狂女は狼に屠られる、そして女狐は休息する

第三十五話≪狂女は狼に屠られる、そして女狐は休息する≫

誰もいない市街地の路上を、金髪の若い女性が歩いていた。
しかし、女性の目は焦点が定まらず、ブツブツと何かを呟き、足取りは覚束ない。
もしこの市街地に平常通りの人通りがあったならば、
皆、彼女の事を不審がり、忌避するだろう。
彼女――瀬山はるかは、座礁客船で女性憲兵に向け発砲した後、
宛ても無く歩き続け、いつしか草原を越え、固いアスファルトで舗装された道路の上を歩いていた。

「襲われたら殺さなきゃ……襲われる前に殺さなきゃ……殺される前に……」

何度も何度も、同じ言葉を繰り返し呟くはるか。
このバトルロワイアルという異常状況は、彼女の心を修復不可能なまでに破壊していた。
もはや、彼女にとっては、他の参加者全員は「自分を殺しに来る敵」という認識しか出来なくなっていた。

「殺さなきゃ、私、殺されちゃうんだもん、しょうがないよね。あは、あははは」

掠れた声で笑うはるか。そして交差点の中央付近を歩いていた時。

ドォン!!

一発の銃声が辺りに響いた。直後、はるかは自分の胸元に妙な違和感を感じた。
とても熱い。何かが流れ出ている感覚。
はるかは自分の胸元を見て、言葉を失った。
白い色だったはずの自分の上着のシャツが、真っ赤に染まっている。

「あ……え……? これ、な」

ドォン!!

二発目の銃声が響き、はるかの後頭部に強い衝撃が走る。
そしてそれが彼女が最期に感じた知覚だった。


「ふぃ~。二人目だな、これで」

右手に持ったトカレフTT-33の銃口から噴き出ている煙を吹き消しながら、
狼の顔を持つ警官――須牙襲禅は軽い口調で言った。
襲禅は獲物を求めて市街地を北上中、交差点の右折方向の道路を不動産会社の建物の陰から顔を出し、様子を見た。
するとふらふらと路上を歩く金髪の人間の女性を発見したので、
不動産会社の入口付近で待ち伏せし、女性が交差点に現れるのを待った。
そして狙い通り、女性は交差点を直進し、交差点中央付近まで進んだ所を狙撃し、仕留めたのである。
襲禅は戦利品を得ようと、周囲を警戒しながら脳漿を撒き散らして無残な屍を晒している女性の元へ歩み寄る。
すると、女性の右手の近くに古めかしいデザインの自動拳銃が落ちていた。

「うほっ、コルトM1900かよ! こりゃまた骨董品だなオイ。コルトM1911の祖先じゃねーか」

子供のようにはしゃぎ、コルトM1900と女性のデイパックを拾い上げた。
そこで、襲禅は女性の顔を覗き込み、ある事に気付く。

「あん? こいつ、もしかして瀬山はるかじゃねーか? 名簿にも名前書いてあったしな」

女性――瀬山はるかはグラビアアイドルとして活動し、彼女の写真が掲載された雑誌は襲禅も何度か目にしていた。
写真の中で見せていたあの弾けるような笑顔はもう永久に見る事は出来ない。
今のはるかは頭に大きな穴が空き、そこから血と脳漿を撒き散らし、虚ろな目付きで冷たくなっていっているのだから。
それなりに人気があり、ファンも大勢いた事から、自分は彼女のファンに殺されるかもしれない、と、軽く笑いながら思った。

「こんな開けた場所じゃ危ねーし……どこか建物にでも入ってから荷物整理すっか」

先程自分は瀬山はるかに対して不意討ちを仕掛けたが、同じ事を考えている者など大勢いるだろう。
こんな見通しの良い場所で立ち止まっていれば絶好の的になる。
不意討ちを仕掛けて違う者に不意討ちされる、という笑えない冗談のような事態は避けたかった。
襲禅は当面の拠点になりそうな場所を探すため、はるかの死体が横たわる交差点を後にした。


【一日目/午前/F-3市街地有坂交差点付近】

【須牙襲禅】
[状態]:健康
[装備]:トカレフTT-33(6/8)
[所持品]:基本支給品一式、ベレッタM92(15/15)、ベレッタM92の予備マガジン(15×9)、
トカレフTT-33の予備マガジン(8×9)、コルトM1900(7/7)石井剛夫の水と食糧、瀬山はるかのデイパック
[思考・行動]
基本:殺し合いに乗る。人を撃つのを楽しむ。
1:荷物の整理。どこか拠点になりそうな場所の捜索。
2:真紀の奴は……まあ、ほっとくか。
3:女憲兵(松宮深澄)は次に会ったら確実に仕留める。
4:瀬山はるかファンに殺されるかもな、へへっ(笑)


「今の、銃声……よね」

同じエリアF-3に存在する民家・大島家の二階寝室で、
ベッドに寝そべりながら民家内にあった雑誌を読み漁っていた白い長髪を持つ狐獣人の女性・霧島弥生は、
外から二発の銃声が響くのを聞き取った。
もっとも、今更銃声程度でビビリはしないが。むしろ喜ばしい事だった。
誰かが確実に殺し合いを進めている証拠だからだ。
人数が減れば減る程、自身の生存の確率も高くなる。

「そうそう、その調子でどんどん殺し合ってねー……ふぁーあ」

読んでいた雑誌をベッド横のサイドボードの上に置き、欠伸をかく弥生。

「はぁ……ちょっと疲れちゃったな……ちょっとぐらいなら寝ても大丈夫よね」

懐中時計に目をやると、現在午前9時35分。
放送があるという昼の12時までは、まだ時間的余裕がある。
林で犬の警官を殺し、林道を歩いて街中へ移動し、自分を強姦しようと襲い掛かってきた不細工青年を
逆に誘惑して殺し、そしてこの民家の探索……と、
様々な過程を経てきた弥生は、かなり疲労していた。
ふかふかとした感触のベッドの上で寝そべっている内、段々と彼女を眠気が襲っていたのだ。

「仮眠、とっとこ。おやすみー……」

弥生はベッドの布団に中に潜り込むと、そのまま眠り込んでしまった。
その寝顔と寝息は安らかで、可愛らしい。
その様子を見た者は、恐らく誰も、この狐の女性が既に人を二人も殺害した殺人犯だとは思わないだろう。

【一日目/午前/F-3住宅街大島家二階寝室】

【霧島弥生】
[状態]:健康、睡眠中
[装備]:登山ナイフ、ハンティングナイフ
[所持品]:基本支給品一式、ブーメラン、和英辞典、閃光弾(3)
[思考・行動]
基本:優勝を目指す。
1:(睡眠中)
2:基本的に正面から戦うというより、不意を突いて殺すという手段を取る。
3:民家(大島家)の探索。
4:銃器が欲しい。
[備考]
※服を着替えました。元々着ていた服はF-3住宅街伊藤家内に捨てられています。
※睡眠中ですが、どんなに遅くても昼12時の放送までには起きます。


【瀬山はるか  死亡】
【残り34人】


※F-3市街地有坂交差点中央に瀬山はるかの死体が放置されています。
※F-3一帯に銃声が響きました。



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最終更新:2009年10月22日 21:04
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