魔手接近

第二十九話≪魔手接近≫

濃い茶色の女性憲兵の制服に身を包んだ紫髪の女性、松宮深澄は、
G-3市街地の一角にある家電製品店を物色していた。
この殺し合いの運営者――は、参加者を監視可能な首輪を用意していると言う事は、
そのシステムを管理可能なサーバーを自分の本拠地に設置しているはず。
そのサーバーにハッキングし、首輪を解除及びゲームの破壊を図るため、
パソコン(出来れば持ち運びが容易なノートパソコン)、ハッキングソフト、
運営側のコンピューターのアドレス、参加者にはめられている首輪のサンプルが必要だ。
パソコンは民家で入手。ノート型パソコンで、モデムも内蔵されている。
ハッキングソフトを製作するためのツールもどうにか見付かった。
後は首輪をどうするかだ……まさか自分の首輪をどうこうする訳には行かない。危険過ぎる。

(他の参加者から頂戴するしか無いな)

殺し合いに乗っている者、足手纏いになりそうな者でも殺して奪い取ればいい。
深澄はそう結論付けた。
とりあえず目ぼしい物は調達したので、深澄は家電製品店を後にする事にした。

ダンッ!! ダンッ!! ダンッ!!

「!!」

店から一歩出た瞬間、銃声が数発鳴り響き、家電製品店出入口周辺のウインドウガラスに
数個の小さな穴が空いた。
銃撃された、深澄は咄嗟にそう判断し、自分から見て右手方向、
大型の路線バスが放置されている通りに向かって一気に駆け出した。
ちらっと、一瞬だけ銃弾が飛んできたと思われる方向に目をやると、
警官の制服を着た茶色の狼獣人の男が、両手に拳銃を持ったまま駆け出そうとしている所が見えた。

(警官が殺し合いに乗るか……! 全く世も末だな)

深澄は警官に対して呆れの念を抱きつつ、
とにかく警官から逃れるべく全速力で走り続けた。

ダンッ!! ダンッ!! ダンッ!! ダンッ!!

「くっ……!」

その間も警官は両手に持った拳銃で二丁拳銃の構えを作り発砲を続ける。
その内の一発が深澄の右上腕を掠った。
今現在深澄が持っている武器はダマスカスソードという長剣。
切れ味が鋭く、白兵戦では大いに役に立つだろうが、生憎相手は銃を持っている。
銃弾相手に正面から剣で勝負を挑むのは、はっきり言って自殺行為である。
制服の下には拳銃弾程度なら防げる防弾チョッキを着込んではいるが、
両腕両足、頭部は全くの無防備。そこを狙われたら一溜りも無い。
不格好だが、一旦退却するしか無かったのだ。

「待てよ憲兵さん!! 尻尾巻いて逃げるってのかい!? あ、尻尾は無ぇか」

警官が挑発めいた事を背後から叫ぶ。だがそれに構ってはいられない。
深澄は左手側の細い道路に入り、数歩進んだ所でまた細い路地に入り、
その路地を進んだ所で今度は更に細い路地に入った。
警官はしばらく深澄の事を追跡していたが、深澄が余りに何度も入り組んだ路地に入るため、
とうとう見失ってしまった。

「見失ったか……クソッ」

警官は舌打ちしながら、これ以上の追跡は無駄だと諦め、別の参加者を探すべくその場を後にした……。

深澄は路地裏から別の通りに出て、呼吸を整えていた。
右上腕に銃弾が掠った事による掠り傷が出来てしまっていたが、大した事は無さそうだった。

(どうやら撒いたようだな。むう……ここはどこだ?)

周囲の建物を見てみると、市街地と言うより倉庫街のような印象を受ける。
近くに停まっていた軽トラックのコンテナに「~港」と書かれている事から、
どうやらここは港に付随する倉庫街のようだ。
地図で確認すると、エリアH-3に港の表示が確認出来る。

(とにかく必死になって走ってきてしまったが……ここには何も無さそうだな。
H-2に雑貨店か……ここに向かうとしよう)

深澄はとりあえず、エリアH-2に存在すると言う雑貨店に向かって歩き出した。


【一日目/午前/H-3港倉庫街】

【松宮深澄】
[状態]:右腕上腕部に掠り傷、H-2雑貨店へ移動中
[装備]:ダマスカスソード、防弾チョッキ
[所持品]:基本支給品一式、ノートパソコン、ハッキングソフト制作用のツール
[思考・行動]
基本:殺し合いからの脱出。首輪の解除。
1:H-2雑貨店に向かう。傷の手当てもしたい。
2:仲間になりそうな他参加者を探す。但し足手纏いは切り捨てる。
3:殺し合いに乗っている者には容赦しない。
4:首輪のサンプルを手に入れる。


同じ頃、深澄を後一歩の所で取り逃がした狼獣人の警官――須牙襲禅は、
せっかくの獲物を取り逃がしてしまった事を残念に思いつつ、
新たな獲物を求め市街地を北上していた。
弾が切れた二丁の拳銃のマガジンをそれぞれ交換する。

「ちっ……俺とした事が、獲物を取り逃がすなんてな。
だが、次は……必ず仕留める、ぜ」

二丁の黒光りする自動拳銃を両手に携えながら、
襲禅は獲物を狙う時の狼のような鋭い眼光を見せた。


【一日目/午前/G-3市街地】

【須牙襲禅】
[状態]:健康
[装備]:右手=ベレッタM92(15/15)、左手=トカレフTT-33(8/8)
[所持品]:基本支給品一式、ベレッタM92の予備マガジン(15×9)、トカレフTT-33の予備マガジン(8×9)、石井剛夫の水と食糧
[思考・行動]
基本:殺し合いに乗る。人を撃つのを楽しむ。
1:とりあえず北へ行ってみるか。
2:真紀の奴は……まあ、ほっとくか。
3:さっきの女憲兵(松宮深澄)は次に会ったら確実に仕留める。


ほぼ同時刻、同じエリアG-3内に存在する島役場。
応接室のソファーに座っている桃色の髪の女子高生、篠崎廉に、
豹獣人女教師の立沢義がコーヒーを入れてきて、それを勧めていた。
廉は白い洒落たコーヒーカップに注がれたコーヒーを、
火傷しないようにゆっくりと口の中へ流し込む。
カップを持つ手はまだ微かに震えているように見えるが、
最初の時と比べれば随分と廉の様子は落ち着いたように見える。
廉と義はこの島役場に避難した後、お互いに情報交換し、
他愛も無い話をしている内に、次第に打ち解けて行ったのだ。
そして情報交換の中で、廉がまだ自分の支給品を確認していないと言う事だったので、
デイパックを開け中身を確認した。
出てきた物は非常に大型のリボルバー拳銃――スタームルガーブラックホークと、
その予備弾薬と思われる弾丸が入った箱数箱だった。
ブラックホークは今、テーブルの上に置かれている。
支給品確認が終わった後、義は廉にブラックホークを持たせ、こう言った。

「私は精一杯篠崎さんを守るつもりだけど、もしかしたらどうしても守り切れない時があるかもしれない。
そういう時は……貴方自身が、自分で自分を守るのよ。いい?」

義は廉の目を見て、穏やかな口調ながらも力強く言った。
廉はその言葉に対し、静かに頷いた。
そしてそれから二時間弱経ち、その間、二人が身を潜める島役場には他の来訪者は誰一人訪れなかった。
時折、遠くから銃声が聞こえ、ついさっきも何発か銃声が外から響いた。
銃声を聞くたび二人は姿勢を低くし警戒していたが、今の所何とも無かった。
しばらく二人は自分達が殺し合いという状況の中に身を置いているという事を忘れ、
非常に和やかで穏やかな時を過ごしていた。

【一日目/午前/G-2島役場応接室】

【篠崎廉】
[状態]:精神的ショック(やや回復)
[装備]:スタームルガー ブラックホーク(6/6)
[所持品]:基本支給品一式、357マグナム弾(60)
[思考・行動]
基本:殺し合いはしない。死にたくない。家に帰りたい。
1:立沢さんと行動を共にする。
2:こんな銃……扱えるかな……。

【立沢義】
[状態]:健康
[装備]:コルトM1911(7/7)
[所持品]:基本支給品一式、コルトM1911の予備マガジン(7×10)
[思考・行動]
基本:殺し合いからの脱出。
1:篠崎さんを守る。
2:仲間になってくれそうな人を探す。
3:襲われたら正当防衛ならばやむを得ない。

しかし、その島役場を目指す、一人の人物がいた。

サラリーマン風のスーツを着込んだ、青と白の狼獣人の男、生鎌治伸は、
満足気な表情を浮かべながら市街地を歩いていた。
なぜ満足気なのかと言うと、つい先程たまたま侵入した宝石店に、
護身用の物と思われるリボルバー拳銃――S&WM10”ミリタリー&ポリス”が置かれていたからだ。
S&WM10とその予備弾薬30発を宝石店のカウンター裏から入手し、
自分の支給武器であるマイナスドライバーより遥かにマシな武器を入手した事で、
満足気な表情を浮かべていたのだ。
そして彼は島役場を目指して市街地の道路を警戒しながら歩いていた。

応接室で笑顔でおしゃべりしている廉と義の二人は、
すぐそこに既に人を一人殺した殺人犯が迫ってきている事に、まだ気が付いていない。


【一日目/午前/F-3市街地】

【生鎌治伸】
[状態]:健康、G-3島役場へ移動中
[装備]:S&WM10”ミリタリー&ポリス”(6/6)
[所持品]:基本支給品一式、38S&WSP弾(30)、マイナスドライバー、
上田聖子の水と食糧、堀越辰夫の水と食糧
[思考・行動]
基本:他参加者を探し、片っ端から殺す。ついでに優勝も狙う。
1:良い武器が手に入った……へへ。
2:G-3島役場に向かう。


※G-3島役場周辺市街地に銃声が響きました。




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最終更新:2009年10月10日 15:00
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