誤解が生んだ爆炎

中在家長次は、忍術学園に入学した時は良く笑う朗らかで闊達な少年だった。
だが忍術学園で過ごした六年間の間についた多くの傷。
それらは少年から笑顔を奪っていた。
否。
中在家長次は笑いを捨てたわけではない。
笑うと全身についた傷跡が引きつり激痛が走る。
それでも彼が笑う時とは――



「………」
中在家長次の前にあるのは、二つの女性の死体。
どちらもまだ若い。
そっと触れると、まだ生きていた頃の温かみが感じられた。
その現実が、中在家長次の心に重くのしかかる。

自分は、何をしていた。
何故、もっとここに早く来なかった。
そうすれば、この二人は死なずに済んだのではないか?

中在家長次は、怒った。
殺し合いを強要させたメガネの男に。
殺し合いに乗った存在に。
そしてなにより
その殺し合いの場に立たされていながら何もできなかった自分に激しく怒っていた。



「…ふへっ」
長次の口元が歪む。
口の端が持ち上がり、不気味な声が起きた。
「………ふへへへへへへへへへ…」
長次は、たまに笑う。
それも、その心にある激しい怒りを表すために。
長次は優しい人間だった。
非情になるべき時は非情になれるが、それでも彼はまだ15歳。(とてもそうは見えないが)
その彼が、立ち上がろうとしている。
だが、その姿はとても不気味なもので――



「キャアアアアアアアアアアア!!」

墓場に響く、少女の悲鳴。
長次がその方を向くと、何か大きなものを持って一目散に逃げていく緑髪の少女の姿が確認できた。
長次は放っておくわけも行かず、デイパックを担ぐと駆けだした。
すまぬ、すまぬと少女の死体に心で詫びを入れながら。



ただ、怖かった。
ただただ、怖かった。
鳴滝荘で共に過ごしてきた桃乃恵が死んだ。
いや、殺された。
その現実はあまりにもえげつなく、黒崎朝美の心をえぐった。
ただ、恐怖の感情のみが朝美の心を満たしていた。
恐怖の感情に支配されたまま当てもなくふらふら歩いていた朝美は出会ってしまった。
血だまりの墓場に倒れ伏す二人の少女に。
その少女の前で不気味に笑う、大男に。
それを見た瞬間、黒崎朝美の感情は――決壊した。

叫んだ。
涙があふれた。
ただ、逃げ出した。
あの大男に、自分も殺される。
恐怖が、どんどんと心をむしばんでいく。

ざざざ、と後ろから音がした。
涙で滲む目で振り返ると、そこにはあの大男が猛烈なスピードで朝美を追いかけてきていた。



長次としては、誤解を解きたかった。
長次はこの殺し合いに乗る気は全くない。
だが長次の姿を見て、あの緑髪の少女は逃げ出した。
恐らく、いやきっとあの少女は誤解している。
自分があの二人の少女を殺した、と。
その誤解はなんとしてでも解かねばならない。
長次の顔に、もう笑みはない。
あるのは、真剣な眼差し。



物凄いスピードだ。
普通の中学一年生にすぎない朝美の脚力ではもう1分もしないうちに追いつかれてしまうだろう。
それだけは、ダメだ。
追いつかれたら、殺される。

朝美の手にあった大きなもの……それはグレネードランチャー。
はじめ朝美はそれを見たとき、これは絶対使っちゃ駄目なものだと理解していた。
これは人を殺すものだ。
実物を見たことはない朝美でも、それが何であるのかは分かっていた。
とはいえ捨てるわけにもいかなかった。
自分が捨てた武器で誰かが傷つく可能性だってあったし、それにこの武器を捨ててしまったら自分を守るものは何もなくなってしまう。
朝美のデイバックに入っていた支給品はこれだけだったのだ。

撃つのか?
一瞬浮かぶ、黒い感情。
この引き金を引けば、あの大男を撃退する事が出来る。
朝美は、この武器の威力を知らない。
それゆえに、想像でしかこの先は測れない。
一つの判断ミスも許されないこの状況の中、朝美は涙をふるった。
そして、向かってくる大男の方を向いて、銃身を足元に向けた。
脚なら、もし万一当たっても致命傷になる事はない。
そう、朝美は思っていた。

(お願い、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん……皆、勇気を貸して!!)



引き金が、絞られた。



爆炎が立ち上る。
轟音が、耳を突き刺す。
「あ、ああ……」
朝美の目の前にいた男は、どうなったのか朝美には分からない。
ただ、自分の撃ったグレネードランチャーの想像以上の破壊力に、朝美はショックを受けていた。

撃った。
自分が、撃った。
今思うと、あの男が二人の少女を殺した確証なんてどこにもなかったじゃないか。
そんな男を、私は撃った。
「……うあ…」
さっきまで流していた涙とは違う涙が、つ、と朝美の頬を伝った。
がっくり、と脚の力が抜け膝から地面につく。
朝美の意識は、暗闇の中へと落ちていった。



「…今の音は?」
突然の轟音と火薬のにおいは、かつて自分も巻き込まれた戦場のそれを思い出させる。
いつきはその小さな体で爆音の上がった方へと走った。
「…!!」
そこには、火薬のむせかえるような匂いと焦げた大地、そしてその前で倒れ伏す緑髪の少女がいた。
「大丈夫だか?!しっかりするだよ!」
返事は、返らない。
その様にいつきは一瞬死んでいるのかとも思ったが、息はあるし、目立った外傷もない。
その事にいつきは胸をなでおろすと、朝美を背負い安全な所を目指し歩き出した。
その安全な所があるのかどうかは分からなかったが、このまま放っておくわけにもいかなかった。



「…くっ。」
一方、自分の知らない武器による爆撃を受けた長次は西へと歩いていた。
グレネードランチャーの爆撃で左足に火傷を負ってしまったが、日々の鍛錬の賜物か、命に別条は無い。
本当は墓場の二人の少女の遺体を弔いたかったのだが、いま自分の手当てをしなければ自分が弔われる側に回ってしまう。
幸い、西の方には湖がある。
そこでなら治療をするに必要な水も豊富にあるだろうと長次は思っていた。
痛む身体に鞭を打ち、長次は歩き出す。
すまない、という謝罪の念を胸に抱いて。





【F-6墓場/1日目朝】
【中在家長次@忍たま乱太郎】
[状態]:左足に火傷(中度)、体力消耗(小)、悔恨の念
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式(アイテム確認済み、治療に役立ちそうなものはありませんでした)
[思考]1:E-6の湖に向かい、脚を治療する。
   2:二人の少女の遺体(みか、福沢)を弔いたい。
   3:緑髪の少女(朝美)の誤解を解きたい。
   4:殺し合いには乗らない。

【黒崎朝美@まほらば】
[状態]:気絶中、精神的ショック(大)、いつきに背負われている。
[装備]:グレネードランチャー@のび太のBIO HAZARD(弾数不明)
[道具]:基本支給品一式
[思考]1:ごめんなさい……
   2:お母さんに会いたい。

【いつき@戦国BASARA】
[状態]:健康、朝美を背負っている
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式(アイテム確認済み)
[思考]1:殺し合いなんかには乗らねえ。
   2:女の子(朝美)を安全な所まで連れていく。

【支給品情報】

【グレネードランチャー@のび太のBIO HAZARD】
黒崎朝美に支給。
グレネード、すなわち手榴弾を打ち出す重火器。
出典元が出典元のため、小学生にも扱う事が出来る。



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最終更新:2011年10月23日 23:43
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