◇
これはそう―――一人の男が引き起こした物語であった。
◇
にっちもさっちも行かない現状に、ティアナ・ランスターは思わず溜め息を吐いていた。
殺し合いという異常且つ緊急的な事態に有効な手が浮かばない。
何時の間にやら装着させられていた首輪が、あまりに痛い。
本当に爆薬が仕掛けられているにせよいないにせよ、あんな凄惨なデモンストレーションを見せつけられれば人々は確実に恐怖を覚える。
JS事件を戦い抜いた事で心身ともに成長したティアナでさえも、心底では恐怖を感じるほどだ。
常人にとってこの恐怖はいかばかりか、凡人から這い上がってきたティアナにはそれが容易に想像できた。
(止めなきゃ……! 管理局の……機動六課の一員として!)
だからこそか。ティアナの決意が固まるのに大して時間は必要なかった。
ティアナの手中にある武器は、彼女の師たるエース・オブ・エースが相棒『レイジングハート』。
真紅の宝玉にティアナは魔力を込める。
一瞬の閃光と共に発現する魔法の杖は、ティアナの眼にこれ以上ない程に頼もしく映った。
「お願いしますね、レイジングハートさん」
『Yes,sir』
穂先にて金色の装具に包まれる紅玉へと言葉を飛ばして、ティアナは行動を始める。
現在、彼女がいる場所はC-8地点にそびえた小学校校舎であった。
二階建ての木造校舎は、どうにも古めかしい印象をティアナに与える。
いや、ミッドチルダで生活するティアナからすれば、古いを通り越して新鮮な印象すら与えるか。
ティアナが立つ部屋は二階の最端にあたる音楽室であった。
音楽界の偉人達の肖像画が飾られた壁に、巨大なグランドピアノ。
様々な管楽器や弦楽器が収められた棚が壁に寄り添うように何個もあり、棚と棚の間には折りたたみ式の譜面立てがまとめて置いてある。
(まずは校内の探索ね)
音楽室を見回すも、人の姿は見受けられない。
ティアナは早々に音楽室を後にし、校舎の端から端までを横断する廊下へと足を踏み入れる。
ティアナから見て右側には等間隔に窓が備えられており、左側にはこれまた等間隔に何個かの教室があった。
それら教室の一つ一つに入室し、教壇の下から掃除用具の仲間で丁寧に教室を捜索していくティアナ。
二階にある教室を一回り見て終えた時には、既に二十分程の時間が経過していた。
『周囲に人の反応はありません』
「そうですか……」
周囲に人の気配はなく、殺し合いの場とは思えない程の静寂がある。
ティアナは肩から少しだけ力を抜いて、息を吐いた。
警戒心を保つ事は必要だが、あまり気張りすぎてもいざという時に疲労が現れる。
最低限の警戒を残しつつも、心にある程度の余裕は持たせなくては。
両手に握るレイジングハートを肩に置き、ティアナはデイバックから水を取りだし一口煽った。
その時だった。
『あ、あー、ゴホン。えー、えー、ちゃんと動いてるかな、コレ?』
校舎の外から、そんなふざけた調子の声が聞こえてきたのは。
『えー、では……俺の名はヴァッシュ・ザ・スタンピード! お前らご存知のヒューマノイド・タイフーン様だ! 俺は今、D-8の市民館にいる! この俺の首が欲しい奴、腕に自信がある奴は市民館に集まりやがれ! 相手になってやるぜ、ヒャッハー!!』
『ヴァッシュ・ザ・スタンピード』やら『ヒューマノイド・タイフーン』やら、声は良く分からない事を言って勝手に盛り上がっていく。
放送は数分ばかり続き、そして一つの銃声により途絶えた。
事態を上手く掴むことができず茫然と放送を聞いていたティアナだが、その銃声に我を取り戻す。
あの放送が何の意図をもって行われたものかは分からない。
ただ放送の送信元では何かがあった。
銃声により放送が途切れたという事は、おそらく放送者である『ヴァッシュ』は銃撃でもされたのだろう。
何らかの争いが発生した、そう断定したティアナはレイジングハートを担いで行動を開始する。
目的地は『ヴァッシュ』が言っていたD-8の市民館。
距離としては一、二キロ。全力で走れば十分と掛らずに到着できるだろう。
一階を探索できなかった事に僅かに後ろ髪を引かれる思いを感じながら、ティアナは階段を駆け下りる。
だが結局のところ、彼女が市民館へと辿り着くのは大分後のこととなる。
階段を駆け下り終えたところでティアナは遭遇したからだ。
「う、うおおおおおおおおおおおおお!?」
コチラの顔を見るや否や震えた大声を上げて腰を抜かす長鼻の男と、遭遇する。
そのビビりように、逆にティアナの方が驚愕する程だ。
バタバタと四肢を動かし逃げ出そうとする長鼻に、ティアナが手を伸ばす。
腰を抜かした事が、運の尽きであった。
本来ならば惚れ惚れする程の逃げ足で逃走を行う長鼻も、腰を抜かした状態ではスタートが遅れる。
長鼻が走り出すよりも早く、ティアナはその肩を掴んでいた。
「ぎゃああああああああああああああ、殺さないでくれええええええええええええええ!!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて下さい。私は時空管理局の……」
「うわあああああああああああ、殺されるうううううううううううう!」
そんな周囲に誤解を招くこと間違いなしの声を上げて、長鼻は許しを乞うていた。
ティアナも落ち着くよう優しく声を掛けていたが、長鼻が冷静さを取り戻す様子はない。
ギャアギャアと騒ぎまわる長鼻にどう対処すれば良いのか分からず、ティアナも頭を抱える。
こんな感じで若き魔導師と、誇り高き海の戦士を目指す海賊とが出会った。
少しばかりの時間の後に、二人組みの男女は自らの足で進んでいく事となる。
『ヴァッシュ・ザ・スタンピード』が告げた市民館へと、放送に誘われた数多の人々が集まった市民館へと。
「ううわああああああああああああああああああああ!」
「……あの……話を聞いて……」
今はまだ名前すら知らない二人。
暗闇の校舎で向き合いながら、二人の凡人が互いの絶望に声を紡いでいた。
―――こうして若き魔導師と狙撃の王様は、台風の目へと進んでいく事となった。
【一日目/深夜/C-8・学校】
【ティアナ・ランスター@リリカルなのはStrikerS】
[状態]健康
[装備]レイジングハート・エクセリオン@リリカルなのはStrikerS
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×0~2
[思考]
0:話を聞いて…
1:男を落ち着かせる
2:機動六課の一員として殺し合いを打開する
3:仲間と合流する
【ウソップ@ONE PIECE】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
0:うわあああああああああああ、殺されるううううううううう!
1:仲間と合流したい。今すぐにでも
◇
キング・ブラッドレイは夜の森林を抜け、市街地へと足を伸ばしていた。
空へと伸びるビルの数々は、彼が良く知るセントラルの街並みとはまるでかけ離れた光景を構成していた。
物珍しげに視線を回しながらも、その警戒心は臨戦態勢にある猛獣のソレをも遥かに凌駕している。
手中の日本刀を武器に、人造の人間たる男が街を進む。
獲物を探し出すべく、足を動かしていく。
ブラッドレイがその参加者と出会ったのは、市街地に出て十分ばかりの時が過ぎた頃であった。
ブラッドレイの『最強の目』が、闇の彼方にいる人物を捉える。
(む……?)
その人物を捉え、ブラッドレイは小さな違和感を感じた。
目と目があったような気がしたのだ。
闇の先にいる、まだあどけなさが残る可愛らしい女性。
その女性と、濃密な闇を挟んで視線がぶつかる。
本来ならば有り得ない事だ。
女性との距離は百メートルは離れている。
『最強の目』を持つブラッドレイならまだしも、ただの女性が闇夜を透過して参加者の発見など出来る筈がない。
ブラッドレイは警戒をもって、女性の方へと歩みを進める。
「あ、どーもぉー。何か大変な事になっちゃいましたねえ」
やはり女性はブラッドレイの存在に気が付いていた。
ブラッドレイが声を発するより先に、女性の方から声を掛けてきたのだ。
何とも呑気で間延びした声。
女性は引きつりの笑みを浮かべながら、ブラッドレイを見詰めていた。
「……いやはやその通りだ。面倒な事に巻き込まれた」
女性に対してブラッドレイは平然の笑顔で返した。
胸裏の行動指針などおくびにも出さない。
気のいい上司のような様子で、ブラッドレイは女性に言葉を飛ばす。
鋭い眼光を目蓋の裏へと隠し、柔和な微笑みを携えて女性と会話を行う。
「ですよねえ。もう超厄ネタというか、完全詰みゲーというか。あ、さっきの放送聞きました? ヒューマノイド・タイフーンさんの」
「聞かせてもらったよ。なかなか興味深い演説だった」
「変な人もいるもんですねえ。あんな事して何になるんだか」
女性が出した話題は、ブラッドレイも良く知る話題であった。
それは緑髪の剣士を撃退して直ぐの事。
宛もなく森林を歩くブラッドレイへと、暗闇の奥深くから声が聞こえてきたのだ。
声は自身の事をヴァッシュ・ザ・スタンピードと告げ、D-8の市民館にいると告げていた。
その声に導かれるがままに森林を歩いたブラッドレイは、数分と掛からずに市街地へと到着した。
ブラッドレイが到着した時には既に放送は鳴り止んでおり、痛いほどの静寂が市街地を包んでいた。
そして、ブラッドレイはぶらぶらと市街地を進んでいき、この女性と遭遇した。
言わば、先の放送が女性とブラッドレイとの邂逅を導き出したのだ。
「私はこれから市民館に行こうと思う」
「はあ、そうなんですか」
「探し人がいてね。彼なら先の放送に誘い込まれているかもしれん」
「探し人スか」
「エドワード・エルリックという少年だ。小柄な少年で、金髪を三つ編みに結わっている」
「見たことないですねえ。で、そのエドを探してどうするんです?」
その回答に、ブラッドレイは女性の殺害を決定した。
エドワード・エルリックの情報を知らぬ以上、生かしておく義理はない。
冷淡な即決と共にブラッドレイは全身に力を込める。
一太刀で、勝負を決めるつもりであった。
「そのエドワード君を―――殺すんですか?」
だが、ブラッドレイがその一歩を踏み出す事はなかった。
寸前で、声が投げ掛けられたからだ。
彼に僅かな驚愕を与える、声が。
「プンプン匂うんだよ、血の匂いが。お前から、お前の服から、お前の刀から」
ゾワリと肌が粟立つのを、ブラッドレイは自覚した。
女性の纏う雰囲気が、豹変していた。
例えるならば、お人好しのお調子者から、何物をも獲物とする補食者(プレデター)へと。
音も立てず、前触れもなく、豹変した。
「少し眠ってろ」
女性の豹変に追随し、周囲の状況も変化する。
闇夜の市街地が、ヌルリと動いたのだ。
それはまるでホムンクルスの長兄が有する能力のように。
闇が、動く。
攻撃の為に使用する予定だった力の溜めを、ブラッドレイは回避に使用した。
絞られた雑巾のように身体を捻りながら、両足で地面を蹴り抜き後方へとバク宙を決める。
何処ぞの雑技団が如く動作を行いながら、抜刀。
回転しながら宙を飛ぶ過程で、ブラッドレイは刀を振るった。
ギンギンガンという鈍い音と共に、暗闇に青白い火花が散る。
刀が、襲い来る脅威を打ち落としたのだ。
一瞬の剣戟はブラッドレイを窮地から救い、無事な着地へと至らせた。
「……奇っ怪な『力』を使うな」
着地と共に、デイバックへと隠しておいたもう一本の刀を抜く。
二刀流の構えを見せ付けながら、ブラッドレイは事態を観察していた。
闇が、蠢いていた。
もっと詳しく言えば、女性の左手から伸びた影のような闇が動いていた。
闇は、剣のような鋭さをもって、足元からブラッドレイを襲撃した。
それに対しての回避行動が、一連の動作であった。
「アンタも良く避けたね」
女性の言葉にブラッドレイは疾走をもって答える。
ブラッドレイの突撃に女性は闇の刃を殺到させて応えた。
闇が作る十数の刃が、まるで壁のようにブラッドレイの進行方向へと立ち塞がる。
闇に混じって迫る闇の刃。
十数の刃は完全にブラッドレイの進む道を防いでおり、その身体を貫かんと迫る。
二本の刀で対象できるものには到底見えない攻撃であったが、
「なッ!?」
ブラッドレイは、その壁を容易く突破した。
闇と闇の隙間へと刀を振るい無理矢理に活路を切り開き、其処に身体をねじ込む事で刃の防壁を抜ける。
掠めた刃に身体の至る所で裂傷が刻まれるが、その程度で怯みはしない。
ブラッドレイは必殺の攻撃にして防御をかいくぐり、女性の元へと接近する。
その回避に対する、女性の驚愕は相当なものであった。
あれだけの密度で放った刃の数々。
例え自分であっても、たったあれだけの負傷で済む回避など出来やしない。
完全に見切られた、と女性は考える。
刃が、煌めく。
必殺の一撃を避けられた女性は、まるで隙だらけの格好でブラッドレイの刃を受けた。
驚愕の回避に、身体を動かす事すらできなかった。
その豊満な胸から腹部に掛けてを斜めに切り落とされた女性は、膝を折り、崩れ落ちるように倒れた。
女性から流れ出た鮮血が、闇を塗り潰して地面を染める。
鮮血の溜まりは時間の経過と共に範囲を広げていき、止まる気配がない。
完全な致死量の失血であった。
ブラッドレイは女性へと一瞥を送り、歩き始める。
その足先が向かうのは、『ヴァッシュ・ザ・スタンピード』がいるらしい市民館であった。
(……錬金術とはまた違う、未知の力か……)
キング・ブラッドレイは一抹の危機感を覚えていた。
先の女性が見せた、錬金術では説明の付かない不可思議な能力。
ホムンクルスの纏め役たるプライドが持つ力と酷似した、闇を操作する力。
『最強の目』をもってしても、無傷での勝利は困難であった相手。
垣間見た現実を前に、ブラッドレイは思考する。
(この場にはあのような者ばかりが集結しているのか?)
思考と共に浮かぶ感情は不安であった。
先の剣士といい、先の女性といい、その実力は国家錬金術師にも迫るだろう。
先の女性などは、実力だけを見ればホムンクルスの域にすら到達しているかもしれない。
遭遇した参加者の殆どが殆ど、常識離れの実力を持っていた。
その事実に、一抹の不安が拭い去れない。
彼の目的は『鋼の錬金術師』を元の世界へと帰還させる事である。
だが、この実力者だらけの殺し合いでは、最悪の事態に陥る可能性も充分にある。
自分が参加者達を殺害しきるよりも早く、『鋼の錬金術師』が死亡してしまう可能性だ。
『鋼の錬金術師』は人柱として必要不可欠な存在だ。
父の野望成就の為にも必ず生きて帰さねばならない。
だからこそ、全身全霊を賭けて参加者を殺害して回る。
それが現状に於けるキング・ブラッドレイの行動指針であった。
「……フッ、老体に無理をさせる」
のっぴきならない事態にあって、ブラッドレイは心中に不思議な感情が湧き上がるのを実感していた。
それは今までの何十年にも及ぶ人生で、終ぞ感じる事のなかった感覚。
ブラッドレイは、本人も知らぬ間に笑みを浮かべていた。
ホムンクルスとして圧倒的な力を持って誕生した自分。
敵対者とは、自分よりも遥かに劣る弱者であった。
人生とは、用意されたレールの上を進む拙いものであった。
だが、その人生が一変した。
この殺し合いに呼ばれている敵対者は、自分ですら絶対の勝利はない存在だ。
この殺し合いは、用意されたレールとまるで違う先の分からぬものだ。
未知の状況に、感情が沸き立つ。
それは憤怒とはまた別種の感情。
その感情がブラッドレイの表情に薄い笑みを湛えていた。
笑みのまま、ブラッドレイは殺し合いの会場を行く。
―――こうしてホムンクルスは、台風の目へと進んでいく事となった。
【一日目/深夜/D-8・市街地】
【キング・ブラッドレイ@鋼の錬金術師】
[状態]健康、頬に傷、身体のところどころに裂傷
[装備]和道一文字@ONEPIECE、雪走@ONEPIECE
[道具]基本支給品一式。
[思考]
基本:エドワード・エルリックを優勝させ、元の世界へ帰す。
0:市民館へいき『ヴァッシュ・ザ・スイタンピード』と放送で集まった参加者を殺害する
1:参加者を探し見つけしだい殺害する。
2:武器を探す。
[備考]
※能力が制限されている事に気付きました。
◇
『セラス……セラス!』
(むぐぐ……痛い、チョー痛い、死ぬうー)
『お前がその程度で死ぬか。油断しやがって、アホが』
そしてホムンクルスの立ち去った市街地にて、女性が一人寝転んでいた。
切り傷から大量の血を流して、だがまるでそれを意にも介さぬ様子で仰向けとなる。
「あー! ヒドい、ヒドい! 普通そんなこと満身創痍のレディに言います!?」
遂には上体を持ち上げる。
無人の市街地で誰かに向けて声を上げ、起き上がる女性。
端から見れば完全に痛い人であった。
『大声だすな! アイツが戻ってくるだろう!』
「うぅ、確かに……今の状態じゃ少しマズいかも」
その女性はセラス・ヴィクトリアといい、元婦警であり現吸血鬼のトンデモない存在であった。
肉体一つで人を紙切れのように千切り飛ばす吸血鬼。
銃で撃たれようと、刀で切り裂かれようと死ぬ事のない、人間離れのタフネスを誇る身体。
不老であり、桁外れの身体能力を有する存在。
それが吸血鬼。
それがセラス・ヴィクトリア。
「うぅー、痛いー。普通の剣で切られただけなのにー」
『……何か傷の治り、遅くねえか?』
「あ、やっぱそう思います? 私も変だなと思ったんですよ」
加えて、セラスへと吸血鬼の能力を与えた者は始祖にして最強の吸血鬼である。
人間を超越する吸血鬼をも超越する、そんな吸血鬼。
夜の者(ミディアン)にすら畏怖を与える存在が、セラス・ヴィクトリアであった。
『楽勝かと思ってたが……やべェな。ここにはお前と同レベの化け物がいるらしい』
「確かにさっきの人はスゴかったですねえ。あれに対応するとか、もう超ビックリ」
『反応がヤバいっつーか、体裁きがヤバいっつーか……あいつもアレか。お前ら的な人間やめちゃったって奴か?』
「違うと思いますよ。身体能力だけ見れば人間と同じくらいでしたし。ただ反応のレベルが吸血鬼越えてるっていうか」
セラスは吸血鬼となって長きの間、血を飲む事がなかった。
それは人間を捨て切れぬセラスの甘さであり、強さであった。
夕方をおっかなびっくり進む、中途半端な吸血鬼のままセラスは戦いを続けていった。
そんな彼女にも、血を吸う瞬間は訪れる。
最後の大隊(ミレニアム)との激戦の最中で血を吸ったセラスは、一つの魂を内包する事となった。
血とは魂の代価。
吸った血液は魂となってセラスの内で生き続ける。
それが先程からの会話の主だ。
『ピップ・ベルナドット』。
金の為に命を奪う、腐った傭兵集団のリーダーだった男である。
『どうすんだよう、セラス』
「……追っかけましょう。あの様子だと、あのオヤジ殺し合いに乗ってるみたいでした」
そんな元傭兵リーダーへと言葉を飛ばしながら、セラスは勢い良く立ち上がった。
胸元の傷は既に塞ぎ掛けており、出血などはもう止まっている。
セラスは立ち上がり、先程の会話を思い出す。
先のちょび髭は、『ヴァッシュ・ザ・スタンピード』の放送があった市民館へ向かうと言っていた。
おそらく嘘ではないだろう。
殺すつもりの相手にわざわざ嘘を言う事もない筈だ。
『はぁ、お前も物好きだな。こんなんはテキトーテキトーでやってきゃ良いのによお。一銭も貰えりゃしねえのに、わざわざ危ないとこ突っ込んでどうすんだか』
「いやあ。でも、私ってそう簡単には死なないし、こんなんで誰かが死ねのも可哀相じゃないですか」
『……ま、お前らしいよ、セラス』
心中の仲間へ言葉を飛ばして、吸血姫が暗闇を行く。
目指すは『ヴァッシュ・ザ・スタンピード』の放送にあった市民館。
―――こうして吸血姫は、台風の目へと進んでいく事となった。
【一日目/深夜/D-8・市街地】
【セラス・ヴィクトリア@ヘルシング】
[状態]胸腹部に切り傷(治癒中)
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
0:殺し合いを止める
1:髭オヤジの後を追い、ぶちのめす。
[備考]
※制限の存在に気が付きました。
※名簿の内容を確認していません。
◇
これはそう―――一人の男が引き起こした物語であった。
『ヴァッシュ・ザ・スタンピード』の放送に誘い出された五人の人物。
若き魔導師『ティアナ・ランスター』と狙撃の王様『ウソップ』。
最強の眼を有する人造人間『キング・ブラッドレイ』。
吸血鬼の始祖たる存在が世に産み落とした吸血姫『セラス・ヴィクトリア』。
四人が四人それぞれの目指すものを抱いて、市民館へと集結していく。
放送により集まる四人の人物。そして、市民館にて来訪者を待ち受ける『ヴァッシュ・ザ・スタンピード』に『佐倉杏子』。
彼等が描く物語は如何なるものか、それは誰にも知る由のないことであった―――、
最終更新:2011年07月05日 19:42