凶兆の黒猫

誰もいない森を歩きながら、ふと考えた。
智に働けば、角が立つ。
情に棹差せば、流される。
意地を通せば、窮屈だ。
とかくにこの星は住みにくい……

なーんて、文学にも精通している事をはからずも披露してしまったけれど、今の状況ははっきり言ってグッドとは言い難いねえ。
おっと、自己紹介が遅れてしまったね。
僕の名前は風間望。
鳴神学園3年H組の生徒だ。
おっと、レディーの皆、サインは後にしてくれよ。
何せ今僕はとんでもない所にいるんだからねえ……
どういう状況かって?
それはね……

殺し合いのど真ん中に、いるのさ。



正直ここにとばされた時、何が起こったか悔しいけれどさっぱりわけが分からなかったよ。
僕は怖い話を坂上君に語るよう日野に頼まれて、さっきまで学校の新聞部の部室で語っていたはずなのに、気がついたら見た事のない大広間。
そしたら目の前に日野がいるんだからそりゃ驚いたよ。
しかも、殺し合え、ときたもんだ。
嫌になっちゃうよ、もう。

まぁ、僕自身はこのいっぱいいる地球人がどうなろうと知ったこっちゃないんだけど、それでもちょっとだけ許せないって気分もあったな。
まず第一に、僕を巻き込んだこと。
こんなイケメンの僕を殺し合いなんて非道な場所に連れ込んだら僕の女性ファンが黙っちゃいないと言うのに、それも分からないほど暗愚だったのかなあ、日野の奴は。
第二に、坂上君を巻き込んだこと。
彼は僕の事を宇宙人だと見抜いた、なかなかの逸材。
もっと彼の事をじっくり知りたいと思っていたのに彼が死んじゃったらどうするんだ、全く。
そして――日野はあの名前も知らないがなかなかの美女を爆殺した事。
正直うるさい女性は好みじゃないんだが、あの女性はなかなかの美女だったな。
それになかなかのスタイルだったし、悪い女性じゃなかったと思う。
そんな彼女を、日野はあっさりと爆殺して見せた。
正直許せないとかそういう感情よりも――引いたよ。



とまあ、そんな事を考えている僕の横には協力者がいるんだけど……
彼も僕と同じようにこの星の人間じゃあないのさ。

この長髪の男は支倉未起隆――本名ヌ・ミキタカゾ・ンシ。
マゼラン星雲から来た正真正銘の宇宙人だ。
彼は地球人にはない、特殊な力を持っている。
それは、『自分の身体をある程度のものに変化させることができる』力。
初めて見た時は正直、驚いたよ。
今まで結構な宇宙人を見てきた僕でも、こういうタイプの宇宙人は見たことが無かった。
しかし幸いだったのは、彼がこの殺し合いに乗った存在ではなかったと言うことだね。
更に運のいい事に、ここに連れてこられている彼の友人――東方仗助、だっけか?は正義感の強い頼れる存在だと言う。
更に不思議な力を使えるって言うそうだ。
これはもしかすると、天は僕に味方しているのかなあ?
ふふふ……



一歩、また一歩と藤香は歩を刻んでいく。
二人分の荷物はやはり重いが、このような重みなど、苦にもならない。
今まで自分が歩んできた人生に比べれば――このような荷物など塵芥の如き軽さだ。
ただ、憎い。
純粋な憎悪の感情だけが、今の自分を動かしていた。
私を捨てた父親への憎しみ。
その自分を捨てた父親に愛されたあの小娘への恨み。
それが、今の自分を動かしている。
この殺し合いについて、藤香は何も知らない。
あのメガネの男も知らないし、そもそもここがどういうところであるかのさえも知らない。
自分の記憶を辿ろうとしても、靄がかかったかのようにある一点から記憶は途絶える。
気がつくと、自分の立っていた場所はあの研究所ではなく見知らぬ大広間。
そこで告げられた『殺し合いに参加してもらう』という宣告。
そして二度目のブラックアウトの後には手に見知らぬデイバックを持たされていた。
何とはなしに、その中にあった名簿を見た藤香に衝撃が走った。

――御堂島優。

藤香が恨みを抱く、憎むべき小娘もこの殺し合いに参加させられている。
それを知った藤香は動きだしていた。
あの小娘を殺すのは自分だ。
それも、途方もない深い絶望を与えてなぶり殺しにしなければ、この恨みは晴らせない。
そうして歩いていた先で、藤香は一人の屈強な男に出会った――



現状は、はっきり言って良いとはお世辞にも言えない。
というよりも、はっきり言って悪いと言わざるを得ない。
支倉未起隆はそう考えていた。
殺し合いという異常な場に巻き込まれて、最初に出会った風間望という男は幸いにも殺し合いには乗っていない人間――もとい、宇宙人であったが、問題はそこではない。
今二人に武器らしい武器は一つもない。
自分のデイバックから出てきたのはごくごく普通のサッカーボールが一個と琵琶が一挺。
そして風間のデイバックから出てきたのは――なんと白旗が一本。
正直言って、これを見た瞬間ショックを通り越して笑いが漏れそうになってしまった。
だが現状は呑気に笑っていられるような状況ではないことは明白だ。
とにかく今は一刻も早く仲間を探し出さねばならない。
幸いというかなんというか、この場には仗助がいて、康一もいる。
数々の難敵を打ち破ってきた二人と合流できれば、もしかしたらこの殺し合いも打破できるかもしれない。
それに康一と合流できれば山岸由花子も味方になってくれるだろう。
――だが、問題は吉良吉影もいること、か・



そう悩みながら歩いているのだが、その悩みを増幅させるのがこの相棒、風間望の存在。
この男、協調性というものがほとんど感じられない
何を考えているか全く読めないし、他人に自分を合わせようという姿勢を全く感じない。
スンバラリア星人というのは全てがこういうタイプなのか、とさえも思ってしまう。
こうして歩いている間もどこを見ているのか……
「未起隆くん、あれを見たまえ。」
「え?」
突然の相棒の言葉に驚いて彼の指さす方向を向くと、そこには色白に見える細い女性が立っていた。
まるで何かを探すように慎重に、それでいてその歩みを止めることなく歩くその様は少し恐怖すら覚える。
「あれは?風間さんの知り合いですか?」
「いや、僕も知らない人だ……しかし、未起隆くん、これは由々しき事態だと思わないかね?」
「はい?」
「こんな危険な場に女性が一人でいるなんて、危険にもほどがあるだろう!君も男ならその程度のこと分かるんじゃあないのかい?」
「……はあ。」
「…ノリが悪いね、君。」
「すいません、まだこの星について未知の部分が多いもので。」
「……まあいい。行くぞ、未起隆くん。」
「え?」
突然の申し出にキョトンとする自分をおいてけぼりにするかのように、風間は話し続ける。
「あの女性は何か困っているに違いない、だから助けに行くんだよ。」
「……そうでしょうか?」
「まあ、みていろよ未起隆くん。」
そう言うが早いが、風間はその女の元に白旗を持って走って行ってしまった。
(……大丈夫なのでしょうか。)
未起隆のその不安は、見事に的中してしまった。
女性に声をかけた風間に、その女性が刀を突き付けたのである。



(これは一体どういうことだろうねえ……)
シュヴァルツ・カッツェは殺し屋である。
その仕事に絶対の自信と誇りを持ち、何人もの命を闇へと葬ってきた、冷酷無比の殺し屋。
そのプライドに傷がつけられたのは、一年前の話。
鳴鏡館の面々に、自分のプライドは粉砕された。
みじめに命を乞い、逃げるようにドイツに逃げた。
それから一年間を、鳴鏡への復讐を果たすための修行と傷の治療のために費やしてきた。
そして、捨陰党のものと共に鳴鏡を亡き者にせんとしようとした時だった。
自分が見たこともない大広間にいたのは。

(殺し合え、ねえ……)
カッツェには、死に対する躊躇いが無い。
そのようなものがあっては、殺し屋なんて名乗れるわけがない。
カッツェの手の中にあるのは、軽くも金属の冷たさは十分に伝わってくる自動小銃。
添付されていた紙には『タチバナの銃』としか書いていなかった。
タチバナとはこの銃の持ち主であろうか。
だがそういったことはカッツェにとっては瑣末な事。
カッツェは殺し屋で、カッツェの手の中にある銃は、十分に人を殺せる『武器』なのだから。
(良いぜ、メガネくん。乗ってやるよ。このシュヴァルツ・カッツェのバトル・ロワイアル……みておくが良いよ……)
そう決意して立ち上がった瞬間だった。
何かの気配を感じたのは。



風間望の目の前に立つその女は、異様な雰囲気を醸し出していた。
色素が抜け落ちてしまったかのような真っ白な肌、何日もものを食べていないんじゃないかと思ってしまうほどの細い身体、そして並々ならぬ決意のようなものを湛えたその瞳。
そんな彼女は今、風間に鋭い刀の切っ先をこちらに向けている。
「あなたに聞きたい事があるの。」
「……な、なんだよ、物騒な真似はやめてくれ」
「御堂島優って女の子……みなかった?」
「女の子?」
「そう、年はあなたと同じかそれより少し下……見るからに弱そうな女の子よ。」
「さ、さあ……みていないよ?」
必死に冷静さを取りつくろうとしても、風間の顔面からは冷や汗は出尽くし、今はもう脂汗しか浮かばない。
手にしている白旗も、小さく震えるだけで何も起こらない。
そんな彼とは対照的に、藤香は淡々と、それでいて刀身は一ミリもぶれさせることなく風間を問い詰める。
「本当に?」
「ほ、本当だよ!だからそんな物騒なものしまって、ね?」
「…だったらなんであなたはさっきからそんなに後ろを気にしているの?」
「!!」
風間の額に、更に脂汗が浮かんできた。
「何か隠していると……身のためにはならないわよ。」
その凄みに風間の口の中がどんどんと乾いていく。
そうこうしている間にも、切っ先はどんどんと風間の顔面に近づこうとしていく。
それなのに、風間の脚はボルトで固定されたかのように動かない。
ついにその切っ先が顔面手前三センチまで来た時に、風間は藤香の後ろに誰かが立っているのを見つけた。



(…どうすればいいんだ?)
現状は、今まで経験した何よりも悪い。
あの刀を持った女性は、間違いなくこちらに気づいている。
風間の不用意な行動がこの酷い現状を生み出したのだが、今はそんな愚痴を言っている場合じゃない。
どうする?どうする?
――もし、この場に仗助がいたらどう動くだろうか?
康一だったら?
億泰だったら?
……それらの考えは、全部無意味だ。
何故なら今ここにいるのは自分一人だけだから。

…どうする?
①この場から逃げ出し、何も見なかったことにする。
②刀の女性に真正面から立ち向かい、成敗する。
③こっそり近づき、風間を助けて逃げ出す。

……ダメだ、どれも自分一人で出来ることではない。
それほどまでにあの刀の女性は鋭い殺気を発しているし、風間は足手まといになってしまいそうだ。
それに、自分の宇宙人としての能力――アース・ウィンド・アンド・ファイヤーでも風間を助けるのに役立てる術が浮かばない。
八方塞だ。
このままでは風間はあの女に殺され、自分にもその凶刃は向けられるだろう。
しかもよく見ると、あの女は二人分のデイバックを担いでいる。
それはつまりどういうことか…?
ミキタカにはそれが分かってしまった。

…これはもしかすると、最悪を想定しなければいけないかもしれない。

そう実感したその思いは、一発の銃声で吹っ飛んだ。



ガゥン
その音は、あまりにもあっけなく響いた。
その音と同時に、目の前の女性がゆっくりと崩れ落ちた。
突然の事態に風間は、ただただ目を白黒させることしかできなかった。
それでも、今さっきまでつきつけられていた鋭い刃は今はもう地面に落ちてしまっている。
そのことを理解すると風間は大きく息を吐いた。
(た、助かった。)
そう思うと、固まっていた足も段々と動いてくる。
額を流れる汗も、脂汗から冷や汗へと移行していった。
とはいえ、目の前に死体があるという状況は何とも複雑な気分だ。
なるべく見ないようにしようと前を向いた風間の目の前には――一人の男が立っていた。

フリルをあしらったピンク色のシャツは、はっきり言ってセンスがあるものとはいえない。
頭にかぶっている帽子も古臭く、その帽子についている花もどこか女性的だ。
(やれやれ……こんなナンセンスな男に助けられたと言うのか…ま、良いか。)
「やあ、こんなところに連れてこられるとは災難だったね。」
目の前の男が口を開いた。
「……君は一体誰だい?」
「…僕かい?僕はカッツェ。シュヴァルツ・カッツェさ。」
たしかそんな名前は名簿にあったな、と風間は記憶を引き出した。
「しかし、助かったよ。一体どうしてこんな目にあったか分からなくて混乱していたんだ。僕は風間望。鳴神学園の3年H組の――」

と、いつものように自己紹介をしようとした風間だったが、そのお喋りは一発の銃弾で封じられた。



木の陰に隠れながら、支倉未起隆は呆然としていた。
突然現れたフリルの男が、風間に刀を突き付けていた女性を射殺した。
そしてそれに安堵した風間も撃った。
間違いない。
あの男は殺し合いに乗っている――!
そう理解した瞬間、未起隆の体中を汗が滑り落ちた。
「……誰かいるのかい?」
その男の声だろうか。
耳に入った突然の声に未起隆は思わず声をあげてしまいそうになった。

――現状は、果てしなくまずい。
いま自分はどう動くべきなのだろうか?
手持ちの装備では戦うことなどできやしない。
もし仗助とか億泰ならば、何らかの手を使って戦うのであろうが、生憎未起隆にはそういう発想は浮かばなかった。
「誰かいるのなら……出ておいで、楽に殺してあげるから……」
その声の響きは悪魔のそれにも似ていて、未起隆はただただ汗を流すことしかできない。
(……はっ、そ、そうだ!これを使えば!)
未起隆はバックの中に入っていたサッカーボールを取り出すと、思いっきり声のした方へと投げた。
そしてそれと同時に自分は逆方向へと逃げ出した。



カッツェの前には血だまりとその中に突っ伏した二つの死体、そしてサッカーボールが一つ転がっている。
「呆気ないものだなあ…」
くるくると、銃を回すとカッツェはその銃でくい、と帽子のずれを直した。
「ま、難しい仕事でもなさそうだな。」
カッツェの目的はただ一つ、この殺し合いを生き延びる事。
その上で、邪魔になる者は全員殺し、最終的にこの殺し合いに優勝する。
この殺し合いには、かつて自分に屈辱を与えた鳴鏡の空蝉、辰美の両人がいる。
復讐の機会にこれ以上の場はない。
無論、誰かに討ち取られていたならそれはそれで構わない。
自分の目的は復讐ではなく、生き延びることなのだから。

「…ひとまず、どこに行こうかなあ……病院なんか人が集まりそうだなあ……ふふふ……」

奇しくも、カッツェが狙いを定めたその場へと、未起隆も走っていたのだった。
だが、それを知る者はだれ一人としていない。





【藤香@クロックタワーゴーストヘッド 死亡】
【風間望@学校であった怖い話 死亡】



【A-5森/1日目午前】
【支倉未起隆@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:精神的動揺(中)、疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、熱唱びわ@戦国BASARA
[思考]1:とにかく今は逃げる。
   2:風間さん……
   3:仗助と合流したい。

【シュヴァルツ・カッツェ@ブシドーブレード弐】
[状態]:健康、精神高揚
[装備]:タチバナの銃@まほらば
[道具]:基本支給品一式(アイテム確認済み)、サッカーボール@せんせいのお時間、風間の支給品一式(食糧小消費)、藤香の支給品一式(アイテム未確認)、本郷の支給品一式(アイテム未確認)、忍者刀@忍たま乱太郎
[思考]1:殺し合いに乗り、優勝する。あくまで優勝。
   2:可能であれば空蝉、辰美に復讐したい。
   3:サッカーボールを投げた相手を追ってみる。

[備考]:カッツェの前に、風間の死体、藤香の死体、白旗@現実が転がっています。



【支給品紹介】

【白旗@現実】
風間望に支給。
見ての通り、白旗。
現代においては、主に停戦交渉や降伏を現すために使われることが一般的。

【サッカーボール@せんせいのお時間】
支倉未起隆に支給。
ごく普通のサッカーボール。
興津高校2年A組の生徒、末武健太がいつも持っているもの。

【熱唱びわ@戦国BASARA】
支倉未起隆に支給。
見た目はごく普通の琵琶。
装備して出撃するとそのステージのBGMがそのキャラ専用BGMに変化するのだが……このロワにおいてはほぼハズレアイテムといっても過言ではない。

【タチバナの銃@まほらば】
シュヴァルツ・カッツェに支給。
水無月家に仕えるメイド、タチバナがイタリアで水無月まひるを助ける時に使った自動小銃。
小型ながらも威力はなかなかのもので、タチバナはこれを使いまひるを誘拐しようとしたイタリアのギャングを一蹴した。






046:ネガポジ 投下順 048:願わくば、一時の別れであれ
046:ネガポジ 時系列順 048:願わくば、一時の別れであれ
013:バトロワのエイリアン 風間望 GAME OVER
013:バトロワのエイリアン 支倉未起隆 :[[]]
019:リベンジャー 藤香 GAME OVER
GAME START シュヴァルツ・カッツェ :[[]]

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最終更新:2012年01月15日 21:49
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