剣と鎌と 中編

キィン、ガキィンと鋼がぶつかり合い、火花が飛び散る。
誰もいない役所の一階には、その音だけが響いていた。
明智光秀と空蝉。
戦国武将と侍が、互いの矜持と剣技の全てを、ぶつけ合っていた。
しゃきん、と光秀のバルキリースカートは一本一本の軽さを活かし文字通り四方から空蝉を攻め立てる。
が、空蝉のブロードソードはその重厚な一薙ぎで四本の脚を一掃する。
互いの力が、互いの技が文字通り火花を散らし合っていた。

「ハァっ!!」
「そぉらよぉ!!」
空蝉の大きく振りかぶった左から右への一閃は、光秀のバルキリースカートを弾き飛ばす。
だが光秀ははじかれた衝撃をもって後ろに大きく飛びのき、制空権を脱する。
「……今のは、少々ヒヤッとしましたよ。」
「…テメーもな。」
光秀の胸に一の字が引かれ、そこから血がたらりと溢れだす。
が、それとほぼ同時にぶしゅう、と空蝉の右肩が裂け、血が噴き出す。

これは、まぎれもない『死合い』。
片方か、もしくは両方の命の終焉をもってピリオドがうたれる闘いであった。
光秀も空蝉も、最初の一合でそのことを十分に理解していた。
二人とも、幾多の戦闘を繰り広げて行くうちに、自然とそれが理解できる境地まで達していたのだ。
「…ククク……」
「何が可笑しいんでい。」
「私は…愉しくて愉しくて、仕方が無いのですよ…!ああ、実に、実にすばらしい……!こんなに愉しいのは、いつ以来だろう……!」
胸から血を流しながら、光秀は思い切り後ろに反りかえり、笑った。
その様に空蝉の背に、ぞわりとした悪寒が走る。
「…気にくわねぇな、てめぇ。」
「何をおっしゃいますか、あなたも私と同じように、人をお斬りなさる癖に…!」
「テメーと一緒にすんじゃねえ。」
天井に向けられていたブロードソードの切っ先が、光秀に振り下ろされた。



「おじさん、大丈夫?」
「…痛ぇ……うう…」
「喋るな長谷川、傷に触る。」
環樹雫、灰原由起夫の二人は、傷を負った長谷川の治療のために彼を抱えて学校まで向かっていた。
だが長谷川の傷は深くはないものの激しく動くことはできず、途中住宅街のとある一軒家に入って長谷川の治療をしていた。
家の中には治療に役立ちそうな薬品の類はなかったものの、幸い清潔なタオルがあったのでそれを包帯代わりに傷口に当てて応急処置とした。
「…空蝉さん、大丈夫かな。」
「……」
灰原の脳裏に、光秀のあの残虐な笑みが浮かぶ。
何人も、それこそ数えきれないほどの人間を殺めてきたものの恍惚としたあの目は、思い出しただけでも震えが止まらなくなる。
あんな人間がこの世にいるのだろうか。
だが現にこうして、危うく殺されるところだったし長谷川は傷を負ってしまった。
その事実が、灰原の心に不安と焦燥感を募らせていく。
(梢……白鳥……無事でいてくれよ……!)
灰原にできることは、祈ることだけだった。



「ぐっ……!」
「おやおや、どうなさいました?まさかこの程度だとおっしゃるのですか?」
空蝉と光秀の違い、それは闘いに身を投じた年季の差。
その年季の差は多ければ多いほどに闘いには有利になることもあるが、その年季の差が今まさに空蝉を苦しめていた。
今年で重ねた齢は五十六の空蝉には、体力の限界が訪れようとしていた。
一方の光秀はまだ若く、ましてや手持ちの武器は空蝉のブロードソードよりも出が早いバルキリースカート。
一時は互角な戦いを繰り広げていた空蝉の肉体に細かな傷が徐々に増えて行き、やがて小さかった傷は大きくなっていく。
ついには屈強な空蝉の膝をつかせるまでにその傷は多く、深くなっていた。
「まだですよ。」
しゅん、と稲妻のごとき速さでバルキリースカートの一本が空蝉の胸を突き刺さんと迫る。
一瞬反応が遅れたもののその刃は急所を切り裂くことはなかった。
だが――

「くっ……畜生…!」
左腕に深々と突き刺さった鎌の刃先から、たらりと鮮血が溢れ出る。
刃が深々と刺さり、アームの距離が互いの距離となった。
もうこうなってしまっては光秀にただ殺されるのも時間の問題だ。
「…あなたは、とてもお強い方でしたよ……ですが、もはやこれまでです。」
そう言うと、光秀は残ったバルキリースカートを一斉に空蝉に突き刺そうとした。

だが、光秀は一つ誤算を抱いていた。
それは、空蝉という男の性格。
「ざけんなああああああああああ!!」

天井を向いていたブロードソードの切っ先が、円を描くようにふわりと動いた。
と、次の瞬間空蝉の胸元に迫っていたバルキリースカートがガキィン、と派手な音を立てて吹き飛ばされた。
ブロードソードの重厚な横薙ぎが、細い鎌を弾き飛ばしたのだ。
(…上か!?)
咄嗟に身をかわそうとした光秀だったが、アームの一本が空蝉の左腕に突き刺さっていてうまく動くことができない。
それでも何とか無理やり身を引っ張り、次に来るであろう攻撃を予測し身をひねる。
だが、その刃は光秀の想像とは反対の場所から来た。
「おらああああああああああ!!」
下から斬り上げの連撃。
上からの斬り下ろしを予想していた光秀はかわしきれずに、胸に袈裟の傷ができる。
「もういっちょおおおおおおお!!」
もう一度、下段からの斬り上げが光秀に襲いかかる。
バルキリースカートのアームに縛られた制空権を、ブロードソードの大きな刃が走った。



「武装錬金、解除!!」

一瞬にして、バルキリースカートが解除され、二人をつなぐアームが消えた。
つなぎとめていたモノの消失に、二人はバランスを崩し投げだされる。
その均衡の崩壊が、結果的に光秀も空蝉も救っていた。
「……ああ、良い!!実にすばらしいですよ空蝉さん!!もっと、もっと殺し合いましょう!!」
「…生憎俺はそんな趣味は持ってねえんだよ、さっさと逝け。」
ぎらりと、刃のように鋭い空蝉の視線が光秀を刺す。
同時に、舐めまわすような光秀の視線が空蝉に向けられる。
「……ふ、ふふふ…」
「…終わりにするぞ、光秀。」
力ももう入らなくなってきている両の腕に気合を込めると、空蝉はブロードソードを握りしめ光秀に斬りかかった。
だが、光秀は懐からとあるものを取り出そうとしていた――



誰もいない住宅街を、一人の少女――環樹雫が歩いていた。
(空蝉さん…)
あの時、自分は心のどこかで恐れを抱いていた。
だから、空蝉さんは私に戦う事を許さなかったんだ。
でも――あの変態は、勝てる勝てないとかそういう次元のところに存在しているような人間だとは思えない。
それこそ、絶対的な存在のように雫には思えた。
絶対的な死を司る存在――言うなれば、死神。
雫の記憶の中の変態は、それによく似ていた。

(……でも)

雫が手に握っているのは、ハリセンではなく真剣。
傷を負った長谷川の荷物から譲ってもらった、六爪の一本。
ずしりと手に食い込む重みを持った真剣は、剣道で段位を持っている雫の心に何か勇気を与えているかのようでもあった。
(……あたしも、戦うべきなのかな…?)
鞘から刀身を引き抜くと、きらりと刀身が日の光を反射し煌めいた。
これがあれば、私の力があれば、空蝉さんを助けてあの変態をやっつけることもできるかもしれない。
だが、できないかもしれない。
それに、今雫には傷を負った仲間がいる。
その仲間を放っておいて負けてしまうかもしれない闘いに行くのは果たして良い事なのだろうか?
普段奔放な彼女らしくもなく、雫は考えを重ねていた。
だが、その考えを破る轟音と閃光が、雫の目の前で起こった。



光秀は、バルキリースカートを解除し丸腰になっていた。
それは、絶好の機会だった。
先程まで苦しめていた武器を自ら降ろしたのだ。
この機会に攻めないでいつ攻める?

――そう考えてしまったのが、空蝉の敗因だったのだろうか。
普段の空蝉であるならば、相手の様子をよく観察していただろうに、傷で大量に血を失ったことが彼の身体を焦らせたのか、それとも単に光秀が気に入らなかった感情が暴発したためか。
空蝉は、不用意に光秀に斬りかかっていた。

斬りかかったその瞬間、光秀は小さな爆弾をこちらに投げつけていた。
咄嗟にかわしたものの、その爆弾が爆発した瞬間に強烈な閃光と轟音が鳴り響き、灼熱が空蝉の身体を焦がした。
閃光は空蝉の眼を潰し、轟音は空蝉の鼓膜を破り、灼熱は空蝉の肌の感覚を奪う。
更にもう一発、爆弾が爆発した衝撃を空蝉はその身に受けた。

「………私の、勝ちですね。」
地の底から滲み出るような、そんな不気味な声がかすれかすれに聞こえたような気がした。
もう何も見えない。
もう何も聞こえない。
もう何も感じられない。

それでも、それでもなお空蝉は立ちあがった。
自分に対する不甲斐なさに、自分の無力さに、震えながら立ちあがった。
そして
明智光秀という、強敵に一矢報いんとするために、武器も何もかも持たずに空蝉は立ちあがった。
いや、空蝉にはただ一つだけ持っていたものがあった。
それは――

侍としての誇り。



「…武装錬金。」

しゅる、とバルキリースカートのアームが再度装着される。
もう殆ど死んだも同然の空蝉の胸に、鋭い刃が深々と突き刺さった。



「……ち、く、しょう……」



こうして、空蝉という侍は死んだ。



「……バラさん。」
「…まだ起きるな長谷川。傷に触る。」
「んな事言ってもよぉ…このまま足手まといになるのはいやなんだよ。」
「……雫、遅いな…」
見回りに出た雫はまだ帰ってこない。
六爪の一本を貸したし、彼女自身剣道の段位持ちだと言っていたから(正直眉唾だったが)、よほどの事が無い限り大丈夫だと、そう信じたい――
だが、それでも灰原は心の奥底に沈んだ不安感をぬぐいきることができないでいた。
灰原としては、仲間は多い方が安心感も出るし、何より梢達を探すのに人では多くても多すぎることはない。
「…迷子にでもなったか?」
「いやそんな」

そんなはずはないだろう、とそう言おうとした瞬間。

轟音が響いた。



「!?バラさん!」
「くっ!!」
取るものもとりあえず、灰原は外に飛び出した。
飛び出した瞬間、もう一発爆発音が響いた。
響いた方向に目を向けると――そこは役所からここまで逃げてきた道だった。

「…雫!!雫!!どこに行ったんだ!!雫!!!」

誰もいない住宅街に、灰原の叫びだけが木霊していた。



「…あ、ああ……」
目の前で、人が死んだ。
それも、さっきまで一緒に行動していた空蝉が、死んだ。
呆気なく、呆気なく死んだ。
ついさっき現れた、銀髪の変態に体中を貫かれて、殺された。

「…おや、先ほどのお嬢さん。忘れ物ですか?」
「……許さない。」

ごう、と雫の身体が光に包まれる。
緑色だった髪はくすんだ白色になり、ぶわっと広がる。
白い光に包まれた身体は、露出の多い煽情的な衣装に包まれた。
手に持っていたはずの六爪の一本はいずこかへと消え――雫の手の中には、二本のオーラをまとったハリセンが握りしめられていた。

「ほう、これは面妖な。」
「…絶対に、絶対に許さないんだから!!」

怒りの形相をそのままに、雫は光秀に飛びかかって行った。





【空蝉@ブシドーブレード弐 死亡】



【F-3役所/1日目午前】
【明智光秀@戦国BASARA】
[状態]:ダメージ(大)、胸に裂傷(大、小一つずつ)、全身に細かい裂傷多数、精神高揚
[装備]:バルキリースカート@武装錬金、袴はいてない
[道具]:ひかり玉@忍たま乱太郎、基本支給品一式(アイテム確認済み)、小林の支給品一式(アイテム確認済み)
[思考]1:目の前の少女(雫)と殺し合いを楽しむ。
   2:いずれ政宗、幸村、小十郎とも戦いたい。
   3:もっともっと殺し合いを楽しみたい。

【環樹雫@カオスウォーズ】
[状態]:激しい怒り、リアライズ中
[装備]:オーラハリセン@カオスウォーズ
[道具]:なし
[思考]1:光秀と闘う、絶対に光秀は許さない。
   2:兵真を探す。
   3:メガネの男(日野)はぶっ飛ばす。
[備考]:第9章、ライゲンとの最終決戦直前からの参戦。どの技を装備しているかは不明。
激しい怒りのため、色んな事を忘れている可能性があります。
六爪の一本@戦国BASARAを装備していましたが、リアライズに伴いオーラハリセンに変化しました。

【E-4住宅街/1日目午前】
【灰原由起夫@まほらば】
[状態]:疲労(中)、精神の動揺(小)
[装備]:流星ジョニー@まほらば、六爪の一本@戦国BASARA、寸胴鍋@現地調達、プラスチックのまな板@現地調達、鍋のふた@現地調達
[道具]:基本支給品一式(食糧小消費)、ヴァージニアメンソール@BATTLE ROYALE、詳細名簿@現実、六爪の一本@戦国BASARA、雫の支給品一覧(アイテム未確認)
[思考]1:雫、どこに行ったんだ!?
   2:学校へ逃げ、長谷川を治療する。
   3:梢をはじめとした、鳴滝荘の住人を捜索して保護する。
   4:初老の侍(空蝉)に感謝、でも……
   5:殺し合いから脱出。
[備考]:忍術学園の情報を得ました。

【長谷川泰三@銀魂】
[状態]:腹部に切り傷(命に別条はない、応急処置済み)、精神の動揺(小)
[装備]:六爪の一本@戦国BASARA、行平鍋@現地調達、鍋のふた@現地調達
[道具]:基本支給品一式(食糧小消費)、ヴァージニアメンソール@BATTLE ROYALE、ライター@現実
[思考]1:…死にたくない……
   2:銀さん達と合流したい。
   3:鳴滝荘の住人は保護したい。
   4:メガネの男(日野)に対抗したいが策は思いついていない。
[備考]:忍術学園の情報を得ました。

[備考]:ブロードソード@ブシドーブレード弐は役所の一階に放置されていますが、ひかり玉の爆発でほぼ使い物にならなくなっています。
空蝉の基本支給品一式とミコシサマ@クロックタワーゴーストヘッドは燃え尽きました。



【支給品情報】

【ひかり玉@忍たま乱太郎】
小林あかねに支給。
忍術学園六年い組の生徒、立花仙蔵特性の焙烙火矢。
劇場版アニメ忍たま乱太郎で使われたもの。
仙蔵の特殊な調合により、普通の焙烙火矢よりも光が強い。





044:侵略する狂気 投下順 046:ネガポジ
044:侵略する狂気 時系列順 046:ネガポジ
036:剣と鎌と 前編 空蝉 GAME OVER
036:剣と鎌と 前編 明智光秀 :[[]]
036:剣と鎌と 前編 環樹雫 :[[]]
036:剣と鎌と 前編 灰原由起夫 :[[]]
036:剣と鎌と 前編 長谷川泰三 :[[]]

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最終更新:2011年10月23日 23:42
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