全てはチャンス!?

体の震えが止まらない。怖くて怖くて仕方がない。カイトはゲームが始まってからずっと民家の中に隠れていた。
ランダム支給品はベレッタという拳銃。恐らくはこの上なく当たりの支給品なのだろう。
しかし、銃をどれだけ固く握りしめても、カイトは勇気を奮い起す事が出来なかった。

名簿はすでに確認し、自分の兄弟達が参加している事は把握している。本来なら年長者であるメイコと自分が率先して、
ミクやリン、レンを助けなければならないのだろう。しかし、カイトには自分にそれが出来るとはどうしても思えなかった。
あのやる美という少女が無残に殺されてから、体の震えが止まらない。
近い将来自分も同じように死んでしまうと考えると、恐ろしくて耐えられなかった。

生き残るには最低一人を殺さなければならない。しかし、殺したとしても結局生還できるのはたった一人。
どう考えても絶望的だ。ケツホルデスがゲームの説明をしていた部屋には、筋骨隆々の男達が何人もいた。
常識的に考えて、優勝するのは体力で勝るあの男達の内の誰かだろう。
間違ってもカイトが生き残るようなことはない。それがあまりに確定的のように感じるから、カイトはどうしようもなく恐怖を感じる。
死は決定的だが、どうしてもそれを受け入れたくはなかった。なんとかして生き延びたかった。

「クソ!クソッ!くそお!!」
「ッ!?」
突然声が聞こえてきた。カイトはびくりと体を震わせて、部屋の隅に蹲る。
今の声……今の声はレンだ。恐ろしかったが、近くにレンがいるという事実を信じて勇気を奮い起し、
カイトは民家の窓からそっと外を覗く。予想通り、遠くの方にレンがいた。
ケツホルデスへの呪いの言葉を叫びながら、デイパックを踏みつけていた。

「ふざけんなババア!てめえだけ一人死んでればいいんだ!馬鹿が!
 誰がこんな馬鹿げたゲームに乗るんだよ!誰も乗らないにきまってるだろうが!
 絶対に俺がこのゲームをぶっ潰してやる!誰にも殺し合いなんてさせねえ!」

レンの台詞に、カイトは自分を情けなく思った。兄貴である自分が民家の中で震えている時に、
弟のレンはゲーム転覆を決意している。どっちが兄貴なんだか分からないな……
カイトは心の中で自虐的に呟いた。

────ともかく、レンがいるのなら安心だ。民家を出て、合流しよう……

そう思ったその時だ。レンの傍の民家の陰から、説明の時に目撃したパンツ一丁の筋骨隆々の男が出てきた。
レンは呆気にとられている。カイトも同じだ。どうしよう。助けに行かなければならないかもしれない。
もし、あの男がゲームに乗り気なら、レンが危ない。

しかし、カイトの足は思うように動かない。一刻を争う事態なのに、もしかしたらレンが殺されてしまうかもしれないのに、
カイトの足は恐怖で動いてくれなかった。窓から、じっとレンと男の姿を凝視する。怖くて怖くて仕方がなかった。

▼ ▼ ▼

薄暗い村の中でデイパックを探り、ランダム支給品のロープ、そして名簿を目にした時、鏡音レンの怒りは頂点に達した。
必ず、かの邪智暴虐のケツホルデスを除かなければならぬと決意した。
レンはまだ子供だ。それ故に彼には力がない。物事も知らない。まだまだ発展途上だが、
それでも殺人という行為が絶対の禁忌である事は当然のように理解している。
それを強いるケツホルデスの悪徳さについては、言うまでもない。

レンは怒りのままデイパックを地面に叩きつけ、思い切り踏みつける。殺し合いに乗るつもりなど毛頭なかった。
手段などは一切考えていないし思いつかないが、一刻も早くケツホルデスを見つけだし、
このデイパックのように無茶苦茶に踏みつけてやるつもりだった。それくらいケツホルデスが憎かった。やる美という少女が哀れだった。

「クソ!クソッ!くそお!!」
自分はおろか、ミク、リン、メイコ、カイト……自分の兄弟達が参加している辺りに、ますますケツホルデスへの怒りが募る。
「ふざけんなババア!てめえだけ一人死んでればいいんだ!馬鹿が!
 誰がこんな馬鹿げたゲームに乗るんだよ!誰も乗らないにきまってるだろうが!
 絶対に俺がこのゲームをぶっ潰してやる!誰にも殺し合いなんてさせねえ!」
大声で吠える。誰かに見つかってしまう、などといった事は毛ほども考えていないようだ。

だからだろうか。民家の陰から、筋骨隆々の男が現れた時、レンは意表を突かれて固まってしまった。
これ以上ないほど筋肉質な男は、上半身裸で、下半身もパンツを穿いているだけである。
そのパンツもこれまた妙なもので、股間部分は隠れているものの、尻の方は普通に露出されている。
レンはちらりと男の尻が見えたが、このパンツがケツワレという特別なパンツである事は当然知らない。

────なんなんだこの変態は……
レンは、男のあまりに非常識な姿に言葉を失い、口を開けて呆けていた。

レンが呆けている隙を突き、男は一瞬でレンとの間合いを詰めた。
男のあまりの加速力にレンは驚く。それと同時に、胸に何かが突き刺さるような恐ろしく強い激痛が走った。
どうやら男に殴られたようだ。だけど、殴られたにしては何か感触がおかしい。
殴られたというよりは、ナイフで刺されたかのような感覚。レンはあまりの激痛に苦悶の声を上げた。

次の瞬間、レンの顎に衝撃が走った。どうやらアッパーを食らわされたらしい。
そして最後に、止めの右ストレートがレンの顔面に叩きこまれた。
拳の衝撃に耐えきれず、レンの顔面はクレーターのように陥没した。

やはり刺されたような感触がしたのは気のせいではなかった。
男の手には、月の光を照り返してきらりと光るメリケンサックが嵌められていた。
だから殴られたのに刺されたような感触だったのだ。レンの体はぼろぼろだった。
胸から大量に出血し、顎は抉り取られ、顔面は陥没していた。
あの大男がメリケンを付けて全力で殴ったのだから、こうなるのも当然だろう。

────どうして……誰も殺し合いになんか乗らないと思っていたのに……

殺しは絶対の禁忌であるはずだった。レンはまだ子供だが、そう教えられてきた。
いくら殺さなければ死んでしまう状況とは言え、他人を犠牲にするような輩が出るとは想像もしなかった。
しかし、実際は違った。レンが想像している以上に、人間は簡単に一線を越えられる。
絶対の禁忌だから絶対に殺人は犯さない、そう一括りにできるほど、人間という生き物は単純ではない。

息を引き取ろうとするレンに背を向け、男は去る。

「全てはチャンスだよ、少年。どんな苦難でも、俺は自らを成長させるためのチャンスと考える。
 お前は頭からこのゲームを否定し潰そうと躍起になっていたが……
 この殺し合いは天が俺に与えてくれた試練、俺はそう考えることにしたよ」

【鏡音レン@VOCALOID 死亡】

【残り40人】


「悪い……本当にすまなかった……レン」

結局、見ているだけしかできなかった。男が十分に離れて行った後、カイトは恐る恐る民家から出て、
レンの亡骸の元へと歩いた。レンの変わり果てた姿に、カイトの胸は大いに痛んだ。
死体を抱きしめ、大粒の涙を落とした。

レンを殺害した男よりも、まず自分に怒りが募る。どうして弟であるレンを助けてやれなかったのだろう。
どうして勇気を振り絞る事が出来ないのだろうか。ゲーム転覆を狙っていたレンに比べて、
どうして自分はこんなに弱いのだろうか。
「レン、ごめんなぁ。せめて、墓くらいはしっかり作ってやるからな……」

泣きながら地面を掘る。スコップも何もないため、手で掘るしかない。
人一人埋められるだけの穴を掘るには、ずいぶんと手間がかかるだろうが、カイトは気にしなかった。
墓を作って弔ってやる事が、せめてもの罪滅ぼしだからだ。

穴を掘り始めて数分後。カイトは民家の陰で何かが蠢くのを感じた。
気のせいかとも思ったが、もし、という思いが心の中で膨らんでいく。
この場を離れたくなったが、レンを置いて離れるわけにはいかない。
見殺しにして、墓も作らず放置しておくなんて、あまりにもレンが可哀想過ぎる。

しかし、恐怖は膨らんでいくばかり。何かの足音も聞こえたような気がする。
いる。きっと何かがそこにいる。陰に隠れて、俺を狙っている。殺される。
このままじゃやばい。しかしレンはどうする?逃げなければレンのように殺されるぞ……!
俺がここで死んだらレンはあの世でもっと悲しむ羽目になる。きっとそうに違いないぞ。
かといってここにレンを放置しておくのは……しかし……

突然の出来事だった。民家の陰から、レンを殺した男が飛び出てきた。
カイトはあまりの恐怖に悲鳴を上げて、無我夢中で握りしめていた土を男に向かって投げ、全力疾走で男から逃げた。
カイトが投げた土は男の顔の辺りに飛んでいき、ちょうどいい目くらましになった。
しかし、男はそんなものなど意に反さず、カイトを走って追いかける。
巨体だが決して足は遅くはない。それに単純な足の速さならともかく、体力勝負で男はカイト如きに負けるつもりは一切なかった。
だから、カイトも先ほど殺したレンと同じように、殺せるものだと確信していた。

「ああああああ!!!頼む!!誰か助けてくれッ!!殺される!!嫌だ死にたくない!!」

カイトが大声で辺りに喚き散らす。それを聞いて男はスピードを緩める。
このままでは沢山の人間を相手にする事になるかもしれない。カイトの足は意外にも速い。
火事場の馬鹿力というやつだろう。このまま殺すのに手間取ってしまうと、カイトに沢山の人間を呼ばれることになる。
こんな序盤で、不特定多数の人間に危険視されるのはさすがに苦しいかもしれない。

男は走りながら適当な石を拾い、カイトの頭に向かって思い切り投げた。
これが当たれば、カイトは倒れこむだろうからそこを狙って手早く殺そう。
外したのなら、リスクを避けるために一先ずは逃がして泳がせる事にしよう。


なんとか逃げ切れたようだ。
カイトはぜいぜいと喘ぎながら水をがぶ飲みし、コッペパンを二つ一片に平らげる。
それにしても恐ろしかった。もう少しでレンと同じような目にあうところだった。

カイトはレンの死体の事を思い返す。墓すら作ってやれていない事を思い返すと、胸がチクリと痛んだ。
しかし、もう一度あの場所に戻る勇気はなかった。

「仕方ねえよ……第一、俺が死んだらレンもあの世で悲しむじゃねえか……
 レンのためにも俺は……死ぬわけにはいかないんだよ」
コッペパンをかじりながら、そう呟く。

────この卑怯者……

ふと、レンの声が聞こえたような気がした。気のせいに決まってる、
とカイトはそう決めつけ、コッペパンの最後の一欠けらを口の中に放り込んだ。

【一日目/深夜/E-3】
【KAITO@ボーカロイド】
[状態]:健康、疲労
[装備]:ベレッタ(残弾数10/10)
[所持品]:基本支給品一式(パン残り0個)
[思考・行動]
基本:死にたくない。怖い
1:レンに対する罪悪感

「これからは逃げられないよう工夫する必要があるな……」
レンを殺した男、木吉カズヤはカイトを逃がしてしまった事について一人、反省していた。
銃器があれば、逃げる相手の背中を打ち抜く事も出来るだろう。しかし、飛び道具の類を使う事は、
己の身一つで聖地新日暮里に上り詰めたパンツレスラーとしての誇りに傷をつける行為だ。
そういう意味では、カズヤの支給品、メリケンサックはある意味当たりだと言えた。

気を取り直して、次の獲物を狙うか。カズヤはデイパックから小型の液晶端末を取り出す。
画面には端末を中心に周囲100メートルの詳細な地図が映し出されている。
そして、ほぼ中心に赤い光点。これはカズヤの首輪を示している。
この端末、一言でいえば首輪探知機である。探知機の周囲100メートル内にいる参加者を、赤い光点として示している。
間違いなく、大当たりな支給品である。

現在、周囲100メートルには誰もいないようだ。
カズヤは探知機をパンツの中に仕舞い、カイトが逃げた方向へ移動を開始する。

目指すは優勝。このバトルロワイアルはチャンスだ。これを制すれば、自分はもっと強くなれるだろう。

俺は強くなってみせる。そして今度こそ────ビリーに勝つ!

【一日目/深夜/C-3 鎌石村】
【木吉カズヤ@本格的!ガチムチパンツレスリング】
[状態]:健康
[装備]:メリケンサック、首輪探知機
[所持品]:基本支給品一式(パン残り3個)、ロープ
[思考・行動]
基本:全てはチャンス!優勝して強くなりたい。出来れば兄貴と決着をつけたい。
※24時間ルールのノルマを達成しました。
※鏡音レンの支給品を拾いました。


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最終更新:2009年10月01日 19:37
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