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七松小平太は豪快な男であった。
常に細かい事は気にせずに、大抵の問題はその人間離れした体力で切り抜ける、そんな男だった。
だが、そんな小平太でもこの現状が異質なものであると理解できた。
「…どうなってるんだ?」
何故自分はこんなところにいるのか。
今まで自分に起きた事を頭の中で整理する。
昨日もいつものように朝起きて、授業を受けて、体育委員会のメンバーと共にいけどんマラソンをして、長屋に帰って寝た……所までは覚えている。
だが、そこからどうして現在のような場所に来たかはさっぱり分からなかった。
見たこともない大広間で、メガネをかけた男から殺し合いをしろ、と命じられた。
そしてそれに反抗した女性が死んだ。
その凶器――そう呼んでいいのかは今はさておき――凶器となったもの、首輪は例にもれず小平太の首にも巻かれている。
そして今、小平太はいつの間にか見たこともない家の中にいた。

「…気にくわんな。」
小平太は、忍術学園の生徒、いわゆる忍たまの中でもプロの忍者に最も近いと言われている六年生だった。
その忍術学園で過ごした六年間で、小平太は様々な事を体験して来た。
それは、戦であり、決死の潜入であり、何度も命の危険は味わっていた。
時には長く連れ添った仲間の死も経験したし、自ら命を奪う事もあった。
それでも、今のこの状況は小平太には受け入れられない。
誰かの死をもって殺し合いを強要させるなど、反吐が出そうだ。
それにあのとき、女性の首輪が爆破された瞬間、あのメガネの男は笑っていた。
あの男は、命を何とも思っていない、吐き気を催すような邪悪。
小平太は、その邪悪に立ち向かおうと決意していた。

「…とは言ったものの、どうすればいいんだろうかなあ。」
小平太はデイパックを開き、あの男の言っていた支給品とやらを確認していた。
自分が得意とする苦無並びにそれに準ずる忍具のひとつでも入っていれば良いと思っていたのだが。
「何だこりゃ?」
出てきたものは三つ。
あのメガネの男の言うには、自分は運のいい子であるらしいが……

まず一つ目は、カードだった。
グー、チョキ、パーを表す手のレントゲン写真が印刷された、それぞれ4枚ずつ計12枚のカード。
『希望の船』エスポワール内にて行われたギャンブルにて使用されたカードなのだが、小平太は当然その事は知らない。
二つ目は緑色のビンだった。
ビンに書かれていた文字は英語交じりで、元よりそっちの知識の無い小平太には全てを理解することはできなかった。
だがそれでもどうにかそれが『バルサミコ酢』というものである事が分かった。
蓋を開け匂いを嗅ぐと独特のツンとした匂いが鼻を突き刺した。
そして最後の三つ目はごく普通の軍用ナイフだった。
こういう形のナイフは小平太はあまり使った事が無かったが、この非常時にはやむを得ない。
だがこの小さい軍用ナイフでは小平太のクソ力をもってすればすぐにダメになってしまうだろう。
小平太は少々不満を覚えながらも今度は基本支給品を確認した。
名簿に記されていた五人の同級生の名前に、小平太は奥歯を噛み締めた。
「…ひとまず皆と合流しないとな。皆は殺し合いに乗るとは思えんが……どこにいるんだ?」
「誰かおらぬかー!!」
どう動こうか思案していた小平太の耳に飛び込む、若い男の声。
その声は忍術学園で六年間苦楽を共にしてきた友、立花仙蔵の声に非常によく似ていた。
すぐにでも出ようと小平太は思ったが、一瞬止まる。
あの声は、本当に仙蔵の声だったのだろうか?
立花仙蔵という男は、忍術学園において最も冷静沈着な男だと小平太は知っていた。
そんな彼があんな大声を出すものだろうか?

もしここにいたのが小平太ではなく文次郎や長次であったならば、ここでじっくりと考えるだろう。
これは何かの罠なのではないか?
この声を発したのは本当に仙蔵なのか?
この殺し合いという狂気の沙汰が行われている場では、だれしもが慎重に行動する。
だが、この七松小平太と言う男の辞書に『慎重』という文字など存在しない。
小平太は家を飛び出し、声の元へと走った。
そこで、小平太は出会った。
真っ赤なライダースジャケットを着た若い武者に。



真田幸村は、熱い男だった。
常に何事も全力でぶつかり、己を鍛え上げる事に余念は無い。
また、忠誠を誓った主人である武田信玄と、部下である猿飛佐助との絆は何よりも固い。
彼もまた、あらゆる困難をその熱い気概と鍛え抜かれた肉体で切り抜けてきた男だった。
ただ、そんな彼もこの現状には困惑を隠せない。
「…どうなっているでござるか?」
何故自分はこんなところにいるのか。
今まで自分に起きた事を頭の中で整理する。



真田幸村は、待っていた。
宿命の好敵手、伊達政宗を。
いつ果てるともしれぬ戦いを、幾度となく繰り広げてきた。
そして、ついに決着をつける時は来た。

自らが生涯をかけて忠誠を誓った主も、その主の好敵手も、自らの部下の忍びも、伊達政宗は倒してきた。
そして、ついに誰にも邪魔はされない場所にて、最期の決着をつけんとした矢先に――突然、意識が途絶えた。

眼が覚めたとき、周りには見たこともない数多くの人間がいた。
何が起こったか、幸村には分からなかったが、次の瞬間壇上にいたメガネをかけた男に「殺し合いをしてもらう」と言われた瞬間には怒りの感情が渦巻いていた。
そしてそれに真っ先に異を唱えた女性の首が爆発した瞬間、幸村の心に今までにない純粋な怒りが溢れ出てきた。
その怒りが爆発しそうになった瞬間――さっきよりも長い、ブラックアウトに包まれた。

そして、今に至る。
いつの間にか手にしていたデイパックの中を探ったものの、愛用の槍も入ってはおらず、他に武器になりそうだと判断できたものもなく仕方ないので手ぶらで歩いていた。
見たこともない町並みを歩き続けてきたが、誰にも会う事はなかった。
当初は見慣れぬ場所ゆえに彼にしては珍しく慎重に行動していたのだが、やはり彼にはそのような行動は似合わない。
ついに、彼は叫んだ。
「誰かおらぬかー!!」
と。

その叫びに反応するかのように、一軒の家の扉が開かれた。
そして、幸村は出会った。
深緑の忍者装束に身を包んだ、若い忍者に。



「なんだ、仙蔵じゃなかったのか。」
「…おぬしは?」
「私は七松小平太、忍術学園六年ろ組の忍たまだ。」
「忍たま……あ、拙者は真田源次郎幸村と申す。」
こうして、二人の若き猛者が出会った。
互いに考えるよりも先にまず動くタイプの人間であり、また殺し合いに乗る気もなかったのですぐに打ち解けた。

「ふむ、つまり七松殿は忍術学園の友を探しておられると。」
「小平太で良いよ、それに探し人してるのは幸村もだろう?ならここは一緒に探さないか?」
「良いのでござるか?」
「ああ、とりあえず幸村の支給品はなんだった?」
「あ…も、申しわけござらぬ、今の今まで確かめるのを忘れておった!」
そう言い慌てながら幸村はデイパックを開こうとした。
その瞬間だった。
「――!避けろ!幸村!!」
そう目の前の小平太が叫ぶと同時に、背中に杭を打ち込まれたかのような感覚と共に激しい痛みが走ったのは。
「…矢?誰だ!」
幸村の背中に、深々とボウガンの矢が突き刺さっていた。
そこから、鮮血がたらたらとあふれてくる。
「幸村、しっかりしろ!」
「くっ…い、今何が…?」
「喋るな!一旦隠れるぞ!」
小平太は急いで幸村を抱えると、先程まで自分がいた家の中に飛び込んだ。
その場には、放置された幸村の支給品だけが残されていたが――

「…ふふふ、逃がさないわよ……」
幸村を狙撃した下手人が、そのバックを拾い上げた。
その下手人は――長い髪が特徴の見た目麗しい女子高生だった。
彼女の名は岩下明美。
鳴神学園に存在する闇のクラブ、殺人クラブの一員にして当クラブ中最も危険な人物と呼ばれている人間だった。

彼女は、ただ純粋に怒っていた。
殺人クラブの部長である日野の行いは、彼女の興には召さなかった。
ただ、それだけの事が、彼女をこの上もなく怒らせていた。
そんな彼女はどう動こうと思ったのか――?

それは、あまりにも単純。
この場にいる自分以外の全てを殺し、最終的に日野も殺すこと。
そんな彼女の手に渡ったアイテムは、何の因果か人を十分に殺す事の出来る――否、元より殺すために作られた武器――ボウガンだった。





【D-6住宅街/1日目朝】
【七松小平太@忍たま乱太郎】
[状態]:健康、困惑
[装備]:軍用ナイフ@BATTLE ROYALE
[道具]:基本支給品一式、バルサミコ酢@現実、ジャンケンカード@カイジ
[思考]1:幸村を射た相手を警戒。
   2:幸村の怪我が心配
   3:忍術学園の仲間と合流したい。

【真田幸村@戦国BASARA】
[状態]:背中に矢が刺さっている(急所は外れたものの、深く刺さっており適切な処置を施さないと命にかかわる。)、困惑
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]1:今のは…?
   2:小平太殿…すまぬ……
[備考]:BASARA2政宗ストーリーモード最終戦『蒼紅一騎討ち』直前からの参戦。

【岩下明美@学校であった怖い話】
[状態]:健康、強い決意
[装備]:ボウガン@BATTLE ROYALE
[道具]:基本支給品一式(アイテム確認済み)、幸村の支給品一式(幸村が武器だと判断したアイテムはありませんでした)
[思考]1:全員を殺してから、日野も殺す。
   2:目の前の二人を殺す。



【支給品情報】

【軍用ナイフ@BATTLE ROYALE】
七松小平太に支給。
原作では七原秋也に支給された。
コンパクトで大きさはあまりない。

【バルサミコ酢@現実】
七松小平太に支給。
ブドウの濃縮果汁を原料とした果実酢。
なお、『バルサミコ』とはイタリア語で『芳香のある』という意味である。

【ジャンケンカード@カイジ】
七松小平太に支給。
元々はギャンブル船エスポワールで行われたギャンブルで使用されたもの。
グー、チョキ、パーそれぞれ4枚ずつ計12枚ある。

【ボウガン@BATTLE ROYALE】
岩下明美に支給。
原作では赤松義生に支給された。
専用の矢を板ばねの力で飛ばす弓矢。
引き金を持ち、狙いが定めやすい。



034:『愛』という名の『覚悟』 投下順 036:剣と鎌と 前編
034:『愛』という名の『覚悟』 時系列順 036:剣と鎌と 前編
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最終更新:2011年08月05日 16:50
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