怪物戦線、移動中

 暗闇の渦中にて少女が一人佇んでいた。
 腰まで伸びた艶やかな黒髪に、胸元が大きく肌けた特異な学生服。
 学生服という事は学生なのだろうが、少女のプロポーションは学生のそれを遥かに凌駕していた。
 それは学生服を纏っていて尚も色褪せる事はない。
 寧ろ、学生服と謎の胸元の開きというギャップにより一層の妖艶さを醸し出している。
 殺し合いの会場にて、少女が立ち尽くす。
 力強い瞳で夜天を見上げて、少女は音が鳴る程に強く唇を噛みしめていた。

「兵頭和尊……!」

 少女の声は憤りに満ちていた。
 強く握り締められた拳はブルブルと震え、爪が食い込んだ掌からは血が零れていた。
 少女は正直に怒っていた。

「貴様は、元々は社会へ貢献する為、家族を養う為、努力に努力を重ねていった誠実な会社員だったのだろう。元来は家族想いで責任感を持った社会人だったのだろう。努力が身を結び、莫大な富と栄声を手に入れ、だからこそ歪んでしまったのだろう。
 私はそう信じている。だが――――」

 少女の名は黒神めだかと言った。
 支持率98%といった異常なカリスマ性をもって、箱庭学園第99代生徒会長を務める『異常』だ。
 彼女は信じている。
 先の兵頭の行動にはそうせざるを得ない理由があって、元来の兵頭は心優しき人物であると。
 何かが兵頭を歪ませてしまい、その歪みに付け込む誰かがいたのだろうと。
 上から目線で無理矢理にこじつけ、兵頭の性善説を唱える。
 そう、信じる。
 そう、信じようとする。

「―――それでも、私は貴様を許せない……!」

 黒神めだかの髪色が変化する。
 鮮麗な黒髪が猛々しい金髪へ。
 そして、身体中から淡い光が溢れ出し、周囲を照らす。
 表情は怒りに染まり、声は怒りに震える。

「どうしてあの男を殺したのだ、どうしてあの男を殺さねばなかったのだ! 貴様は見たのか、あの時の前原少年の表情を! 
 絶望と悲しみに染まった前原少年の表情を! 貴様は見たのか!? 見て尚も、あのような笑顔を浮かべられていたのか!?」

 怒りは激烈であった。
 理性をも飲み込んで、感情が怒りに支配される。
 黒神めだかとは、何処までも人を信じる少女である。
 だが、その黒神めだかを以てしても、兵頭の取った行動を許容する事は出来なかった。
 だからこその、憤怒。
 何処までも頑なに信じようとした末の怒りである。
 乱神モード。
 数多の『異常』との戦いを経て、手に入れた自己支配の力。
 だが今は、その自己支配すらも押しのけて怒りが黒神めだかを支配する。。
 黒神めだかは眼前に居ない老人へと、憤怒の言葉と金色のオーラを持って語りかけた。

「良いだろう兵頭和尊、箱庭学園97代生徒会長・黒神めだかが布告する! 貴様のバトルロワイアルとやらはこの私が、完膚無きまでに叩き潰す!!」

 凛ッ!という音が聞こえてきそうな程に凛々しい声で、黒神めだかは夜天へ告げる。
 殺し合いの粉砕を、バトルロワイアルの転覆を、主催者たる兵頭へと宣誓する。


 そして聞いた。


「死ぃぃぃねぇぇええええええええええええええええぃぃぃぃ!!」
「エ、エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!?」



 森林の奥深くから轟く、殺意に満ち満ちた咆哮と驚愕に満ち満ちた絶叫を。
 咆哮と絶叫に黒神めだかは迷う事なく走り出していた。
 金色の身体で以て暗闇の森林を駆け抜けるその姿は、まさに雷光の如く。
 空気を切り裂き、全てを置き去りにして、黒神めだかは救済の為に前進する。






「死ぃぃぃねぇぇええええええええええええええええぃぃぃぃ!!」
「エ、エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!?」

 元仮面ライダーガタックの適合者にて、現交番勤務のヒラ巡査・加賀美新のバトルロワイアルは、二つの絶叫から始まった。
 人間が放ったものとは思えない程の大きくそれでいて暴力的な絶叫と、恐怖と驚愕とが絶妙なバランスで入り混じった絶叫。
 そんな絶叫達が、暗い森林の奥から聞こえてきたのだ。
 殺し合いという異常すぎる状況を前に、どう行動すれば良いのか考え倦ねていた加賀美。
 だが元来加賀美は、頭で考えるより身体を動かすタイプだ。
 謂わば『熱血バカ』。
 そもそも、仮面ライダーとして戦っていた時も、戦略云々の頭を使う事に関しては上司や親友に委ねていた。
 彼自身、其処まで頭の悪い訳ではないが、理性よりも感情で動いてしまう節がある。
 そんな彼がこのバトルロワイアルの場で、いきなり知能キャラにキャラ変など出来る訳がない。
 考えるより先に、身体を動かす。
 正しいと思ったら、ひたすら前に突っ走る。
 それが加賀美新であり、天の道を往く男にも認められた男である。
 響き渡る絶叫に、加賀美を縛っていた思考のしがらみが解かれていく。
 迷走の思考を振り解いて、加賀美新が走り出す。
 ただ人々を救う為だけに、仮面ライダーだった男が走り出す。

「待ってろ、今助けに行くからな!」

 ライダーベルトもガタックゼクターも存在しない今、加賀美新が仮面ライダーへと変身する事は不可能だ。
 だが、その程度の事は加賀美新の歩みを止めるに至らない。
 自身の道を決定した時の加賀美の行動力は、誰もが一目置いていた。
 満身創痍の大怪我を負っていようとも、到底勝ち目のない敵が待っていようとも、直前まで仮死状態にあったとしても、彼は突き進んできた。
 己の決めた道を、ひたすらに真っ直ぐ進んできた。
 愚直なまでの猪突猛進。
 それが、加賀美新という男である。
 ライダーに変身できようができまいが、関係ない。
 もう彼の道を止められる者など存在しない。
 加賀美新は声の聞こえた方角へがむしゃらに足を動かす。
 そして、加賀美は発見した。

「死ね、化け物ォォォォオオオオオ!」
「ちょ、ちょっと落ち着きません!? 私、こう見えても殺し合いには乗ってないんですけどぉ!!?」

 鬼気迫る表情で拳を握る男と、男に追い詰められた骸骨の姿を。
 そう、骸骨が動いていた。
 何故だかフサフサなアフロを頭部に付けた骸骨が、身体を震わせながら走っている。
 月光に照らされながら走る骸骨は、何というかとてもシュールであった。
 異常すぎる状況に、さしもの加賀美も動きを止めた。

「な、何なんだ、これは……?」

 茫然の声が加賀美の口から零れた。
 骸骨が動いている。
 文字にすれば易々としたもので、だがそれは常識からかけ離れた光景だ。
 驚愕に思考を止めながら、加賀美はその不可思議な光景を見つめていた。
 しかも、襲われてるのはどう見ても骸骨の方である。
 ヤクザも裸足で逃げ出すだろう形相で、一人の男が骸骨を追い掛けている。
 その敏捷性たるや野生の獣のようであった。
 男は骸骨に向けて手刀や拳を何度となく振り回していた。
 外れた攻撃が木々をへし折り、地面を割る。
 生身の人間が仮面ライダーやワームの如く破壊をもたらしている。
 信じられない光景であった。
 それら攻撃を紙一重で避ける骸骨も相当なものなのだろう。
 そもそも、あの骸骨とはどういった存在なのであろうか。
 加賀美が仮面ライダーとして戦い続けてきた異形の怪物とは、何かが違うように思えた。
 ワームはもっと禍々しい外見をしているし、何よりその戦闘力を持ってすれば敵対者から逃亡する事など有り得ない。
 追い掛ける男が如何に人間離れした戦闘力を有していようと、クロックアップの使用も可能なワームがあそこまで情けなく逃げ回る事はない。
 恐らく、あの骸骨はワームではない。
 だが、ワームで無いなら一体なんなのだ?
 浮かぶ疑問に、加賀美は答えを見付ける事ができなかった。

「シィィィィィィィイイイイイイイイイイ!!!」

 加賀美が混乱に陥っている最中でも、男は骸骨へと熾烈な攻撃を加えていた。
 骸骨は骸骨で必死に逃げ惑っているものの、傍から見ても追い詰められてきているのが分かる。
 仮面ライダー並みの身体能力で暴れまわる男と騒ぎながら逃げ回る骸骨。
 遂には、男の一撃が骸骨を捉える。
 紙切れのように宙を舞い、骸骨が木へと叩き付けられた。
 あんな姿でも痛覚はあるのだろうか、骸骨は苦悶の声をもらながらし地面へと崩れ落ちた。
 意識はあるようだが、ダメージに身体が言うことを聞いていない。
 骸骨は地面に転がりながら、男を見上げた。

「ちょ、ま……だ、誰か、助けてェェェェェェェェェェ!!!」

 命の危機を前にして、骸骨の口から助けを求める声が漏れた。
 その声を聞いた瞬間、加賀美は無意識の内に動き出していた。
 骸骨を助ける為に、前へと一歩大きく踏み出す。
 勿論、加賀美の中に混乱はまだあった。
 動く骸骨に対する理解は追い付かず、その特異過ぎる恰好に不信を感じる所もある。
 だが、それでも反射的に身体が動いていた。
 助けを求める声に、思考を超越したところで身体が前に進む。

「おおおおおおおおおおおお!!」

 何が何だか良く分からない混沌極まる状況へと、加賀美は己の正義感に従って突っ込んでいく。
 後方から思い切り、骸骨を襲う男へとタックルをぶちかます。
 加賀美とてZECTの隊員として肉体訓練は積んできている。
 その肉体での全身全霊のタックルは、だがしかし男から怯みを引き出す事すら出来なかった。
 ただ、男は動きを止めた。
 唐突に乱入してきた加賀美へと視線を向け、その狂気の瞳をもって加賀美を見据える。
 ぶつかり合う視線に、加賀美は恐怖を感じる事を抑えられない。
 男の眼は、人間のそれとは思えなかった。
 だが、ワームのそれとも違う。
 ワームのような本能的な殺意ではない、人間の理性に乗っ取った殺意。
 数多の戦闘を経験していた加賀美であるが、生身の人間に此処までの殺意を向けられた事はない。
 男の瞳に加賀美は恐怖を覚えていた。

「うわっ!」
「ぎゃあ!」

 まるで子猫を扱うかのように、襟を掴み上げられ投げられる。
 男の挙動は軽いものだというのに、加賀美の身体は宙を浮いた。
 宙を浮き、倒れ込む骸骨と激突した。
 痛みに喘ぐ身体。
 それでも加賀美は庇うように骸骨の前へと乗り出す。
 他者を守るために必死にもがく加賀美を、男は無言で見下ろしていた。
 何も語らず、身体を捻って右手を後方へと引き絞た。
 その光景は、まるで限界まで引かれた弓矢のようであった。
 右手に力が集中しているのが分かる。
 殺される、と理解しつつも身体は動かない。
 背中に護るべき者がいる限り、動く事はできない。
 ただ一つの抵抗として、加賀美は信念の籠もった瞳で男を睨み付ける。
 ダメ、と誰かの叫びが聞こえた。
 だが男は止まらず、右手を振り抜き、



 ドゴン。



 そして、その身体ごと森林の奥深くへと飛んでいった。
 直前まで漆黒があった空間には、代わりとして、どんな原理か金色に身を輝かす少女が一人。
 少女は拳を振り切った状態で立ち尽くし、男が吹き飛んでいった暗闇を睨んでいる。

「そこの方、その骸骨を連れて逃げて下さい」

 一言だけ残して少女は暗闇の中へ消えていった。
 直後に聞こえてくるのは、肉を叩く音にしては余りに激しい轟音の数々。
 あの少女もまた、生身でありながら仮面ライダーと同等の力を持つ者なのだろう。
 ここは一体どうなってるんだと思いつつ、加賀美は骸骨へ肩を貸し、立ち上がる。

「おい、大丈夫か?」
「は、はい、何とか」

 骸骨の身体は気味が悪い程に軽かった。
 その軽量の身体が本当に眼前の存在が骨だけなんだと再認識させる。
 急場の危機が去った事で改めて疑念が湧き上がる。
 コイツは一体何なのか。
 加賀美は疑念を隠す事なく問い掛けようと口を開く。

「お、お願い、あの人を止めてって、ミサカはミサカはアナタ達に頼んでみる!」

 寸前で、声を聞いた。
 焦燥の煮詰まった、心底からの懇願が混じった声。
 声のした方へ振り返ると、そこには可愛らしい幼女がいた。



 打ち止めは恥も何もかもを投げ捨てて、男と骸骨へと声を掛けた。
 優しげな雰囲気で歩いていたアンデルセンは、骸骨と遭遇した途端に豹変した。
 その顔に浮かび上がったのは、最初に出会った時と同様の、猛獣のような表情。
 豹変したアンデルセンは、咆哮と共に骸骨へと襲い掛かっていき、暴風の如く暴れまわった。
 制止の声を上げる事も、割って入る事すらもできなかった。
 ただ打ち止めは知っている。
 獰猛で凶暴な性格の中に、温和なものを持ち合わせている事を。
 理由は分からねどアンデルセンが自分に対して優しく接してくれ、またあの人の救済に約束してくれた事を。
 知っている。
 知っているからこそ、打ち止めは眼前の男達に頼るしかなかった。
 アンデルセンは決して悪い人間ではない。
 だから、見捨てる事はできない。
 でも、自分一人では到底アンデルセンを止める事ができない。
 だから、力を貸して貰うしかない。
 寸前までアンデルセン自身に殺され掛けていた男達に、それでも頼るしかなかった。

「あ、あの人、さっきまで凄く優しかったのに、骸骨さんを見た瞬間人が変わっちゃって、ってミサカはミサカは慌てながらも状況を説明してみる」

 その行為が如何に不躾で傲慢なものなのか、打ち止め自身も気付いている。
 だけどアンデルセンを止める方法は他にはなかった。
 自分の身体ではアンデルセンに追い付く事だって出来はしない。
 だから、恥も何もかも投げ捨てて、頼み込む。
 男と骸骨は不審気に眉をひそめながらも、打ち止めの言葉を聞いてくれていた。
 説得を続ける為に、打ち止めは口を開く。
 ハッピーエンドを掴み取る為の戦いは、困難にありながらも続いていった。



【一日目/深夜/H-1・森林】
【打ち止め(ラストオーダー)@とある魔術の禁書目録】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
0:殺し合いには乗らない。ハッピーエンドを目指す
1:眼前の男と骸骨に協力を仰ぎ、アンデルセンを止める。
2:アンデルセンと行動し、一方通行と合流する。
3:お姉様、上条当麻とも合流したい
[備考]
※22巻終了後から参戦しています

【加賀美新@仮面ライダーカブト】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
0:殺し合いを止める。
1:幼女の話を聞く。
2:天道と合流したい
3:黒衣の男(アンデルセン)を警戒
4:ガタックゼクターとライダーベルトがあれば手に入れたい
5:何なんだ、この骸骨は……?

【ブルック@ONE PIECE】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
0:殺し合いには乗らない
1:幼女の話を聞く。
2:仲間を探す









 黒神めだかは黒衣の男と交錯を繰り返しながら、要救助者から離れるように森林を走っていた。
 数度に渡る激突により、眼前の男の戦闘力は把握できていた。
 高千穂三年生から入手した『異常』反射能力を以てしても反応しきれぬ攻撃に、古賀二年生の『異常』治癒力すらも上回る回復力。
 乱神モードの身体能力と同等か、それ以上の身体能力。
 眼前の敵は単純に強大であり、だからこそ黒神めだかは意固地なまでの決意をもって立ち向かう事ができる。
 この男を阻止し、人々を救う。
 自分の全能力を以てしても成し得るかどうかの状況に、黒神めだかは沸々と沸き上がるものを感じていた。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」

 相対するアンデルセンもまた沸々と沸き上がる殺意に身を焦がしていた。
 森林の中にてのうのうと話し掛けてきた骸骨の化け物。
 化け物を惨殺しようと所で、邪魔に入った一人の男と眼前の女。
 殺し合いに乗るつもりはない。
 だが、化け物の断罪を邪魔するというのなら話は別だ。
 あの男も、眼前の女も、殺す。

「シイイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!!」

 暗闇の森林にて激突し合う、二人の化け物。
 化け物達は互いの意志を掲げて烈戦を続けていく。




【一日目/深夜/F-1・森林】
【アレクサンド・アンデルセン@ヘルシング】
[状態]健康、
[装備]エレナの聖釘@ヘルシング
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
0:兵藤を殺害する。
1:眼前の女を殺害し、骸骨の化け物を滅殺する
2:殺し合いには乗らないが、襲ってくる者、化け物には容赦しない
3:打ち止めと行動する。一方通行を助ける
4:首輪を解除する
[備考]
※死亡後から参戦しています


【黒神めだか@めだかボックス】
[状態]健康、乱神モード
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
0:『バトルロワイアル』を完膚無きまでに叩き潰す。
1:眼前の男から加賀美達を逃がす。
2:仲間を集め殺し合いを打開する。



Back:飛んで火に入る夏の虫 時系列順で読む Next:友達ができるよ、やったねマミちゃん
Back:飛んで火に入る夏の虫 投下順で読む Next:友達ができるよ、やったねマミちゃん
GAME START 黒神めだか Next:
GAME START 加賀美新 Next:
ロリコン?いいえ、神父です アレクサンド・アンデルセン Next:
ロリコン?いいえ、神父です ブルック Next:
ロリコン?いいえ、神父です 打ち止め(ラストオーダー) Next:

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最終更新:2011年08月22日 00:49
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