38話 曇天
目を覚ました時、ジークリードの目に映ったのは白い天井だった。
「お、気が付いたがジークリード!」
「良かった~ホント、死んじゃうと思ったよ」
「……フリートに、オーディンか」
顔を横に向けると、友人の人狼二人が心配そうな、安心したような表情で立っていた。
「…俺…うっ」
身体を動かそうとしたジークリードの首元に激痛が走る。
どうも包帯が巻かれているようだ。
「あ、無茶すんな。喉食い千切られてたんだからよ」
「……俺……どうしたんだっけ……」
「びっくりしたよ。森の中で血塗れで倒れてたんだから」
「え……」
二人によれば、自分は喉笛に大怪我を負った状態で、住処のある森の中で倒れていたらしい。
それを二人が発見し、急いで、人間の街にある病院へ担ぎ込んだ、との事だった。
「出血の割に大した事は無いらしいからすぐ良くなると思うぜ」
「でもさあ、誰にやられたの?」
「……」
ジークリードはしばらく間を置いて、答えた。
「……覚えてない。思い出せない」
「……そう…か……」
「ショックって奴かな…しかし酷い事する奴もいたもんだねぇ」
「物騒になってきたな…全く」
「……」
「下に売店あったから、何か買ってきてやるよジークリード、行こうぜオーディン」
「あいよーフリート」
「あ、ああ」
二人の人狼は病室を出ていった。
「……夢だったのかな」
ジークリードは再び天井を眺めながら呟く。
喉笛の怪我の理由は本当は覚えている。あの殺し合いで紺色の狼にやられたもの。
しかし、今となっては殺し合いは自分の見た夢だったのでは無いかと思い始めていた。
「夢なんかじゃないよ」
「……!」
しかし、その考えを否定する者が現れる。
「お前は……!?」
病室に、一人の男が不意に現れた。
「よお、ジークリード君」
「荒神、健児……!」
「勝手に夢オチにされちゃ困るっつの……まあ、お前を、お前の住んでいた森に運んだのは俺なんだけどな。
勿論、他にも色々工作はしといたけどね」
「……」
ジークリードは健児に敵意の籠もった視線を送りながら質問した。
「…どうして、殺し合いなんか?」
「ああ?」
「殺し合いを開いた理由だよ。俺はそれで死に掛けたんだ。相応の理由はあるんだろうな?」
少し時間を置いて、健児は答える。
「理由なんかねーよ。ただの暇潰しさ」
「なっ……!」
「面白いからやっただけだ。それ以外にねぇ」
余りに身勝手な健児の言い分に、怪我をしている事も忘れジークリードは健児に掴み掛ろうとした。
「てめぇ……がっ」
しかし、身体に力が入らずベッドから落ちてしまう。
「そんな身体じゃ俺に傷一つ付けられないよ」
「ウッ…ぐ」
「まあ安心しなさいよ。これからのお前の人生に干渉したりはしない。
怪我が治ったら、これまでのように暮らせば良いさ。じゃあなー」
「ま、待て…おい!」
「運命が許すなら、また会おうぜ」
その言葉を最後に、荒神健児の姿はふっと消えた。
「……」
床の上で無言でいるジークリード。
そこへ売店へ行っていたフリートとオーディンが帰ってきた。
「ただいま…っておい、ジークリード! 何してんだ!」
「下手に動いちゃ駄目だって! ベッドに戻って、手貸してあげるから…」
「……ああ、ごめんごめん」
二人の手を借りて、ジークリードはベッドの上に戻った。
ふと窓の外を見ると、鉛色の空が広がっていた。
近いうちに雨が降りそうだ。
晴れない気持ちを胸に抱え、誰にも見せられない心の傷を秘め、彼はこれからの人生を歩んでいく。
【ジークリード:生還】
【もっとエクストリーム俺のオリキャラでバトルロワイアル THE END】
最終更新:2011年05月30日 22:18