いち刑事として……

正義とは、一体何だろうか?

勝てば官軍、負ければ賊軍。
この世界の歴史は往々にしてそうやって積み上げられてきたものだ。
だが、時代は移り変わり、それと共に人間の価値観も多様化してきた。
最早"善"と"悪"という単純な二元論で全てを語れるほど、世の中は単純ではなくなっている。
そんな世においてさえ、警察という機構に身を置くからには、定められた法の下に善と悪に区分けを行っているのである。
それが警察官としての、刑事としてのあるべき姿だし、この道を志すからには大抵が悪を憎む気持ちを持っているはずなのだ。



そうした身分でありながら、なおこの若き刑事――松田桃太は揺れていた。
彼は世間を騒がす殺人鬼……いや、そう呼ぶのは不適当かもしれない人間を追っている刑事である。
殺人鬼と形容しておいて、それが不適当かもしれないとするのにはいくつか理由がある。
彼の追う、キラと一般に呼ばれるその人物が、基本的には犯罪者のみをターゲットとしていること。
そうした側面から、キラを一種の世直しと見る向きが、ある程度の大きな潮流となっているということ。
その結果として、今となってはキラを追うことそれ自体が、逆に悪とみなされるような世になりつつあるということ。
そうした様々な要因が複合した結果が、先の表現に結びつくことになる。

松田は、キラがどういった形で殺しを行っているのかを知る、数少ない人間の一人であった。
真摯に職務に励み、その最期までキラを追うことをやめようとはしなかった尊敬できる上司。
その上司の息子で、とにかく頭がキレることにかけては他の追随を許さぬ期待の後輩。
そして、個性豊かながら人を殺めることを憎むことに変わりはない、頼れる同僚たち。
少数精鋭ではあったが、それぞれがもう長いことキラを追いかけてきた、"戦友"と喩えてもいい者たちである。

……だが、ある日ふと松田はこう考えてしまったのだ。

"キラは完全に悪なのだろうか?"

捜査本部でも思わず吐露してしまった、こんな考え。
キラを捕まえるためなら命だって懸けられる、そんなはずだったのに。
キラがターゲットとしているのが、基本的には世間一般で言うところの"悪"に絞られていたがためにそんな考えに至ってしまったのだ。
殺戮による恐怖で成り立つ平和など、真の平和でないことなど百も承知だというのに。

その後も捜査は続いたが、松田はどうしても先の考えを捨てきることが出来なかった。
キラは殺人犯だ、だが犯罪者が間引きされて結果的に世の中が良くなっているように見えるのもまた事実。
持ち前の軽いキャラクターでその思いは他の捜査官に知られることはなかった。
しかし、心の奥底にモヤモヤを抱えながら松田は職務に当たっていたのだった。



そうして、SPKのニアといよいよ対面し、キラ捜査も大詰めを迎えようとしていた、その時だった。
横浜・大黒埠頭へと向かう車中、松田の記憶はそこで途切れていた。
その次の記憶は群衆の中、そしてシックスと名乗る男たちの告げたゲームの話に爆破された男の姿。
そこで再び記憶が飛び、気がつけば真夜中の森の中で……そして現在に至る。

シックスという男については松田も知っていた。
日本中に恐怖と悪意を振りまく、異能の男だということ。
キラなら真っ先にそんな男を殺すのではないかと思ったのだが、不思議とシックスはいつまでも死ぬことが無かった。
本当の名前が知られていないからなのだろう、松田はそう考えていた。
いずれにせよ、今の警察はシックス対策に大わらわであり、閑職とされていたキラ捜査班にいる松田にそれ以上の情報は無かった。
警察も表立ってキラの捜査に動けない以上、それが閑職であることも致し方ないことではあったのだが。

ここで松田は考え込んでしまう。
あの群衆の中、遠目に見えたシックスの傍らに立っていた、よく知る"死神"の存在である。

「何故……? 何故リュークがシックスって奴の傍に……?」

思索に耽った松田が、ある結論に至るまではさほどの時間を要しなかった。

「まさか……キラの正体はシックス、だったってことか……?」

それならば、いつまでたってもシックスが裁きを受けないことへの理屈が成り立つ、松田はそう考えたのだった。
犯罪者を殺して良い世の中を作る、というのも一種の建前で、実は悪意ある者たちを間引いていただけなのではないか。
我ながら突拍子もない考えだ、松田はそう自覚もしてはいたが半ば筋が通っているように思えるだけにたちが悪い。
自分の推理に軽く酔いしれ、彼は今後の方針を定めた。

「何はなくとも……ひとまずは月くんと合流しよう。
 やっぱりキラはとんでもない極悪人だ、一瞬でも迷った自分がバカみたいだ」

自分の推理など一笑に付されるかもしれない……が、それでも聞いてもらいたかった。
その推理が的外れだったとしても、頭の切れるあの夜神月が仲間にいれば心強い。
この時点の松田は、夜神月=キラという構図を信じてはいない。
おまけに、自分の中でシックスこそキラなのではないかという考えが芽生えたことから、月を完全に頼りにしていた。
それは、キラ捜査班の他のメンバーが誰一人としていなかった、というのもあったのだが。

「あとは……ミサミサくらいかな、知っているのは……」

支給された名簿を眺めながら、松田はここで首をひねる。
まずは"ミハエル・ケール"の名前に目を留めた。
ミハエル・ケール……すなわちメロは高田清美アナの誘拐という暴挙に出、その結果死んだと目されたはずだった。
もっとも、死体の身元確認は難航を極めており、もしかしたら実は生きていたのかもしれない、松田はそう思うことにした。

……だが、納得できないのはもう一人の名前の方だった。
"火口卿介"……今はすっかり落ちぶれてしまったヨツバグループの重役で、第2のキラとされていた男だった。

「だけど……火口は確かに死んだはずなんだ……それも僕らの目の前で……」

そして、腕を組みながらしばらく考え込む。
ふと、何かを思いついたかのように松田はポン、と手を打った。

「そうか……リュークは死神なんだから、その気になれば地獄から引っ張ってくることくらい出来なくもないかもしれないじゃないか」

リュークにそんな力があるかどうかなど、確かめようもない。
だが、そもそも殺人ノートにしたって人智を超えた死神の道具なのだ、人智を超えて死人を蘇らせることだって出来るかもしれない。
これもまた、傍目にはそれなりに筋の通った推理であったので、松田はうんそうだ、そうに決まってると自らに言い聞かせた。



ある程度モヤモヤも晴れてきたところで、松田はいよいよ動き出そうとした。

「おっと、その前に武器とやらを一応確認しとくか……」

殺人鬼の言いなりになるようで気分は悪かったが、万一の時に護身すら出来ないのも拙い。
そう思った松田がバッグを漁ると……よく見覚えのあるモノが中から出てきた。

「これ……拳銃じゃないか……それもニューナンブだなんて……」

ニューナンブM60。
徐々に後継機に取って代わられつつあるものの、長きに渡って日本警察が愛用してきた回転式拳銃だ。
もちろん、松田本人も射撃の訓練で幾度となく使ってきたものであり、馴染み深い武器である。
ちなみに、このニューナンブは他ならぬ松田本人のそれが偶然にも支給されたのだが、本人は知る由もない。

「使い慣れたモノか……ひょっとして当たり、ってことかな」

一人ごちながら松田はニューナンブをいつでも構えられるように装備した。
自慢じゃないが、拳銃の腕にはそこそこの自信があると彼は自負していた。
突然何者かに襲われても、相手を殺すのではなく無力化するだけの技量は持ち合わせているつもりだった。

そして、松田はゆっくりと歩を進め始めた。
夜神月との合流、そして憎きキラの打倒、それを目指して。




 *      *      *




森の中を慎重に歩いているせいか、距離の割に随分と時間が経っているような気がしていた。
草を分ける音もなるべく抑えるようにしているせいか、なおさらだった。
松田は依然として誰にも出会っていなかった。

「とはいえ……気を抜くわけにもいかないんだけどね」

周囲を警戒しながら、牛歩のごとく道を行く。
歩き始めてもう30分以上は経ったかな……松田がそう思った次の瞬間だった。

視界の片隅に、女の子らしき後ろ姿が目に入る。
所在なさげにあちこちをキョロキョロと見回しているようだった。
父親を探しているのか、お父さーんと呼ぶ声、そして知り合いなのか幾人かの名前を呼ぶ声も聞こえる。

「……なんてこった」

通りかかったのが偶々警察官である自分だからよかったようなものの、これがもしゲームに乗った殺人鬼ならどうだったか。
視線の先の女の子など、格好のターゲットでしかないじゃないかと松田は思った。

「とにかく、あの子は何とかして保護しないと」

いち刑事として、一般市民を守るためなんだからな。
断じて、女の子の前でいいカッコしたいからじゃないんだからな。
誰かが聞いているわけでもないのに、松田はそう言いながら驚かさないようにゆっくりと近づく。
徐々に女の子の背後に近づき、きっと高校生か大学生くらいかな、と推測しながら声をかけた。

「ちょっと、キミ……」

その刹那。

「アアアアアア……」

目の前の少女が一声発したかと思うと、身体を鋭く捻らせる。
次の瞬間、左足を軸にして回転し、空気を切り裂きながら右足がまっすぐ松田の頭部に飛んできた。

「ひっ……!?」

少女の突然の攻撃に松田の体は反応できず、情けない声を発するだけだった。



少女の右足は松田の頭を捉えることはなかった。
ちょうど松田の横に立っていた大木に突き刺さり、ミシ……と軋むような音が聞こえた。
スカートを穿いて後ろ回し蹴りなど放つ物だから、その中身が見えたような気がしたが、松田にとってそんなことはどうでもよかった。
思わずその場にへたり込んでしまう松田の横で、軋む音を徐々に大きくさせた木がゆっくりとへし折れていった。

「……何の用ですか?」

鋭い眼光でこちらを見下ろす少女を目の当たりにして、松田は思った。

(あれ……? 別に僕が守らなくてもいいんじゃね?)



【E-5 森 一日目深夜】

【松田桃太@DEATH NOTE】
[状態] 健康
[装備] ニューナンブM60(松田桃太・5/5)、自分のスーツ
[所持品] 予備弾丸10、支給品一式

[思考・状況]
1.この女の子は一体……?
2.月、弥砂との合流を目指す。メロと火口は警戒

※キラの正体をシックスだと考えています

※ニューナンブM60は、警察関係者の人数分支給されています。
 ただし、拳銃を持たない主義の約1名分は除き、中にはその性格から整備不良のものもあったりします。

【毛利蘭@名探偵コナン】
[状態] 健康
[装備] 私服(下はスカート)
[所持品] 支給品一式、ランダム支給品

[思考・状況]
1.この男の人は一体……?
2.知人(コナン、小五郎、哀、平次、和葉)を探す



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最終更新:2012年08月04日 16:41
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