノ瀬弓子クリスティーナ。
そして友人と呼べる関係にはやや遠いが、こよみの師匠の弟の姉原聡史郎。

そして、警戒をしている人間が1人いた。

「瀬田の元上司は、死んだはずなのに名簿に書かれているとか。
嫌なこと聞くけど、その『死んだ』という情報は間違いない?」

今はもういないはずの男、ゲーリー・ホアン。

「僕自身も、亡くなったところを見たわけではないので、断定はできません。
でも、僕と同じ十本刀の宝治さんが、亡くなられた瞬間に立ち会ったと言っていました。
宝治さんは志々雄さんの忠臣だったし、とても悲しんでいたから本当に死んだんだと思います」
「なるほど。『瀬田と同じ時間』から『生きている志々雄真実』が呼ばれたわけではないと」
「『僕と同じ時間』?」

宗次郎がオウム返しに問いかけたが、嘉穂は既に思考に没頭していた。

「もし志々雄真実を瀬田より過去から呼んだ場合、瀬田の知る歴史と矛盾する……志々雄真実が呼ばれた時点で、世界が分岐したとすれば? ……その場合、そもそも『志々雄真実は死んだはず』という仮定自体が無意味になる」
「あの、坂崎さん? 坂崎さーん?」

宗次郎が嘉穂の前で手をぶんぶん振って、我に返った。
いけない、いつもの考え癖が出た。

「ごめん……どこから解説が欲しい?」
「できれば、最初から」
「うん……まず、志々雄真実は死んだはず。それは大前提」
「はい」
「あの主催者は、死人を生き返らせることも可能と言っていた」
「はい、だから死んだはずの志々雄さんが生きてるってことですか?」
「単純に考えればそう。でも、そうじゃないかもしれない」
「と言うと?」
「瀬田とあたしは、生きていた時代に百年以上も開きがある」
「そうでしたね」
「なら、志々雄真実も『生きている時』から呼ばれたとしても、おかしくはない」
「なるほどー。今度は分かりやすいですね」
「もちろん、主催者の言う通り『死者蘇生』を使って志々雄真実が生き返った可能性も否定できない。
でもあたしは、今言った説の方が真実味があると思う」
「どうしてですか?」
「あたしの知り合いに『生きてはいるけど、今はいない人間』がいるから」

そうして、嘉穂はゲーリー・ホアンのことを説明した。
友人である一ノ瀬弓子クリスティーナの中には、『魔女のライブラリ』という呪いが眠っていること。
その呪いが復活すれば、一ノ瀬弓子は昔の悪い大魔女に乗っ取られてしまうこと。

本人の意思とは関係なく、乗っ取られて、暴走する。そういう呪いだということ。

ゲーリー・ホアンはその大魔女を復活させて、秋葉原を火の海にしようとしたこと。
最後はホアンを『二度と帰って来られない、遠い遠い異世界にふっ飛ばす』という方法で倒したこと。
なので、ホアンは志々雄真実のように死んだわけではない。
だから、彼を殺し合いに呼ぶとしたら、『異世界に飛ばされる以前の時間から呼んだ』とでも考えるしかない。

「たぶん……この『儀式』に参加したホアンは『一ノ瀬を狙っているホアン』になる。
そうなると、一ノ瀬が危ないから早めに合流しておきたい」
「ホアンさんは、志々雄さんみたいに国家転覆を狙ってるんですか?」
「それはない。ホアンの目的は、あくまで『魔女のライブラリ』の復活。
復活した大魔女がたくさんの人を殺しても、それはどうでもいいらしい……と、美鎖さんが言っていた」

坂崎嘉穂は、ホアンとの面識はほとんどない。
ただ、彼の宿敵である姉原美鎖から、その思想の危険性は教わった。

ゲーリー・ホアンは、世界征服を企むような男ではない。
殺戮を楽しむような男でもない。
ただ、『魔女のライブラリ』という、万能の宝を見たいだけ。
宝を自分のものにしたいのではなく、宝を見たいだけ。
人を殺してでも、見たいだけ。

『ライブラリ』という画期的な技術がそこにあるのに、世に知られないまま眠っているのが悔しい、そういう男。
もし、誰かを殺すことでその技術が世に出るならば、何の躊躇もなく殺人を行える。

「力を欲しがっているのに、その力を何かに使うつもりがない。おかしな人だなぁ」

日本政府乗っ取りを考えていた元テロリストの宗次郎からすれば、それは充分に不可解だろう。
現代人である嘉穂の方が、まだ理解しやすい。
ホアンの思想は要するに『科学技術を発展させてあげたいから、原子力を知らない国に核兵器をあげました』という方向に近い。
歪んでいるのに、本人は正しいことをしていると思っている。

「例えば、ある村に、二十二世紀――二百年後ぐらいの技術がたくさん詰め込まれた大きな箱があったとする。
箱を開けて中の書類を取り出せば、文明はずっと進歩するけど、箱の中には疫病のウイルスが入ってて、開けたら何十万人が死ぬ。もちろん村も全滅。
疫病を防ぐ手段はない。だから皆、人名を尊重して箱を開けなかった。
でもその村に来た旅人が、『夢の技術が表舞台に出るなら、何十万人ぐらい安いもんだ』って考えて、村人たちに無断で箱を開けようとしてる。
その旅人が、ゲーリー・ホアン」
「つまり………………一ノ瀬さんとホアンさんを接触させてはいけないんですか?」
「大正解。一ノ瀬が死ねば、魔女のライブラリはまた何十年後に転生してしまう。
よって、ホアンはまず、一ノ瀬を死なないようにしようとするはずだと思われ」

『魔女のライブラリ』の為ならば、ホアンはあっさりと『殺す側』に回るだろう。
他の参加者を騙し『一ノ瀬弓子の力があれば脱出できる』と嘘をつくぐらいは、するかもしれない。

「『じぎたりすさん』は、そんなにすごいんですか?」
「美鎖さんが戦った時は、地面にクレーターができたり、一般人には見えない剣をたくさんだしてゲート・オブ・バビロンしたり。
それから時間を止めて『ザ・ワールド』したり、大変だったらしい」
「ざわーるど?」
「分からないなら分からないでいい」

そんな暴走を止めたのが『友達だから守ってあげる』というお子ちゃまの一言だったのだから、籠絡が容易いと言えば容易い。
しかし、出会うなり殺しにかかってくる相手に、そんな言葉を言える人間が、どれほどいるか。

「ホアンは、自分の命と大魔女の命なら、後者を優先すると思われ。
魔女のライブラリはこの世にひとつしかないけど、ライブラリを解析できる人間なら、ホアン以外にもいるだろうから。
なら、最悪ジギタリスを復活させて優勝させよう、ぐらいは考えるかもしれない。
そして、それが一番まずい」
「そうなると、どうなるんですか?」
「一ノ瀬が『ジギタリスを封印した後の時間』から呼ばれているなら、問題ない。
でも、もし『封印される前の時間』から呼ばれたら――」
「『じぎたりすさん』が復活するんですか?」
「そう。酷いマーダーが誕生する」



☆   ☆   ☆


市街地の上空を、デリバードの滑空で低空飛行しながら、ホアンは風を楽しんでいた。

機嫌はすこぶる良かった。
武藤カズキとの接触が、思い通りに運んだからだった。

あのような『お人好しの正義の味方』がいると、都合がいい。
『一ノ瀬弓子を生かしたまま捕らえる』ことは、案外に上手くいきそうだ。
それは、一ノ瀬本人にとっても同じ。
彼女は、自分が原因で人が死ぬことを、見過ごせる性格ではない。
もし『自分がホアンの元に出て行かない限り人が死ぬ』と聞けば、罠だと分かっていても出て行かずにはいられない。そういう性格をしている。
仮に出てこなかったとしても、その時はその時で、別の方向から揺さぶりをかければいいだけだ。
『正義感の強いお人好し』は、言うことをきかせるのに都合がいい。

優勝し、元の世界に帰還したジギタリスは、殺戮をもたらすだろう。
『キヨタカ』に、優勝者を生きて帰すつもりがなくとも、問題はない。
ジギタリスの力があれば、その主催者をも殺して元世界に帰還するぐらいは、造作もないはずだ。
大魔女は、いわば生きた万能の願望機なのだから。

その叡知が人類にもたらされる未来を想像して、ホアンは充足感で満たされた。


この点、くしくも武藤カズキが危惧した通りだった。
ゲーリー・ホアンは『魔女のライブラリ』の力を、全く疑っていなかった。

【F-6/市街地/一日目・黎明】

【ゲーリー・ホアン@よくわかる現代魔法】
[状態]健康
[装備]仮面の男のデリバード@ポケットモンスターSPECIAL
[道具]基本支給品一式、不明支給品0~2
[思考]基本・ジギタリスを復活させ、優勝させる
1・一ノ瀬弓子クリスティーナの捜索
2・一ノ瀬弓子を生かしておく上で、邪魔になる参加者(マーダーないし弱者)は殺す。
3・害にならないと判断した参加者は脅迫し、一ノ瀬弓子を捜索させる。

【E-4/川の南岸付近/一日目・黎明】

【坂崎嘉穂@よくわかる現代魔法】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、『文学少女』@“文学少女”シリーズ、テニスボール@テニスの王子様
ペナル茶(残り1800ml)@テニスの王子様、そうじろうのデジカメ@らき☆すた
[思考]基本:自分なりの方法で殺し合いに反抗する
1.他の参加者と接触するために病院に向かう。
2.宗次郎と行動を共にする。(少なくとも自分に危害は加えないと判断)
3.一ノ瀬弓子、森下こよみ、姉原聡史郎との合流
4.ゲーリー・ホアン、志々雄真実を警戒。
※参戦時期は、少なくとも高校二年生時。
※坂崎嘉穂の考察
  • “魔女の口づけ”には、自分たちの知る“魔法”と異なる体系の“魔法”が関わっている。
  • 死んだはずの人間が名簿に書かれている場合、死ぬ以前の時間から呼ばれている可能性がある。
  • ゲーリー・ホアンは、ジギタリス復活の為に殺し合いに乗る可能性が高い。

【瀬田宗次郎@るろうに剣心】
[状態]健康、舌に刺激臭
[装備]シズの刀@キノの旅
核金No.95
[道具]基本支給品一式
[思考]基本:自分に何ができるのかを探す
1・坂崎さんを手伝う
2・状況次第では緋村さんとも協力
3・志々雄さんに会ったら、どうしようかな…
※京都編終了後からの参戦です。

【仮面の男のデリバード@ポケットモンスターSPECIAL】
ゲーリー・ホアンに支給。
仮面の男が使う氷ポケモンの一匹。
他の氷ポケモンと同様、『空気中の水分を利用して、敵を氷漬けにする』戦法を使う。
デリバードとは思えないほどの強さを持ち、十数匹のギャラドスを湖ごと氷漬けにして全滅させる、
タイプ相性から考えても不利なはずのホウオウを無傷で倒すなど、ウリムーと並ぶチートポケモン。

Back:039さらばいとしき女(ひと)よ 投下順で読む Next:041[[]]
GAME START ゲーリー・ホアン next:[[]]
GAME START 武藤カズキ next:[[]]
Back:027ログの樹海 経験の羅列 坂崎嘉穂 Next[[]]
Back:027ログの樹海 経験の羅列 瀬田宗次郎 Next:[[]]

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2011年12月23日 22:53
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。