無情なる風

万物は流転し続け、その形状を変えていく。
この世には、ずっと同じであり続けるものなど、ただの一つとして存在しない。
何かしらこの世のものは、変化し続ける。
ただ、その変わり行くスピードが、モノによって違うだけの事。
雨垂れが石を穿つように、時間をかけてゆっくりと変わるものもあれば、一陣の突風で儚く崩れてしまう砂山のように、一瞬で変わるものもある。

緑川聖奈の日常は、その後者だった。
ありふれた、永遠に続くものだと信じて疑わなかった日常という存在。
それがある日突然どうあがいても手の届かないはるか遠くまで飛んで行ってしまった。
――燃え盛る炎は街を薙ぎ払い、道行く人は理性を失ったゾンビとなり人を襲う。
立ち向かっていった者は死に、立ち向かえずに逃げたものも死んだ。
聖奈が生き延びる事が出来たのは、ほんのわずかだけ人より幸運だっただけにすぎない。
死んでいった人たちと聖奈との差異はいかほどだったのか、それは聖奈自身にも分からない。
ただ、逃げ続けてここまで来た。生きて、生き抜いてここまで来た。
つらいことも、それこそ数えきれないほど、嫌というほどあったが、それでも何とか生きてこられた。
生きてさえいれば、命さえあれば、必ず道は開ける。
聖奈は、そう思っていた。



だが、開かれたその道は、あまりにも険しすぎた。
いや
険しい険しくないと言うレベルではない。
それが果たして『道』と呼べる概念のものなのかすら分からなくなるほどの――絶望の道だった。

殺し合え。
それが、聖奈を含めた71人に示された修羅の道だった。
そしてそれに反抗した一人の女性が、呆気なく死んだ。
否、殺された。
そしてそのまま訳も分からないままに、その修羅の道へと問答無用で放り投げだされた。

放り出された先で、最初に見つけたのは小さな女の子だった。
まだ幼いその女の子を、はじめは聖奈は保護しようとした。
だが聖奈が接触するより先に、女の子に接触した人物がいた。
――殺し合いという異常な状況に負けてしまった、男子高校生だった。
その眼は血走り、怪しい笑みを浮かべたその様は百人いれば百人が『異常』と判断してしまう危険なもの。
それゆえに、聖奈は動く事が出来なかった。
このままあの少女が殺されるところを、見なければいけないのか。
だが、小学生にすぎない聖奈にはどうする事も出来ないでいた。



が、聖奈の全く想定していない事態が起こった。
少女がデイパックからアニメに出てくるかのような魔法のステッキ――多分、を取り出し小さく何かをつぶやいた。
次の瞬間、大きな氷の塊がどこからともなく現れ男子高校生を吹き飛ばした。
目の迷いか、と思い眼をこすり見たがそこにあったのは確かに現実のそれ。
一体何がどうなっているの、と思った次の瞬間、倒れ伏した男子高校生のあたりの地面に一瞬魔法陣のような模様が浮かんだ。
そしてその魔法陣は一瞬で黒く染まり、ごう、という音がした。

それが、男子高校生の死の全容である。
異様な事態には慣れていたはずの聖奈の眼にも、その光景は異様過ぎた。



そして現在。
まだ小学生にすぎない聖奈は――動けないでいた。
この場は危険なのだ、と理解できても逆に理解できたことによって恐怖が身を包み、その身体を縛りつける。
それでも動けないでも動けないなりに自分にできる事をしよう、と聖奈は自分のデイパックを漁った。
地図に名簿に食料、メモ帳と筆記用具に混じって入っていたのは小さな風鈴。
これで涼を楽しめとでもいうのだろうか。
小さくため息をつき、他に何が入っているのか探ったが、フォークが一本出て来た以外には何も入っていなかった。
風鈴とフォーク、この二つで一体何ができるんだ。
泣きたくなるくらい、いや一周してむしろ笑いたくなってしまうぐらいに、状況は絶望的だ。
せめてあの男子高校生が持っていた銃があれば、と思ったがあの謎の魔法――多分魔法だろう、で原形をとどめないくらいに壊れてしまっている。
絶望的な状況に陥ってしまったと理解できたことが冷静さを取り戻させたのか、ようやく動けるようになった聖奈は、ひとまずあの男子高校生の遺体付近に放置されたままのデイパックを調べようとした。



が、その次の瞬間強烈な何かを感じた。
それはまるで、エンジン音だけを聞いてそれがダンプカーだと分かるように。
いやな感じの黒い雲が現れたら雨が降ると分かるように。
言うなれば本能が察知するもの。
圧倒的な殺気。
ゾンビとも違う、『生きた』殺気は聖奈の身体を弾き飛ばす。
引き絞られた弓から矢が射られるように聖奈は身を翻した。

そこに立っていたのは――般若の面をかぶり、大きな剣を構える殺人鬼だった。
ほとばしる殺気を隠そうともせず、むしろ周囲に放出し続けるその様は、鬼か、悪魔か。
ゾンビのような、死にながら生きている者とは違う。
生きながらに死んでいるかのような、深く暗い闇をまとったようなその殺人鬼相手に、聖奈は動く事が出来ない。

「全ての……」

地の底から溢れるようなその言葉は、死神の誘いか。

「全ての人間に……死を!!」



大剣が、振りかざされる。
咄嗟に、聖奈は持っていたデイパックを投げつけその剣撃の生贄にする。
デイパックは呆気なく切り裂かれ、中に入っていた地図や名簿がバラバラと散らばり風にとばされる。
なんとかその場を離れようとした聖奈だったが、偶然風に舞いあげられた一枚の紙に顔面を覆われ、一瞬動きがとれない。
一体なんだ、と思いその紙を引き剥がし捨てようとするも、その紙に書いてあった文字が、聖奈のその行動を押しとどめる。
ふとその殺人鬼を見ると、舞い上がった名簿に同じように視界を奪われ、しどろもどろしていた。
――これは、チャンスなのかもしれない。
聖奈は散らばったデイパックの中身を探した。

そして、『それ』を手に取った。



チャンスは、一度きりだ。
あの殺人鬼がこちらの射程距離に入り、なおかつこちらが殺人鬼の射程距離に入っていない、ほんのわずかな時間だけが、聖奈に残されたたった一つのチャンス。

ドクン

心臓の鼓動が、聞こえた。
否、それしか聞こえない。
これは、思えばあの時に似ている。
あの時――そう、初めてゾンビと化した人を撃った時。
あの時も周りは大変な状況だったのに……何故か知らないけど周りの音は一切聞こえなくなって、ただ自分の心臓の鼓動だけが妙に大きく聞こえていた。
鼓動に混じり、じゃり、と地面の砂がこすれる音がした。
射程距離に、殺人鬼が入った。
あと一歩、いや、半歩でいい。あともう少し、数十センチ近づいてくれ。
その願いは――


届いた。


左足が、踏み込まれた。
その瞬間を聖奈は逃さず、手に持っていた『それ』――時の風鈴を、投げつけた。
ぱりん、と風鈴が屈強な身体にぶつかり砕け散る。
と、砕けたその中から突如として突風が舞い起きた。
いや、それを突風などと呼ぶのは少々言葉が悪い。
竜巻。
限られた空間内で巻き起こる疾風の刃は、殺人鬼の身体に無数の傷を与える。
流石の殺人鬼でも、この未知なる攻撃にはただ受け身に回ることしかできなかった。

――今がチャンスだ。

そう、聖奈は思った。
逃げよう、と後ろを向き走ろうとした。



ドクン



さっきよりも大きく、自分自身の鼓動が聞こえた。
いや、その音しか聞こえない。
まわりの風の音も、何もかもが聞こえなくなりただ自分自身の鼓動だけが聖奈の耳に届いていた。

――風の音が、止んでいる!?



時間が、遅く流れる。

振り返った。

風が止んで、その中にあの殺人鬼は立っていた。

聖奈は、動けない。

殺人鬼が、剣を振りかざした。

聖奈はもう、防ぐ道具も知恵も何もかも持っていない。

大剣が、日の光を反射した。

その刀身に、般若の面が映る。

その眼には、もう何も映っていなかった。

あるのはただ、あまりにも深すぎる憎悪。

それが何に対する憎悪なのか、聖奈に知る由もなく――



「いや」



漏れた言葉は誰にも届く事はなく

鋭い刃は少女の肉体をバターを斬るかのように斬り断ち

溢れる血飛沫は、ただ殺人鬼の白衣を紅く染めるだけ



「…全ての人間に、死を!」

自らの血と少女の血でその白衣を染め、殺人鬼才堂不志人は歩く。
地位を、名誉を、肉体を、心を、全てを失っても失わなかったのは…想い。

ただその想いだけを刃に乗せて
ただその想いだけを口から垂れ流して



才堂は、獲物を探す。





【緑川聖奈@ドラえもん のび太のBIO HAZARD 死亡】



【E-5住宅街/1日目午前】
【才堂不志人@クロックタワーゴーストヘッド】
[状態]:全身に裂傷(傷自体は浅いが、数が多い)、強い殺人衝動
[装備]:国重@戦国BASARA
[道具]:基本支給品一式(アイテム未確認)
[思考]1:全ての人間に死を…!

[備考]:聖奈の支給品は時の風鈴@カオスウォーズとフォーク@BATTLE ROYALEでした。
聖奈のデイパックは切り裂かれてE-5住宅街に聖奈の死体と共に放置されています。
工藤のデイパックは工藤の死体のそばに放置されています。
工藤の死体は損壊が激しく、パッと見では誰だか分かりません。



【支給品情報】

【時の風鈴@カオスウォーズ】
緑川聖奈に支給。
戦闘アイテムの一つで、戦闘中に使うことで風の中級魔法、ストームとほぼ同じ魔法が使える。
SPを消費せず中級魔法が使えるのは魅力だが、手に入る頃にはもう普通にストーム使えるくらいにまで成長している場合が多い……

【フォーク】
緑川聖奈に支給。
原作では瀬戸豊に支給された。
原作屈指のはずれアイテムで、そのインパクトだけは大きい。
一応先端で刺せば痛い。





041:You got me mad now 投下順 043:蟷螂の正義
041:You got me mad now 時系列順 043:蟷螂の正義
014:恋する男の子は盲目で恋人を思うともう止まらないの 緑川聖奈 GAME OVER
001:全ての人間に死を 才堂不志人 :[[]]

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最終更新:2011年09月20日 13:42
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