敗者の刑

世界がうねりを見せていた。


もう誰にも止められない。


不安定な均衡の上に保たれていた世界が、遂に崩壊を開始する。


世界の三大勢力である「海軍本部」、「王下七武海」、そして―――「四皇」が一人にして最強の男。


「海軍本部」は海賊王の息子である少年を殺害する為に―――、


「王下七武海」は世界最強の大海賊に対抗する為に―――、


「四皇」が一人は仲間である少年を救出する為に―――、


―――世界の三大勢力はその少年を中心として衝突する。


その衝突の後に訪れる世界がどんなものか、想像する事すら難しい。


ただ一つ言えるのは、三大勢力のどれか一つでも陥落すれば、現在よりも更に深淵な混沌が世界を包み込むという事だけ。


それは真なる崩壊の合図なのか、更なる新時代の幕開けなのか……それは誰にも分からない。


ただその混沌たる世界が、平穏とはかけ離れた世界だという事だけは確固たる事実。


その破滅への歩みを少年はただ見ている事しか出来なかった。


偉大なる海賊王の血を引く少年は、無力に身体を震わす事しか出来なかった。


仲間、家族、世界―――その全てが崩壊する様を……少年は歯を食いしばり見詰め続ける事しか出来なかった。



■ □ ■ □



「ウヌゥ……何がどうなっておるのだ……」

金色の頭髪にくりくりとした愛くるしい丸い瞳。
その身体を包むは、金色のブローチをこしらえた深い緑色の外套。
背丈は幼稚園児か小学生のそれと同じくらい……だがその瞳に宿る力強さは大人のそれすら遥かに上回る。
少年の名はガッシュ・ベル。
魔界の王となるべく過酷な戦いを乗り越え続けてきた、魔物の子供である。

「ウヌゥ……ウヌゥ……ウヌゥ……」

ガッシュは悩んでいた。
悩みの種は勿論、数分前にすぐ目の前で行われた出来事。
気が付けば連れて来られていた謎の部屋。
光の輪により身動きは取れず周囲は暗闇に包まれていた。
闇の中には沢山の人の気配が感じられたが具体的な数は把握できず。
ただ相当な魔力を有した物が居たのは確かであった。
それも一人ではなく複数。
ともすれば双子の兄であるゼオンにすら匹敵する魔力が、暗闇の先からは感じ取れた。
就寝した筈の清麿の部屋とは明らかに違う、異常すぎる状況であった。
何が起きたのか、此処は何処なのか、もしかしたらクリアの策謀に掛かってしまったのではないか……様々な考えが浮かんでは消え、ガッシュを悩ませていた。

その思考が終わりを迎えたのは、闇の先から怯えたような叫び声が聞こえたその時。

その叫び声とほぼ同じタイミングで、天井に備え付けられていた蛍光灯が一斉に灯ったのだ。
そして、良好となった視界に飛び込んできたものは、数十人にも及ぶ人々が自分と同様に光の輪で拘束されているその光景。
その異様な光景に思わず絶句するガッシュ。
そんなガッシュを尻目に現れたのは薄気味悪い雰囲気を纏った老人であった。

「ヌゥ……あの男は本当に死んでしまったのか?」

老人が出現してから、事態は坂を転がり落ちるように展開していった。
唐突に始まった殺し合いへの説明、首輪のデモンストレーション……、
数分としない内に人が一人死に、そして気付けばこの会場へと移動していた。

死んだのだ。
人が一人……死んだ。

王を選出する戦いでは遂に経験する事のなかった事象―――死別。
多くの別れはあった。
相棒の少年が死の一歩手前まで負傷した事もあった。
だが、結果としてガッシュは『死』を目の当たりにした事がなかった。
王を選出する戦いで様々な経験を積んだガッシュであったが―――『死』という概念についてだけは知らない。
富竹の爆死する姿こそが、ガッシュが初めて見た『死』の瞬間であった。

「死んでしまったのか……この首輪が爆発して……あんな優しそうな男が……」

ガッシュは覚えている。

死の寸前に少年と会話を交わした富竹の姿を、
唐突に呼び出された富竹へ心配そうな瞳を向ける圭一の姿を、
首無しとなった富竹の死体を茫然自失の表情で見詰める圭一の姿を、

ガッシュは覚えている。

「……兵藤和尊……」

握り込まれたガッシュの拳がギシリと音を立てる。
その瞳に気高い光が灯り、闇夜に浮かぶ満月を射すめる。
胸中に込み上がり、烈火の如く燃え盛るその感情は……憤怒。
身体が憤怒に震撼する。
人の命を容易く摘み取った兵藤へ、望みもしない人達に殺し合いを強要する兵藤へ―――ガッシュは怒りを抑え切れずにいた。
そして、その憤怒はガッシュの中に居着く恐怖をも塗り潰す。
『死』を初めて見た事により頭を擡げた恐怖を、憤怒が押し潰していた。

「許さぬ……このような殺し合いなど絶対に許さぬぞ……!」

この殺し合いは、自分達が行っていた王を決める戦いと同じだ。
望まぬ者を無理矢理に戦いの場へと召還し、殺し合わせる。
いや、残忍さで云えば、王を決める戦いよりもずっと酷い。
あの戦いでは敗北したところで、魔界へと送還されるだけだ。
命には何ら影響しない。
だが、今回のコレは違う。
「敗北=死」……死んだその時にこそ、この恐怖から解放されるのだ。
誰かに魔本の焼却を頼む事すら出来ない。
恐怖に耐えきれなくなったところで、逃亡する事は出来ない。
逃亡する道すら、ないのだ。

「絶対に止めてみせる……こんな殺し合いなどで誰も死なせない! 私の全てを賭けて、止めてみせるのだ! お主の悪巧みなどこの私が絶対に!」

―――それは小さな宣戦布告であった。
やさしい王様を目指すガッシュ・ベルから、暴利の限りを尽くす王・兵藤和尊への、宣戦布告。
ゲームマスターである兵藤からすれば、八十二分の一の存在でしかない参加者からの宣誓。
こんなちっぽけな宣誓など兵藤の耳には届かないかもしれない。だが、それでもガッシュは叫ぶ。
自身の意志を示す為、燃えたぎる感情に任せて言葉を吐き出す。

ガッシュ・ベルは此処に宣誓した。

全てを守りきる事を―――、
これ以上悲しみに暮れる者を産み出さない事を―――、

―――やさしい王様として、ガッシュ・ベルは虚空に誓った。



■ □ ■ □



孤独な宣戦布告から数分後、ガッシュは暗い山道の中を前へ前へと歩いていた。
何時の間にやら持たされていたデイバックは既に確認済み。
中に入っていた食料や地図、ランダム支給品から参加者名簿、自身の赤い魔本まで、その全てにガッシュは目を通していた。

「ヌゥ、まさか清麿やデュフォーまで呼ばれておるとは……それに魔界で魂の姿となっている筈のゼオンまでがどうして……?」

参加者名簿に記載されていた双子の兄の名に、ガッシュは単純に驚愕を覚えていた。
自分が拉致された時点で、パートナーである清麿も参加させられている事は、充分予想の範囲内であった。
だが、この双子の兄―――ゼオン・ベルについては完全に予想外。
魔界に送還され魂だけの存在となっていた筈の兄が、まさか参加させられているとは夢にも思っていなかった。

「……だが、これは心強いのだ。ゼオンは強いし、デュフォーはアンサートーカーの力を持っておる。
清麿とデュフォーが力を合わせればこんな首輪など簡単に外せるであろうし、デュフォーと私の力があればどんな敵が相手であろうと止める事が出来る筈なのだ!」

ゼオンは強い。クリアとの決戦に向けて修行を積んだ自分よりも、遥かに。
身体能力、マント操作、格闘技術から判断力まで、その全てがずば抜けている。
ファウード内での戦いでも、バオウが無ければ確実に自分達が敗北していた。
そのバオウも、仲間達が力を貸してくれたからこそ、ようやくゼオンの最大術を破る事が出来たのだ。
自分がゼオンに勝っているところなど皆無と言っても良いだろう。
どのような方法を用いて召還させられたかは分からないが、その戦力は凄まじい物だ。

「清麿、ゼオン、デュフォー……絶対に死ぬのではないぞ」

とはいえ一抹の不安が残るのも確か。
最初の場にはゼオンレベルの魔力を有した者が、少なからず数人存在した。
加えて、ゼオンの魔本はバオウの雷により焼失している。
もしデュフォーと合流できたとしても、術は使用不可な筈……ハンデとしては大きいだろう。

「……先ずは清麿達を探さなくては……」

各地の争乱を止めて回るだけでは、殺し合いを完全に阻止する事は出来ない。
参加者の命を握っているこの首輪……これを外さない限り、人々は争いを止めないだろう。
死に対する恐怖から殺し合いを続ける者は必ず出て来るし、何より主催者側の指一つで死亡する状況では反逆など出来る訳がない。
首輪の解除は殺し合いを止める上での最低条件であり、最重要条件である。

だが、ガッシュ自身には首輪を外す技術は無いし、頭脳も無い。
そもそも爆弾を解除できる人間など、日常世界でもほんの一握り。
この場に呼ばれた人々の内に、それ程までに爆薬に精通する人間が居るとは考え難い。
居るとしても、それなりの設備と道具が必要……このような場でそれ等を満たす
好条件が揃うとは思えない。

―――一言で言い表せば余りに絶望的な状況。

絶望しか見えない未来に心が折れても可笑しくない状況なのだが―――しかし、ガッシュの瞳では希望が爛々と輝きを放っている。

信じきっているからだ。

相棒が持つ能力を、
相棒が持つ全ての疑問に答えを導く最強の能力を、
そして何より相棒自身を―――、
相棒・高峰清麿ならば必ずこの忌まわしき首輪を解除できる―――そう信じているからこそ、ガッシュは光を失わない。
ただ、前だけを見て、先に進む事が出来るのだ。


「ヌ?」


―――そんなガッシュが声を挙げたのは、更に十分程歩いたその時。
目を細め遠方の森林へと視線を飛ばすガッシュ。
鬱蒼と茂る森林の中にいるその存在にガッシュは気が付く。


「人が……倒れておる……」


ガッシュが発見したのは地面に倒れ伏している男であった。
上半身裸の男が俯せに寝転がり、巨大な十字の入れ墨が彫られた背中を見せている。
深夜だという事も影響してか、その男が生きているのか死んでいるのかさえ、ガッシュには判断できない。
困惑と不安を覚えながらもガッシュは男へと駆け寄る。
最悪の展開さえも予想していたガッシュであったが――

「……ね、寝ておる……のか?」

――そんな事は全然なかった。
仰向けにひっくり返すと同時にその顔から延びるまん丸の鼻風船。
その表情はこれ以上なく安らか寝顔に染まっている。
直前の心配が馬鹿らしく思える程の熟睡っぷりだ。

「お、お主、起きるのだ! 何をこんな所で寝ておるのだ! 他の者に見付かると大変だぞ!」

思いっ切り身体を前後に揺らしまくるが、男の寝顔はピクリとも揺らがない。
何をどうしたらこの状況でこんな深い眠りに至れるのか……甚だ疑問に感じてしまう。
男の瞼が動き出したのは五分程声をかけ続けた後。
盛大な欠伸と身体の伸びと共に男は目を覚ました。

「ん?」

男の寝ぼけ眼とガッシュの視線とがかち合う。
事態が把握しきれていない様子で男は呆けた表情ごと首を捻った。
続いて周囲の景色をグルリと見回す。
が、やはり事態が読み切れないのか、男は再び首を捻る。

「んん? …………んんん?」

男とガッシュの視線が再度ぶつかる。
男の顔に、徐々にではあるが困惑の色が登り始めていた。

「……あー坊主……此処が何処だか分かるか?」
「そ、それが私にも良くは分からないのだが……」
「……そうか……」

ガッシュの答えに気の抜けた返事を返すと、男は黙り込み、殆どが木の葉に隠された夜空を見上げ始めた。
遠い目で記憶の戸棚を片っ端から開けまくる男。
どうにも危なっかしい雰囲気が男にはあった。

「お主、さっきの事を覚えておらんのか?」
「さっきの事?」
「ウヌ、あの兵藤が出て来た教室での事なのだ」

見かねたガッシュが記憶の引き金になればと、言葉を掛ける。
その言葉をきっかけに、ぼんやりと虚空をさ迷っていた男の瞳が僅かに見開かれる。
そして、記憶の覚醒と共にその瞳に光が宿り、表情に力が取り戻されていく。

「……あー、思い出した……」
「おお、思い出したか!」
「ああ、ありがとよ、坊主のお蔭だ」

自身の於かれてる現状を思い出しても尚、変わらぬ態度。
ボリボリと頭を掻きながら、男は気だるげに溜め息を二、三吐く。

「それにしても、お互い面倒くさい事に巻き込まれちまったなあ……坊主、名前は?」
「私はガッシュ・ベルというのだ」
「ガッシュか、良い名前だな。俺はエース、よろしくな」
「ウヌ、よろしくなのだ!」

地面に座り込んだまま、ガッシュとエースは互いの名を教え合う。
笑顔を浮かべながら言葉を交わす二人の間に、警戒の二文字は無い。
それもそうだろう。
元々人を疑う事を知らないガッシュからすれば、エースは悪人には見えないし、
エースからすれば、隙だらけに熟睡する自分へ危害を加えなかった時点でガッシュは信頼に値する。
此処に来てわざわざ互いの意志を確認し合う必要はなかった。

「……さて、ガッシュ。お前はこれからどうする気だ?」
「ウヌ、私は仲間を探しながら殺し合いを止めていくのだ。こんな酷い戦いなどで人々を死なせる訳にはいかないのだ!」

ガッシュの言葉にエースの顔から笑顔が消えた。
飄々としたものから真剣味を帯びたものへと表情が移り、ガッシュを真正面から見据えるエース。
エースが纏う空気の変化に気付いたのか、ガッシュも顔を引き締めエースの視線を受け止める。

「誰も死なせない、ねえ……だが、そりゃ相当に難儀な事だと思うぜ」

そう告げた時、エースの表情には諦めの色が、そして嘲りの色さえも滲んでいた。
嘲笑のように歪む口角。
それは眼前に立つ純真すぎる少年に対するものなのか。

「恐怖に駆られた人間は簡単に我を失う。命が掛かっているのならそりゃ尚更……他人を殺してでも生き残ろうとする奴は必ず出て来るさ。
それに、性根からねじくれ曲がってる……この殺し合いを開催した奴等みたいな狂人だって居るかもしれねえ。
そういう奴等には言葉なんて届かないんだよ。綺麗事だけじゃやっていけねぇ…………そんな事はこの世に山の様に在る」

エースが見せた、軽い豹変とも言える程の態度の変化に、ガッシュは面を食らっていた。
戸惑いすら覚えていたかもしれない。
口を挟む事なく、ただ呆然とエースの言葉に鼓膜を揺らす。

「賭けても良い。この殺し合いは命の一つや二つを賭けたところで止まりはしねえよ。知恵も力もないお前みたいなガキじゃ尚のことだ。
―――その苦難を分かってて、お前はその道を選ぶのか?」


エースは知っている。
平和の為、生活の為、夢の為、家族の為、自己利益の為、愉悦の為、快感の為―――それぞれの目的の為に人は修羅になるという事を。
理由は十人十色、人それぞれ。だが、いずれにせよ人間はいざとなれば何でもする。
強盗や殺人など当たり前、何千何万もの死者を産み出す戦争や、今回のような凄惨極まる殺し合いでさえも、人は自らの意志で執り行う。
それが人間だ。
同種の仲間達を自己利益の為だけに殺害する事が出来る―――それが人間。
ガッシュのような真人間もいれば、腐った蜜柑のような人間だって、世界にはいるのだ。

「どうなんだ、ガッシュ」

出会った当初の何処か抜けた様子とは裏腹の、重々しいエースの言葉。
その言葉を前にして、ガッシュは急遽の答えを出す事が出来なかった。
エースの言葉が理解できなかった訳ではいない。
理解しているからこそ、言葉に窮する。

クリアのように、説得の言葉すら届かない敵もいるだろう。
ゼオンのように、死闘に次ぐ死闘の末に分かり合える敵もいるだろう。
ティオのように、過酷な状況が影響して仲間を信じる事ができなくなる者もいるだろう。
このような状況に於いて全員が全員、恐怖や不信を振り切れる訳ではない。
―――その事を、ガッシュは王を決める戦いを通して学んでいた。

「……エースの言うとおりであろう……私が行おうとしている事は非常に困難な事だ」

訥々と零れ始めた声に、エースは沈黙を持って耳を傾ける。
視線は真っ直ぐにガッシュを見据え、表情は寸分の緩みも見せない。
ただ押し黙り、王を目指す少年の答えを聞く。

「どんなに声を張り上げようと、人々は私の言葉に耳を貸してくれないのかもしれぬ。
状況はもう取り返しのつかないところにまで追い詰められているのかもしれぬ。
私一人が足掻いたところで状況は何ら変わらないのかもしれぬ」

ガッシュも、エースの突き刺さるような視線を正面から受け止める。
世界最強の海賊団……その幹部に位置する男の視線を、臆する事なく受け止める。
瞳に志を灯らせたまま、ガッシュは言葉を吐き続ける。


「―――だが、まだ可能性はある!! 兵藤が語った72時間という猶予!
そして清麿やゼオンやデュフォーという仲間の存在! 状況は絶望的だが可能性が無い訳ではない!」


そう遠く無い過去の事、ガッシュは今と同じような決断を迫られた事がある。
世界の滅亡を取るか、仲間の死を取るか―――その究極ともいえる問い。
ガッシュは苦悩の末に最良の答えを導き出した。
誰の手も借りず、自らの意志と思考のみで答えを探し当てた。
そしてその答え通り、全てを救う事に成功した。
仲間と手を取り合い、何度も死線を潜りながらも、最良の答えを実現したのだ。

「諦めてしまえばその儚い可能性すら、無くなってしまう! 出来る出来ないではない……やらねばならぬのだ!!
だが、エースの言うとおり私だけでは全てが足りない! 清麿やデュフォーやゼオンの力を借りても、まだ足りないのかもしれない!
だから……だからこそ、エースにも力を貸して欲しいのだ! この殺し合いの中にいる他の者達にも力を貸して欲しい!
全てを救う為に力を貸して欲しいのだ!!!」

ガッシュの選択は、あの時のものと同様であった。
残された時間の中、仲間達と協力して打開への道を模索し、がむしゃらに突き進む。
決して諦める事なく、全てを救う為に動き続ける。
それがガッシュの選んだ選択肢だ。

「お願いなのだ、エース! 力を貸してくれ!」

志ある瞳をぎらつかせ、ガッシュはエースへと右手を差し出す。
その右手を無表情に見詰めるエース。
場は静止し、五秒、十秒と時間だけが刻々と進んでいく。
ガッシュもこれ以上の言葉を叫ぼうとはせず、エースの答えをひたすらに待つ。







そして、遂に―――エースの右手が動いた。







顔に笑顔を張り付かせ、差し伸ばされたガッシュの右手に自身の手をゆっくりと近付けていく。
それと同時に、ガッシュの胸中には安堵と歓喜が込み上げていた。

手を取り合えるのだ。
このような殺し合いの中でも人と人は手を取り合える。
協力し合う事が出来る。

―――そんな想いがガッシュに希望を与えていた。


「合格だぜ、ガッシュ。試すような事を言って悪かったな」


笑顔を持って告げられた謝罪に、ガッシュは笑顔を持って返す。
首を横に振り、事態の深刻さを改めて教えてくれたエースへと感謝の意志を見せる。



「そんでもって―――さよならだ」



―――そして、ガッシュの小さな身体は炎の中へと消失した。
後方に立ち並ぶ何十もの木々や何百もの雑草と共に、ガッシュは、炎の中へと飲み込まれた。
反応すらできずに―――突如として炎と化したエースの右腕の中に、ガッシュは消えていった。

「悪いな、揺らぐ可能性さえあれば見逃してやろうとも思ったんだがよ……お前は出来過ぎだぜ」

そう呟くエースの前方数十メートルに渡り、全てが消失……いや焼失していた。
数瞬前まで森林と呼ばれる空間であったそこも、今はただの焼け野原。
黒こげの地面に、力無く頭を垂れる燃えカスと化した木々。
掲げた右手が陽炎のように揺らめき、橙色の光を放つ。
握り込まれたその手は火炎の如く。
予備動作の欠片も見せず発現し、ガッシュを呑み込んだ巨大な豪火―――この炎こそが彼の有する能力であった。

「これで一人……残りは八十人か。面倒くせえ……本当に面倒くせえ事になっちまったな……」

自然(ロギア)系悪魔の実・メラメラの実。
その不思議な果実により手に入れた人外の能力は強力無比。
破壊の規模も殺傷能力も技に対するリスクの少なさも、まさに一級品である。
ポートガス・D・エースはその力を以てバトルロワイアルに君臨する。
主催者に反旗を翻す使者としてではなく殺戮者(マーダー)として―――白髭海賊団二番隊隊長ポートガス・D・エースがバトルロワイアルに烈火を灯す。



■ □ ■ □



さて、この物語を読み、一つ大きな疑問を覚える方々もいるだろう。

何故、ポートガス・D・エースがマーダーとなったのか?

おそらく大半の者がその疑問を思い描いている筈だ。

海賊であるとはいえ、彼は信念を持っている。

弱きを踏みにじる事なく、誇り高き海の戦士として旅を続けている。

そんな彼がこのような殺し合いを良しとする訳がない。

本来ならば率先して殺し合いの阻止に動く筈だ。

その彼がどうして―――?

勿論、それには理由がある。

大きな、とても大きな理由……次はその理由についてを、語らせて頂きたいと思う。

彼が修羅の道に踏み入る事となったその経緯を―――語っていこう。



■ □ ■ □



彼が目を開いたその時、世界は暗闇に包まれていた。
思わずエースは驚愕を顔に宿らせ、左右に首を振ってしまう。
目を閉じるほんの数瞬前まで、自分は地下深くの大監獄に幽閉されていた筈だ。
それなのに何故、自分は今こんな場所に座らされている?
あの耳障りな他の囚人達の声も聞こえないし、無骨な牢屋の姿も見えない。
地べたに拘束されていた筈の自分も、何時の間にか椅子へと座らされている。
海楼石入りの手錠は相変わらずだが、明らかにあの監獄とは違っていた。

「何が何だか分からない……といった感じかな」

前触れもなく、声が響いた。
その唐突さから、まるで眼前の暗闇が言葉を発したかのように、エースは思ってしまう。
当然、ただの空間でしかない暗闇が喋る訳がない。
発言者はその奥……暗闇の奥にて悠然と椅子に腰掛ける男であった。

「おはよう、そして初めまして。久し振りの娑婆の空気はどうかな? ポートガス・D・エース君」

闇に目が慣れていくにつれ、男の姿が朧気ながら見えてくる。
無造作に肩まで伸びた黒髪と顎一面を覆う黒髭。
服装は深い藍色のワイシャツにジーパンという簡素なもの。
ドクロが三つ連なった首飾りがやけに特徴的であった。

「……誰だ、お前は?」

だが、何よりもエースの目を引いたものがある。
それは男の瞳に浮かぶ澱みきった光であった。
一目で分かる禍々しさに、何か惹き付けられるような妖艶な色さえ含んだ光。
今まで様々な悪人を見てきたエースであったが、此処まで危険な雰囲気を醸し出す瞳はなかった。

「あぁ、名乗りを忘れていたね。私の名前はシックス、今から執り行うゲームの主催者の一人だよ」

この男は何かがヤバい―――そう、本能が告げていた。
騒乱の日々で培われた本能が、眼前の男の危険度を声高に叫んでいる。

「何なんだ、お前は……」

口内が異様なまでに渇いていた。
正面から戦っても負ける気はしない。ただその存在感が異常であった。
まるで白髭のオヤジと相対した時のような、だがオヤジとは根幹から何かが違う、不思議な威圧感。
この距離にいる事が嫌だった。
拘束さえ無ければ、今すぐにでも距離を離したい。

「……ふふ……やはり違うな。これでも頑張って脅かしてるつもりなんだが、殆ど動じない。流石だよ、エース君」

足を組み直しながら、男―――シックスは笑顔でそう呟いた。
その発言の意味をエースは理解する事が出来ない。
ただこの身体中を包む不快感が堪らなく嫌だった。

「……何言ってんのかさっぱり分かんねぇが……取り敢えず、これからする俺の質問に答えてくれねぇか?」
「構わないよ。答えられない質問も幾つかあるだろうが、出来るだけ善処してみよう」

だが、エースがその動揺を表情に出す事なかった。
飄々とした笑みを携え、シックスを正面から睨み付けるエース。
目の前の男が異常とはいえ、エースも最強の海賊団の一員なのだ。
動揺は覚えど臆する事は決してなかった。

「おう、ありがとよ。じゃ一気に聞かせてもらうぜ。
此処は何処でてめぇは誰だ? どうやってインペルダウンから俺を連れ出した? 俺を連れ出して何をするつもりだ?
てめぇがさっき言ってたゲームってのは何だ? 俺を拉致した事に関係あるのか?」
「此処が何処かは答えられない。あの大監獄からの脱出は私の雇い人が単独で行った。
君を連れ出した理由は御明察の通り……これから行うゲームに関係しているよ」

続けざまの質問を行うエースに、続けざまの答弁を返すシックス。
返答はされたとはいえ、具体的な答えを貰えた問いは皆無。
エースの内に宿る疑念は一層に深くなるばかりであった。
そして何よりエースの興味を引いた言葉が―――

「―――ゲーム……ってのは何だ?」


―――シックスの言葉の端々に使われていた『ゲーム』という単語。
自分が連れ出された事に関連するらしき『ゲーム』……エースの問いにシックスの頬が緩む。

「そうだな、先ずはゲームについてを説明しようか。絶望と狂気と悪意に満ち満ちた最高のゲームについてを」

そして語られるは、今現在行われているバトルロワイアルについて。
そのルールや概要を、シックスは悦楽の表情でエースへと話していく。
そんなシックスとは対称的話に、話が進行するにつれ険しい物へと変化していくエースの表情。
憤怒と不快感に顔を歪めるエースを見て、シックスは愉悦の色を更に深遠なものへと移していく。
数分の時間を掛けて、シックスはバトルロワイアルの説明を終える。

「さてエース君、拙い説明だったかもしれないが、ゲームの内容は分かってくれたかな?」
「ああ、分かったよ。貴様がどうしようもねぇクズだって事がな……!」

エースはもう腹に渦巻く不快感を隠そうともしていなかった。
ただ侮蔑を両目に映したままシックスを睨む。
手錠さえ無ければ今すぐにでもシックス向けて飛び掛かっていただろう。

「ありがとう―――最高の誉め言葉だ」

超大物の海賊が渾身を込めて放つ殺気……それを受けてシックスが見せた感情は歓喜。
海の荒くれ者達を震え上がらせるエースの殺気を受けて尚、シックスの余裕は崩れない。
ちっ、と大きな舌打ちが二人の間に流れた。

「で、俺にその殺し合いに参加しろっていうのか?」
「ふむ、惜しいところを突いてはいるな……だが、違う。
殺し合いに参加するだけじゃない。殺し合いに参加し他の参加者を殺し回って欲しいんだ」
「ハッ、俺がその案を飲むとでも? 殺し合いに参加しろってのでも、ゴメンだ。
てめぇをぶちのめせって案なら喜んで飲ませて貰うけどな」
「飲むさ、君は必ず私の頼みを受け入れる」
「有り得ねぇな、俺は死んでもそんな事を受け入れない。
全てをほっぽりだして海に出ちまった不孝者でもな、仁義を欠いちゃあこの人の世は渡っちゃいけねぇんだ」

自信満々に言い切るシックスへ不審を覚えながらも、エースは自身の意志を返していく。
『仁義を欠いては人の世は生きていけない』―――白髭の信条を前面にエースはシックスと相対する。

「それは命を失うとしてもかな?」
「当然、こんな首輪如きで俺は縛れねぇよ」

覚醒当初は気付けなかったが、説明の途中で首輪の存在に気が付いた。
この首輪が爆弾で、首輪の外装に海楼石の成分が含まれている事も、頸部周辺のみだが悪魔の実の能力を無効化する事も、聞かされた。
つまり首輪が爆発させられれば、ロギアの能力を持つエースであっても死亡するという事。
だが、その事実を理解して尚、エースは従おうとはしない。
誇り高き信念は決して捻曲げられる事がない。
途方もない悪意を前にしても、決して―――、

「……死すらも恐れないか。流石はあの世界での強者といえるな。実力も、決意も、覚悟も何もかもが違う。
……では少し、話を変えようか。君がいた世界についてだ」


足組みを解き両手を祈るように組み合わせながら、シックスが口を動かした。
此処で殺されるにせよ、無理やり殺し合いに参加させられるにせよ……現在のエースには打つ手が無い。
唐突な話題の転調に首を傾げつつ、エースはシックスの言葉を待った。


「君はインペルダウンという監獄に監禁させられていたね。何でも一日後には死刑される身だったらしいじゃないか」
「……それが何だ」
「そして、君を救おうと白髭海賊団と海軍本部がぶつかり合おうとしていた事も……知っているかな?」

エースからの返事は―――無かった。
エースの思考は止まっていた。
眼前の男が何を言わんとしているか、いち早く察知してしまったからだ。
察知してしまったが故に、エースは飄々とした表情を変貌させている。
驚愕に―――顔を歪ませている。

「何でも、白髭海賊団と海軍本部は世界の三大勢力と言われているらしいね。
君も大変な状況に追い込まれてしまったものだな。君を救う為に、君を殺す為に、世界の三大勢力達が戦い合う」
「…………てめぇ……まさか……!」
「さて、ここで質問だ。この戦争の後―――世界はどうなると思う?」


エースは無言。
声を出す事すら出来ない。


「戦争の内容は単純だ。君を救出する為に、白髭海賊団が海軍本部と戦うというだけ。
ただこの戦争に引き分けや和解という言葉は存在しない。
君を救出するまで白髭海賊団は戦いを止めず、君を死刑にするまで海軍本部は戦いを止めない。
もし君が死刑にされたとしても、恐らく白髭は報復の為に戦い続けるだろう。
それを受けて海軍本部も戦う……つまりこの戦争はどちらかの壊滅を持って漸く終焉を迎えるんだよ。
白髭か海軍本部か……どちらかが勝利し、どちらかが敗北する。
この戦争により三大勢力の一角は確実に陥落する事になるんだ」
「……てめぇ……」
「白髭や海軍本部という存在により抑圧されていた海賊は山のように存在するだろう。
そして今回の戦争により、その抑圧の発端であるどちらかは消失する。
勝ち残った片方も、戦争により大きなダメージを受け、当分は正常に機能する事ができない。
結果、世界は暴発する。この戦争により世界のバランスは崩れ、暴発する。
つまり世界が崩壊するんだ。君が原因で―――世界は崩壊する」
「……てめぇ……!」
「ただ一つだけ、戦争を回避する手段がある。
聡明な君なら、もう察しているかな?」
「ッ―――てめぇぇえええ!」


ガタン、という音と共に、エースの身体が椅子から滑り落ちた。
海楼石の手錠により身動きを封じられた状態で、怒りに任せて身体を動かそうとした結果である。
エースは地べたに這い蹲りながら、シックスを睨み付けた。

「……そう、君が白髭海賊団の元に帰還すれば良いんだ。
それだけで戦争は止まる。白髭海賊団は勿論、海軍本部も敵の内に居る君を奪い取ろうとはしないだろう。
今まで通り、絶妙なバランスが保たれるという訳だ……君が帰還できればね」

言葉は続けたまま、シックスが立ち上がる。
満面の笑みでエースを見下ろし……そしてその顔面を踏みつけた。
踏みつけたまましゃがみ込み、エースの耳に口を近付ける。


「―――私達はチャンスを上げようとしているんだよ。白髭の元へ帰る、世界の崩壊を防ぐチャンスを。
このバトルロワイアルで優勝すれば、君は白髭の元へ帰れる。戦争は阻止され、世界のバランスは保持されるだろう」
「なら、今すぐ帰せば良い!! 何故わざわざこんな糞みてぇな殺し合いをさせる
!! 俺に、そして他の参加者達に!! 何故こんな殺し合いをさせやがる!!」
「何故? それはとても簡単な事だよ―――」

悲痛に満ちたエースの叫びもこの男には届かない。
ただ男に喜びを与えているだけ、ただ彼の脳髄に眠る『それ』を満たしているだけであった。


「―――生まれつきそういうのが好きなんだ、私はね」


『悪意』―――シックスの脳髄に眠る満ち足りる事のない『それ』に、エースの激怒は一時の満足感を与えているだけであった。


「あ、言い忘れていたが、このバトルロワイアルには君の弟も参加する予定だよ。
確かモンキー・D・ルフィと言ったかな。彼もなかなかに面白い。いじりがいのある、純粋な少年だ」
「なっ……!?」
「おや、選択肢が増えてしまったかな?
だが選択に費やせる時間はもう少ない……世界の為に赤の他人や弟を殺すか、赤の他人や弟の為に世界を殺すか―――さぁ選びなさい」


―――苦悩という言葉では表現できない程に、エースは悩んだ。
時間にすれば十秒にも満たない時間だったのかもしれない。だが、それも彼からすれば永遠に思える程。
どうすれば良いのか、エースは悩み抜き、そして―――










「……さて、次はどうするかな……」

焦げ臭さが漂ってくる森林をエースは歩いていた。
自分の右手が、正義感あふれる罪無き市民を殺害したと理解しつつ……エースは前へと歩いていた。
結局、彼は修羅となる道を選択した。
世界の為に、仲間の為に―――弟を含めた八十一の命を燃やし尽くそうと決意したのだ。

「ルフィよ……お前は自分の道を行け……」

渦巻く感情に苦悩を続け、だがその半面で優勝への道筋を組み立てながら、若き大海賊は前へと進む。
先に待つ闇に満ちた未来へと自ら足を踏み入れる。

「そして、出来れば……俺と会わずに……」

只、全てを覚悟してなお弟とは戦いたくなかった。
弟を殺害したくなかった。
ただひたすらに願いながら―――その最悪の未来の回避だけを願いながら、エースは進んでいった。


【一日目/深夜/D-5・森林】
【ポートガス・D・エース@ONE PIECE】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
0:優勝して白髭の元に帰る
1:適当に歩き回って参加者を殺す
2:ルフィとは会いたくない



■ □ ■ □



「……な、何だったんだ、さっきのは……? 火炎放射機……なんてレベルじゃないぞ……まるでゴジラが火を吹いたみたいな……」

そして、海賊が苦悩の決意を固めたその時、そこから少し離れた森林に、岡島緑郎……通称・ロックは立っていた。
勿論、彼を引き付けたものは海賊が放った炎の拳。
森林から突如として湧き上がった余りに異常な炎に、彼は警戒すら忘れ、近付いてしまっていた。

「こんな馬鹿げた兵器まで支給されてるのかよ……」

未だ熱を放射し続ける焼け野原を茫然と見詰めながら、ロックは小さな絶望を覚えていた。
ミサイルすらも軽く超越している馬鹿げた火力。
戦略がどうこうという問題ではない。
こんな火力の武器を装備した人間と戦うなど、羽虫が殺虫剤を持った人間に突撃するのと何ら変わらない。
勝ち目など欠片もない、戦いとすら呼べないだろう。

「くそっ、訳が分からない……あの爺さんは何を考えてやがる……こんな戦力差をつけたら殺し合いにすらならないぞ……」

愚痴を零しながら歩いていくロック。
所々に灯る小さな炎のお陰で周囲はそこそこに明るい。
ロックは、灯りを取り出さずその光を頼りにして、森林と焼け野原の境目を慎重に歩いていく。
強すぎる火力が逆に影響したのか、延焼からの山火事になる可能性は殆ど無いだろう。
だが、その規模には驚嘆の念を抱くしかない。
現代兵器の域を遥かに越えている。

「……マズいな……そんな武器を持った奴とレヴィが接触したら……」

彼の相棒とも呼べるガンマンはどうしようも無く血気盛んだ。
こんな状況に彼女を放り込んだら、何がどうなるかなど目に見えている。
少しでも気に喰わない奴が居たら速攻で殺しに掛かる筈……まさに水を得た魚状態だろう。
そりゃ、その性格に裏打ちされた実力は有している。
だが、こんな惨状を生み出した兵器、またはそれと同等の兵器を装備した敵が相手だと、さしもの彼女でも勝負にならない。
一瞬でバーベキューにされるのがオチだ。

「出来るだけ早く合流しなくちゃな……頼むから面倒事は起こさないでくれよ、レヴィ……」

―――と、そんなボヤきを口から吐いたその時であった。
ロックが黒一色の野原に転がるその存在に気が付いたのは。
最初は樹木の焼け残りかと思っていたロックであったが、接近するにつれ自分の予想が間違いだと知らされる事となった。
その謎の物体の正体とは―――

「に、人間!?」

―――エースと言葉を交わし、そして最初の標的となった少年。
彼を幸運な事に一命を取り留めていた。
元来の頑強さに加えて、宿敵との最終決戦に備えて鍛錬が積み重ねられたその身体。
そして、何より魔力を込める事により、そんじょそこらの防御術を遥かに上回る楯となるマント。
殆ど反射的に動かされたマントは、ガッシュの小さな身体を間一髪で包み込み、全てを焼き尽くす火炎から守りきった。
とはいえ、不意打ちで放たれた必殺の一撃を完全に防御する事は不可能。
その身体の所々には火傷が点在していた。

「生きている……のか?」

その延命の理由には皆目見当が付いていなかったが、ガッシュの生存については、ロックも直ぐに把握する事ができた。
取り敢えずの手当てとして、受傷部位にありったけの水を掛け、ワイシャツの袖部を破り取って巻き付けておく。
応急手当ての域を脱さないが、何もしないよりは遥かにマシだろう。

「先ずは何処かで休ませないと……」

ガッシュを背負い、地図とコンパスを片手に森林の中へと進んでいくロック。
こんな状況に陥ってまで一歩を踏み出せない自分に苦笑を浮かべながら、ロックは足を動かす。
これが自分なのだと、諦め半分に理解しつつ、ロックは殺し合いの地を進んでいく。


【一日目/深夜/D-5・森林】
【ガッシュ・ベル@金色のガッシュ!!】
[状態]身体の各所に火傷(小)、気絶中
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×0~2、ガッシュの魔本@金色のガッ
シュ!!
[思考]
0:気絶中
1:殺し合いを止めつつ、清麿達と合流
2:何故ゼオンが此処に……?

【ロック@BLACK LAGOON】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
0:殺し合いには乗らない。襲われたら取り敢えず逃げる
1:ガッシュを何処かで休ませる
2:レヴィを出来るだけ早く探す
3:火炎放射(?)持ちの人間に警戒
[備考]
※D-5の森林の一部が焼失しました

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GAME START ガッシュ・ベル Next:一般人の皆さま、当バトロワは甘え禁止となっております。繰り返します、当バトロワは甘え禁止です(キリッ
GAME START ポートガス・D・エース Next:炎のさだめ
GAME START ロック Next:一般人の皆さま、当バトロワは甘え禁止となっております。繰り返します、当バトロワは甘え禁止です(キリッ
GAME START シックス Next:閉ざされた世界

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最終更新:2011年08月24日 23:07
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