鮮血の結末

第六十六話≪鮮血の結末≫

日は更に傾き、徐々に島は暗闇に包まれようとしていた。
この殺人ゲームが始まって以来、初めての夜の帳が訪れようとしている。
幾人もの犠牲者の死体が転がる島は、その様相を大きく変えようとしていた。

「ちょ、ちょっと伊藤さん、またですか?」
「何よ~いいじゃない。もう何回もやってるんだからさ~」
「そ、そりゃそうですけど……」

H-4灯台の管理人詰所で乳繰り合っている赤いブレザーを着た灰色の竜人の少年と金髪のバニーガールの女性。
竜人の少年――本庄忠朝とバニーの女性――伊藤文子は、
一体何時間、この灯台で時を共にしていただろうか。
初心で純朴な少年が、露出度の高い衣装を着た自分より年上の若い女性と一つ屋根の下に長時間いれば、
男(雄?)としての本能的な欲望が湧き起こって止まらなくなる。
忠朝もその例に漏れず何度も文子に隠れて欲望を発散させていたが、ついにその事が文子に露見する事となってしまう。
しかし文子はそんな忠朝を咎める事はせず、それどころか、忠朝に取って全く予想外の行動を取った。

一言で言うと「一線を越えた」のである。

以来完全にはまってしまった忠朝と文子は、何度も何度もそれを繰り返した。
そして今に至る。と言うより今まさに再びそれを行おうとしていた。
ソファーに座る忠朝のズボンのジッパーを文子が開けていた。

「何だかんだ言ってトモ君、もうカチカチになってるよ」
「ひっ、言わないで下さい~!」
「うふふ。可愛い♪」
「……」

顔を赤らめて恥ずかしがる忠朝をからかいながら、文子は取り出したそれを――。


~数分後~


今、熱いマグマが噴き出そうとしていた。
外部からの凄まじい刺激に、そのいきり立った火山はもはや限界であった。

「はっ、はぁ、いっ、伊藤、さっ、も、もう!」

何者かの声が聞こえるがあえて気にしないでほしい。
そして今、マグマは遂に火口へと――!

「アッ――――――――――――!」



「ち ょ っ と な に し て ん の ア ン タ ら 。」



噴火したマグマが文子の顔と胸元に降り注いだのと、文子では無い女性の声が部屋に響いたのは、ほぼ同時だった。



車を運転し、灯台に到着した緑髪の女性、新藤真紀は、
二六年式拳銃を右手に持って警戒しながら灯台の入口へ近付いた。
入口の扉を開け、誰もいない事を確認する。
奥に灯台の塔の最上階への螺旋階段、手前に管理人詰所の入口があった。
音を立てないように灯台入口の扉をゆっくり閉め、管理人詰所の扉へ足音を立てないようにして近付く。
すると、中から何やら声が聞こえてきた。
声色は二人。どうやら少年と大人の女性のようだが……。
聞こえてくる声は会話では無い。と言うより言葉ですら無い。
嬌声――まさしくそれ。

(……まさか……)

真紀は意を決して管理人詰所の扉を開け、中に足を踏み入れた。

そこには、真紀がイメージした光景とほぼ変わらない光景が繰り広げられていた。

ソファーに座った灰色の竜人の股間の辺りに、何やらバニーガールの衣装を着込んだ自分と同年代くらいの、
若い人間の女性が顔を埋めている。
竜人は赤いブレザーを着ている上に童顔なので、恐らく少年だろう。
上半身を捩じらせ、涙目になって息を荒げながら喘いでいる。

そして竜人の少年が一際甲高い、悲鳴にも似た声を上げた瞬間、
勢い良くせ――いいえ、ケフィアです。

「ち ょ っ と な に し て ん の ア ン タ ら 。」

半ば呆れたような口調で、遂に真紀が二人に声を掛ける。

「「―――――!!」」

忠朝と文子は真紀の方を向いたまま、何の言葉も発する事が出来ず、完全に硬直してしまった。
そんな二人の顔を見て、真紀は「ああ、鳩が豆鉄砲食らったような顔ってああいう顔の事を言うんだな」と、
変な所で感心していた。
一方で、社会の窓から愚息が飛び出したままの忠朝と、顔と胸にケフィアが掛かったままの文子は、
何も言葉を発さずただただ突然現れた闖入者を見つめているだけだったが、
心の中では完全に狼狽し切っており、目が完全に泳ぎ、変な汗までかいていた。

(え、嘘、ああちょっとどうしよう、一番見られてはいけない光景を見られてしまった!)
(誰!? 誰なのこの女!? いつの間に……いいやそんな事より、かなり恥ずい事に……)

「……まあ、ね。分かるよ、気持ちは」

「……はい?」
「え?」

不意に真紀が発した言葉に目を丸くする忠朝と文子。
それに構わず真紀が続ける。

「いつ死ぬか分からない状況だし、欲望の赴くまま好きな事をしたいっていうの、分かるよ。うん」

気まずそうに頭をかきながら言う真紀。
忠朝と文子はそんな真紀を呆然と見ていた。
この時、二人の思考の中に「逃げる」という選択肢は、どうやら浮かばなかったようだ。

「……まあ、それはそれとして」

突然、真紀の声のトーンが変化した。

次の瞬間、耳を劈くような破裂音と共に、文子の頭部を弾丸が貫通した。
文子の頭部に空いた小さな穴から噴き出した鮮血と脳の欠片を、文子の正面に座っていた忠朝が思い切り浴び、
衝撃で大きく仰け反った文子の身体はソファーにぶつかって、ずるりと滑り落ちるように床に倒れ込み、
そのまま活動を永遠に停止した。恐らく文子は自分の身に何が起こったのか、最後まで理解する事は無かったであろう。
銃口から煙を噴き出すリボルバー拳銃、二六年式拳銃を片手で構えながら、
先程行為を目撃された時とは全く違う意味で硬直している忠朝少年に、真紀は狙いを定める。

「悪いわね。ここで死んでもらうわ」
「あ……ああ……あ」

忠朝の心に、急激に死への恐怖が襲い来る。

「い、嫌だ……死にたくない……死にたくないです……お願いします、助けて下さい……」
「はあ? 何言ってるのアンタ。その様子だとそのバニーガールと散々好きな事してたんでしょ。
まだ子供のくせに色気付いて。もう満足したでしょ? どうせ私が見逃したとしても、
結局は誰かに殺されるよ。はっきり言える。アンタは生き残る事は出来ないよ。
……ちなみにね、私、そのバニーガール含めて三人殺してるんだ。そうやって生き延びてきたのよ」
「ひっ……ひいいいいやだ! 嫌だあ! 見逃して下さいお願いします! 見逃して下さい!!」

怯え切り、涙を流しながら命乞いをする忠朝。

「うっさい」

だが、真紀は無慈悲に引き金を引いた。
放たれた銃弾は、忠朝の胸部と腹部を抉り、内臓器を破壊し、致命傷を負わせた。
大量に吐血し、ソファーに横倒れになる忠朝。しかし、まだ辛うじて息はあった。

「げぼっ、ぅ、お゛……じに、だぐ、ないよぉ……」

しばらく血を吐きながら悶え苦しんでいた忠朝だったが、数分もしない内に静かになった。
空になった二六年式拳銃の弾倉に予備の弾を込めながら、真紀はたった今殺害した、
竜人の少年とバニーガールの女性の死体を交互に眺める。
テーブルの上に散らばる開封済みのお菓子の袋の山や奥にある仮眠用ベッドの使用形跡からして、
かなり長い間この灯台管理人詰所に立て篭もっていたのだろう。この二人は。
そしてその間、めくるめく熱く蕩けるような行為を何度も何度も……。

「ハッ……」

想像するだけ馬鹿馬鹿しい。何を考えているのだろうか自分は。
真紀は弾を込め終えた二六年式拳銃をスカートに差し込むと、改めてテーブルの上を見渡す。

「ん?」

すると、お菓子の袋の山に混じって、ある物を発見した。
その発見した物を手に取り、まじまじと見つめ、そして再び呆れたような口調で言った。

「この竜人の子、目の前にこれがあるなら、これ使えば良かったんじゃ……。
忘れてたのかしら」

真紀が発見したのは、レバーアクション式小銃、ウィンチェスターM1873。
これは忠朝の支給武器であり、いざという時のために忠朝がテーブルの上に置いておいたのだ。
だが、その「いざという時」に、忠朝は完全にその存在を忘れてしまっていた。
もっとも忘れていなかったとしても、忠朝がテーブルの上のM1873を手に取る前に、
真紀が先手を打っていただろうが。
何にしろ、中々強力な銃器を手に入れる事が出来、真紀の機嫌は上々だった。

「それじゃあ、このお二人さんの荷物を調べるとしますか」

真紀は忠朝と文子のデイパックの中身を調べ始めた。


【一日目/夕方/H-4灯台管理人詰所】

【新藤真紀】
[状態]:疲労(中)、身体中に掠り傷及び軽度の打撲、左肩に掠り傷(いずれも応急処置済)、
[装備]:二六年式拳銃(6/6)、長谷川俊治の野球帽
[所持品]:基本支給品一式(食糧1/3消費)、9㎜×22R弾(26)、 サーベル、ラドムVIS-wz1934(5/8)、 ラドムの予備マガジン(8×9)、マークⅡ手榴弾(3) 、長谷川俊治の水と食糧(食糧半分消費)、
ウィンチェスターM1873(14/14)
[思考・行動]
基本:優勝を目指す。積極的に他参加者と戦う。
1:今殺した二人(伊藤文子、本庄忠朝)の荷物を漁る。
2:知人(須牙襲禅)とは出来れば会いたくない。
[備考]
※リボンを付けた青い髪の和服姿の少女(菊池やと)の姿を確認しました。



【伊藤文子  死亡】
【本庄忠朝  死亡】
【残り15人】



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最終更新:2009年11月22日 23:13
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