それが彼女のアイデンティティ

「ん~……スーパーにヤバい状況になっちまったなコリャ」

F-3に位置するデパートの屋上……その一面に広がるアミューズメントゾーン。
主婦達により繰り広げられる激戦から退避したお父さん方が、子供と共に訪れる憩いの場である。
だが今現在、その憩いの場にはアロハシャツに海パン一丁という未来を先取りしすぎなファッションをした一人の変態しかいない。
その成りは殆ど一発通報もの。
純粋な子供が見たら、下手すればトラウマものの姿であった。

「アイツ等は全員呼ばれてるらしいな……まぁアイツ等なら大丈夫だと思うが、早めに合流しといた方が良いだろ」

その変態はスーパーに変なポーズを取ったまま、デイバックから一枚の紙……参加者名簿を取り出し、一人呟きを続ける。
そこに記されるは自分が仲間として迎え入れられた海賊団の面々達。
不運な事に団員全員の名前が記載されている。
総人数の実に九分の一が彼の仲間達であった。

「……この首輪も……道具と、ある程度の設計が分かれば何とかなりそうだが……」

自身の首に巻き付けられた鉄輪に触れながら、ウンウンと唸る変態。
このような容姿とはいえ彼は相当な技術力を有している。
世界背景からして機械工学系の知識に関しては劣るところもあるが、それでもその技術力は充分有効なものであろう。
上手く立ち回れば首輪の解除も可能かもしれない。

「フン、確かにヤバい状況かもしれねぇな……だが、今週の俺はスーパーに止められねぇ!!」

完璧に自己の世界にのめり込みながら変態は一人盛り上がっていく。
頭部にそびえるリーゼントを揺らし近付いていくは屋上の出口。
客同士の衝突がないように透明なガラスで作られた扉に手を掛け、横にスライドさせる。
そしてデパートの中へと足を踏み入れ、階段を探すべく少し歩いたところで―――

「あん?」

―――その少女と遭遇した。



■ □ ■ □



「そうか、嬢ちゃんの仲間も呼ばれてるのか……」

数分後、変態―――フランキーは遭遇した少女と共にデパートの中に居た。
デパート一階に並ぶ飲食店コーナー、その中央にある喫茶店に向かい合う形で座っている。
二つの椅子と一つの机。
少女の手前ではコーヒーが湯気を立て、フランキーの手前では紙コップに入れられたコーラが小さな泡を浮かべている。

「はい……圭一君と魅ぃちゃんが……」
「おう、そんなしょげた顔するなよ嬢ちゃん。スーパーな俺様に任せとけ! 絶対に仲間と合わせてやるよ」

嬢ちゃんと呼ばれた少女―――竜宮レナはフランキーの励ましに元気の無い微笑みを浮かべる。
余りに過酷な現状に消耗しているのがフランキーにも容易に見て取れた。
無理もない事だ、とフランキーは思う。
こんな子供が殺し合いに参加させられ、挙げ句友達まで呼ばれているのだ。
最初に出会ったのが自分で良かったと、フランキーは心底から感じていた。
自分さえいれば殺戮者から守る事ができる。
仲間達に匹敵する強敵が参加している可能性もあるが、逃亡する事ぐらいは出来る筈だ。

「ありがとう……ございます」
「おう、任せときな!」

深々と頭を下げる少女に、フランキーは元気付けるような笑みを浮かべた。
そして、机に置かれたコーラを煽り、飲み込む。
パチパチと心地の良い刺激が喉元を通過し、食道へと流れていく。
身体全体に力が漲る感覚であった。
「ん~スーパー!」と大声を上げながら両腕を合わせ、二の腕に張られた星印を誇示するフランキー。
サングラスを掛けた変態がデパートの中心にて咆哮する。
そんなフランキーにレナは苦笑を浮かべて、言葉を掛ける。

「フランキーさん、あまり騒ぐと他の人にも見つかっちゃいますよ……」

だが、そのレナの言葉も変態の耳には全く届かず。
フランキーは一人楽しそうに不思議な踊りを躍り始める。
レナの手が飲み欠けのコーラに伸びたのは丁度その時。
デイバックから取り出した、まるで弾丸のような形状の物体をコーラの中に落とす。

「フランキーさん……そろそろ外に出ませんか? 早くしないと圭一君達に万が一の事が……」
「アウ! そうだったな! じゃあ急ぐぞ、レナ!!」

そう言い放つとフランキーは、飲み欠けのコーラを一気に飲み干した。
―――勿論、その中に含まれる物質ごと。
フランキーは美味しそうに、満足そうに、飲み込んだ。
彼の身体に変化が現れたのは数秒の経過すらしない、直後の事。

「……あ゛?」

鉄が仕込まれた頑丈な顔面に、謎の水疱が、数個に渡り浮かび上がった。
それは一人でに膨れ上がり、そしてシャボン玉のように容易く破裂。
薄皮に隠されていた赤色の筋が表へと現れる。
だが、その真紅も直ぐに変色し、緑色や紫色の入り混じった醜悪なものへと変貌していく。
ボトリ、ボトリと、彼の顔面を組織していた筋肉が液状になって床へと落下する。

「お゛……お゛……?」

皮膚と肉が腐り落ちた顔からは、表情を読み取る事が出来ない。
フランキーは腐った顔をグラグラと揺らした後、レナが立つ方へと振り返る。

「あ゛ー……」

その瞬間、彼の視界に映り込んだ光景は、少女が鉈を振り上げているといったものであった。
まぁ、この時点で彼の視神経が正常に機能しているとは到底思えないが、機能していればそのような光景を捉えていたであろう。

―――グシャリ

そして、その鉈は、融解しかけていたサイボーグの脳天を両断した。
鉈は、彼のシンボルとも言えるサングラスをもたたき割り、その顔の半分の箇所まで到達。
傷口から流れ込む『顔面だったもの』が血管を塞いだのか、出血は殆ど無かった。
数多もの人を叩き伏せてきたその頑強な身体が、デパートの床面に力無く倒れる。
その最期は余りに呆気なく……数奇な人生を送った男は絶命した。



■ □ ■ □




―――それはとある『血族』が作り上げた、森一つを操れる程の有毒極まる薬品の数々であった。
弾丸の形をした入れ物に封されていたそれを、レナはコーラの中に混入した。
同封されていた説明により強力な毒薬という事は分かるが、その効き目の程は読み切れない。
フランキーへの使用はある種の試験投与。
その効果を把握する為の使用でもあったのだが―――結果はレナの予想を遥かに越えていた。
常人離れした耐久力を持つフランキーを容易く絶命に至らせ、レナにキルスコアを献上したのだ。

「私は騙されない……お前たち宇宙人になんか騙されない……」

―――そして後に残るは、鬼気迫る表情で肩を上下に揺らす少女が一人。
数瞬前までの穏やかな雰囲気は何処かに消え失せ、その変わりとして狂気が浮かんでいる。

「絶対に……絶対に生き延びてやる……私はこんな殺し合いなんかで死なない……!」

結局のところ、少女は完全に狂っていた。
彼女の故郷に蔓延する風土病―――『雛見沢症候群』。
それが発症する事により極度の人間不信に陥り、疑心暗鬼が止まらなくなる。
今の彼女はまさにその状態であった。
故郷の人々が宇宙人だという妄想に駆られ、親友すら信用できなくなり、徐々に崩壊へと進んでいく。
それが今の彼女………このまま放置すれば彼女は喉をかきむしり悶死するだろう。

「お前ら宇宙人なんかに殺されない……私はお前らの演技になんか騙されない……」

バトルロワイアルという特異な状況により、雛見沢症候群の症状は加速度的に侵
攻を早めていた。
疑心暗鬼は更に深まり、殺人すら忌避しないまでに彼女の理性を削っている。

「死んでたまるか……絶対に死なない……絶対に……絶対に……絶対に……!」

結果、彼女は味方と成り得た優しきサイボーグを殺害してしまった。
このまま狂気に染まりきるのか、それとも踏みとどまれるのかは、分からない。
ただ現時点に於いては、少女の狂気を阻止する術は存在しない―――それだけは確固たる事実であった。


【フランキー@ONE PIECE:死亡】

【残り84名】



【一日目/深夜/F-3・市街地・デパート】
【竜宮レナ@ひぐらしの鳴く頃に】
[状態]健康、雛見沢症候群発症中(L4)
[装備]レナの鉈@ひぐらしの鳴く頃に、ヴァィジャヤの毒薬(12/13)@魔人探偵脳噛ネウロ
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×0~1
[思考]
1:会場にいる宇宙人を全員殺し、雛見沢に帰る
2:圭一達は宇宙人にすり替わっているか確かめ、宇宙人であったら殺す

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最終更新:2011年09月21日 19:42
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