狐の少女の考察、そして邂逅

第三十話≪狐の少女の考察、そして邂逅≫

古城で新藤真紀の襲撃から何とか逃れた狐少女・葛葉美琴は、
木々が生い茂る山中にぽつりと建っていた古い木造の山小屋に隠れていた。
山小屋の中には木製の小さなテーブルと椅子、マットレスとシーツ、枕がボロボロになったベッド、
古いテレビ、小さな台所等があった。
床に古い薬莢や壊れた猟銃が放置されている事から、ここは猟師小屋か何かだったのだろう。
使えそうな猟銃は無いだろうかと探した結果、辛うじて戸棚の中に入っていた一丁が使用可能だった。
単発式のボルトアクション小銃、十三年式村田銃である。
試しに外に向けて一発撃ってみたが、反動こそ少し強いものの、
何とか扱えるレベルではあった。
入っていた戸棚から予備弾薬も手に入れた。
多少動作や扱いやすさに難があるが、出刃包丁に比べれば何十倍も良い武器だ。

美琴はテーブルに座って考えていた。
このバトルロワイアルという殺人ゲームについてだ。

まず、主催者について。
あの開催式が開かれた教室に響いた声は若い男の物一人だけだったが、
この首輪といい、自分を含め50人もの人間を拉致した事といい、
どう考えても一人でゲームを運営しているとは思えない。
第一この首輪が監視装置を兼ねていると言うのなら、参加者全50人を一人で監視する事など、
とてもでは無いが不可能に近い。
だとすれば、それなりに大人数で監視体制を敷いているはず……。
ならば、このバトルロワイアルは裏で大きな組織が糸を引いている、と言う事になる、だろうか。

次に参加者について。
自分の知人である四宮勝憲、朱雀麗雅の二人。有名野球投手の長谷川俊治。
AV女優の稲垣葉月(勝憲が以前美琴に葉月が出演しているAVを見せた事があるので名前を知っていた)。
AV男優の堀越辰夫(稲垣葉月を知っている理由とほぼ同じ理由)。
世界最高齢女性としてテレビ番組で報道されていた菊池やと。
美琴が知っている名前は6人。後は全く知らない名前ばかり。
恐らく大半の参加者は自分と同じごく普通の一般人がほとんどなのだろう。
一般人を殺し合わせて何をしようと言うのか。

次に首輪について。
この首輪は逃げようとしたり、主催者に逆らったり、無理に外そうとすれば爆発するらしい。
らしい、と言うのはおかしいかもしれない。何せあの教室で首輪が爆発する場面は見たのだから。
逃げようとしたり、無理に外そうとしたり、というのは分かるが、
逆らったり、というのは、つまりこのゲームの進行に支障を来すような行為、という意味だろうか。
しかし、主催側は――恐らく首輪に発信機か何かでも仕込まれているのだろう――は、
どうやって「不穏な行動」を判断するのだろうか。
美琴は首輪の内側に指先を入れるようにして首輪を調べた。
すると、内側に何やら妙な感触を感じた。

(……これって……マイク?)

細かい穴が幾つも並んでいるような感触を感じる。

指先まで毛皮に覆われているのになぜそんな事が分かるのか、
などという野暮な質問はご遠慮願いたい。

首輪の内側に、どうやら小さなマイクのような物が仕掛けられている。
なぜマイクなど? このマイクの用途は?
状況から察するに、考えられるのは一つ――。

「盗聴……されているの?」

盗聴――もしそうならば――監視者がどれだけ把握しきれているか分からないが――参加者の
会話は主催側に筒抜けになっている、と言う事になる。
つまり、この殺し合いを打破、或いは脱出を目論む意志がある者は、
盗聴器の存在に気付いていない場合、思案した脱出の方法や作戦を全て主催側に聞かれるという事になり、
それがゲームの進行の妨げになると主催者が判断した場合、
問答無用で首輪を爆破される恐れがある。
爆破はされなくても、その作戦を阻止しようと主催側があらゆる手段を行使してくるかもしれない。
これだけの大掛かりな舞台を用意し、参加者全員の監視システムまで用意しているのだから、
主催側も絶対にこのゲームを完遂させる気なのだろう。
だがしかし、流石に脱出やゲームの破壊を口にしただけでは爆破はされないだろうが……。

「これは、他の人にも知らせた方がいいかも」

もし殺し合いに乗っていない者で、この事実を知らない者がいたら、
――いや恐らく知らない者がほとんどかもしれないが――。
脱出のため、或いはゲームの破壊のための手段を講じて、それが主催側に筒抜けになる。
そして主催側はその手段を阻止しようと工作し、最悪の場合、
その参加者は首輪を爆破され――文字通り、処刑される危険性がある。
折角の脱出の糸口が断たれてしまうような事態は避けなければならない。
それに――。

「早く、四宮さんや麗雅さんと合流しないと」

同じくこの殺し合いに呼ばれている自分の知人二人。
彼らとも早めに合流したかった。
きっと二人共、この殺し合いに反逆する方向に動いているはず。
少なくとも、進んで殺し合いに乗るはずは無い、と、美琴は確信していた。
なれば、いつまでもこの山小屋にステイしている訳にもいかない。
下手に動き回るのは危険な事は彼女も十分理解はしていたが……。

「……隠れてばかりでも、しょうが無いよね」

美琴は村田銃の予備弾薬をブレザーのポケットに詰められるだけ詰め、
村田銃を両手で持ち上げた。
残り弾薬はデイパックの中に入れる。
小柄な少女である美琴には、村田銃はそれなりに重量があった。

「行こう」

美琴は村田銃を携えながら、山小屋の出入口へ向かった。


中山淳太と菊池やとは、山道を歩きながら他愛も無い会話を交わしていた。

「へえ~、中山さん、俳優をなさっているのですか」
「ああ。まあ、モブシーンとかにちょいちょい出てる程度だけどさ、まだ。
やとちゃんは……学生とか?」
「え? え、ええ、まあ……」
「ハァ……俺も学生時代が懐かしいよ」

などといった会話を交わしながら、山道を進んで行く。
淳太は知る由など無いが、自分より年下だと思っているこの菊池やとと言う少女は、
自分より100歳以上も年上の老人なのである。
それだけ年齢差があればジェネレーションギャップも半端では無いようで、
好きなタレントやテレビ番組の事などを聞かれた際には、
やとは上手くはぐらかして何とか回避していた。
別に隠す必要も無いのだが、
恐らく淳太に「自分は実は147歳のおばあちゃんなの」と話した所で到底信じてはくれないだろう。
その辺りを一々説明していくのは非常に難儀な作業なので、
やとは可能な限り自分の本当の年齢の事は話さないようにしようと決意したのだ。
そして会話をしている内に、二人の前方に木造の古びた山小屋が見えてきた。
長時間歩きっ放しで二人共足に疲労が蓄積していたので、
やとがあの山小屋で休息を取る事を提案し、淳太もそれに同意した。
そして二人が山小屋に数歩近付いた、その時。

ガチャ。

山小屋の出入口の扉が開き、中からカーキ色のブレザーを着た黄金色の狐獣人の少女が現れた。
その手には猟銃と思しき物が。やとが持っている物とは違うタイプの物だ。
二人は突然現れた狐少女に驚きの表情を浮かべる。

「!!」

そして狐少女も淳太とやとの姿を確認し、驚きの表情を見せる。
直後。二人と狐少女――葛葉美琴は、お互いに銃口を向けていた。

「……」
「……っ」
「……!」

二人と一人は、しばらく互いに銃口を向けたまま、睨み合いを続けていた。
しばらくして、先に口火を切ったのは、やとだった。

「私達は殺し合いをするつもりはありません」

その言葉に、美琴はさっきとは違う形の驚きの表情を浮かべ、銃口を下ろし、

「……私も、です。殺し合うつもりはありません」

と言った。
淳太とやとの二人も、銃口を下ろす。

「私は菊池やとと言います。こちらが中山淳太さん。貴方は……?」
「私は葛葉美琴と言います。あの……もし良かったら、一緒に同行しても宜しいですか?」
「はい、喜んで! いいですよね? 中山さん」
「えっ? ん、ああ、全然OKだぜ」

淳太に取っては可愛い女の子の仲間が増える事は大歓迎だった。
狐の獣人ではあるが、恐らく美少女の部類に入る。
淳太に取って、まさに両手に花な状況である。

「ありがとうございます。菊池さん、中山さん。ここで立ち話も何なので、
歩きながら情報交換でも……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺達ずっと歩いてきてもう足がキツいんだ。
そこの山小屋の中で情報交換しようぜ」
「えっ」

淳太の言葉に美琴は戸惑った。たった今山小屋を出立しようとしていた所なのだが。
しかし二人の様子をよく見てみれば、確かにやや疲労しているように見える。
ここで自分の都合に付き合わせて歩かせるのは少し酷に思えた。
美琴が心優しい性格の持ち主だからこそこういった考えが出来たのかもしれないが。
美琴は淳太の提案を受け入れ、一度は出立しようとした山小屋の中へ引き返す事にした。
そして淳太とやとの二人も山小屋の中へ休息を取る事も兼ねて入っていった……。



【一日目/午前/C-6山小屋】

【葛葉美琴】
[状態]:左頬に掠り傷(治癒中)
[装備]:十三年式村田銃(1/1)
[所持品]:基本支給品一式、11.15㎜×60R弾(ポケットに24、デイパックに22)、出刃包丁
[思考・行動]
基本:殺し合いはしない。
1:首輪に盗聴器が内蔵されている事を他参加者に知らせる。
2:知人(四宮勝憲、朱雀麗雅)と合流したい。
3:中山さん、菊池さんと情報交換する。
4:たった今山小屋を出ようと思ったばかりなのに……しょうが無いか。
5:襲われたら戦う。

【菊池やと】
[状態]:疲労(中)
[装備]:ミロクSP-120(2/2)
[所持品]:基本支給品一式、12ゲージショットシェル(50)
[思考・行動]
基本:殺し合いの転覆。或いは脱出。そのために仲間を集う。
1:中山さんと行動。葛葉さんと情報交換。
2:襲われたらまず説得、駄目なら戦うか逃げる。
3:首輪を外す方法も探す。
4:何で10代の頃の身体に戻ってるの……?

【中山淳太】
[状態]:肉体的疲労(大)、精神的疲労(中)
[装備]:S&W M36”チーフスペシャル”(5/5)
[所持品]:基本支給品一式(水半分消費)、38S&WSP弾(50)
[思考・行動]
基本:死にたくない。生き残りたい。
1:やとちゃん、美琴ちゃんと行動を共にする。
2:可愛い子ktkr!
[備考]
※「菊池やと」という名前に心当たりがあるようですが、よく思い出せません。

※C-6山小屋の中に幾つか猟銃が放置されているようですが、どれも古びていて、
葛葉美琴が持ち出した銃以外は使い物にならないようです。




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最終更新:2009年10月04日 21:45
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