高級車でGO!

第三十七話≪高級車でGO!≫

エリアB-8の豪邸。四宮勝憲と金ヶ崎陵華は何か使えそうな物は無いかと豪邸内を探索していた。
豪邸内には広いリビングを始め、映写室、運動室、寝室が三つ、
吹き抜けがあり天井に豪華な鉄細工の施された天窓がある玄関ホール、
大理石の浴室、書斎、パソコンルームなど、多くの部屋が存在していた。
想像以上に広大な面積を誇るため、二人は手分けして探索を行っていた。
しかし、護身用の武器などは置いておらず、調達出来たのは、
牛刀包丁、幾つかの食糧と飲料、ニンテンドーDS用ゲームソフト4本だった。

「こんな広い家なのによー、武器になりそうなモンは包丁だけかよ。しけてんなァ。
護身用に銃とか置いてあったら良かったのによ」

勝憲が不満そうに言った。

「いや、勝憲さん十分強力な銃持ってるじゃない……」

勝憲がスリングで背負っているアサルトライフル、FALを見ながら陵華が呆れた感じで言う。
FALは7.62㎜×51という高威力の小銃弾を使う強力なアサルトライフルである。
しかし弾薬が強力なためフルオート(連射)時の反動が凄まじく、フルオートは実用的で無いと言われる。
逆にセミオート(単発)時は非常に高性能で、セミオート限定モデルも製造されている。
勝憲に支給されたFALはセミオート限定モデルだった。

「そりゃそうだけどな、やっぱ武器は豊富に越した事は無え……ん?」
「? どうしたの四宮さん」
「しっ、ちっと静かにしてろ。そこ動くなよ」

何か気配を感じたのか、勝憲はFALを構えながら、カーテンが閉められているガラス戸の方へ歩み寄る。
ガラス戸の向こうは豪邸正面の庭園だ。
何事かと思い、陵華は少し不安な面持ちで勝憲の様子を眺めた。
勝憲はカーテンのほんの僅かな隙間から庭園の様子を窺った。
豪邸の正面門付近に、緑色の髪の若い女性が立っていた。手には鋭利そうなサーベルを携え、
そしてなぜか、野球帽のような帽子を被っていた。

(他の参加者か……ここに避難してきたのか? それとも……)

女性がこの豪邸に来た理由を考えていた勝憲は、その女性がサーベルを腰に提げていた
鞘にしまい、デイパックから何やら小さい黒い物を取り出すのに気がついた。
その黒い物のピンのような物を抜き、それを自分達がいるリビングのガラス戸の方へ投げ――。

「陵華! 来い!!」
「えっ!?」

これから起こる事を察知した勝憲はソファーに座っていた陵華の腕を掴み、
リビング横のキッチンの流し台の陰に避難した、直後。

ドガアアアアアアン!!! バリイイインガシャアアア……。

鼓膜が破れそうな程の轟音と共に、室内に粉塵と爆風が吹き荒れる。
幸い、勝憲と陵華の二人は流し台の陰にいたため、怪我は無かった。

「な……何……?」
「見りゃ分かんだろ、敵襲だ! 逃げるぞ!」

勝憲は再び陵華の手を引き、台所の裏口から豪邸の母屋のすぐ隣にあるガレージへ向かった。
交戦する事も考えたが、あの爆発を引き起こした兵器――恐らく手榴弾だろう――を
また投げられでもしたら今度こそアウトかもしれない。
相手がどれくらい手榴弾を持っているか分からないし、ここは逃げた方がいい。
そう判断した勝憲は、ガレージに停車してある車で逃走を図ろうと考えたのだ。
非常に急いでいたが、二人共自分の荷物を持つ事だけは忘れなかったのは凄い。

ガレージに停まっている車は、レッドカラーのLA4型ルーチェと、ホワイトカラーのS110型クラウンの二台。
ルーチェはドアロックされていたが、クラウンはキーが差し込まれたままで、
当然ドアロックもされておらず、勝憲は運転席、陵華は助手席に座った。

「よっしゃ、一気に発進すっぞ!」

キーを回し、エンジンをかけ、ギアレバーを操作する勝憲。

「ちょっと待って! シャッターが……」

ガレージのシャッターが下りたままになっていてこのままでは発進出来ない、
という旨の事を言おうとした時には、もう時既に遅し。

ガシャアアアアアン!!

派手な音を立て、アルミ製のシャッターは破壊され、フロント部分が少しへこんだクラウンが
猛スピードで発進し、そのまま幹線道路に乗り直進。豪邸を後にした。


「また、逃がした……くそっ」

遠くへ走り去っていくセダンを見ながら、襲撃者――新藤真紀は悪態を付く。
古城を後にした後、地図を見ながら決めた行き先は、エリアB-8の豪邸だった。
そして豪邸に到着した真紀は、一階のカーテンが閉め切られている一角に注目し、
様子見という名目で、古城で殺害した野球選手・長谷川俊治から鹵獲したマークⅡ手榴弾を
デイパックから一つ取り出し、その一角に向けて投げた後、塀の陰に隠れた。
その直後、手榴弾は炸裂し、優美な外観だった豪邸の一部を無残に破壊した。
爆風による粉塵と火災が起こる中、スカートに差し込んであった二六年式拳銃を引き抜き、
警戒しつつ、ゆっくりと豪邸へと近付く。
そして爆風で吹き飛んだ玄関扉に近付いた時だった。
母屋の隣に建っていたガレージのシャッターを突き破り、猛スピードで走り去っていく車を目撃したのは。
この時、真紀は確信した。

「ま た に げ ら れ た」

と。

「ハァ……同じ失敗二度も繰り返してんじゃないわよ私」

古城においても、襲撃した狐の少女を取り逃がした苦い経験があった真紀。
次に遭遇した野球選手の男は痛手を負いつつも仕留める事に成功したが、
二度も獲物に逃げられるのは非常に悔しく、不愉快だった。

「あら、火事になりそう」

爆風で破壊された部分から火の手が上がり、黒煙がのぼり始めている。
しばらくすればこの豪邸全体が火の海になるだろう。
中を探索したかった真紀だが、深入りし過ぎて火や煙に巻かれるような事態は嫌だった。
今こうしている間にも徐々に炎に包まれようとしている豪邸。
真紀はその隣に建っている、先程車が飛び出したガレージに注目した。

「……まだ、車あったりするかな」

ここまでずっと徒歩で歩き、足も疲労が積み重なってきている。
もし車があれば飛躍的に移動が楽になり、その気になれば他参加者を轢き殺す事も可能である。
車が二台入れそうな大きなガレージなので、もしかしたらもう一台あるかもしれない。

「火が回らない内に、調べておこう」

真紀はシャッターが破壊されたガレージに向かい歩き出した。


【一日目/午前/B-8豪邸】

【新藤真紀】
[状態]:身体中に掠り傷及び軽度の打撲(応急処置済)、悔しみ、不愉快
[装備]:二六年式拳銃(6/6)、長谷川俊治の野球帽
[所持品]:基本支給品一式、9㎜×22R弾(32)、 サーベル、ラドムVIS-wz1934(5/8)、
ラドムの予備マガジン(8×9)、マークⅡ手榴弾(3) 、長谷川俊治の水と食糧(食糧1/5消費)
[思考・行動]
基本:優勝を目指す。積極的に他参加者と戦う。
1:ガレージを調べる。車があれば拝借する。
2:知人(須牙襲禅)とは出来れば会いたくない。
3:標的を逃がすようなヘマはしたくない。
[備考]
※車に乗っていた四宮勝憲、金ヶ崎陵華の二人の姿は認知していません。


さて、車で襲撃者からの逃走に成功した四宮勝憲と金ヶ崎陵華の二人だが、
今彼らはなぜかエリアB-4の草むらにうつ伏せで倒れ、気を失っていた。
その背後には木に正面衝突し、ボンネットから煙を上げ大破したホワイトカラーのS110型クラウン。

何が起こったのか説明すると、豪邸を脱出後、
勝憲の運転で車は豪邸から見て正面の直線道路、会場北部の幹線道路をずっと道なりに進んでいた。
しかし神様の悪戯か、右前輪のタイヤが突然パンクし、
それなりにスピードの出ていた車は制御不能に陥り、散々蛇行した挙句、
スピンを起こしコースアウト、そのまま道路左側の森林地帯の木に正面衝突してしまったのである。
両人共シートベルト着用済で、勝憲が咄嗟の判断で思い切り急ブレーキを踏んだ事が
幸いしたのか、二人共身体の節々を痛めたが、命に別条は無かった。
しかし、急襲された事による精神的疲労、事故による肉体的ダメージにより、
大破した車から脱出して数歩歩いた時に、ついに気を失ってしまったのである。

ちなみに二人が気を失う直前に発した言葉は、

「何でこうなるの……」

である。

【一日目/午前/B-4道路脇の草むら】

【金ヶ崎陵華】
[状態]:足に軽い擦り傷、全身打撲(軽度)、精神的疲労(中)、気絶
[装備]:コルトM1908”ベストポケット”(6/6)
[所持品]:基本支給品一式、コルトM1908の予備マガジン(6×10)、カッターナイフ、ニンテンドーDS、
ニンテンドーDS用ゲームソフト(4)、調達した食糧及び飲料、牛刀包丁
[思考・行動]
基本:(気絶中)
1:四宮さんと一緒に行動する。
2:何でこうなるの……。

【四宮勝憲】
[状態]:全身打撲(軽度)、気絶
[装備]:FN FAL(20/20)
[所持品]:基本支給品一式、FN FALの予備マガジン(20×10)
[思考・行動]
基本:(気絶中)
1:陵華と行動する。
2:麗雅と美琴の捜索。
3:何でこうなるの……。
[備考]
※支給されたFN FALはセミオート限定モデルです。


※B-8一帯に爆発音が響きました。
※B-8豪邸で火災が発生しました。消火活動がなされない場合、一時間もしない内に全焼します。
※B-4に大破した車が放置されています。




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最終更新:2009年10月09日 23:02
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