ネガポジ

世が世ならば、いつきはごくごく普通の農民の少女だった。
太陽に笑い、風に微笑み、雨音にまどろむ普通の少女として生きていく生き方もあった。
だが、国中を巻き込んだ戦乱の嵐は、彼女にそんな生き方をさせることを許さなかった。
力をもつものは、その力を果てしなく伸ばし、力なきものに牙をむく。
力無きものは死に、村は焼かれた。
いつきの村も、そんな『力無き者』で構成された小さな農村だった。
だが、天はそんな力無きものに力を与えた。
天から与えられた力を手に、いつきは強大な力に対して戦い――一揆を挑んでいった。
その道中で、いかなる傷を負おうともいつきは屈しなかった。

いつきには、力がある。
その力は、決して罪なき無力なものを屠るためにある力ではない。
力無きものを守り、暴虐な力に立ち向かうための力である。
いつきは、殺し合いなんかに乗る気は毛頭ない。
だが、いつきは戦場というものがどういう場所かも十分理解していた。
常に死が誰の首を狩り取らんと狙っている場所、それが戦場だ。
その重圧と恐怖に潰されてしまったものを、いつきは多く見てきた。
逃げ出した者もいた。
狂ってしまった者もいた。
――そして、その殆どは死んでしまった。



いつきの目の前で、見た目には力があるようには全く見えないいつきと同い年ぐらいに見える少女が苦しそうに寝息を立てている。
先ほど起きた爆発の方へ駆けつけたら、彼女がよく分からない武器と一緒に倒れていたのだ。
放っておくわけにもいかず、いつきはその少女をその場から一時避難させた。
いつきの胸に、怒りが去来する。
あの大広間にいたメガネの男は、こんな少女にも殺し合いをさせようとしている。
許せない。
絶対に、許すことなどできない。
ぎゅっと、いつきは拳を握りしめた。

「うぅ…ん……」
悪夢を見ているのか、それともつらい目にあったのか、少女の表情は相変わらず険しい。
何かできないか。
いつきはとりあえず自分に支給されていたデイバックをもう一度中味を確認した。
最初自分のハンマーが無いか確認したのだが、入っていなかったので他はあまり見ていなかったのだ。

「…なんだべこれ?」
出てきたのは、よく分からないペラペラの紙人形――いや、実際はビニール人形なのだがいつきの生きていた時代にはそのような素材は無い。
膨らませてみると、銀髪天然パーマの変な男の姿が現れた。
「……変な人形さんだべ。」
膨らませてから言うのもなんだが、こんなもの役に立ちそうもない。
いつきは溜息をつくと他に何かないか探した。
そして、『それ』は出てきた。
六角形の、小さな固い金属。
LXIと見た事のない文字が刻まれたその金属塊は、はっきり言って役に立つようなものだとは思えなかった。
だが、それを手にとったいつきはその瞬間に力が回復していくような感覚を覚えた。
これは、ひょっとしたら使えるかも知れない。
いつきはその金属塊を少女の胸に当てた。
険しかった表情が、ほんの少しだけ穏やかな感じの表情になった。
その表情の変化に、いつきは少しだけ安堵した。



ふわふわ
ふわふわと、雲に乗っているかのような感じ。
ゆらゆら
ゆらゆらと、波に揺られているかのような感じ。
黒崎朝美は、そんな不思議な感覚を味わっていた。

――私、何しているんだろう?
何が起こっていたのか、記憶をたどっても霞がかかったみたいで何も思い出せない。
思い出せない――?
違う、それは違う。
思い出したくないんだ。

桃乃さんが、死んだ。
その様を、私は見ていることしかできなかった。
何も、何もできなかった。
何もできなかった私の前で、桃乃さんに巻かれていた首輪が爆発して――死んだ。
その首輪は、私の首にも巻かれている。
私だけじゃない。
ここに集められているお母さんや、お兄ちゃん、お姉ちゃんの首にもきっと巻かれている。
怖い。
怖すぎる。
自分が死んでしまうことよりも、お母さん達が死んでしまう事が、よっぽど怖かった。
その恐怖感に拍車をかけるようなものが、私の支給品だった。
そしてそれを私は――使ってしまった。

それからどうなったかは、私自身も分からない。
グレネードを撃ってしまい、爆発が起きた衝撃で、私は気を失ってしまった。

ただただ、申しわけなかった。
あの顔に傷がある大きな人に対して、ただ申し訳なかった。
あの人は、私のせいで――
謝らなくちゃ。
でも、謝る事が出来なくなっていたら?
……私は、どうすればいいの、お母さん……



と、ふわふわとした感覚の中思考を巡らせていた朝美の意識が段々とはっきりしてきた。
生きる力というか、身体に力がわいてくるような、そんな感覚と共に段々と意識が戻って行く。
真っ暗だった視界は、段々と白んでいく。
太陽の匂いを、朝美は感じていた。
そっと、重い瞼を開くと、ぼんやりとだが空が見えた。

「――あ、目覚ましただか?」
女の子の声が聞こえた。
その方を見ると、銀色の髪を二つに結んだ可愛らしい少女が心配そうな眼でこちらを見ていた。
「……あなた、は?」
「おらはいつきって言うだ。おめぇさんが倒れていたからここに連れてきただよ…ああ、勿論殺し合いなんかにゃ乗ってねぇ。」
朝美はそのいつきと名乗った少女とは初対面であったが、なぜか彼女が嘘をついているようには思えなかった。
彼女が小さい女の子だったから、というのもあるかもしれないが何より彼女の凛とした瞳は、嘘を言っているようには見えなかった。
「……私、黒崎朝美。」
「朝美、か。よろしくな。」
いつきは握手を求め手を差し出したが、朝美はそれに応えようとはしなかった。
「…朝美、どうしただ?」
「……私…」
朝美の眼から、涙があふれようとしていた。



朝美の話は、衝撃的だった。
あの大広間で首輪を爆破されて死んだ女性は、朝美の知り合いだったと言う事。
朝美の大切な家族である母、沙夜子もこの殺し合いに参加させられている事。
その母親だけではなく、家族同然の付き合いをしている同じアパートの住人も殺し合いに参加させられている事。
彼らと離れ一人ぼっちになっていた事。
寂しさに押しつぶされそうになりながら、みんなを探していたら顔に傷のある大きな男が死体の前で不気味な笑みを浮かべていた事。
その場から逃げ出したが、その大男に追われた事。
そして、その大男を撃退するためにグレネードランチャーを撃ってしまった事。

「…そんな事が、あっただか……」
「……うん。」
朝美は、話しているうちに何度も涙を落した。
恐怖と悔恨と、申しわけなさが混じった、何よりも悲しい涙だった。
「…朝美、おめぇ……どうするつもりだ?」
「………私、お母さんに会いたい。会ってどうしたいのか分からないけど、それでも私は、お母さんに会いたい。」
「……」
絞り出すような声に、いつきも声を詰まらせる。
「でも私、会えない。」
「なんでだ?」
「……私、人を撃っちゃったから。あの傷の人を、撃っちゃったから。」
「でもそれは」
「あの人が、本当に人を殺したのかも分からないのに。」
「…朝美。」
「………」
朝美の肩が震える。
その震えに呼応するかのように、ぽたりと落ちた涙は地面に吸い込まれた。
「――お母、さん……」
「……朝美。」
震えながら泣く朝美を、いつきはそっと抱きしめた。
「え、いつき、ちゃん?」
「朝美、おめぇは悪くねえ。」
「いつきちゃん……」
「おめぇは、おらが守ってやる。朝美。」
「……」
「だから…泣くんじゃねぇ。」
「…ありがとう、いつきちゃん……」



二人の少女は、今歩きだそうとしている。
その先に何があるのかは、誰も知らない。
待ち受けるのは天の祝福か、はたまた無間地獄か。
それでも少女は、立ち向かう。
強い思いを胸に抱きながら――





【E-7草原/1日目午前】
【いつき@戦国BASARA】
[状態]:健康、強い決意
[装備]:グレネードランチャー@のび太のBIO HAZARD(弾数不明)
[道具]:基本支給品一式、銀さん人形@銀魂
[思考]1:殺し合いなんかには乗らない。
   2:朝美を守る。
   3:朝美の探し人を探す。
   4:できる限りの人を助けたい。

【黒崎朝美@まほらば】
[状態]:精神的ショック(大分持ち直した)
[装備]:ニアデスハピネス@武装錬金
[道具]:基本支給品一式
[思考]1:お母さんに会いたい。
   2:いつきと行動。いつきを信頼。
   3:鳴滝荘の皆とも会いたい。



【支給品情報】

【銀さん人形@銀魂】
いつきに支給。
とんでもない不祥事を犯した坂田銀時が6人の相手と同時にデートをする羽目になった際に使用した、人形――というかぶっちゃけダッチワイフ。
銀時を模しており、銀髪天然パーマなど特徴はとらえているのだが、似ているかといわれると微妙。

【ニアデスハピネス@武装錬金】
いつきに支給。
元々は蝶野攻爵の武装錬金。
黒色火薬を自由に操作、爆発させることができる。
また、爆発させ続けることで飛行も可能。






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030:誤解が生んだ爆炎 いつき :[[]]
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最終更新:2011年11月18日 00:09
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