超高校級の『希望』がその背中に背負うは超最大級の『厄ネタ』なのか?

「な、何なんだよ、コレ……」

 僕、苗木誠は呆然とした想いを無意識の中で口に出していた。
 眼前には、本能的な恐怖を沸きたてる暗闇が、何処までも何処までも広がっている。
 鼻腔をくすぐるは久しく嗅いでいなかった圧倒的な緑の香り。
 瑞々しい空気は、あの学園の中には存在しなかったものだ。
 待ち望んだ外の世界に立ち尽くして尚も、それでも僕の思考は呆然と停止していた。

「ようやく……脱出できたのに……」

 脳裏に広がる記憶は、いまだ真新しい、膨大な絶望とほんの僅かな希望とが入り混じった『卒業』の瞬間。
 僕達は、外の世界へと脱出することを選択した。
 数多の絶望があった。
 希望なんてものはどこにも存在しなかった。
 見つけ出した数少ない希望は、丁寧に丁寧にその芽を摘み取られた。
 絶望が支配する命懸けの殺し合いに、絶望が支配する命懸けの学級裁判。
 生き延びた僕達は、最後の最後にあまりに大きすぎる絶望を突きつけられて、それでも希望を選択した。
 軋みを上げて開いていった扉。
 数週間ぶりの日光が視界を染め上げ、全てを覆い隠す。
 外の世界への道が開かれ、そして、

 あの場にいた。

 まるであの学園生活が開始された時と同様だ。
 気付けば、謎の教室に座らされていた。
 どんな原理を使用してのものか、身体は光の輪っかにより縄のように椅子へ縛り付けられていた。
 身動きを取る事もできないという点では、開始時の状況はあの時よりも酷いと言える。
 身動きも取れず、混乱と動揺に声も上げる事もできない中で、ソレは執り行われた。
 目の前が暗くなった。
 あの学園で幾度となく覚えた感情が、再び胸の内に湧き上がった。
 その感情はたった二文字で表せる、単純にして絶対的な感情。
 絶望。
 心がぎしぎしと嫌な音をたてるのが分かる。
 吐き気すら覚える絶望感の中で、ただ老人の笑い声が響き渡った。
 また始まるのだ。
 生き延びたければ誰かを殺さなければいけない、そんな異常極まる非日常。
 あの悪夢が、また始まる。
 また、あの悪夢が。

「……何で……」

 震える唇が言葉を漏らしていた。
 無意味な行為だと分かっていても吐き出さずにはいられない。
 そうでもしないと本当に心が折れてしまいそうだった。

「あんなに頑張って、皆で努力して、決意して、ようやく出られたっていうのに……」

 本当に世界は絶望に支配されてしまったのだろう。
 だからこそ、こんな事が執行できる。
 だからこそ、こんなにもの絶望感を与えられる。

「何で……なんだ……」

 思わずその場にへたれ込んでしまう。
 地面でズボンが汚れるのなんて気にしていられない。
 兵頭和尊。
 あの男が再び僕を絶望へと突き落とした。

「ッ、なんで……どうしてまたこんな事をしなくちゃいけないんだよ……!?」

 憤りの中で声が迸った。
 暴れまわる感情を抑えることができなかった。
 何もかもを吐き出してしまいたい。
 今はただ無情な現実に心が滅茶苦茶に騒ぎ立っていた。






 地面にへたれ込んで何分程の時間が経過したのだろうか、僕は俯き加減ではあるものの立ち上がった。
 ゆっくりと視線を上げて、前を見据える。
 壮大な決意をした訳ではない、命を賭ける覚悟ができた訳でもない。
 ただ、こんな所で死にたくなかったし、誰かが死んでいくのを見るのも嫌だった。
 人が持つ極当たり前の感情に従って、僕は動き出す。
 その時だった。
 破裂音が聞こえた。
 例えるならば爆竹を鳴らした時のような、だが爆竹なんかよりずっと暴力的で身体の奥底にまで響くような音。
 聞き覚えのない音だ。
 何度も何度も、時には連続して、時には間を空けて、音は繰り返し聞こえてくる。
 近く……はないと思う。
 その音自体は何となく遠くの方から聞こえてくる感じがするのだ。
 誰かがいる。
 そう思い、音がする方に身体を向けるが、そこには真っ暗な森林が覗いているだけであった。
 ゴクリと、唾を飲み込む。
 何となくではあるが、音の正体には見当が付いていた。
 聞き覚えのない、強烈な炸裂音。
 この破裂音の正体は、

「銃……声?」

 多分、そうなのだろう。
 纏わりつくような嫌な汗が、全身から噴き出してくるのが分かる。
 心臓が異常なまでに鼓動を早め、呼吸は大きく荒いものへと変わっていく。
 銃声。
 銃器を使用する際に発生する音。
 つまり、この音の先では誰かが銃器を使用しているという事。
 それも何度も連続で。
 否が応でも理解する。
 殺し合いは既に始まっていて、しかも殺し合いに乗ってしまった者がいる。
 絶望の殺し合いは、もう坂道を転がり始めている。
 止まらないのか。
 あの絶望の学園と同じ様に、また止められないのか。
 後悔が、浮かぶ。
 恐怖が、浮かぶ。
 絶望が―――浮かぶ。
 僕は音のする方を見詰めたまま、動く事ができなくなっていた。

 一分、二分……多分、時間にすればそう長くない時が経ったのだろう。
 僕は、銃声のした方へと背中を向けて、歩き出した。
 そして一度、立ち止まる。
 立ち止まり、また考える。
 考え、そして身体の向きを、変える。
 今度は銃声の聞こえた方へと。
 僕は、身体を向けた。

「ぼ、僕は……」

 怖い。
 怖くて堪らない。
 でも、目を逸らす事はできなかった。
 殺し合いに乗った人がいて、銃声が鳴り響いていて……でも、逃げられない。
 銃声が何発も鳴り響いたという事は、そこに誰か襲われた人がいるという事だ。
 その人を、見捨てるのか。
 あの学園では、悲しい擦れ違いの末に何人もの犠牲者が出てしまった。
 でも、この殺し合いはまだ始まったばかりだ。
 もしかしたら、まだ間に合うのではないか。
 今度こそ、もう誰も死なせないで、この首輪を外す方法だって見つけ出せて、全員が全員無事な状態で脱出する。
 そんな奇跡的な結末だって、『希望』に満ちた結末だって、有り得るのかもしれない。
 勿論、その可能性が限り無く0に近い事は理解している。
 でも、諦める訳には、いかない。
 諦めてしまえば、可能性は本当に0になってしまうのだから。
 だから、僕は決意した。
 『希望』を追い求める事を。

 恐怖を押し殺して、僕は銃声のする方角へ進んでいく。
 身体は震え、呼吸だってまるでマラソンでもしているかのように荒くなっている。
 でも、諦めない。
 この先に『希望』があると信じて、道無き道を進んでいく。


「あ……!」


 そして、僕は発見した。
 暗闇の森林の中、血塗れで倒れている一人の男性。
 思わず叫び声を上げそうになるが、理性を総動員して何とか沈黙を守る。
 その男性はまるで、血液がたっぷり入ったバケツをそのまんま頭から被ったかのようであった。
 全身が血に濡れていて、正直僕はその男が死んでいるものとばかり思ってしまった。
 でも、違った。
 よくよく見ると、男の胸部は呼吸に小さく上下していたのだ。
 『希望』が、湧き上がる。
 この人はまだ死んでいない―――助ける事ができる。
 僕は震える身体をギクシャクと動かして、その男の人を背負った。
 背が低く体格も細い僕では男の長身を支えきれない。
 申し訳ないことに、そのスラリと伸びた両足を地面に引き摺る形となってしまった。
 しかも、その男の人は予想以上に重い。
 相当に鍛えてあるのだろうか、服越しに触れる肉体は鋼のような硬さを持っていた。
 だが、止まる訳にはいかない。
 まずは、この人を襲った人物から逃げ出さなくては。
 そして何処かの建物に隠れ、出来る限りの処置を男へと施す。
 もう誰も殺させはしない。

「ナイ……ブズ、様……」

 ふと、声が聞こえた。
 朦朧とした意識の中で紡がれたうわ言なのだろう。
 力のない、儚さのある呟きであった。
 紡がれたナイブズという名前。
 聞き覚えのない名前だが、この男の人にとって余程大切な人なのだろうか。
 男を支える身体に、力がこもっていくのを感じる。
 絶対に死なせはしないという想いがより強くなっていった。
 こうして僕は、その場から離れていき、この男を襲った人から逃げ出した。

 『希望』を絶やさぬよう、自身を奮い立たせながら、暗い森の中を進んでいく。





 そして、超高校級の『希望』とされた少年は、自身の内に滾る決意に任せて行動を始めた。
 このような殺し合いの場でありながら、名も知らぬ男を助けようと行動を取る。
 成る程、あの絶望の学園生活は彼を確かに強くしたのだろう。
 だがしかし、彼は気付く事が、疑う事が、できなかった。
 背中に背負う人物の正体。
 600億$$の賞金首たるガンマンをもってして、超危険人物と言わしめる男。
 とある砂の惑星にて最強の人間とされる怪物―――レガート・ブルーサマーズ。
 その人物が今、苗木誠の背中にいた。
 銃声が聞こえた先にいた大怪我人。だが、その大怪我人が危険人物でない確証など存在しないのだ。
 苗木誠は、疑うという事をしなかった。
 それが苗木誠という人間の長所であり、だがこの殺し合いの場であっては裏目と出てしまった。
 『希望』を求めるあまりに、彼は大きな爆弾を背負い込む事となってしまったのだ。


 救いたいと望む人物の正体も知らず、超高校級の『希望』は希望を夢見て、バトルロワイアルの会場を進む。
 苗木誠は、再びの絶望生活から生還する事はできるのか。
 超高校級の『希望』を待つ物語は如何に―――。 




【一日目/深夜/A-3・森林】
【レガート・ブルーサマーズ@トライガン・マキシマム】
[状態]疲労(大)、全身にダメージ(大)、気絶中
[装備]レガートのワイヤー@トライガン・マキシマム、レガートの拳銃@トライガン・マキシマム
[道具]ヴァッシュの拳銃@トライガン・マキシマム、基本支給品一式、ランダム支給品×0~2
[思考]
1:自分の忠誠に値する敵と戦いたい
2:アーカードと戦う。その為に装備を整えたい
[備考]
※原作12巻・ビースト殺害の直後から参戦しています


【苗木誠@ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
0:誰も殺させない、死なせない
1:この場から離れ、男を治療する
2:首輪の解除法を探す
[備考]
※原作終了後から参戦しています



Back:推理【リカイフノウ】 時系列順で読む Next:ヤンデレが自身のデレ期に困惑しながら大暴れするお話
Back:推理【リカイフノウ】 投下順で読む Next:ヤンデレが自身のデレ期に困惑しながら大暴れするお話
GAME START 苗木誠 Next:[[]]
人類最強VS吸血鬼最強 ~観客はお馴染みのネタに命を賭ける~ レガート・ブルーサマーズ Next:[[]]

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2011年09月21日 19:41
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。