進む先に待つものは

第二十五話≪進む先に待つものは≫

エリアD-6、木々が生い茂り下生えが密集し、
急勾配では無いがそれなりに傾斜のある山の斜面。
道無き道を行く、三人の男女の姿があった。
先頭を行くのは、新緑色の軍服の上に紫色の陣羽織を羽織った、
大柄な白虎獣人――筑紫晴景(つくし・はるかげ)。
右手には長い柄の先に反り返った大きな刀身を持った偃月刀が握られている。
恐らく常人ならば片手持ちなど到底不可能な重量のある武器だ。
そしてその後ろを追従するのは、
青と白の引き締まった身体に白い髪を持つ二足歩行の竜――村上政高(むらかみ・まさたか)。
その背中には赤みがかった髪の若い人間の女性――稲垣葉月(いながき・はづき)が負ぶさっていた。

「大丈夫か二人共」

晴景が背後を歩く竜と、竜に負ぶさっている女性に声を掛ける。
政高は軽く息を荒げており、負ぶさっている葉月は、
時折何かの苦痛に耐えるかのように、顔をしかめている。

「ああ、私は大丈夫だ。葉月さん、足の痛みはどうだ?」
「うん、もうだいぶ……痛みは引いたみたい」

葉月の左足首はよく見ると赤く腫れていた。
数十分前、葉月は山の斜面を歩いていた時に誤って足を滑らせ捻挫してしまった。
とてもでは無いが自力で歩くのは困難になってしまったため、
政高が背負って運んでいたのだ。

「ごめんなさい二人共、こんな大変な状況なのに……」

葉月が申し訳無さそうな表情で言う。
自分が足を怪我して二人の足手纏いになっているのでは無いかと不安に思っていた。
しかし晴景と政高は笑みを浮かべながら、葉月に言った。

「いや、謝る事は無い。大した事は無くて良かった」
「気にしなくていい。困った時はお互い様だと良く言うだろう」

その温かい言葉は葉月の心に染みた。嬉しくもあり、辛くもあった。

「っ……ありがとう……」

葉月は涙が出そうになったのを堪え、二人に礼を言う。

「泣くな泣くな。ふう……それにしても、思ったより山頂までは距離があるな」

晴景が山頂がある方角――と言っても木々しか見えないのだが――の方向に目をやり、溜息を吐く。
この三人はとある目的があり、ゲーム会場のほぼ中央部に位置する山頂を目指していた。

「村上さんの翼で空飛んで行ければ早いんだがな」

晴景が政高の背中に生えた大きな翼を見て言った。

「確かにな……しかし空を飛んだら格好の標的になってしまう。
第一二人いっぺんに運ぶのは流石に無理だ」

政高が苦笑交じりに言う。
このバトルロワイアル、殺し合いにどんな武器が支給品として存在しているか分からない。
もしかしたらライフルのような狙撃可能な武器を支給された参加者もいるかもしれない。
空を飛ぶ事はまさに格好の的になる事を意味しており、危険な行為だった。
それに、人間(片方は獣人だが)二人を乗せて飛べる程政高は力がある訳では無い。
普段、医者の仕事をしている彼は、竜族としては筋力が弱い方であった。
弱いと言っても、普通の人間に比べればずっと筋力はあるのだが。

「確かにな……頑張って歩くしかないか。
行こう。もう少し頑張れるか村上さん、葉月さん」
「大丈夫だ」
「うん、大丈夫」

三人は再び山頂を目指し歩き始めた。
胸に秘めたある”目的”を果たすために。


【一日目/午前/D-6森】

【筑紫晴景】
[状態]:疲労(小)、D-5山頂へ移動中
[装備]:偃月刀
[所持品]:基本支給品一式
[思考・行動]
基本:殺し合いを止める。
1:D-5山頂へ向かう。
2:村上さん、葉月さんと行動を共にする。
3:襲われたらそれなりに対処はする。

【村上政高】
[状態]:疲労(小)、稲垣葉月を負ぶさっている、D-5山頂へ移動中
[装備]:無し
[所持品]:基本支給品一式、不明支給品(1~2個、本人確認済)
[思考・行動]
基本:殺し合いからの脱出。
1:D-5山頂へ向かう。
2:筑紫さん、葉月さんと行動を共にする。

【稲垣葉月】
[状態]:左足首捻挫(やや回復)、村上政高に負ぶさっている、D-5山頂へ移動中
[装備]:無し
[所持品]:基本支給品一式、不明支給品(1~2個、本人確認済)
[思考・行動]
基本:殺し合いはしたくない。死にたくない。
1:D-5山頂へ向かう。
2:筑紫さん、村上さんと行動を共にする。
[備考]
※自力で歩くのが困難です。




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最終更新:2009年10月03日 23:57
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