ヤンデレが自身のデレ期に困惑しながら大暴れするお話

「あああ! 良い年こいて何時まで泣いてんだ、テメェはよおおおおお! 泣いてりゃ解決できると思ってんのかああああああああ!!」
「ううううううううあああああああああああああ……!!」

 どうしてこうなったと、学園都市が第四位・麦野沈利は思わずにはいられなかった。
 眼前にて繰り広げられている珍騒動。
 チャイナ服を纏った少女が眼鏡の中年親父に掴み掛かり、その身体をミキサーシェイクよろしく前後左右に振りまくるその光景。
 眼鏡の中年親父が涙を流し、無様な泣き声を上げる。
 チャイナ服の少女が額に青筋を浮かべて、怒りの声を上げる。
 二つの声は混ざり合い、不協和音として麦野の耳に突き刺さってくる。
 最初は違っていたのだ。
 初めは、チャイナ服の少女も不器用ながらも宥めるような言動で男を落ち着かせようとしていた。
 だが、どんな言葉を掛けようと男が落ち着きを取り戻す事はなかった。
 泣いて、泣いて、泣き喚き、少女の言葉に耳を貸す事すらなかった。
 そして、堪忍袋の尾は音もなく切れた。
 ぶち切れた少女が、泣き止まぬ眼鏡の胸倉を掴み上げ、声を張り上げ出した。
 正直、麦野からしても、チャイナ服の少女がぶち切れるのは仕方の無い事に思えた。
 今は少女が激怒してくれているからまだ良い。
 だが、もし少女が居なければ、麦野だって『原子崩し』の一発や二発はぶち込んでいる。
 それだけ、眼前の男は苛立ちを覚えさせる。
 この状況に泣き喚くのは仕方がない。
 いきなりこんな殺し合いに巻き込まれれば、普通の人間は恐怖し、萎縮し、泣き喚く。
 それは人間ならば当然の反応であるし、寧ろこんな状況下で平然としている麦野の方が異質なのだろう。
 しかし、そうだと言っても限度はある。
 見た目は一応子どもである自分達を前にして、良い年した大人がただ泣き叫ぶだけ。
 子どもに励まされ、それでもまるで変化はない。
 学園都市の裏にて様々な人間を見てきた麦野であっても、流石に苛立ちを禁じ得ない。
 頭を掻き、溜め息と共に眼前の騒動から視線を逸らす。
 自分にだってやる事はあるのだ。
 こんな奴等放置して他の場所でも探索しようかと考え、麦野は珍騒動へ背を向ける。
 男子トイレから出て行こうとし、

「おい、アンタ。名前は何て言うアルか」

 そこで、声を掛けられた。
 声の方角へ振り返ると、先程まで眼鏡男を揺さぶっていたチャイナ服が、此方を見つめている。
 中年親父は少女の後方で変わらず涙を流している。

「ああ?」
「名前アルよ、名前。私は神楽言うアル。アンタは?」
「……麦野沈利だ」

 場を離れようとした矢先の唐突な振りに、麦野は僅かな不審を感じていた。
 何というか嫌な予感がした。


「じゃ、麦野あとは任せるアル」


 そして、その予感は見事に現実のものとなった。

 ハ?と、麦野が口を開いたその時には、神楽と名乗った少女は走り出していた。
 まるで労るかのように麦野の肩をポンと叩き、そのまま麦野を通り過ぎて男子トイレから飛び出したのだ。
 開けっ放しにされたトイレの出入り口から、笑い声に混じった声が聞こえてきた。

「そのマダオは譲ってやるアル。二人仲良く生き延びるアルよ~」
「ッ、ザけんなボケえええええええええ!」


 神楽の行動に対する麦野の行動は、とんでもなく迅速かつ正確なものであった。
 壁越しに聞こえた神楽の声へと『原子崩し』を一発ぶちかます。
 自分にだってやる事はあるのだ。
 こんな百パー足手纏い確定の親父を押し付けられてたまるものか。
 絶対逃がしはしない。
 第四位の超能力者・『原子崩し』をナメるんじゃねえ。

「おおおお何するアル! 殺す気かあああああああ!!」
「たりめーだ。こんなん押し付けられて逃がすくらいなら殺してやるよ、クソガキ」

 麦野の右手から放たれた光線―――『原子崩し』により、男子トイレの壁に直径五十センチ程の穴が形成された。
 その穴の先には冷や汗を流しながら声を飛ばす神楽の姿。
 穴を介して麦野と神楽の視線がぶつかった。
 麦野の瞳を見て、神楽は瞬時に察知した。
 あ、これはガチで人を殺す目だと、神楽は察知する。
 直ぐさま逃亡プランを諦め、引きつった笑顔で男子トイレへと舞い戻った。

「じょ、冗談ネ。こんなマダオを押し付けるなんて、流石にそこまで鬼畜な事はしないアル。冗談、冗談」
「あ? 都合の良いこと言ってんじゃねーぞ、クソガキ」

 冷や汗に染まった神楽の愛想笑いと、保身全開で紡がれた誤魔化しの言葉を、麦野は一蹴した。
 麦野の不遜な物言いに、ピキリと神楽の額に青筋が浮かぶ。
 ドSかつ沸点の低い神楽にしてみれば、クソガキ呼ばわりの一言は充分な苛立ちを覚えさせる。

「この茶目っ気たっぷりの冗談が分からないアルか? これだから田舎もんは駄目アル。やっぱり年取ると駄目ネ。身体どころか心まで荒んでいくアル」

 だからなのだろう、神楽の口は軽々と回ってしまった。
 この状況では最悪に近い物言い。
 今度は麦野の額へと青筋が浮かんだ。

「……あぁ、分かった分かった。ようするに今ここで死にたいんだな」
「はい。始まったー。年増の特徴その一、キレやすい。更年期障害アルか?」
「ブ・チ・こ・ろ・し・か・く・て・い・だ、クソガキ」

 頭で理解していれど、条件反射という厄介極まりないものは存在する。
 死の危険を察知して尚、神楽は殆ど条件反射に挑発の言葉を飛ばしてしまった。
 その条件反射は、神楽の元々の性格に加え、地球に密入国してきてから過ごしてきた環境も影響しているのだろう。
 殆ど条件反射で並べられたら神楽の悪態を受け、学園都市の第四位は青筋を浮かべて、声を零す。
 そもそも麦野沈利は我慢強い人間ではない。
 機嫌の良し悪しで仲間を殺害してしまった過去だって持っている。
 そんな麦野が神楽の言葉に対して選択する行動など分かりきっている。
 従来ならば左腕が存在する箇所へ、青白の閃光が歪な塊として浮かび上がる。
 同時に、虚無の眼孔へと同様の閃光が渦巻く。
 とある無能力者へ戦いを挑んだ時と同じ姿をとった麦野沈利が、臨戦態勢となった麦野沈利が、そこにいた。

(あああ、やっちまったああああああああああ!)

 眼前の女から溢れ出す莫大な殺意に、神楽は全力全開の後悔を覚えた。
 地雷を踏み抜いたどころか、その上でタップダンスでも踊ってしまったかのような行為だった。
 終わった。
 このままでは、物の見事な死亡っぷりが訪れる。
 神楽は全力で思考を回す。
 考えろ、考えろ、考えろ。
 このレーザーぶっぱ女の怒りを収める、そんな魔法のような起死回生の一手。
 考えねば、思い付かねば、死ぬ。
 こんなところで死ぬ訳にはいかない。
 まだ人生を謳歌していないし、私がいなければあのダメ侍×2はてんでダメダメだ。
 私がいることであの万屋は保っているようなものなのだ。
 だから、だから、死ぬ訳には―――いかない。


「ま、待つアル! これをやるアル!」


 そして、思い出す。
 自分には誰もが羨む究極絶対のアイテムがあったではないか。
 それを、それを今こそ使用すれば―――!



「ケンタッキーの皮を特別にくれてやるアル! だから―――」



 返答はなく、ジュッと何かの焼ける音だけが響いた。
 つま先にあったケンタッキーの皮が、影も形もなく消失していた。
 麦野が振るった光の左腕が、一瞬でケンタッキーの皮を蒸発させたのだ。


「皮ああああああああああああああああああ!!」


 絶叫する神楽に、麦野はもはや猶予を与える事はなかった。
 健在の右腕を掲げて前に突き出す。
 一秒と掛からずに溜めは臨界へと至り、発射された。


「あ、」


 閃光が視界内を染め上げるのを知覚しながら、神楽は小さく意味のない言葉を吐くことしかできなかった。






「うわわわ、うわわわわああああああああ!」
「静かにしてろ。殺すぞ」

 そして、台風の如く怒涛の流れを終え、麦野は眼鏡の中年親父へと向き直る。
 その表情には心無しのやるせなさと疲労感が映ってみえた。
 トイレの中には惨劇があった。
 倒れ伏すチャイナ服の少女に、穴だらけとなった壁。
 麦野は苛立たしげに髪をかき上げ、中年親父を見下ろしながら口を開く。

「おい、オヤジ。お前はコイツについててやれ」

 そう言う麦野の視線の先には、トイレの床にて倒れ伏す神楽の姿があった。
 その脳天を無惨にも撒き散らし、既に物言わぬ死体となってしまった神楽―――という訳ではなかった。
 神楽は、生きていた。
 結局、麦野は神楽を殺害しなかったのだ。
 何とも甘くなったもんだ、と麦野は自身を振り返って、そう思った。
 昔の自分ならば、殺していた。
 気に食わないと、たったそれだけの理由でこの少女を殺害していた。
 それが今ではコレだ。
 誰に絆されたのか……とは、考えない。
 答えは分かっているのだが、でもそれを認めるのが気に食わないのだ。
 自分があのレベル0に感化されたなど、認めたくはなかった。

「コイツに何かがあったら……分かってんだろうな」

 麦野は凄みを効かせた表情で、クソ泣き虫な親父へと言い付けた。
 男はブンブンと首を縦に振り、麦野の言葉に了承する意欲を見せた。
 やはり、らしくない。
 自分がこんな事を言うなんて。
 しかも、こんなムカつくクソガキを相手に、だ。
 フウ、と溜め息を零して、麦野は少女とマダオへと背を向けた。
 無駄に時間を潰した。
 早く探し人を発見しなくては。

「き、君は……一人で、だ、大丈夫……なのかい?」

 と、麦野が思考し、これからどうするかを考え始めたその時であった。
 今まで泣き言しか言わなかったマダオが、麦野へと声を掛けてきた。
 しかもそれは、心配の念が含まれた一言。
 思わず麦野は振り返って、男を見つめる。

「は? 何言ってんだ、お前」
「い、いや、一人でいるよりは、み、みんなで一緒にいた方が良いんじゃないかな……って……」
「アタシの能力見ただろうが。てめぇ等なんて足手纏いでしかねぇんだよ、ボケ」
「ひ、ひぃっ……!」

 まあ、やはりながら取り付く島もない麦野であったが……それでも、呆れの内側に今までにはなかった表情が見えるのは気のせいではないだろう。
 そしてやはりながら、麦野はその感情を認めようとはしない。
 苛立たしげに頭を掻き上げて、マダオへと凄みに満ちた表情を見せる。
 争い事を生業とする住人すらビビらせる凄みに、マダオは情けなく声を挙げて、後ずさった。
 チッ、と舌打ちを一つ残して麦野はその場から離れていく。
 後に残されたマダオ―――石田光司は、臆病風で崩れた表情に僅かばかりの気懸かりを混ぜて、麦野が歩き去っていった扉を見つめていた。



【一日目/黎明/E-2・病院男子トイレ】
【神楽@銀魂】
[状態]健康、気絶
[装備]ロベルタの傘@BLACK LAGOON
[道具]基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
0:気絶中
1:銀ちゃんと新八と合流する


【石田光司@賭博黙示録カイジ】
[状態]健康、恐怖
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
0:怖い
1:神楽の側にいる
2:麦野ちゃんは大丈夫なのかな……









 やはりらしくないと、麦野は思わざるを得なかった。
 どうにも調子が違う。
 やはり、あの時の出来事が多少なりとも自分を変えてしまっている。
 何かが違う。
 ただ、己の感情に任せて無能力者の男を追い回していたあの時とは、何かが違う。
 自分を占めていた筈の何かが消えて無くなってしまっている。
 まるで気の抜けた炭酸飲料のようだ。
 こんなフザケた殺し合いの場で、自分はこんな状態。
 しかも、その変化を何処か受け入れてしまっている自分がいる。
 学園都市の第四位とは、『アイテム』のリーダーとは、麦野沈利とは、こんな人間だっただろうか。

「……チッ……」

 分からない。
 幾ら考えても、心中の疑念を割り切る事は難しかった。
 だからなのだろう、麦野は試してみようと思った。
 麦野の右手から蒼白い光線が溢れ出し、一直線に解き放たれる。

 その光線が向かう先には、男がいた。
 どうにも気に食わない眼をした男。
 光線は、思いの外すんなりと、男の顔面目掛けて真っ直ぐに飛んでいった。
 そして、


「何?」


 そして、男は光線をさも当然のように回避した。
 首を四十五度傾ける事で、すれすれのところであれど、完璧に回避したのだ。
 『原子崩し』を、学園都市が第四位の能力を、避けた。
 能力を使用するでもなく、だ。

「……やる気があるのか?」

 次いで聞こえた声に、麦野はポカンと呆けるような表情を作った。
 視線の先にいる男は、無感情に見える表情の中に、確かな呆れを浮かべていた。
 ハ、と乾いた笑い声が呼気と共に漏れる。
 やっぱり気に食わない眼だ。
 人を人と見ていない眼。
 アイツ等と同様の眼であった。
 人の身体をモノのように弄くり回す研究者たち。
 人を感情のない兵器としか見ていない上層部の人間たち。
 アイツ等と同じだ。
 裏の世界ですら、此処までの眼を持てる奴はそう多くない。
 本当に、本心から他人をどうでも良いと思っていなければ、こんな眼はできない。
 だからこそ、自身の心中を知る為の試し台として選択した。
 結果として、心中の疑念に対する答えを見出す事はできなかった
 選択した生贄が、予想を遥かに越えて殺意を沸き上がらせる存在であったからだ。
 心中の変化とか、そんなものどうでも良くなる程に、この男はムカつく。
 疑念やら何やらを押しのけて、殺意が身体を支配する。

「いいねぇ、色男。グチャグチャに潰したくなる良い面構えだ」

 麦野の言葉に、男は無言で漆黒の刀を抜き放つのみ。
 麦野の周囲に蒼白の光球が五つほど浮かび上がる。
 男―――バージルはその光景を、刀を構えながらただ見詰めていた。
 赤髪の剣士を逃がしてしまってから、それなりの時間が経過した今。
 殺害する者を探す為、適当に歩みを進め続けた末に辿り着いた病院とされる施設。
 その近場にて遭遇した女。
 人間にしか見えない女だが、それなりに戦う術は有しているようである。
 ならば、戦おう。
 それが『力』に繋がるのだとすれば、例え相手が人間であろうと構わない。
 殺す。
 ただ、それだけだ。



 ひたすらに力を追い求める悪魔と、力に人生を狂わされた少女―――そんな二人の戦いが、今ここに始まる。



【一日目/黎明/E-2・病院近く】
【麦野沈利@とある魔術の禁書目録】
[状態]健康、隻眼隻腕
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
0:兵藤をブチ殺す。殺し合いに乗るつもりはないが、襲撃者には容赦しない
1:眼前の男を殺す
2: 浜面、滝壺との合流。
3:神楽とメガネ(石田)はとりあえず放置。
3:『一方通行』、『未元物質』、『超電磁砲』については様子見
[備考]
原作22巻終了後から参加しています


【バージル@Devil May Cry】
[状態]疲労(小)
[装備]秋水@ONE PIECE
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2
[思考]
0:力を手に入れる
1:眼前の女戦う
2:閻魔刀、ベオウルフがあれば入手したい
3:ダンテと出会ったら戦う
[備考]
※Devil May Cry3終了後から参戦しています
※制限の存在に気付きました



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トイレの石田さん 麦野沈利 Next:
トイレの石田さん 神楽 Next:
トイレの石田さん 石田光司 Next:
一般人の皆さま、当バトロワは甘え禁止となっております。繰り返します、当バトロワは甘え禁止です(キリッ バージル Next:

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最終更新:2011年09月20日 21:40
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