もう何も怖くない……そう考えてた時期が私にもありました

「ん、ナミすわぁ~~~~~~~~~ん!! ロビンちゅわ~~~~~~~~~~ん!!」

 探し人たる二人の女性の名前を叫びながら、男は夜の街を激走していた。
 鮮やかな金髪に覆い隠された左目に、蚊取り線香の如く螺旋を描いた右方の眉が特徴的な男。
 男は名をサンジといった。
 麦わら海賊団のコックにして、七千七百万ベリーの賞金をその首に賭けられし男。
 黒足の異名を関する、超大型ルーキーを船長とする海賊団の一員であった。
 サンジは今現在全力で暗闇の市街地を疾走していた。

(ああ、可哀相なナミさんとロビンちゃん……今頃何処かでふるえているに違いない……)

 探し人は二人の女性。航海士のナミと、考古学者のニコ・ロビン。
 それ以外の仲間などどうでも良い。
 あれだけの冒険を潜り抜けてきた野郎共がそう簡単に死ぬ訳がないし、何より野郎を助けて何になる。
 まず助けなければならないのは女性である。
 それが男の役目だと、サンジの信念たる騎士道が語っていた。

(待っててね、今俺が助けにいくから! おおお、今の俺は誰にも止められねぇ! ナミさんとロビンちゃんと出会うまで疾走を続ける俺は、そうまさにハリケーン!!)

 良く分からない思考内容で突き進む彼だが、その心根の想いは本物である。
 黒足で灰色の地面を蹴り、探し人を発見するまで止まらない。
 守るべき女性の為に一陣の風となり暗闇を駆けるサンジは、確かに騎士と呼ぶに相応しい。
 だがしかし、数分の後に彼はその脚を止める事となる。
 一発の銃声と、夜の市街地に響き渡る声に。

「い、いやああぁぁぁあああああああああああああ!!」

 もっと言えば夜の市街地に響き渡る『女性の』声に、サンジは脚を止める。
 それは恐怖に染まったかん高い叫び声。 平穏の中では決して上げる事のない声だ。
 サンジの決断は迅速で、行動はこれ以上なく俊敏であった。
 足先を声の聞こえた方へと向け、それまで以上の速度をもって疾走する。
 恐らくは危機の状況にある女性を救済する為、サンジは迷う事なく行動を取っていた。
 移動の中でも市街地に視線を送ってナミとロビンとを探しつつ、声の方角へと駆け抜ける。
 如何なる状況にあろうと、危機にある女性を放って置く事などサンジには出来なかった。

「ちっ、いくらこんな状況でも、レディを襲ってんじゃねえよクソ野郎……!」

 サンジの騎士道は女性への暴力を許さない。
 もし敵が此方の命を奪おうとしていても、それが女性ならばサンジは決して足を上げない。
 彼は自身の騎士道に絶対を賭けていた。
 女性に対して軽薄でおちゃらけた印象を受けるサンジだが、その騎士道に掛ける想いは本物である。
 彼は自身の騎士道に則って行動をしていた。
 女性を助ける為に、騎士道の男が走り続ける。






 巴マミは暗闇の市街地に呆然と立っていた。
 訳も分からぬ間に連れてこられた殺し合いの場。
 首に謎の爆弾を装着され、命を握られている状況。
 マミは眼前で人の首が吹き飛ぶ瞬間を見た。
 首輪型の爆弾が爆発し一瞬の閃光が走ったと思えば、血が噴水のように吹き出していた。
 人を容易く殺害した首輪型の爆弾。
 それと同様のものが、自分の首にも存在する。
 そう考えただけで背筋に寒気が走った。
 無意識の内にマミは両手を自身の身体へと回していた。
 震える身体を、全力で抱き締める。
 震えを抑え付けるように身体を包むも、震えが止まる気配はない。
 むしろ、それ以上の激しさを以て震える。
 もはやマミには震えを止める事ができなかった。

 その時、巴マミの脳裏にはとある光景が思い浮かんでいた。
 それは、あの惨劇の場に拉致される寸前の記憶。
 一つの願いを叶える代償として宿命付けられた、魔法少女としての戦いの日々。
 魔法少女としての戦いは如何なる時も命懸けであり、そして終焉を迎える事はない。
 倒せども、倒せども、また直ぐに別の魔女が現れる。
 何度戦い、何度勝利しても、決して終わる事のない戦いの日々。
 魔法少女としての日々は辛く苦しいものであった。
 そんな戦いの日々の中で偶然に遭遇した二人の少女。
 相棒であり命の恩人でもある存在は、少女達に魔法少女としての才能があると言っていた。
 嬉しかった。
 自分にも後輩ができるんだと分かり、純粋に嬉しかった。
 一人じゃない。孤独じゃない。
 後輩が、仲間が、できる。
 それはとっても嬉しい事で、後輩が見ている前では恐怖も何処かへと消えていた。
 寸分の恐怖もなく戦場に立ち、舞踏を舞うかのように洗練された挙動で戦う事ができた。
 その日も、そうだった。
 後輩の見習い魔法少女から告白された言葉。
 その言葉は、恐怖と孤独にまみれた心へ勇気と歓喜を灯してくれた。
 もう何も怖くない。
 心の底からそう思いた。
 歓喜に満ちた心のままに魔女と戦闘し、撃退した。
 必殺の一撃を直撃させ、魔女を葬った。
 その筈、だった。
 倒したと思った次の瞬間、視界が埋め尽くされた。
 自身の身体よりも大きな口に、視界の全てが埋まる。
 身を捩る事すら叶わない。
 時間が静止したかのように引き伸ばされ、だがそれは永遠には続かない。
 視界を埋める口が閉ざされ、全てが全て漆黒に染まり、


 ―――そして、巴マミは惨劇の教室に連れられた 。


「……いやっ……」

 目の前で見た明確な『死』に、『死』の寸前にあった自分の姿が連想される。
 眼前で首輪を爆破された男と、眼前に迫った口に噛み砕かれた自分。
 首を無くし鮮血を噴き出す男と、魔女に食いつかれ首を無くした自分。
 マミの中で記憶と記憶が混ざり合う。

「いやっ、いやっ、いやっ、いやっ、いやっ、いやっ、いやっ」

 心の奥底から込み上げてくる、薄ぺらな理性などでは抗いようのない感情。
 身体の震えは更に大きくなり、遂には立っている事すらできなくなる。
 円らな瞳に水が溜まり、せき止める事も出来ずに流れ落ちる。
 身体を震わせ、地べたに座り込み、両の瞳から夥しい量の涙を流す。

「いやっ、いやっ、いやっ、いやっ、いやっ、いやっ、いやっ、いやっ、いやっ、いやっ、いやっ、いやっ、いやっ、いやっ、いやっ、いやっ、いやっ、いやっ、いやぁっ!」

 もう何もかもが怖かった。
 魔法少女としての勇気も、魔法少女としての矜持も、魔法少女としての孤独感さえも塗り潰して、恐怖が心を支配する。
 思考は完全に止まっていた。
 心中を覆い尽くす感情に巴マミはただひたすらの拒絶を示し、だがその拒絶が巴マミへ救済をもたらす訳もない。
 マミは侵襲の感情に打ちのめされ、膝を折る。

「ねぇ、そこのアンタ」

 そんなマミに声を掛ける者がいた。
 その男は若く、少年のような外見をしていた。
 無邪気な相貌に無邪気な瞳。
 男は、どう見てもまともな精神状態ではない巴マミへと、印象通りの無邪気さで語りかける。
 投げ掛けられた言葉に、恐慌状態のマミも少年の存在に気付く。
 恐怖に潰された瞳を、上目遣いに少年へと向けた。

「ひっ」

 今のマミにとっては、無害そうな少年であっても恐怖の対象であった。
 悲鳴のような拒絶を吐きながら、座り込んだ状態で必死に後ずさる。
 その様子に流石の少年もムッとしたような顔を浮かべる。

「何だよ、俺が化け物か何かに見える? 俺は人間だよ。紛れもない人間」

 スタスタと歩み寄り、つらつらと言葉を並べる少年。
 屈み込み、視線を合わせて紡がれる言葉に、それでもマミは恐怖の渦中で首を降る。

「そう、俺は人間。相棒と二人で一つの―――」

 恐怖の行く末は、悲劇であった。
 ドン、と銃声が鳴り響き、少年の腹部が血に染まる。
 巴マミの手には何時の間にやら白銀のマスケット銃が握られていて、その銃口からは細い煙が伸びていた。
 少年の身体が、ぐらりと横に傾げる。
 その表情に浮かぶ感情は当惑であった。
 何が起きた、と云った様子でマミを見詰め、少年が静かに倒れ伏す。
 地面が、少年の身体から漏れた血液に、染まっていく。

「あ、ああ……」

 押し寄せる恐怖に限界を迎えた巴マミが、魔法でマスケット銃を発現させ、その引き金を引いてしまったのだ。
 全てが終わってしまった後で、マミは自分の行いに気が付いた。
 自分が人を殺害したという事実に直面し、恐怖と愕然とが混線する。
 現実から逃避するように、惨状へと背中を向けて走り出す。

「……いったー」

 そこで、声を聞いた。
 十数秒前にも聞いた純粋で無邪気な声。
 今度こそ驚愕が全てを飲み込んだ。
 振り返るマミの視界に映った光景は、現実とは思えないものだった。
 腹から血を流した少年が、平然とした様子でこちらを見詰めている、その光景。
 言葉すら無くなり、マミは再び腰を抜かす。

「ひっどいなあ。普通だったら死んでるよ、コレ」

 少年は血を滴らせながら近付いてくる。
 表情はやはり無邪気で、だがその無邪気さが今は異様にしか思えない。
 最早後ずさる事すらできずに、巴マミは迫る少年を見ていた。
 ぶつかり合う歯が、ガチガチと音を鳴らす。

「ねぇ?」

 息と息が触れ合う位置にまで近付いた少年が、唐突に手を伸ばす。
 段々と近付く手が、マミの視界を覆っていく。
 それはまるで、あの時のよう。
 拉致される直前に見た『死』の記憶。
 緩慢に視界を覆っていく手が、自分を噛み殺そうと開口した魔女の姿とダブる。


「い、いやああぁぁぁあああああああああああああ!!」


 恐怖が、驚愕が、絶望が、声となって溢れ出した。
 もう限界であった。
 殺し合いが開始してからずっと、いや殺し合いが開始する前から蝕まれていた巴マミの心が、遂に限界を迎える。
 限界を迎えた心は現実からの逃避を選択した。
 意識が暗闇の中へと消え去り、マミの身体が真横に倒れる。
 限界に迫った心が、半ば強制的に意識を喪失させた。

「あれ。やり過ぎちゃったかな」

 気絶したマミをツンツンとつつきながら、少年はいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
 既に腹部の傷は塞ぎ掛かっており、出血も止まっていた。
 常人離れした回復力をまざまざと見せ付けながら、少年は軽い調子で頭の所で手を組んだ。
 そのまま背筋を伸ばして、満月の輝く空を見る。
 少年の名は『怪盗X(サイ)』。
 相棒と二人で一つの犯罪者(ユニット)。
 病気とも新種とも称される男のクローンとして誕生し、それでも『怪盗』としての自身を自己と理解した少年である。

「はー、それにしてもどうしよっかな」

 あの時死んだ筈の自分が、何故こうして五体満足で生存しているのかは分からない。
 心臓を爆破され、胴体を斜めに切り落とされた。
 流石の怪盗Xであっても死は免れない傷であったし、彼自身、命の潰える瞬間を記憶している。
 あの探偵を泣かせてやり、最後の変身を行い、満足感に満ちた最期を迎えた。
 死の瞬間に立って思えば、中々に刺激的で、楽しかったと言える人生だった。
 相棒と出会え、宿敵と呼べる存在に出会い、自分自身を知る事も出来た。
 そんな人生が満足感に満たされながら閉じ、Xは相棒の待つだろう所へと旅立った。
 その末の、殺し合い。
 僅かな苛立ちが沸き上がるのを、Xは止める事ができなかった。


「うん、決めた。盗んでやるよ。主催者たち、それとシックス。お前たちの『命』を」

 感情に任せて、決意は固まった。
 バトルロワイアルの主催者たる兵藤、そしてシックス。
 その他諸々に殺し合いの開催へ関わりを持つ人物達の『命』を盗み出すと、怪物強盗が決意する。
 Xが有する能力は、完全変身能力に記憶解析。
 先の教室にて兵藤を観察した時、断片的な記憶の中にシックスの名があった。
 あの魔人から逃げ切る事ができたのか、新種の人類たる男は生存している。
 成る程、シックスならばこの陰鬱なゲームを楽しむ事もできるだろう。
 『悪意』という言葉をそのまま現実へと具現化させたような男ならば。

「お前たちの『命』を、怪盗Xがいただくよ」

 Xの顔が笑みを作る。
 今までのような無邪気な笑みとは違う、言うなれば獲物を眼前にした肉食獣の如き笑み。
 復活の怪盗が、再動を始める。
 主催者陣営の『命』を、唯一の新種たる男の『命』を盗む。
 その決意を胸に、怪盗Xが始動する。


「そのレディから離れろ、クソガキ」


 だが、怪盗Xが決意を果たすには、一つの障害を乗り越える必要があった。
 巴マミの叫び声を聞いて駆け付けた騎士道の男。
 男が見たのは、気絶中の女性を足元に置いて獰猛な笑みを浮かべる血塗れの少年。
 勘違いは当然であった。
 黒足のサンジが、怪盗Xを睨み付ける。
 瞳にギラギラとした闘争心を宿したサンジが、怪盗Xと相対する。
 現状が厄介な事になりつつあると理解して、Xは子どものように困った表情を作った。



【一日目/深夜/G-4・市街地】
【サンジ@ONE PIECE】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
0:殺し合いには乗らない。
1:気絶しているレディを助ける
2:ナミとロビンを探しだし、保護する
3:2の後で仲間を探す
[備考]
※少なくともスリラーバーグ編後から参加しています

【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]健康、恐怖、
[装備]ソウルジェム(穢れ無し)@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
0:気絶中
1:もう何もかも怖すぎる
[備考]
※シャルロッテ戦・捕食の直前から参加しています

【X@魔人探偵脳噛ネウロ】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
0:主催者とシックスの『命』を盗む
1:現状を何とかする
[備考]
※原作死亡後からの参戦です



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最終更新:2011年08月22日 00:54
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