想いが全てを変えていくよ

この広い空の下には、幾千、幾万のひとたちがいて、

色んなひとが、願いや想いを抱いて暮していて、

その想いは、時に触れ合って、ぶつかり合って、

けれど、その内の幾つかは、きっと繋がってゆける――

これから始まるのは、そんな出会いと触れ合いのお話



☆   ☆   ☆

「魔法って……もしかして、さくらちゃんも『魔法少女』だったりするの?」

「そうですよ。まだ魔法を習い始めて1年ちょっとしかたってませんけど」

「そんなに!? 私なんか、ついこの間契約したばかりだよ。
そっかぁ~、じゃあさくらちゃんの方が先輩なんだ~」

「ほえぇぇ! 私の方がずっと年下なのに、後輩とか言えません!」

さやかが茶化すように言うと、さくらは真に受けてわたわたと手を振る。
その仕草は撫で撫でしてあげたくなる可愛さだ。
いや、本当に『可愛い』以外の表現が見つからないぐらいに可愛い。女の子のさやかから見てもそう思う。

――この子も、魔法少女……

さやかは魔法少女になって日が浅く、魔法少女の仲間もいない。
そもそも『善良な魔法少女』に出会ったのは、巴マミ以来だった。
同じ立場の『仲間』を見つけたという喜びが、さやかの胸を瞬く間に満たす。
こんな小学生ぐらいの少女でも、命がけで『魔女』と戦っているのだ。
もっと詳しく魔法少女としての話を聞きたい、色んなことを分かち合いたいという想いから、さやかは口を開き、


果たしてこの子は、『知っている』のだろうか?


言葉が凍った。

キュゥべえは、『あのマミでさえ、最後まで気づかなかった』と言っていた。
ということは、大半の魔法少女は『ソウルジェムの正体』を知らないはずなのだ。
つまりこの子は――


――言えない。言えるわけないよ。

さやかを信じ切っている純真な笑顔に、胸がズキリと痛む。

言えるわけがない。
本当のことなど、言えるわけがない。

あなたは既に死んでいるのだと。
あなたは魔法少女ではなくゾンビにされたのだ、などと。

「さやかさん……どうしたんですか?」

こんな良い子に向かって、言えるわけがない。

「いやー、魔法少女仲間に会うのは初めてだから、何聞いていいのか分かんなくなっちゃって!
そうだ、さくらちゃんはどんな姿に変身するの?
フリフリのドレス? 意外にもゴシックロリータ系? それとも猫耳が生えたりとか?」
「ほえ? 変身するんですか? 着替えるんじゃなくて……」
着替える?
さやかは思わず、己の魔法少女姿――へその出た青いドレスに、白いマント――を見下ろした。
「え? 当たり前じゃないの? だってこんな衣装、自前で着てから来たら、ただの痛い人じゃん……」
「ただの痛い人、なんですか……」
「うぁっ……ごめん! そういう意味じゃなくて。
……つまりさくらちゃんは、変身するんじゃなくて自分で着替えてるってことなんだよね。
それって、ソウルジェムはどうなるの? 
普通、変身した時は体にくっついてるよね?」
しかし、さくらはあり得ないことを言った。

「ソウルジェム……って、何のことですか?」

『魔法少女』がソウルジェムを知らないはずがない。
『魔法少女』の契約と同時に生み出されるのがソウルジェム。
それは、契約の絶対条件だ。ジェムを知らない魔法少女がいるはずない。
「どういうこと? さくらちゃんは、キュゥべえと契約した『魔法少女』なんじゃないの……?」
「ううん。わたしは、『封印の獣』のケロちゃんと契約した『カードキャプター』なんです」
「カードキャプター……?」

そしてさくらが話し始めたのは、驚くべき話だった。
さくらが戦っていたのは『魔女』ではなく『クロウカード』という意思を持つ魔法のカードであり
さくらは集めたカードを魔法の『鍵』で発動することで、始めて魔法が使えるらしい。

現実に魔法少女をやって来たさやかでさえ、にわかには信じられないアニメの出来事のような話だ。
しかし、嘘と思えない根拠もあった。

「クロウカード……って言ったよね。
あたしの支給品に、そういうのがあったかもしれない」
ディパックの中を探り、一度だけ確認した支給品を取り出した。
裏面には、金文字で描かれた太陽のような魔法陣。
表には、樹木を身にまとった妖精のような少女が描かれている。

「わぁ! 『樹(ウッド)』のカードさんだ!!」

さくらは歓喜して、そのカードに飛びついた。
大切な友と再会したかのように、全力でカードに頬ずりする。
「あれ? でもカードさんがクロウカードに戻ってる」
「戻ってる?」
「はい、カードさんは皆、私が魔力をあげて『さくらカード』になったんです。
クロウカードはカードさんの魔力で動くけど、さくらカードは私の魔力を使って発動するんです。
そうだ。『鍵』があったから、また変えることができるかも」
ごそごそと、上着の内がわからキーホルダーのようなものを取りだした。
よく見るとそれは、星の飾りをいだいた小さな鍵だった。

それまでのほわほわした表情から一変。
凛とした声で、高らかに唱える。


「星の力を秘めし鍵よ! 真の姿を我の前に示せ!
契約の元、さくらが命じる!」



『鍵』がふわりと空中に浮かびあがる。
青い光の粒子が鍵を取りかこみ、さやかは息を呑んだ。



「『封印解除(レリーズ)』!!」



光の粒子が渦巻き、『鍵』から大きな風の奔流がほとばしる。
その姿を少女の腕に吊りあうステッキへと変えた『鍵』は、
頭部に抱く『星』をくるくると回す



さくらが、『樹(ウッド)』をその手から放し、星の杖でそのカードに触れる。



「クロウの創りしカードよ。古き姿を捨て生まれかわれ。
新たな主、さくらの名のもとに!」



地面に描かれたのは、金色の魔法陣。
その四方は羅針盤のように東西南北を意味する記号が描かれ、
西と東には、太陽と月が等距離で中央の少女を守護する。
星の冠から光の翼が生えた。
翼が大きくそれを広げると同時、カードが透明の輝きに包まれる。

輝きはやがて収束し、空中に浮いていたカードは己の意思を持つように、
さくらの手の中に帰還した。

「よかった。ちゃんとさくらカードには変わるみたいだね」
見てみると、確かにカードのデザインは微細に変わっていた。
太陽が中央で大きく輝いていた魔法陣は、太陽と月の位置が対象な位置へと並び、
妖精が頭上に抱いていた太陽のマークも、星のマークへと変わっている。

なるほど、その現象は明らかに常識やトリックとして説明することができない。
さやかたち『魔法少女』の魔法と同じものかは分からないけれど、
それも確かに『魔法』なのだ。


さやかの頭に、天啓が降りて来た。


「あのさ、さくらちゃん。そのカードのこととか、さくらちゃんがどうやって『カードキャプター』になったかとか、
もっと詳しく聞かせてもらっていいかな?」
「いいですよ? でも、どうしてですか?」
「うん、あの白スーツの男が言ってたけど、私たちには『魔女の口づけ』っていう刻印がされてるって言ってたよね」
首が爆発した少女を思い出したのか、さくらが顔を暗くしながら頷く。
「実はあたしたちの知ってる魔法で『魔女の口づけ』っていう呪いがあるの。
でもね、あたしが聞いた限りでは、『魔女の口づけ』に人の首を爆破する力なんてないんだよ」
「ほえ、本当ですか!?」
「うん、だからあたしたちの知ってる『魔法』だと、ちょっとよく分からないんだ。
でも、さくらちゃんの説明を聞いて、あたしの知る魔法以外にも色んな魔法があるって分かったじゃない?
だったら! この『呪い』ってやつは……
……そういう色んな『魔法』の技を複合させて造られたものなんじゃないか!
さやかちゃんの灰色の脳細胞はそう結論したのだよ!」
我ながら、会心の説だったと思う。
さくらもがぜん生気を得て、さやかの仮説にこくこくと頷いた。
「そっか! クロウさんの魔術も、東洋魔術と西洋魔術の複合だって言ってました。
だったら、ぜんぜん違う魔法同士を混ぜることだってあるかもしれません。
さやかさんスゴイです!」
純真な感想で、手放しに褒められるとやはり得意げになるのを抑えられない。
「ううん、これってまだ仮説なんだけどね。そういうわけで、できるだけ詳しく話して欲しいんだ。
さくらちゃんが、どうしてカードキャプターになったのか。どういう風に魔法を使ってるのか」
「はい、全部お話します!」



☆   ☆   ☆

さくらは、これまでにあったこと全てを話した。
家の屋根裏部屋で、クロウカードの封印されていた本を見つけた日から、
すべてのカードがさくらカードに変わった終わりの日まで。

クロウカードのことだけでない。
カードを集めるまでの物語を語るには、手伝ってくれた友達や好きな人のことも、必要不可欠だった。
だからさくらは、己を取り巻く人達のことまで、とても詳しく話した。
話しているうちに、大切な人達のことを思い出したから。
あの人達が待っている町に、早く帰らなければと思ったから。
だから決意をこめて、さくらは話した。



どんな時でもさくらを心配してくれてる、『封印の獣』のケロちゃんのこと。

――さくらが前に言うたんやろ。あるじとかとちゃう。わいらと『なかよし』になりたいって。
さくらがわいのこと考えてくれるのと同じように、わいらもさくらのことが好きなんや。



魔法を使えないけれど、聡明で優しくて、いつも手伝ってくれる知世ちゃんのこと。

――さくらちゃんが笑顔でいてくだされば、何も悲しいことはありませんわ。
わたしの幸せは、さくらちゃんが幸せでいてくださることですから。



クロウカードのもう一人の守護者であり、素っ気ないけれど献身的にさくらに尽してくれた月(ユエ)さんのこと。

――お前を決して泣かせないと約束したんだ。



悪さをしたこともあるけれど、さくらと『仲良し』になってくれた十七枚のカードさんたちのこと。

――だいじょうぶ、わたしがいなくてもあなたの心は光でいっぱいだし、あなたには無敵の『絶対だいじょうぶだよ』の呪文があるもの



月(ユエ)さんのもう一つの人格で、初めてさくらが好きになった雪兎さんのこと。

――きっと見つかるよ。さくらちゃんが一番好きになれる人が。
その人もきっとさくらちゃんを、一番に想ってくれるから。



さくらが困ったらすぐに助けにきてくれる、一番大好きな人のこと。

――おれがいちばん好きなのは、お前だ。



離れた場所から見守ってくれて、いつも助言を与えてくれた観月先生のこと

――みんな、さくらちゃんのことが大好きだから。



始めは、悪いことをしている振りをしていたけど、本当はさくらを大事に想ってくれて、
さくらを成長させる為に試練を与えてくれた、クロウさんのこと。

――これから『わたし』がご迷惑をおかけすると思いますが、あなたなら『絶対だいじょうぶ』ですよ。


彼らがみんな手伝ってくれたから、みんながさくらを好きでいてくれたから、
さくらは今、『この世で最強の魔術師』として、大切なカードたちと一緒にいられるのだ。



◆   ◆

さくらは、一生懸命に、いとおしむように、自らの体験を話してくれた。
それは、ただの小学生が、皆に助けられて、『この世でいちばん強い魔法使い』になるまでの物語だった。










………………ナニソレ?




――カード探しを頼んだんはわいやけど、さくらに大けがさせたり泣かせたりするんはいやや。
『肉体の痛覚がどれほどの刺激を受けるかっていうとね。
…………これが本来の痛みだよ。ただの一発でも動けやしないだろう?』

危ない目にあっても、いつも守護者が助けてくれて。


――だいじょうぶ、わたしがいなくてもあなたの心は光でいっぱいだし、あなたには無敵の『絶対だいじょうぶだよ』の呪文があるもの
『魔女は呪いから生まれた存在なんだ。魔法少女が希望を振りまくように、魔女は絶望を撒き散らす』

誰かを本気で憎んだり命を奪ったりする敵なんかどこにもいなくて。


――…きっと見つかるよ。さくらちゃんが一番好きになれる人が。その人もきっとさくらちゃんを一番に想ってくれるから。
――みんな、さくらちゃんのことが大好きだから。
『さやかは、僕を苛めてるのかい?』

誰も彼もが、さくらの知っていることを分かっていて、手伝ってくれて、
みんながみんな、さくらのことが大好きで


――さくらちゃんが笑顔でいてくだされば、何も悲しいことはありませんわ。
わたしの幸せは、さくらちゃんが幸せでいてくださることですから。
『普通はちゃんと損得を考えるよ。誰だって報酬は欲しいさ』

悪い人なんて一人もいなくて。


――これから『わたし』がご迷惑をおかけすると思いますが、あなたなら『絶対だいじょうぶ』ですよ。
『殴っても分からねえ馬鹿となりゃ……もう、殺しちゃうしかないよねえ!!』

この世に禍いをもたらすはずの“敵”からも応援してもらって。


――きっと好きになれる。ううん、もう『好き』だよ!
あるじとかじゃなくて、『なかよし』になってほしいな。
『あれはねえ、正真正銘、殺し合いだったよ。お互いナメてかかってたのは最初だけ。
途中からは、アイツも私も本気で相手を終わらせようとしてた』

自分の前に立ちはだかる敵と、殺し合いどころか憎み合うことすらせずに、『仲良し』になってハッピーエンド。





「……さやかさん、どうしたの?」

心配そうな声が鼓膜を叩き、さやかは我に帰る。

――あたし、今何を考えた?

「……ごめんごめん、いい話だなーって感動して」
「ほええ! そ、そんなでもないですよ」

さやかは笑う。

噴出した感情を抑えつけて、笑う。

駄目だ。
そんなこと思っちゃ駄目だ。

あたしは、決して魔法少女になったことを後悔しないと決めたんだ。

だから、こんな嫌な気持ちになってはいけないんだ。

さくらちゃんは何も悪くないんだ。
だから『羨■し■』と思ったり、『■まし■』と思ったりしてはいけないんだ。



「さやかさんは、『魔法少女』として何をしてるんですか?」

悪意を欠片も持たない、可愛らしい少女が尋ねた。


◆   ◆ 

その想いは、時に触れ合って、ぶつかり合って、

時には、ほんの一滴だけ、『恨み』が溜まって――

これは、そういう物語。

【C―6/森の中/一日目 深夜】

【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]健康、魔法少女(変身後)
[装備]ソウルジェム(穢れ、5%)
[道具]基本支給品一式、不明支給品1~2
[思考]基本・殺し合いに乗っていない人たちを助ける
1・…………………
2・まどかを探し、守る
3・マミさん、生きてるの……?
4・暁美ほむらと佐倉杏子には最大限の警戒
※7話、杏子に呼び出されて話しをする前からの参戦です。
※雨苗雪音を危険人物と認識しました。
※ジェムが少し穢れました
※さくらを『違う魔法を使う少女』と思っています(別の世界から来たと気づいていません)

【木之本桜@カードキャプターさくら】
[状態]腹部に軽度の打撲 、魔力を少し消費
[装備]ぬんちゃく@スパイラル・アライヴ、さくらカード『樹』@カードキャプターさくら
[道具]輸血用血液(A型)@吸血鬼のおしごと、拡声器@現実
[思考]基本・殺し合いには乗らない
1・さやかさんのお話を聞く
2・小狼くんに会いたい
※雨苗雪音を危険人物と認識しました。
※さやかを『違う魔法を使う少女』と思っています(別の世界から来たと気づいていません)

※『樹』がクロウカードからさくらカードに変わりました。
さくらカードに変わると、15分制限がなくなります(ただしカードがダメージを受けると6時間使えなくなる制限はそのままです)
ただし、さくら以外には使えなくなり、使用時にさくらが魔力を消費します



【樹(ウッド)のカード@カードキャプターさくら】
能力は植物の成長、操作。
植物のツタで敵を拘束したり、落下の際にクッションとして使用したりと活用の幅は広い。
『地(アーシー)』のカードには強いが、『火(ファイアリー)』のカードには弱い。

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最終更新:2011年12月26日 11:19
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