あっ、ども。はじめまして

さて、おおよそ一般庶民と呼ばれるような者が、人の死に触れる機会といえばなにがあるだろうか?
せいぜいが、自分の肉親や親戚筋の臨終に立ち会うとか、知人の葬儀に出るのがいいところだろう。
もし運悪く見ず知らずの他人が命を絶つ場面に遭遇しようものなら、焼きついた記憶はトラウマと名を変えることが多い。
人は必ず死ぬ……だが、それは日常生活の中では縁遠いものであり実感する機会は非常に少ないのである。

……ただし、例外はある。
たとえば医者なら? たとえば葬儀屋なら? たとえば捜査一課の刑事なら? たとえば"マグロ拾い"のアルバイトなら?
もちろん、こうした事例は"一般的"と呼ぶには差支えのあるものばかりだろう。
だが、彼女たちの場合はそうした事例よりもさらに"一般的"からかけ離れたものであることに触れねばなるまい。

"類は友を呼ぶ"という言葉がある。
フィクションの世界で言えば、"スタ○ド使いはス○ンド使いと惹かれ合う"という似たような意味の言葉も存在する。
この惨劇の舞台においては、意図して同類項に分類される者たちが集められているという経緯は確かにある。
……とはいえ、そうした中にあって、さらにより共通点の多い者が一所に集まりつつあった。
偶然として片づけるには、あまりに出来すぎとも思えるほどに。




 *      *      *




夜の森の中。
月明かりさえ僅かにしか差し込まないこの場所で、膝を抱えて顔を埋める一人の少女がいた。

「平次ぃ……」

後ろに髪を束ねたその少女は、外見さえ取り上げれば快活さを連想させるような風貌である。
しかし、いくら快活とて内面はまだ成人もしていないただの少女だ、人の死を目の当たりにして動揺しないわけがない。
おまけに、先刻彼女が目撃したのは、彼女の地元ではもうおなじみとなっているTVタレントの首が吹っ飛ぶ瞬間である。
見ず知らず、というには少し違う人物の死を目にした彼女は、その原因ともなった首輪が自らにも嵌められたのを知ってさらにふさぎ込んでいた。

現実逃避に走って、今のは夢であると言い聞かせることも普通ならできたのかもしれない。
ところが、幸か不幸か彼女は世間一般の同世代の少女よりもはるかに多く、人の死というものに触れてきたという経歴を持っていた。
幼馴染の少年にくっついてあちこち行く間に巡り会ってきたその光景は、彼女に"死"に対する意識を色濃く持たせるには十分であった。
また、自分が危険な目に遭ったことも少なくないこと、いつもは傍らにいる幼馴染がいなく独りぼっちであるということ。
いつも以上に迫っている自分の生命の危機を前にして、彼女は一歩も動けずにいたのだった。

「イヤや……アタシ、まだ死にたないわ……」

うっすらと涙を浮かべながら一人ごちるが、状況は変わることはない。
神に……というよりも、幼馴染の少年に祈るかのように首から下げたお守りをギュッと握りしめた。
ポニーテールの少女――遠山和葉の祈りが届くかどうかは知る術もない。




 *      *      *




遠山和葉が膝を抱えて途方に暮れている地点から、程ないところ。
普段は頼りない……けれど、一度スイッチが入れば誰よりも信頼できる幼馴染。
そんな人物を探して、一人の少女が茂みの中を進んでいた。
周りに危険な人物がいないかを確かめながら慎重に進んでいくその歩みは、女性の足としても相当に遅かった。
それでも、彼女は動かずにはいられなかった。

先刻の闇の中で、この"バトルロワイヤル"の開催を高らかに告げた人物のうちの一人を少女は知っていた。
過去に何度も彼女と幼馴染の前に現れ、奇想天外なトリックや巧みな心理誘導で罪を重ねてきた男、高遠遙一のことである。
彼女もまた過去に幼馴染と共に人の死には多数直面してきたし、また自分が危険な目に遭ったことも少なくなかった。
足がすくんで動けなくなりそうなところではあったが、黒幕の一人が自分のよく知る男であったことが彼女を突き動かした。
自分だけでは何とかできなくとも、その頼れる幼馴染に会えれば……あるいはそのことを他人に伝えられれば……

「はじめちゃん……どこなの……?」

一種の使命感のようなものに突き動かされ、黒髪の少女――七瀬美雪はなおも茂みをゆっくりとした足取りで進んでいった。



……と、その時であった。
不意に美雪の横の茂みから、ガサガサと人が進んでくる音が聞こえてきたのだ。
都会なら気にも留めないほどの音だったのかもしれないが、静寂に包まれた夜の森の中ならば話は別だ。
その音に思わず足を止めてしまった美雪が、迫りくる何者かにどう対処するかを逡巡する。
無害な者ならいいが、もしこの殺し合いに乗ってしまったものだとしたら……?
どうしよう? どうしよう? そう思っている間にも、美雪よりもずっと速いペースで音が近づいてくるのが分かった。
そして、思わず身構えた美雪の前に現れたのは――




 *      *      *




悪路をものともせずに茂みをずんずんと進む一人の少女がいた。
栗色の髪を後ろに縛ったその印象そのままに、その運動神経に彼女は自信を持っていた。
スポーツと名のつくものなら初見でもある程度こなすことが出来たし、好奇心と度胸にかけては人一倍のものを持っていた。

彼女もまた、ある級友と行動を共にすることで、人の死というものに多く直面してきた経験を持っていた。
彼女に先述の二人との相違点を探すとすれば、それは彼女自身が危険に晒されたことが極めて少ないということである。
人は死ぬもの、と理解はしているが、その恐怖以上に持ち前の負けん気が彼女を突き動かしていた。
もう一つ、彼女を動かす原動力として、名簿に記載されていた件の級友の存在があった。
浮世離れはしているが、頭脳労働に関しては右に出る者がいないその級友とて、身体能力は同世代の男子の中でも見劣りするものがあった。
自分が守ってやらないとやられちゃうのではないのかという、一種の母性本能のようなものがその原動力の正体である。

かと言って、決して彼女が無警戒に茂みを進んでいたわけではない。
彼女は、その懐に支給されたバッグに入っていたスタンガンを忍ばせていたのだった。
身のこなしには自信があるとはいえ、万一の備えは必要であり、この武器はその目的に適うものとして十分すぎる、彼女はそう判断した。
確かドラマとかではこれで悪い奴を撃退できたわよね、そう呟きながら彼女はなおも茂みをかき分けてずんずんと進んでいった。

一際背の高い草むらをかき分けたところで、この少女――水原可奈は視界に自分と同世代の少女の姿を捉えていた。
彼女自身他人に遭遇する可能性を見落としていたがために、一瞬動きを止めてしまっていた。
もし目の前の相手がゲームに乗ったものであればその一瞬が命取りになったのかもしれない。
……が、何はともあれ双方に攻撃を仕掛ける素振りが無かったことで、この邂逅は一組の仲間を生むことになる。

「……あっ、ども。はじめまして」

沈黙を打ち破るように切り出したのは可奈の方であった。




 *      *      *




美雪と可奈は簡単にお互いの自己紹介を済ませた。
共に頼れる知己の存在があったことで、まずはさらに仲間を増やして情報を収集することで話をまとめる。
そして可奈が前を、美雪が後ろを警戒しながらさらに茂みを進んでいくこととなった。
周囲を気にする美雪のペースに合わせ、可奈も先程よりはグッとその歩調を緩めての進行である。

「え~っと、それで……例のその"はじめちゃん"、だっけ? 見た目はどんな感じなの?」
「見た目……といってもね……背は私よりちょっと高いくらいのフツーの高校生だし……強いて言えば髪を後ろに縛ってるってくらいかな」

一刻の猶予もないということで、歩きながら小声で情報交換を行う。

「じゃあ……水原さんの知り合いの……」
「あ、いいよそんな他人行儀じゃなくって」
「そ、そう? じゃあ可奈ちゃんの知り合いの……燈馬君、だっけ? 特徴は?」
「う~ん……背は私よりちょっと低くって……パッと見だと弱っちそーな感じかな。あとは見た目はごく普通の高校せ……」

そこまで言いかけた可奈が不意に足を止める。
思わずその後頭部に自分の顔をぶつけてしまいそうになるのをなんとかこらえた美雪が問いかける。

「ど、どうしたの……?」

首をひょっこり出して可奈の向こうにある風景を見た美雪が、思わずあっ、と声を漏らす。
二人の視線の先には、体育座りでこちらを怯えた目で見つめる、やはり自分たちと同じ年頃の少女が一人。
そして、先程のやり取りをリフレインするかのように二人が声を揃えた。

「……あっ、ども。はじめまして」

――かくして、遠山和葉、七瀬美雪、そして水原可奈の三人は運命共同体となったのである。


【C-4 森 一日目深夜】

【遠山和葉@名探偵コナン】
[状態] 健康
[装備] 私服
[所持品] 支給品一式、ランダム支給品

[思考・状況]
1.平次に会いたい
2.目の前の娘たちと情報交換をする
3.人殺しなんて真っ平御免や


【七瀬美雪@金田一少年の事件簿】
[状態] 健康
[装備] 私服
[所持品] 支給品一式、ランダム支給品

[思考・状況]
1.一と合流したい
2.黒幕(高遠)の情報を伝えて団結して状況の打破を目指す
3.殺し合いなんて嫌だ


【水原可奈@Q.E.D. -証明終了-】
[状態] 健康
[装備] 私服、スタンガン
[所持品] 支給品一式

[思考・状況]
1.燈馬と合流したい
2.情報交換の後、さらに動いて仲間を増やしたい
3.誰かを殺すなんて考えられない


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最終更新:2011年09月12日 16:52
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