第四十九話≪竜の少年×兎の女性≫
僕、本庄忠朝と、バニーガールの伊藤さんは、この灯台で遭遇してから、
ずっとこの灯台の管理人詰所に身を潜めていた。
その間、詰所にあったお菓子やジュースを飲んで他愛も無い会話をしたり、
僕は僕で、伊藤さんの……その、谷間、に、どうしても目が行ってしまい、
その度に自身の……えー、雄としての欲求、って言ったら良いのかな……が増大しちゃって、
それでまたその度に、伊藤さんに「トイレ行ってきます」って告げて、
トイレで……うん。ほら、シコシコってするアレ。アレをね。してたんだよ。
普段の生活でもほぼ毎日、毎朝毎夜欠かさず行っている事なんだけど、
いやはや凄い物で、いつもの二、三倍は出てるよ。マジで。
まあそんな事はさておき、僕と伊藤さんは灯台管理人詰所でお昼の放送を聞いた。
『はーい、みなさんお元気ですかー?
お久しぶりでーす。開催式の時以来ですね。俺ですよ。覚えてますかー?』
「来た!」
「覚えてるわよ……忘れる訳無いじゃない」
いよいよ放送が始まった。伊藤さんは放送を行っている男に対して憎悪の念を隠さない。
当たり前か。あの声は間違い無く、この殺し合いの開幕を宣言した男の声だ。
『それじゃあまず、死んだ人の名前言いまーす。
死んだ順番です。では言いますよー』
名簿とボールペンを取り出し、発表を待つ。一体何人が死んだのだろう……。
『川辺利也』
一人。
『藤倉直人』
二人。呼ばれた名前に横線を引いて消していく。
『上田聖子』
三人。
『堀越辰夫』
四人……。
◆
『……中松英子。以上、23人が、記念すべき第一回放送までの死亡者です』
僕と伊藤さんは言葉を失っていた。
名簿があっと言う間に赤い横線だらけになってしまった。
ゲームが始まってから僅か6時間の間に、23人も死んでしまった。
テレビでよく見かけた有名野球選手・長谷川俊治の名前も呼ばれた。
同級生にファンが大勢いたのを思い出す。
『えー、素晴らしい。素晴らしいです! いやもうホントに!
まさかたった6時間で、半分近くも脱落するとは、俺も予想外でした!
皆さん思ったよりもやる気になられている方が多いようで安心しましたね』
確かに予想外だったよ。まさかもう半分近くも死んでいたなんて。
っていうか素晴らしいって何だよ。勝手に拉致してきて殺し合いを強制した奴が言う事じゃないだろ。
でも、こんなに沢山死んでいるって事は、あいつの言う通り、やる気になっている人が沢山いるのかな……。
『では、続いて禁止エリアの発表です。地図を出して、よく聞いていて下さいねー』
物思いに耽るのは後にしよう。
僕は地図を取り出し、禁止エリアを書き込む準備をした。
『では言いまーす! 午後1時より、G-2! 午後2時より、D-5! 午後3時より、B-1! 』
言われた順番に、地図に指定されたエリアに丸を付け、時刻を記入していく。
良かった……どうやらこの灯台は禁止エリアには入っていない。
これなら当分は動かなくて済みそうだ。
『最初の6時間を生き抜いた27人の方、頑張って次の放送が聞けるよう生き抜いて下さーい。
それじゃあ、また次の放送でお会いしましょう! さようならー!』
それっきり、何も聞こえなくなった。どうやらこれで放送は終わったらしい。
「禁止エリア……この灯台のあるエリアは入ってないみたいです。
これならしばらくは動かなくても……」
「……じゃないわよ」
「……へ?」
伊藤さんの様子がおかしい。俯き加減で、テーブルの上に置かれた拳が握り締められ、震えている。
ドンッ!!
「ひっ!?」
と思った次の瞬間、伊藤さんが両手で思い切りテーブルを叩いた。
そして、まるで烈火の如く怒りを露わにする。
「ふざけんじゃないわよ!! 何が素晴らしいよ! 何が頑張れよ!! 馬鹿じゃないの!?
アンタがそんな事言う資格あんの!? 人を勝手に攫ってきて、無理矢理殺し合わせて、
アンタは何? 神様のつもり!? アンタのおかげでどんだけ大勢の人が人生狂わされたと思ってんのよ!!
私だって、こんな事にならなければ、平穏に人生過ごせたかもしれない、のに、うっ……うっ……」
最後の方はもはや嗚咽混じりになっていた。
「伊藤さん……」
僕はかけてあげられそうな言葉が見付からなかった。
伊藤さんの言う通り、この殺し合いが無ければ、僕や伊藤さんを含め、参加者の人達は皆、
いつも通りの、それぞれの日常を歩んでいた事だろう。
それが、突然、何の前触れも無く、こんな理不尽なバトルロワイアルという殺し合いで打ち砕かれた。
僕は薄々思い始めていた。自分はもう、生きて両親の元へは、日常へは帰れないのだと。
多分、伊藤さんも同じ事を考えていたのだろう。
「……ごめんね、トモ君。驚いたよね」
伊藤さんが涙を手で拭いながら言う。
「い、いえ、いいです。いいんです……」
と、僕はまたここでやらかしてしまった。
伊藤さんの胸の谷間にまた目が行ってしまった。
はっきり言って、僕の周りにはこんな大きな胸の女の人なんていなかった。
ましてやこんなに肌の露出の高い、胸の上半分が見えているような女の人なんて……。
僕の中でまたも欲望が膨れ上がる。
ああ、僕の馬鹿野郎、何だってこんな時に……少しは自重しろ。
「あ、あの、僕ちょっとトイレに……」
これはもうトイレに行って鎮めてくるしか無いと思った僕は、
いつものように伊藤さんに断りを入れて、トイレに行こうと座っていたソファーから立ち上がった。
でも、今度はトイレには行けなかった。
伊藤さんが僕の尻尾を掴んで放さなかったのだ。
「……ねえトモ君。何だか随分トイレ頻繁に行くねぇ。そんなにトイレ近いの?」
僕の尻尾を両手でがっちり掴みながら、上目遣いで伊藤さんが尋ねてくる。
「え、ええ、まあ」
本当の事など言えるはずも無く、僕は嘘をついた。
「私のおっぱい、そんなに気になる?」
「!!!!」
核 心 を 突 か れ た ! !
やばい、やばいやばいやばいやばいやばい。僕の心臓が今まで聞いた事無いぐらい大きな音を出しながら、
物凄い早さで脈打ってる!!
「ずーっと、私のおっぱい、ちらちら見てたでしょ? 気付いてないと思った?
何か見る度にトイレ行ってたような気がするんだけど?」
伊藤さんは僕の尻尾を手繰り寄せ、僕をソファーに強制的に再着席させて、
僕の目を覗き込んで尋問する。
僕は何も言えない。言う事が出来ない。だって、もう完全に伊藤さんに見透かされてるんだもの!
「それにね~、私もトイレ何回か行ったよね? その時にねぇ。
トイレの中、何だかイカみたいな臭いがしたんだよね」
「―――ッ!!」
「でもおかしいよねぇ。イカなんてどこにも無いしねぇ。そう言えばトイレットペーパーの減りが、
尋常じゃ無いぐらい早いんだけど」
「あ……それは、その、あの」
「もう言い逃れは出来ないわよ。さあ白状なさい! 本当はトイレで何をしていたの!?」
「う……うう……」
僕の両目から大粒の涙が溢れ、頬を伝う。
遂に観念せざるを得なくなった僕は、洗いざらい白状してしまった。
しかし、怒ると思っていた伊藤さんは、僕を責めるような事はせず、
むしろ納得したような、思った通りだったと言うような、そんな表情を浮かべていた。
「そんなに気になるなら、触ってもいいよ?」
「え? 何をですか?」
「だから、おっぱい」
……はい?
「いや、もう何ならしちゃおっか」
「何を、ですか?」
「エッチ」
………………………………………………………………………………………………。
「あれ? トモ君? トモ君?」
ほんじょうただともは しこうが ていししている。
◆
数分後。
「うふふ……どう、トモ君?」
「あああ……凄く……柔らかいです……」
「それに比べて、トモ君のは……あらあらこんなに」
「あっ! ひっ、あっアアアァアア~~~~~ッ!!」
「えっ!? ちょ、あら、あらら……嘘ぉ」
「ハァ……ハァ……」
「もうちょっと頑張ってよ~。まだ先は長いんだから……」
嗚呼、お父さん、兄ちゃん、天国にいるお母さん、友達のみんな、ごめんなさい。
僕は今日、大人の階段を、同級生より一足先に上り切ってしまいました。
【一日目/日中/H-4灯台管理人詰所】
【本庄忠朝】
[状態]:健康、全裸、脱力感、放心
[装備]:無し
[所持品]:基本支給品一式、ウィンチェスターM1873(14/14)、44-40ウィンチェスター弾(140)
[思考・行動]
基本:殺し合いには乗らない。死にたくない。
1:ああ……。
2:伊藤さんと行動を共にする。
3:一ヶ所に留まり、出来るだけ動かないようにする。
【伊藤文子】
[状態]:健康、死に対する恐怖(軽)、全裸、興奮
[装備]:無し
[所持品]:基本支給品一式、ブッシュナイフ
[思考・行動]
基本:殺し合いはしない。生き残る。
1:トモ君可愛い……。
2:トモ君(本庄忠朝)と行動を共にする。
3:一ヶ所に留まり、出来るだけ動かないようにする。
最終更新:2009年11月15日 17:24