アフロヘアーに悪い奴はいない

「殺し合え、ねえ……」
その男は独特のリズムを刻みながら、ぶらぶらと歩いていた。
胸元が大きくあいた紫色のスーツを身にまとい、目には大きなサングラス。
そして目を引くのはその大きなアフロヘアー。
街を歩こうものなら十人中十人が二度見してしまうようなアフロヘアーは彼のトレードマーク。
彼の名はトニー・梅田。
こう見えても相当の剣の達人である――とてもそうは見えないが。

そんな彼は、この殺し合いと言う場において特に何をしようとかそういう事は一切考えてはいなかった。
殺し合いに乗ろうと思えば乗る事も出来るだけの実力と度胸は持ち合わせているのだが、あのメガネの男が気にくわなかった。
人に勝手に犬のように首輪を巻き、逆らおうものならその中に仕掛けた爆弾でズガン。
正直、胸糞が悪くなる。
それに、殺しあえと言っておきながら支給して来たのはたった一本の木刀だけ。
やろうと思えばこれで殺せなくもないが、やはり真剣や銃火器に比べると分が悪いと言わざるを得ない。
気にくわない。
かと言ってどうすればいいのかもわからない。
だから、トニーはぶらぶらと当てもなく歩いていた。

「殺し合いなのに墓場とかホテルとか、実に奇妙だねえ……そしてこの教会…殺し合いなんて神も仏もないようなところにこんなの建てるなんて皮肉かい?」

トニーは、目の前に大きくそびえたつ教会に入ろうとしていた。



一方、教会の中。
辰美は激怒していた。

竹科辰美は、人を斬った事がある。
通っていた道場、鳴鏡館の内部抗争に巻き込まれ、人を斬った。
初めて人を斬った時の感覚は、今でも忘れた事はない。
その感覚を覚えた瞬間、辰美は自分はもう戻れないところに来てしまったのだと精神で理解できた。
それを否定したくもあり、一時期は道場破りを続けていた時期もあった。
だが、道場破りを重ねるうちに、辰美は気付いていた。
真剣で、文字通り『斬り合い』をしなければ自分はもう、満足できない身体になっている事に。
そして、そう理解した時にかけられた召集。
鳴鏡と捨陰の抗争。
それこそが、自分の生きていく、血染めの道だと理解できた。
だから辰美は、この殺し合いという状況も割とすんなりと受け入れる事が出来た。



だが、辰美は出会ってしまった。
柊つかさという、無力な少女に。
彼女は、全くの一般人だった。
自分は命の削り合いには慣れているが、彼女はどうだ。
殺し合いなんてものには最も縁が遠い、一般人であるつかさを殺し合いに参加させるメガネの男。
彼だけは、許すわけにはいかなかった。





「…辰美くん、誰か来たみたい……」
「下がって、つかささん。」

辰美の手に握られているものは、一振りの剣。
それも『最強の神剣』と説明されているかなりの名剣だ。
この支給品は辰美に支給されたものではない。
つかさのバッグから出てきたものだった。
当然つかさには使いこなせないこの剣を、辰美は譲ってもらった。
掌に異様に馴染む神剣を握り、辰美は前に出た。

「つかささん、もし危険な相手だったら僕が食い止めます。その間につかささんは裏口から逃げて下さい。」
「でも……」
「大丈夫です。すぐに僕も向かいますから。」

つかさは、もしこの場にこなたがいたなら『それってフラグだよ』と言っただろうな、と思ってしまった。




ぎい、と音が鳴り教会の扉が開く。
果たしてどんな相手が出てくるかと辰美は身構えたが、現れたシルエットに一瞬言葉を失った。
「おやおや、そんな物騒なもの持っちゃってどしたのよ。」
逆光で顔の細部までは良く見えないものの、そのシルエット――大きなアフロヘアーに、辰美は言葉を失った。
だが目の前の人物が手に刀のようなものを持っているのを確認すると、辰美は急いで神剣を正眼に構えた。

「…あなたはこの殺し合いに乗っているんですか?」
「ん~、どうだろうねえ…」
のらりくらり、まるでウナギをつかむかのように目の前の男は明確な答えを見せない。
「そういう君はどうなんだい?竹科辰美君?」
「…っ!なぜ僕の名を?!」
突然呼ばれた自分の名前。
この殺し合いの中で自分の知った名前は師匠である空蝉、自分をライバル視している本郷、そしてかつて命を狙ってきたカッツェのみだと思っていたが……
「そりゃ知ってるさ、だって俺は……」
アフロの男の口元がにやり、と歪んだ。
「…捨陰党の人間だからね。」

その言葉をきっかけに、辰美の眼にそれまで以上の真剣さがこもる。
周りの空気が、じりじりと歪んで曲がっていくような錯覚を、影からこっそりのぞいていたつかさは覚えていた。
辰美は、本人が言うように強かったのだ。
だが、今辰美が対峙しているアフロの男も恐らくは、強い。
一般人であるつかさにもそれは分かった。
辰美の殺気を真正面から受けても、ひるむ事が無かったのだ。

どうすればいいのか。
今の自分にできる事は祈る事だけだ。
一瞬、頭の中に最悪の事態が浮かんだがそれを涙と共に無理やり封じ込めるとつかさは辰美の方をじっと見つめていた。

だが、その空気は呆気なく破られた。


「…嫌だねえ。」
「…は?」
カラン、と床に放り投げられた木刀。
相手の不可解な言動に辰美は思わずたじろいだ。
「んー、辰美君?言っとくけど俺は殺し合いには乗っていないよ?」
「そう…なんですか?」
「ああ、捨陰党所属って言ってもあんまりそっちには出てないし鳴鏡との抗争だってそんなに興味無いのよ。それに…」
「それに?」
「女の子守ってる野郎を斬っちゃ、カッコつかないでしょ?」
「なっ!?」
その言葉に驚いた辰美が振り返ると、その視線の先には祭壇の端からぴょこんと飛び出たリボンと、心配そうにこちらを見つめる二つの瞳が見えた。
その瞳と視線が合うと、辰美は小さくため息をついた。

「…出てきても良いですよ、つかささん。この人は殺し合いには乗る気はないそうです。」
その言葉を聞くとつかさは、おずおずと祭壇の裏から姿を現した、
「へえ、つかさちゃんって言うのか。よろしくな。」
「あ、よ、よろしくお願いします……」
「そう言えば、あなたの名前は何というんですか?」
「俺はトニー。トニー・梅田さ。しっかり覚えておきな。」





【C-5教会/1日目朝】
【竹科辰美@ブシドーブレード弐】
[状態]健康、強い怒り
[装備]最強の神剣@カオスウォーズ
[道具]基本支給品一式(アイテム確認済み)
[思考]1:メガネの男(日野)を必ず打倒する
   2:つかさを守る
   3:トニーを警戒
   4:つかさの友人を探したい
   5:空蝉と合流したい

【柊つかさ@らき☆すた】
[状態]健康、幾分持ち直した
[装備]なし
[道具]基本支給品一式(アイテム確認済み)
[思考]1:辰美を信頼
   2:こなた、かがみ、みゆきと早く合流したい
   3:トニーを信頼?
[備考]高校三年生時からの参戦

【トニー・梅田@ブシドーブレード弐】
[状態]健康
[装備]銀さんの木刀@銀魂
[道具]基本支給品一式
[思考]1:ひとまず殺し合いには乗らない
   2:辰美たちがどうするか見定める




【支給品情報】

【最強の神剣@カオスウォーズ】
柊つかさに支給。
剣に分類される武器。
その名があらわすように、ゲーム中最強クラスのステータスと特性を誇る。
ちなみに攻撃力以外のステータスと特性は不明。

【銀さんの木刀@銀魂】
トニー・梅田に支給。
坂田銀時が常時腰に差している木刀。
“洞爺湖”の文字が彫られている以外は特に変わった特徴は無い。
銀時の剣の腕も相まってさぞ曰くつきかと思いきや実は通信販売で購入可能。
ちなみにお値段は11760円となかなか高額(アニメ版設定)。


021:神様、あなたってとっても残酷 投下順 023:サムライとハリセンと少女
021:神様、あなたってとっても残酷 時系列順 023:サムライとハリセンと少女
GAME START トニー・梅田 041:You got me mad now
少女の出会い 竹科辰美 041:You got me mad now
少女の出会い 柊つかさ 041:You got me mad now

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最終更新:2011年08月26日 23:03
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