負けて死ね

植物のような生活。
それを吉良吉影は望んでいる。
植物のような生活を送る上で必要なものとは、実はそれほど多くはない。
むしろ不要なものは枚挙に暇がない。
例えば、何かを強要される事。
それは厄介事であったり、思想、嗜好であったり。
考えられる様々な事象になるべく触れないようにして生きていくこそが、植物のような生活を送る上での鍵となる。
そんな植物のような生活を、吉良吉影は求めているのだが――



最悪だ。
自分で考えられるだけでも最悪の状況だ。
まず、どうしてこうなったのか。
自分は東方仗助達との戦いから逃げ出し、シンデレラで姿形を変えて『吉良吉影』ではなく『川尻浩作』となった。
ここまでは良かったのに。
これから、『川尻浩作』として植物のような生活をしていこうと思っていたのに。
『川尻浩作』としてなら植物のような生活を送れると思っていたのに。



いきなり見知らぬ男から、殺し合いに参加させられてしまった。



吉良自身、植物のような生活を送る他に、美しい女性の手を得る為に何人もの命を奪って来た。
それゆえに、殺人というものに対して一切の躊躇いは無い。
キラークイーンという無敵の能力を持っている吉良の力をもってすれば、69の自分以外の参加者を皆殺しにしてさっさと帰る事もたやすい。
だが、吉良はその事を躊躇っていた。
理由は、あの大広間での惨劇。

あの主催者と思しきメガネの男に真っ先に反抗したあの女性の姿が、脳裏に浮かぶ。
いかにも不健康でグータラな生活を送っていそうな女性ではあったが、その美貌は本物だった。
その綺麗な手に、吉良の心と目はくぎ付けになっていたのだ。
だが、その彼女は呆気なく死んだ。
その首に巻かれた首輪を爆破されて、呆気なく、一瞬で死んだ。

――その手を吉良が得る事も出来ずに。



(…『殺し合いに優勝する』、『綺麗な手はできるだけ多く得る』……どちらもこなさなければならないのが私の辛いところだな。)
「吉良さん?どうしたんだぼーっとして。」

考え事をしていた頭をかき乱す、無神経なこの男は武藤カズキ。
この殺し合いの場に放り出されて、真っ先に出会った無神経でやかましい、そして正義漢に満ちた――吉良の一番嫌いなタイプの男。

この男と最初に遭遇した不運を、表には出さずとも吉良は大いに嘆いていた。
この男は、あの主催者を倒すと言う目標こそ掲げてはいるものの、具体的にどうするかとかそう言う事は一切考えていないようだった、
ただ斗貴子、蝶野という仲間が一緒にいればなんとかなる!と言い張っていた。
これには吉良はただ閉口することしかできなかった。
だが、彼との遭遇から得た知識も大きい。
例えば、スタンド能力が何らかの制限をかけられていると言う事。
例えば、武装錬金という未知の異能の力があると言う事。
カズキの武装錬金――サンライトハートの力もあり、すぐにカズキを殺す事は保留していたのだった。
――無論、舌先三寸でその肉体を爆弾化させることには成功していたが。



そして今、この二人は病院へと向けて歩いていた。
病院に行けば誰かしら人がいるだろう、との判断の元の行動だった。
吉良としては正直行きたくはなかった。
この場には、吉良にとって因縁の深い二人の憎むべき敵――東方仗助と広瀬康一がいる。
『川尻浩作』の外見はばれてはいないはずだが、それでも彼らには会いたくはない。
無いと思うがもし万一ばれてしまったとすれば……
思いつく限りの最悪を想定し、吉良の掌にじっとりと汗が滲む。

「大丈夫か吉良さん?少し休もうか?」
「いや、良い…まだ大丈夫だ。」
日頃の日常生活の賜物か、この程度の距離を歩く程度で疲れるようなやわな身体ではない。
「よし、それじゃあ行こうか吉良さん。」
「ふむ、この地図によるとそろそろ公園に入る頃だが…お、あれか。」
吉良とカズキの前には、公園が広がっていた。
病院へ向かう事を最優先にしている彼らであったが、もしかしたらここに誰かがいるかもしれないと思い探索をする事にした。



悪い時に悪い事というものは重なるものだ。
運の流れと言えばいいのだろうか、そう言ったものの本流から外れてしまっているのだ。
そうなってしまったら、悪循環が巻き起こる。
負の連鎖とでもいうのだろうか。

(参ったな……キラークイーンもそうだが、この名簿には確かに『吉良吉影』と名前が記されている…)
吉良の手に握られているのは、全ての参加者に平等に支給された名簿。
そこに記されていた名前は無情にも本性である『吉良吉影』。
せっかく姿も名前も変えたと言うのに、これではあの苦労は無駄無駄無駄。
更に悪い事に、ここには東方仗助と広瀬康一もいるのだ。
彼らの性格上、私は間違いなく狙われている。
奴らの執念深さは、蛇そのものだ。
自身の能力の一つでもあるシアーハートアタック並みのしつこさ等たれ強さを誇るあの二人は、早急に倒さねばなるまい。
このキラークイーンで……

しゅん、と吉良がキラークイーンを現したその瞬間だった。

「おい吉良さん大変だ!すぐ来てくれ!」

カズキの声がしたのは。



「…っ!これは一体!?」
吉良の目の前に、カズキがいる。
そのカズキの足元には全身を殴打され血まみれで倒れ伏している太った男がいた。
その太った男は手に鉄パイプを握りしめていた。
「まだ息があるんだ!吉良さん、彼を早く病院へ連れて行こう!」
「……カズキ君、ひとまず落ち着きたまえ。」
カズキはというと、その太った男の身元とかそういうのはどうでもいいと言わんばかりにその男を助けようとしている。
滑稽を通り越して、馬鹿だ。
だが吉良の心は全く別のところに存在していた。

その太った男の傷痕。
全身をくまなく巨大な拳のようなもので殴打された、その傷痕は吉良には見覚えがあった――否、因縁深いものだった。



これは『クレイジーダイヤモンドの拳でつけられた傷痕』ッッッ!!
奴が――東方仗助はこの近くに存在していたッッッ!!

その確信は吉良の心をかき乱し、大量の汗が全身を走る。
鼓動は加速し、指先は震える。
ここにいてはいけない!
そう全身が警告する。
そんな吉良に構う事はなく、カズキは太った男を運ぼうとしていた。



「大丈夫か吉良さん?あ、もしかしてこう言うのに……」
「い、いや大丈夫だ、しかしカズキ君、君はこの男をどうするつもりだ?」
「どうするって……病院に行って治療するんだよ!早くしないと命が危ない!」
「……正気か?正気で言っているのか?」
「何だと?吉良さんはこの人を見捨てていこうと言いたいのか?」
「…いいかカズキ君。」
そう言って吉良はキラークイーンを出し、太った男に近付けた。
「何だよ吉良さん?」
「結論から先に言うと、私はこの男を連れていくのは反対だ。」
「何だと!?」
「それじゃあカズキ君、君に質問だ。」
そう言ってキラークイーンで男の握っていた鉄パイプをひょいと掲げた。
「この男はなぜこの鉄パイプを持っている?」
「そりゃあ…自衛のためじゃないのか?」
「だとしたら何故歪んでいるんだ?」
キラークイーンの指がさした鉄パイプの先は、何かを殴りつけたかのように歪んでいた。
「…誰かに襲われた、と?」
「違うな、彼は『襲った』んだ。その証拠に彼の左肘を見ろ。」
言われるままに、左肘を見るとそこの衣類は何かでこすれたようにほつれていた。
「これがどうしたって言うんだ?」
「…そこの用具入れの壁が、同じようにこすれていたんだ。彼は恐らく…この用具入れに隠れ、のこのこと入ってきた誰かを鉄パイプで襲った。だが――」
「…返り討ちにあった、と?」
「その通りだ……これでは病院行きも諦めた方がよさそうだ…ここにこれ以上いるべきではないだろうな。」
そう言って吉良はトイレから出ようとした。
だが次の瞬間、強烈な殺気のようなものを後ろに感じた。
身を翻すように後ろを向くと、そこには真剣な目をしたカズキが立っていた。



「吉良さん、あんたが言いたい事も分かる。確かにこの人はこの殺し合いという場に乗ってしまった人なのかもしれない。」
「…そうだ、だから早くこの場を」
「でも、でもだ。だとしても俺にこの人を見捨てていく事なんかできない。」
「!?」
「俺はこの殺し合いに集められたみんなを…救いたいんだ!あんな腐りきった事をさせる奴から、皆を守りたいんだ!それは善も悪も、関係ない!俺は俺の生き方を――貫くんだ!」
「カズキ君……」



吉良の眼に、殺意が宿る。
植物のような生活を求め、誰にも縛られることなく静かに生きようとする男の眼から、殺人者の眼へと、変わった瞬間であった。

「…カズキ君、私はどうしても君の考えを理解することはできない。」
「何故!」
「……理屈ではない。君もその生き方を貫くと言うのなら――私も私の生き方を貫かせてもらう!」
カズキが反応するよりも早く、キラークイーンが駆ける。
駆けたキラークイーンが、トイレの壁を殴り粉砕した。
その動きに一瞬、カズキの気は逸れてしまった。
その一瞬が、キラークイーンにとっては十分な時間だった。



「――がっ」

変な、声がした。



カズキがその声をした方を見ると、そこにはすでに息を引き取った太った男と、その手を血に染めたキラークイーンがいた。

「…キラークイーン!なぜこんな事を!」
「言っただろう?私は、私の生き方を貫かせてもらうと。」
そう言う吉良は先程までカズキと話していた穏やかな吉良とは別人のようだった。
その姿は、自分の欲望のためにあらゆるものを踏みにじる、どす黒い『邪悪』を体現した、吉良吉影の本性だった。

「…吉良さん!」
「一つ、『預言』をしよう……カズキ君、君は私に触れること無く『負ける』。」
「なんだと!?」
「BITE THE DUST.」
「…?」
「来い、カズキ君。やられるつもりはないがな!」
「――武装錬金!!」
カズキの手に、大きな槍が現れる。
守りたいものを守るための、カズキの武装錬金――サンライトハート。
その大きな槍が吉良の身体に標準を定める。
カズキは吉良めがけサンライトハートを構え突進した。
この距離で、カズキが敗れる事など、万に一つもない。



……ある特殊な事さえ、起こらなければの話だが。



公園を出て、一人歩く影がある。
その横に寄り添うかのように、猫にも似た人外の影がしゅん、と現れた。

「全く、余計な手間をとらせてくれるものだ。」

吉良吉影は、預言の通り勝った。
そして、先程言った「BITE THE DUST」という言葉は何を意味するのか――?



「負けて死ね。」



吉良はカズキと出会った時に、カズキとキラークイーンに握手をさせた…右手で。
キラークイーンの能力、それは『物体を爆弾に変える』という能力。
その能力により、カズキは肉体自体が爆弾へと変えられていた。
それを知っているのは、仕掛けた吉良吉影本人のみ。
吉良にすることと言えば、スイッチを『押す』、それだけ。
それだけで、人一人の命など、あっさりと奪える。



「さて……何処へ行こうか……」
ぽん、と吉良は『それ』を放った。
爆破したカズキの残骸の中において、唯一壊れなかった謎の六角形の金属塊。
それは『核鉄』。
錬金術が生み出した、超常の合金はキラークイーンの爆破にも耐え残った。
それは核鉄の頑強さゆえか、キラークイーンに仕掛けられた制限ゆえか吉良には分からなかったが、捨て置くのももったいないのでこうして持ってきた。
「…とりあえず西へ行くかな。」



ざざざ、と風が通り過ぎた。





【細田友晴@学校であった怖い話 死亡】
【武藤カズキ@武装錬金 死亡】



【D-7公園/1日目午前】
【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:若干の疲労
[装備]:レッド刺又@カオスウォーズ、黒い核鉄Ⅲ@武装錬金
[道具]:基本支給品一式、カズキの支給品一式、細田の支給品一式(アイテム未確認)、出刃包丁@現実、魔法大作戦!@戦国BASARA、音石明のギター@ジョジョの奇妙な冒険
[思考]1:とりあえず、西へ向かうか
   2:病院には行かないでおこう。
   3:良い『手』があったら得たい。が、無理はしない。
   4:生き残り、メガネの男(日野)にしかるべき制裁を。




039:Mad sandwich 投下順 041:You got me mad now
039:Mad sandwich 時系列順 041:You got me mad now
005:その男、危険につき 吉良吉影 :[[]]
005:その男、危険につき 武藤カズキ GAME OVER
010:不運と、優しさと 細田友晴 GAME OVER

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最終更新:2011年08月26日 23:01
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