掃射強襲

第六十七話≪掃射強襲≫

北原大和、大崎年光、山本良勝、藤堂リフィアの四人は、ようやく市街地の一歩手前、F-4の林まで到達していた。
E-5の森で大和、年光、良勝の三人のグループがリフィアと出会ったのは数時間前。
実際、E-5からF-4までは最短距離で行けば一時間程度で済むはず、なのだが、
なぜこんなに時間が掛かったのかと言うと……長く話すのも面倒なので三行で。

①道に迷いまくった
②ジジイ(良勝)が足を引っ張りまくった
③途中四人で何度か休憩時間&食事時間&トイレ休憩を取っていた

以上の三つの要因が重なり、すっかり夕方になるまで時間が掛かってしまっていたのである。
当然、四人共たまった疲労は半端では無く、足もまさに「棒のように」なっていた。

「なあ北原さん、今俺らはどこにいるんだ……? 市街地には近付けてんのか?」
「俺に聞かれても……でも多分確実に近付いているとは思うが」
「足が……足が、もう攣りそうです……」
「ろ……老体には堪えるのう……はぁ、はぁ」

四人が四人、その顔には憔悴の色が滲み出ている。
狼獣人の大和とリフィアは、本能的なものだろうか、自分でも気付かない内に舌を出してハッ、ハッ、と息を荒げていた。
しかも四人にとって都合が悪かったのが、今自分達が市街地に近いF-4にいるという事を知る術が無かった事。
何しろ周囲は雑草と木ばかり。目印になるような物は何一つ見当たらないので無理も無いが。
それでも大和と年光は地図とコンパスと睨めっこしながら、どうにか市街地へと確実に歩みを進めていた。

「くっそおおおおボケがカスが……分かりにくいんだよこの地図! アバウト過ぎんだよ!」
「こういう所にも主催者の悪意を感じるな……くそっ」
「夕方になって周りも暗くなってきましたし……早く抜けたいですね」
「このまま夜になってしまったら、遭難してしまうかもしれんぞ」
「恐らくこのまま北西に向かって進んで行けば……ん?」

コンパスと地図を持って年光と協議していた大和が、何者かの気配に気付く。
気配のした方向には、木々と藪、雑草が見えるのみ。
突然の大和の様子の変化に、年光が大和に尋ねる。

「おい、北原さん、どうし――」

年光が言い終わらない内に、木の葉が風に揺られて擦れる音しかしていなかった林の中に、
乾いた銃声が何発か響いた。

「あっ――?」

リフィアの目に映ったのは、胸と腹から血を噴き出し、驚愕の表情のまま仰向けに倒れていく良勝の姿。
直後に、自分の右上腕部にも衝撃と激痛が走る。

「がっ!?」
「なっ……!?」

何処より放たれた灼熱の弾丸は、大和の腹部を一発が貫き、
年光の右頬と左腕をそれぞれ一発ずつ掠めた。

「隠れろ!!」

血反吐を吐きながら大和が声を張り上げる。
仰向けに倒れたまま微動だにしない良勝を除き、大和、年光、リフィアの三人は木の幹を盾にして身を隠す。
その間も何物かは銃撃を続ける。
三人が隠れる木の幹が銃声の度に削れていった。
大和は焼けるような激痛が走る腹部の銃創を押さえながら、自分の迂闊さを悔やんでいた。
方角の確認に気を取られ、周囲の警戒を怠っていた。その結果が今の状況だ。

「くそっ!」

年光は九四式拳銃で襲撃者がいると思われる方向に向かって撃ち返す。
それに続き大和とリフィアも所持している銃を持って反撃を開始する。
しかし木の幹から顔を出そうものなら狙撃される危険がある。
相手の位置も確認出来ない状態で発砲してもロクに当てられるはずも無く、
いくら反撃で撃っても、襲撃者からの発砲は続いた。

「北原さん、何とも出来ねぇぞ! これじゃやられちまう!」

年光が九四式拳銃のマガジンを交換しながら大和に向かって叫ぶ。
そして交換し終えた次の瞬間には、木の幹の陰から襲撃者に向かって発砲する。

「山本さんも早く助けないと、でも、これじゃ……!」

リフィアが慣れない手つきで軍用ライフル、モシンナガンM1891に弾丸を込めながら言う。

「くっ……そうだ、リフィア、そいつを俺に貸してくれ!」

大和がリフィアに向かって叫ぶ。

「えっ、あ、はい!」

一瞬、銃撃が止んだ、その一瞬を突いてリフィアが持っているモシンナガンを、大和に向けて投げ渡す。
つい先程、リフィアが弾丸を装填し終えたモシンナガンが大和の手に渡る。
再び襲撃者の銃撃が始まる。どうやら襲撃者は拳銃を複数所持しているようだ。
しばらく木の幹の陰でじっと、その時を待つ大和。
そして再び銃撃が止んだ、その時、大和がすぐ前方の茂みに向かって走り出した。
そのまま大和は茂みの奥へと消えていった。

「……!? 北原さん、何をするつもりだ?」

年光は突然の大和の行動に驚いた。
彼の性格からして、自分達を見捨てて一人で逃げるという事はまず有り得ないだろう。
リフィアの持っていたライフルを持ってどうするつもりなのだろうか。

「! まさか……」

年光は大和が行おうとしている事が、おおよそ見当がついた。


「へっ、向こうも中々やるじゃねぇか」

木の幹と草藪の陰で、狼獣人の警官、須牙襲禅はトカレフとベレッタのマガジンを交換していた。
トカレフの予備マガジンは残り三つ、ベレッタの方は残り四つとなった。
その間も、自分が襲撃を仕掛けた相手からの反撃の射撃が続く。
襲禅は右手にトカレフ、左手にベレッタを構え、二丁拳銃の構えで攻撃を開始する。

須牙襲禅は市街地を一通り回った後、郊外にいると思われる他参加者に狙いを定め、
市街地北東方面の森林地帯、つまり、地図で言う所のエリアF-4周辺を目指していた。
そして目的地のF-4で、彼の狙い通り、他参加者を発見した。
何やら地図を出して協議している茶髪の人間の男と、灰色の狼獣人の兵士、老人と学生風の狼獣人の少女。
四人は襲禅の存在には気付いていなかった。
これ幸いと、襲禅は太い木の幹と藪の陰から、トカレフとベレッタを持って四人に向かって銃弾を放った。
老人はあっさり仕留める事が出来、他の三人にも手傷を負わせる事に成功した。
特に狼兵士は腹部に被弾し、かなりの重傷のようだ。
生き残った三人は襲禅と同じように木の幹の陰に隠れ、手にした銃で応戦してきたが、
襲禅は木の幹や藪を上手く遮蔽物に使い、銃弾をかわす。
そして今再び銃撃を開始しようとした、その時だった。

一発の小銃弾が、襲禅の胸元に命中した。

「がはっ……!?」

小銃弾の弾頭が、回転しながら襲禅の肋骨を貫き、心臓を抉る。
襲禅の身に着けている紺色の警官の制服が、胸元から噴き出した鮮血で一気に赤く染まる。
着弾した時の衝撃で、両手に持っていた自動拳銃を放してしまい、襲禅は下生えの上に仰向けに倒れた。
遠退いていく意識と全身から力が抜けていく感覚に、襲禅は自分が間もなく死ぬ事を自覚した。

(油断、した、な……)

自分が圧倒的優勢だと思い込み、こんなにも初歩的なミスを犯す事になるとは。
全く情けない、格好悪過ぎる。

(……あいつは……今も、生きてんの……か……な……)

襲禅の心の中に、この殺し合いに呼ばれた知人、緑髪の女性の顔が浮かび上がる。
なぜこんな時に、あいつの顔が浮かぶのか。
もはや目の前も暗くなり、耳に入ってくる音も聞こえなくなり、心地良い眠気が襲ってきている中。

「……真紀……」

須牙襲禅が最期に呟いたのは、その女性の名前だった。


草藪の中から、軍用ライフル――モシンナガンM1891を携えた、
灰色の狼獣人の兵士がよろよろと歩きながら現れた。

「警、官……だったのか……」

自分達を襲撃した者の正体を見て、狼兵士――北原大和は愕然とする。
紺色の制服に身を包んだ、茶色と白の毛皮を持つ狼獣人の男。
リフィアが持っていた参加者詳細名簿によれば、確か名前は、須牙襲禅。
襲撃者の正体、そして今自身が狙撃により殺害した者の正体は、民間人の安全を守る事が義務のはずの、
警官だったとは。

「北原さん!」

年光が立ちつくす大和と、狼警官の死体の元へ駆け寄る。

「こいつか? 俺達を襲った犯人は」

年光が仰向けに横たわる狼警官の死体を見下ろしながら、忌々しげに言う。

「ああ、そうみたい、だ」
「ケッ……まさに世も末ってヤツだな。お巡りさんが殺し合いに乗るなんてよ」

年光は危機を脱したという安心感と、突然襲撃された事による僅かな気の動転からか、
すぐ傍にいる大和の様子に気がつかなかった。
大和の腹部に空いた穴からは、ドクドクと赤い血が止め処無く流れ出ている。
間も無く、リフィアも二人の元へ歩いてきた。

「リフィア、山本さん、は……」

大和のその問いに、リフィアは沈痛な面持ちで、静かに首を横に振った。
大和と年光に良勝がどうなったか伝えるのには、それで十分だった。

「そうか……」
「畜生……」

二人は悔恨の表情を浮かべる。
「疲れたから歩きたくない」などと駄々をこねて面倒な事も多々あったが、この殺し合いという状況の中、
良勝の明るさに、年光、大和、リフィアの三人は精神的に大きく救われていた。
あの朗らかに笑う陽気な老人は、もういないのだ。
三人の間を、しばらく沈黙が支配する。

「……ともかく、日が完全に暮れる前に、市街地を目指そう。いつまでもここにじっとしている訳にはいかない」
「……はい」

年光が再び市街地への移動を提案する。
もうじき日没が訪れる。出来ればその前にこの森林地帯を抜けたい。
同行者を、大切な仲間を一人失ってしまったが、立ち止まる訳にはいかない。
その事を、年光は大和にも伝えようとした。

「北原さ――」

ドサ。

年光が声を掛けたのと、大和の身体が崩れ落ちたのは、ほぼ同時だった。

「……おい、北原さん?」
「北原……さん?」

突然の、予想だにしなかった事態に、年光とリフィアは言葉を失う。

「き、北原さん、悪い冗談は、よせよ……なあ、おい」

年光が倒れた大和を起こそうと、大和に近付く。
そして、気付いてしまった。



――もう、息をしていなかった。



大和が最初に腹部に受けた銃弾は、大和の肝臓を貫き、そこから致命的な出血が始まったのだ。
木の陰で敵の銃撃をかわしている間も、狙撃するのに絶好の位置まで移動する間も、
狙撃に成功し、年光と二人で話している間も、ずっと、血液は失われ続けていた。
もしかしたら、リフィアが二人の元へやってきた時、大和はもう意識混濁の状態だったのかもしれない。

「くそっ……」
「……」

二人はただただ立ち尽くす。
二人の仲間を失ったという現実に、二人は耐え抜くしかない。

もう何の音も聞こえない。ただ、木の葉が風に揺れる音が耳に入るのみ――。


【一日目/夕方/F-4林】

【大崎年光】
[状態]:疲労(大)、左腕に掠り傷、悲しみ、やりきれない思い
[装備]:九四式拳銃(0/6)
[所持品]:基本支給品一式、九四式拳銃の予備マガジン(6×2)、手斧、織田信治の首輪
[思考・行動]
基本:殺し合いからの脱出。そのためにも仲間を集める。
1:……。
[備考]
※参加者詳細名簿により、全参加者の容姿と名前をある程度把握しました。
※織田信治の水と食糧は完全消費しました。

【藤堂リフィア】
[状態]:疲労(肉体的、精神的共に大)、首、胸元に貫通創(命に別条無し)、返り血(大)、
口元が血塗れ、右腕上腕部に銃創、深い悲しみ
[装備]:無し
[所持品]:基本支給品一式(食糧1/4消費)、7.62㎜×54R弾(30)、直刀、参加者詳細名簿、
クロスボウ(0/1)、ボウガンの矢(86)、三人分の水と食糧(一人分の水と食糧消費)
[思考・行動]
基本:殺し合いはしない。 脱出方法を探る。
1:……。
[備考]
※生命力が異常に高いです。頭部破壊、焼殺、首輪爆発以外で死ぬ事はまずありません。
但し一定以上のダメージが蓄積すると数十分~一時間ほど気絶します。
※参加者詳細名簿により、全参加者の容姿と名前をある程度把握しました。



【山本良勝  死亡】
【須牙襲禅  死亡】
【北原大和  死亡】
【残り12人】



※F-4一帯と周辺に銃声が響き渡りました。




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最終更新:2009年11月22日 23:14
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