アイオブザハリケーン

『不満』とは、忘れ去るものではない。
『解消』すべきものだ。
昔から、それこそ幼い頃から、何かやられたらやり返さないと気がすまない、そんな性質だった。
喧嘩も反抗もそれなりにやってはいたが、どこか燻っているものがあった。
正直、満たされてなどいなかった。
喧嘩をしていても、いつかはどちらかのダウンか第三者の仲裁で止められる。
その『先』に一体何があるのか、ずっと分からないでいた。
そんなもやもやした晴れない梅雨時の空のような疑問を抱えたまま、俺は高校に入学した。
そして…『あいつ』に出会った。
『あいつ』はそんな俺の不満を見抜いていた。
見抜いていたから、声をかけたのだろう。
「我がクラブに入らないか?」
と。

初めて人を殺した時、俺の中に湧きあがった感情は決して『恐怖』なんかじゃなかった。
むしろ、それは『歓喜』。
いい気になっている奴が、恐怖し、泣き叫び、命乞いをする様を見るのはぞくぞくするほどの快感だった。
そしてそいつを殺した時の感情の昂ぶりは、何物にも代えがたい、まるで天国にでも登ったかのようなものだった。
そうして俺は、誰も知らない裏のクラブ――殺人クラブに3年間所属してきた。



そんな俺は今、クラブの長である日野の命令で、どこかも分からない地で、どこの誰かとも分からない誰かさんを相手に殺し合いをしている。
正直、日野が参加していない事や同じクラブのメンバーである岩下や風間と言った奴らも参加しているのは疑問であり不満でもあったが、それでも殺せると言うのなら構わない。
全てが終わったら、日野に話を聞いてみるのも悪くはない。
場合によっては――日野の奴も殺そうかな。



神楽のイライラは、決して消えさることはない。
空腹、ロクでもない支給品、つれてこられた大事な仲間、傘が無い…
全てが気に入らない。
こんな事に巻き込まれていなければ、今頃は万事屋でお気に入りの酢昆布を齧りながらテレビを見つつゴロゴロしていたと言うのに。
許せない。
あのメガネの男が、許せない。
全ての食料を食らいつくして幾分落ち着いていた心は、またメラメラと燃え上がる。
もし今彼女に危害を加えようとする命知らずがいたならば、決して命の保証はできない。
そう、命の保証など、できないのだ……

バン、と銃声が一発響いた。



新堂誠は、自分の幸運に歓喜していた――いや、酔っていた。
高校生である伸銅は、当然ながら銃を撃った事はなかった。
映画やドラマ等では見慣れていたのだが、実際に自分が撃つとなると少々不安があった。
だからまず、新堂は『練習台』を探していた。
その『練習台』に向いていそうなのはやはり、女子供。
女子供ならば抵抗しないだろうし、したとしても大したことはできないだろう。
そう考えてホテルを探索していた新堂の前に現れたのは、チャイナ服とお団子頭が特徴的な背も小さい見た目には弱そうな女の子だった。
新堂は、売店の物陰に隠れながら自分の幸運をかみしめていた。
そして彼女が油断しきっているところを狙い、ベレッタの引き金を引いた――

だが、その銃弾は少女には当たらなかった。
新堂は知らなかった。
目の前の少女―神楽は伝説の戦闘民族『夜兎族』で非常に高い戦闘力を有する事に。
そして今、彼女は猛烈に怒っている事に。

銃弾をかわされた、と振動が認識した瞬間、新堂の身体は吹き飛ばされていた。
何が起こったのか、新堂には理解できなかった。
揺れる頭で何が起こったのか確認しようと少女がいたところを向くと、そこには――修羅がいた。

「…良ーい度胸アルな……?」
「ヒッ?!」
そのあまりにも圧倒的な威圧感に、ただの高校生にすぎない新堂の腰が引けた。
神楽が発する圧倒的威圧感は、本来小さいはずの神楽の身体をまるで巨人の如く大きく見せていた。
「このかぶき町の女王こと神楽様に楯突くとは良い度胸アルな……」
可愛らしい声質が、どんどん修羅のそれに変わっていく。
これまで何人もの命を奪って来た新堂であったが、初めて自分の生命の危機を覚えていた。

「覚悟はできてんだろーな…?ガキ。」
ぼきぼき、と神楽が指の節を鳴らした。
新堂はもてる全ての力を振り絞り立ちあがろうとした。
だが、立ち上がったその瞬間こそが、神楽から見れば絶好の機会だった。



新堂の左足に、強烈なローキックが入る。
と、同時に鳩尾に前蹴りが突き刺さる。
と、同時に左腕に手刀が叩きこまれる。
と、同時に右頬に強烈なフックがぶち込まれる。

驚くべき事に、これらの攻撃を新堂は『同時に』受けたように感じた。
普通の男子高校生でしかない新堂の判断力では、夜兎族である神楽の俊敏な攻撃の一つ一つを受けた事を判断しきれなかったのだ。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァ!」



時をも止める最強のスタンドもビビらん勢いで、神楽は新堂を殴り飛ばす。
ボロボロになり吹っ飛んだ新堂の方を見向きもせず、神楽の意識はもう売店の方に向かっていた。
「……お土産のまんじゅうすらないアルか。」
神楽の怒りはまた爆発しそうになったが、足元に転がっていた新堂のデイバックを見ると神楽の顔ににんまりと笑みが浮かんだ。
「このデイバックは没収アル。食料と有り金全部頂くネ。この神楽様に逆らった罰ヨ。」
まるでどちらが先に襲われたか、分からない状況であった。



怖い。
怖い。怖い。
怖い。怖い。怖い。
彼の頭はそれだけに支配されていた。
自分の犯した罪――殺人。
逃げ出した自分。
何もできない癖に、自分は何をした。
見ず知らずの少女を撃ち殺し、そしてその場から逃げ出した。
後ろは、振り返りたくなかった。
もし振り返ったら、そこにあの少女が立っている。
そんな妄想すら抱いてしまう。

――なんで?

安藤の頭に、不気味な声が響いた。
まるで地の底から染み出すような、呻き声ともつかぬ不気味な声。

――なんで、わたしをころしたの?

どど、と安藤の身体から汗が滝のように溢れる。
どこにもいない少女の亡霊が、いま自分を恨んで自分を呪い殺そうとしているんだ。
恐怖に捕らわれた安藤の頭は、まるで底なし沼にはまったかのように悪い方へ悪い方へと思考を進めていく。
そうして考えがどつぼにはまって行くたびに、その不気味な声は大きくなって行く。



――わたしがなにをしたの?

――なんでうったの?

――いたかったよ

――くるしかったよ

――なにさまのつもりなの?

――しんじゃえ

――しんでよ

――しね


シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ



「―――アアアアアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッッッッ!!!!!!!!!!!」



安藤守は――何の能も取り柄もない、ただのダメ人間であった。
いや、そのダメっぷり――否、クズっぷりだけは眼を見張るものがある。
自分の事を助けてくれた恩人を、僅かな金のために見捨て、その事実を正当化し、その恩人が戻ってきたと知るとそのおこぼれにあずかろうとする。

安藤守は、正真正銘のクズだったのだ。
それは、この殺し合いの場においてもそうだった。
何の罪もない少女を、ただ出会ってしまったという理由だけで射殺し、そしてその恐怖から逃げ出した。
その際、彼女の支給品はしっかり持ちさっていた。
生き残りたかったから。
死にたくなかったから。
そのために少女を殺した事すらも、安藤は正当化しようとしていた。

だが、安藤はただの一般人だった。
ただ臆病で、自分一人じゃ何もできない一般人だった。
そんな彼に、『殺人』という絶対的な悪を正当化させる知力も度胸もなく――


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッッッッッ!!!!!!!」


――安藤守の精神は、崩壊した。



壊れた精神は暴走する。
暴走した精神に支配された肉体もまた、暴走する。
壊れた安藤は、ただ走る。
その先にあるのは――ホテル。

今、血の雨が降ろうとしている――





【F-5ホテル/1日目朝】
【神楽@銀魂】
[状態]:健康、程よい汗、怒り、食い足りない
[装備]:なし
[道具]:新堂の支給品一式(アイテム未確認)
[思考]1:クソメガネヤロー(日野)をギタギタに叩きのめす。
   2:食料ゲットー!早速部屋に持ち帰って食べよう。
   3:銀時、新八と合流したい、マダオは保留。
   4:傘が欲しい。

【新堂誠@学校であった怖い話】
[状態]:全身フルボッコ、虫の息
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]1:……何が起こったんだ?
   2:殺し合いに乗る。

【安藤守@カイジ】
[状態]:精神崩壊、暴走、発狂
[装備]:レミントンM31RS@BATTLE ROYALE
[道具]:基本支給品一式、柊かがみの支給品一式(アイテム未確認)
[思考]1:暴走中
   2:もうなにもかもどうにでもなれ

[備考]
新堂のもっていたベレッタは売店の中に落ちています。
ちょっと探せばすぐ見つかりますが神楽は気付きませんでした。
神楽の支給品一式は最上階のスイートルームに放置されています。



031:クレイジータクシーという名の都市伝説 投下順 033:Princess and Knight
031:クレイジータクシーという名の都市伝説 時系列順 033:Princess and Knight
012:餓えた獣に近づいてはいけない 新堂誠 :[[]]
012:餓えた獣に近づいてはいけない 神楽 :[[]]
006:惨劇 安藤守 :[[]]

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最終更新:2011年07月16日 18:00
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