BROOKHAVEN HOSPITAL

第四十五話≪BROOKHAVEN HOSPITAL≫

私は病院の正面門付近に立っていた。
あの狼警官に襲われた後、私はエリアH-2に存在する雑貨店を探索したのだが、
正直食糧以外に目ぼしい物は無かったので、幾つか食糧になりそうな物と飲料を失敬した後、
住居部で発見した救急箱で傷の応急手当を済ませ、
早々に雑貨店を後にし、この市街地で目立つ部類に入る建造物・病院にやって来た訳だが。
この島で唯一の医療施設と思われるこの病院は、さほど大規模では無い。
鉄筋コンクリート三階建ての、小規模な病院だ。病院と言うより医院と言った方が良いかもしれない。
看板に「―病院」と明記されているので、病院と呼ぶ。

正面玄関の自動ドアをくぐり、病院受付があるロビーに入る。
受付のカウンター、合成革張りの長椅子、大きなテレビ、新聞が収められたラックに週刊誌や子供用の童話などがある小さな本棚。
病院らしい、清潔な屋内である。
当然の事ながら誰もいない。人っ子一人もいない病院ははっきり言って不気味だ。
いや……もしかしたら、病院内のどこかに先客がいるのかもしれないが。
壁に貼られていた病院の案内図を見ると、この病院は一階が受付、診察室、検査室、手術室、厨房などがあり、
二階は集団病室、ナースセンター、入浴室など。三階は主に個人病室があるらしい。
小規模とは言っても、一人で探索するには難儀な程の広さがある。

「……焦らず、一階から調べて行くしかなさそうだな」

一階の隅から虱潰しに調べて行くしか無さそうだ。
病院なのだから痛み止めや包帯などがあったら調達したい。
それに、もし他の参加者が隠れているようならば、そいつがそれなりに使える奴ならば仲間に勧誘し、
殺し合いに乗っている、或いは足手纏いになりそうならば――殺して首輪を頂く。
今自分が装備している長剣・ダマスカスソードならば、首を切断する事など容易いだろう。
首にはめられている首輪を解除しようにも、内部構造が分からなければ手の出しようが無い。
だからこそ首輪のサンプルが必要だった。
そのためには最低誰か一人には犠牲になってもらう必要がある。

「受付の奥から調べて行くか……」

私は受付カウンターを越え、奥にある事務室と思しき部屋へと入った。
デスクトップパソコンが乗っかった事務机が幾つか並んでいるが、
どのパソコンもパスワードロックされているようで、電源を入れても何も出来ない。
電話があったが、外線、内線共に繋がらない。
受話器を取っても何の音も聞こえてこないのだ。恐らく運営側の工作によるものだろう。
会計報告書、薬品納入書といった書類には何の興味も無い。
ふと、壁に掛けられた時計に目をやると、後25分程で昼の12時、放送時間になる。
探索中に放送が流れる事だろう。
重要な情報源なので聞き逃す訳には行かない。注意せねば。

「次行こうか……」

私は事務室を後にし、他の部屋を調べる事にした。


一階正面玄関から病院に侵入した女性憲兵・松宮深澄の読みは当たっていた。
この病院には既に何時間も前から先客がいたのだ。
三階の306号室に隠れている狼獣人の女性・島川奈織である。

私はデイパックの中に入っていたハンバーガーを食べていた。
こんな状況でもお腹は空く。
当然あっためる事なんて出来ないから、冷えたままで食べる。
時計を確認すると、もうすぐ昼の12時みたい。
この狂ったゲームが始まって、もう6時間が経とうとしてるんだ……。
昼の12時になれば、運営側から死んだ人の名前と数、禁止エリアの発表が内容の放送がある。
自分は誰一人として知り合いが呼ばれていないから、死者の発表よりも、
禁止エリアの事が気になる。
もし、自分がいるこの病院が存在するエリアG-2が禁止エリアに指定されたら、
私は場所を移動する事を余儀なくされる。
折角安全な場所を見つけて隠れているのに……。

とにかく、放送を待とう。後20分ぐらい。
どうか、どうかここが禁止エリアになりませんように……。

そう思う島川奈織は気付かない。気付く由など無い。
自分が隠れている病院の一階に、足手纏いは切り捨てるという思想を持った参加者が入り込んだ事に。
その参加者――松宮深澄からすれば、恐怖に怯え何も行動しようとしない奈織は、完全に「足手纏い」である。
「切り捨てる」とは、つまり「殺す」という事。
すぐそこに死の危険が迫っている事に全く気が付かない奈織は、自分の食糧を頬張りながら、最初の放送を待つ。

一階から順に探索していく深澄と、三階に隠れる奈織。
二人が遭遇するのは時間の問題となっていた。


【一日目/昼前/G-2病院】

【松宮深澄】
[状態]:右腕上腕部に掠り傷
[装備]:ダマスカスソード、防弾チョッキ
[所持品]:基本支給品一式、ノートパソコン、ハッキングソフト制作用のツール、
雑貨店より調達した食糧
[思考・行動]
基本:殺し合いからの脱出。首輪の解除。
1:病院の探索。放送に注意する。
2:仲間になりそうな他参加者を探す。但し足手纏いは切り捨てる。
3:殺し合いに乗っている者には容赦しない。
4:首輪のサンプルを手に入れる。

【島川奈織】
[状態]:健康、死に対する恐怖(大)
[装備]:簡易レーダー
[所持品]:基本支給品一式(食糧1/4消費)
[思考・行動]
基本:殺し合いはしたくない。死にたくない。帰りたい。
1:放送を待つ。
2:とにかく一ヶ所にじっとしている。動き回らない。




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最終更新:2009年10月10日 19:44
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