「何や、ワイ生きとんのか……?」
煌びやかな光を放つ様々なアトラクション。
見た事もないそれらに顔をしかめながら、男は小さく呟いた。
その表情には困惑が映し出されている。
突然巻き込まれたこのゲームに困惑しているのか?
いや、違う。
彼が感じている疑問はそこではない。
ただ自分が元気な、傷一つ無い姿で動き回っている事――ただ、それだけが疑問であった。
何故なら彼――ニコラス・D・ウルフウッドは死んだはずだったから。
家族、故郷を、守る為に凄惨な戦いを続け、そして全てを守り抜く事に成功し、盟友に見取られ死んだ筈だった。
だが、気が付けばあの部屋に座っていた。そして気味の悪い爺さんから語られた、意味不明な殺し合いへの強制参加。
あの場で爺さんを叩きのめしてやろうとも考えたが、一人の男が首輪を爆破され死んだ瞬間、その気も失せた。
今の自分は四方八方から銃を突き付けている状態と同じ――要するに絶対絶命。
生殺与奪の権利を持っているのはあの爺さんだ。命賭けてまで反抗する気にはなれない。
「……ホンマに生きとる見たいやけど……どないなっとんのや?」
思考を打ち切り、適当に辺りを見回すが人っ子一人見当たらない。
ウザったい程にド派手な装飾品が、ウザったい騒音を鳴らし続けているだけだ。
(近所迷惑やろ、全く……)
ウルフウッドは大きくため息をつき、近くのベンチに腰掛ける。
正直、訳の分からない事ばかりだ。
自分が生き返った事も、このゲームというには悪趣味すぎる殺し合いも、何もかもが理解できない。
「ゲームは始まってるみたいやけど……」
幸運な事に戦闘をしているらしき音は全く聞こえない。
まぁ、銃声がしたところで、この騒音の中では気付けないだろうが。
「……そういや、支給品がどうとか言うてたな」
答えの出ない思考をひとまず中断し、支給品の確認を始めるウルフウッド。
数分後、彼の眼前に食料やら地図やらが列を作る。
「おお、拳銃が入っとるやないけ。ラッキー、ラッキー」
見た事の無い形の拳銃だったが、付属の説明書を見る限り用途は変わらない。多分、何処かしらカスタマイズされているのだろう。
パニッシャーが無いのは残念だが、拳銃一丁でもそこいらのゴロツキ相手だったら瞬殺できる。
それに予備弾薬まで付属されている。当分武器に困る事はない。
初っ端からの幸運に頬を弛ませながら、ウルフウッドは拳銃を懐に差し込んだ。
「何やこれ、参加者名簿?」
次に彼が興味をそそられたのは、長々と文字が続く一枚の紙。
彼はそれを掴み上から順に、ゆっくりと目を通していく。
そして――
「何やと……」
――ある一つの名前を発見し、彼の表情が絶望に染まった。
「……何でコイツまで参加しとんねん……」
ウルフウッドの視線の先、そこには一人の男の名前。
人知を越えた『力』を持ち、そして確実に殺し合いに乗る男――ミリオンズ・ナイブズの名前。
その存在の前には人間など塵も同然。奴の能力を持ってすればこの会場内全てが攻撃範囲内だろうし、下手したら会場ごと破壊だって有り得る。
「アホか! 少しは考えて参加者選ばんかい! 出来レースにも程があるで!」
ここには居ない主催者に愚痴を叫びつつ、荷物を纏め立ち上がるウルフウッド。
――何処に逃亡しようと結果は変わらない。
リアリストとしての自分が頭の中でそう告げるている。
だが、そんな事実を受け入れられる訳がない。
折角手に入れた二度目の生なのだ。
生きたい。
生き抜いてこの会場に居るらしい盟友と会いたい。
生き抜いて砂の惑星に居る家族の元へと帰りたい。
願望が心の中で暴れ回り、体を動かす。
「頼むで、神さま……。会いたいんや、嬢ちゃん達に、リヴィオに、ガキらに、トンガリに……!」
行く宛もなく、ただ人知を越えた力から逃亡する為、生き延びる為、ウルフウッドは全力で駆け始め――
「おい、そこのお前。話がある」
――ようとしたところを、一人の青年に声を掛けられた。
□
「はぁ、デュフォー、ね。まぁ、よろしく頼むわ」
数分前の焦りが嘘のように、落ち着いた様子でウルフウッドは手を差し伸べた。
向かい合うように立っている青年も、差し伸べられた手を握る。
その表情は無表情の一言だが、ウルフウッドはあまり気にしなかった。
ウルフウッド自身、そのような事を気に止める性格ではないし、何よりそれ以上に気になる事がある。
「なぁ、それよりデュフォーよ。ホンマに攻撃はないんか?」
「お前の言ってた、ナイブズとやらの超長距離攻撃の事か?」
「ああそうや」
彼の気掛かりとは、つい数分前に青年が発した一言。
『大丈夫だ、その男がそのような攻撃をする事は、十中八九ない』
挨拶もそこそこにウルフウッドが語ったナイブズの危険性、能力。
その答えが上記の一言だった。
その時の確信に満ち、焦りの色など欠片も無いデュフォーの瞳を見て、ウルフウッドは何故かその言葉を信じてしまった。
そして自己紹介の後、今に至る。
「なんでオンドレはナイブズからの攻撃が無いと思うんや?」
ズイと顔を寄せ、問い掛けるウルフウッド。
比喩なしで生死に関わる問題だ。その顔には何時もの気さくな雰囲気は無く、真剣そのものであった。
そんなウルフウッドを一瞥し、銀髪の青年は口を開く。
「……お前の言うその男、ナイブズと同様に、俺はある能力を持っている」
ハ?と口が開き、ウルフウッドの動きが止まる。
いきなりのカミングアウトに思考が静止したようだ。
「……能力ってのは、何や?オンドレがそないなゴッツい力持ってるようには見えへんけどな」
たっぷり数秒間、間を置いた後にウルフウッドが呟く。その顔には疑心が浮かんでいた。
「能力といっても、ナイブズのような破壊をもたらす物では無い。『答えを出す者(アンサートーカー)』。
一言で言うなら全ての疑問に一瞬で答えを導き出せる、ただそれだけの能力だ」
「……言うてる意味が良く分からんのやけど」
その時、一貫して無表情だった青年――デュフォーの表情に呆れたような色が灯った。
そして一言。
「お前、頭悪いな。言葉のままだ。全ての答えが分かる、ただそれだけだ」
ポツリと、だがしっかりと告げた。
にこやかな微笑みを張り付けたまま、ウルフウッドの表情が、体が固まる。
そして固まったまま、その表情に青筋が浮かび、ヒクヒクと口元が引きつり始めた。
なんだこの糞ガキは?
目上の者に対する礼儀は持っていないのか?
今すぐボコボコに、もとい教育を施してやろうか。
そんな物騒な考えがウルフウッドの頭をよぎった時、再びデュフォーが口を開く。
「分かったか?」
「…………ああ、よーく分かったで。それであれか? そのあんさーとーかーっちゅう力でナイブズが攻撃しない事が分かったんか?」
彼自身、正直に言えばアンサートーカーについて全く理解していなかったが、此処で質問しても再び同じ言葉が返ってくるだけだろう。
一度ならまだしも、二度言われるとプッツンする自信がある。
理性を総動員し怒りを押し込め、ウルフウッドが聞いた。
「いや、違う」
「そうか、違うんか…………って違うんかい!」
相変わらずの無表情で即答するデュフォー。
だが、その返答はウルフウッドの斜め上を行っていた。……悪い意味で。
「ふざけんな! あんだけ馬鹿にしておいて何言っとんのや! ボケ! 早くその能力使わんかい!」
「無理だ、そのナイブズの思考や場所に関する答えが出ない。恐らく制限かなにかだろう」
馬鹿にされながら能力の説明を受け、その結果が『能力は使っていない』、挙げ句に『使えない』だ。
元々そこまで気の長くない彼が怒るのも仕方がない事だろう。
(そもそもあんさーとーかーっちゅうのも怪しい臭いがプンプンやん。実際あったら最強過ぎるやろ、そんな能力。
どんな疑問に対しても答えが分かるってことは、こっちの攻撃だって全部読まれる訳やろ?ないない。そんなんあり得へんから。どんだけ化け物やねん)
「……なぁ、ならその能力使って制限解く方法とか分からへんのか?」
「お前本当に頭悪いな」
「は?」
「それが分かっているのならとっくのとうに実行している」
――結局分からんのかい!
口から飛び出そうになる言葉を飲み込み、ウルフウッドは地面に視線を落とした。
(何やねん、この男……)
目の前に居る男と会話していると、異常なまでに疲れる。
電波なのかマジなのかは知らないが、厄介な人間には違いない。
「……分かったで、おんどれが物凄い能力を持っていて、それは制限されているんやな? 決して電波ではない、と」
皮肉まじりの本音が出てしまったが、デュフォーは気にする様子は見せない。
相変わらずの無表情で頷くだけ。
……なんかどうでも良くなってきた。
実際にナイブズの攻撃もないし、恐らく奴も奴で楽しみながらゲームを進めるのだろう。
自分に出来る事は、ナイブズが本気を出さないよう祈るだけだ。
「さて、これからどうする? おんどれの知り合いも参加させられてんやろ?」
「ああ、高嶺清麿、ガッシュ、ゼオンの三人が居る」
「その三人も何か特殊な力でも持っとんのか?」
「高嶺清麿は俺と同じ能力を持っている。俺よりも不完全だがな。それとゼオンとガッシュは魔物の子だ。殺し合いに乗る奴は……いないはずだ」
――ようするに電波仲間ってことやな。
出掛けた言葉を飲み込み、名簿へとマークをつける。○は仲間になってくれそうな参加者、×は殺し合いに乗るだろう参加者だ。
今のところ○は自分らを含めて六人、×は一人。
……まぁ、情報交換はこんなとこだろう。
「そんじゃ、取り敢えず動くか。ここら辺には誰も居ないようやし」
「そうだな」
流石にこんなガチャガチャした所じゃ会話も不便だし、不意打ちにも対処し辛い。
しかも地図でいうと此処は大分端っこの方らしい。
中心地行った方が人とも遭遇しやすいだろう。
「仲間……」
「は?」
「お前の仲間は居ないのか?」
「……おるな。メッチャ面倒くさい奴やけど、仲間や」
仲間という言葉に、無表情を続けていたデュフォーに変化が起きた。といっても僅かに目を見開いただけだが。
「……そうか。そいつの名前は?」
「ヴァッシュ……ヴァッシュ・ザ・スタンピードや。クソ甘くて意地っ張り、そのくせ泣き虫なアホタレや」
「…………お前とそいつは、余程仲が良いんだな」
「はぁ? 寝言は寝ながら言ってくれ」
皮肉で返してやったのにも関わらずデュフォーの顔には笑顔があった。まるで全てを見透かしているかのような微笑みだ。
何や鉄仮面かと思ってたけど笑えるんやないか……ボンヤリとそんな事を考えながらウルフウッドは歩き出す。
すぐ隣にデュフォーの姿。
凸凹コンビは最悪のゲームへと足を踏み入れた。
【一日目/深夜/G-2・遊園地】
【デュフォー@金色のガッシュ!!】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
基本:ゲームから脱出する。
0:ウルフウッド……こいつ頭悪いな
1:ウルフウッドと共に、脱出に協力してくれる参加者を探す
2:ゼオン、高嶺清麿、ガッシュと合流したい
3:制限を解きたい
4:ヴァッシュとも合流をしたい
5:ナイブズを警戒
【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン・マキシマム】
[状態]健康
[装備]ソードカトラス@BLACK LAGOON
[道具]基本支給品一式、予備弾薬×2
[思考]
基本:ゲームを脱出して元の世界に帰りたい
0:何やねん、この電波君は……
1:デュフォーと共に、脱出に協力してくる参加者を探す。
2:ヴァッシュと合流したい
3:デュフォーの仲間も探してやるか
4:ナイブズを警戒
最終更新:2010年11月19日 18:02