魔法少女ほむら☆マギカ

「どういうこと……?」

私は、森の中でバカみたいに立ちつくしていた。
分からなかった。
訳が分からなかった。
今までだって、色々なことに裏切られてきた。
でも、その全てに意味があった。
インキュベーターの罠があり、意図があり、魔法少女の絶望があった。
でも今は、何が起こっているのか、どうしてこんなことが起こっているのか、何一つ理解できなかった。
何より、こんなことが起こる必然性も必要性はないはずだ。
インキュベーターたちだって、私とワルプルギスの夜を餌に、まどかを魔女にすることだけが狙いだったはずなのだから。
「それに、巴マミも美樹さやかも、佐倉杏子もこの時間軸では既に死んだはず……」
美樹さやかに至っては、魔女になった上で死んだのだ。
一度魔女になったら取り返しがつかないことを私は誰より知っている。
インキュベーターだって、『一度魔女になってしまえば、元には戻れない』と認めていたはずだ。
舞台の上に立っている魔法少女は、私だけになった。
あとは、私と“ワルプルギスの夜”の間で決着をつけるだけだったはずだ。
それなのに、何がどう狂ってこんなことになったの?
何でこんなおかしなことばかり起こっているの?

――それに、この殺し合いにはまどかもいる。

それを思い出して、私は耐えた。
歯をギリ、と食いしばる。
感情を殺す時に、よくしてきた仕草だ。
泣きそうになった時に、立ち止まりそうになった時に、いつも何度も繰り返してきた仕草だ。

そうだ。
何が起こっているのかはさっぱり理解できないけれど、当面まどかと私の身が危険であることには違いない。
なら、まずは身を守る手段を確認しておこう。
落ちつく為にも、私は支給されたディパックを開けた。
出て来たのは、黒光りする自動拳銃。
すっかり見慣れたもの。
ベレッタM92。
私が、某国の軍事基地から盗み出した拳銃のひとつだ。
インキュベーターを蜂の巣にした時もこれを使った。
もしかしたら、私の武器を取り上げて、改めて支給品として配り直したのかもしれない。
そんなことを思いつく。

――どうしよう。

次の瞬間、それは決して思いつきでは済まないことに気づいた。
いつも左手に装備した『盾』の内部、そこに広がる四次元の空間に手を入れて愕然とする。
『盾』の中に隠していた私の武装――手榴弾や機関銃やRPG-7やタンクローリーや88式地対艦ミサイルなど、無数の武器――が、全て奪われていた。
まず思ったのは、やっぱり、ということ。
人間同士の“殺し合い”なら、私の持っている数々の武装は尋常ではない威力を発揮する。
能力に制限をかけるような主催者なら、私に最初から重火器を多数持たせた状態で参加させるはずがない。
下手をすれば他の参加者への支給品として、ばらまかれて使われているのかもしれない。
そして次に思ったのは、なすすべがない、ということ。

つまり、この殺し合いを生還したとしても、私には“ワルプルギスの夜”を倒す為の武器がない。帰った世界で一から集め直したのでは、到底間に合わない。
どうしよう。
それならどうしたらいいか。
考えなくては。
立ち止まることができないから、考えるしかない。
私が絶望したその時に、私の魂は魔女になり、全てが終わってしまうのだから。
立ち止まったら、生きていけないのだから。

――今の時間軸も捨てて、またループする? やり直す?

今まで何度も繰り返してきたように、今の時間に見切りをつけて、新しい時間をやり直す方法がある。
また繰り返すことに迷いはない。私は何度だって繰り返してみせると誓ったのだから。
でも、それにしたって『じゃあ今すぐやり直しましょう』というわけにはいかないのだ。
私の盾の役割は、武器の収納と盾としての防御だけじゃない。
“時を戻す”という一番大事な機能を持っている。
魔法少女としての固有能力。
盾の中に埋め込まれた砂時計は、紫の砂をこぼしながら時を刻んでいる。
砂の量は一カ月分。
時間を戻した時から砂が落ち始めて、ワルプルギスの夜が来た日に砂が落ち切る。そこで砂時計をひっくり返せば時間が戻る。
一度ひっくり返した砂は、砂が落ち切るまで再びひっくり返せない。
つまり、ワルプルギスの夜が来るまで、時間を止めることはできても巻き戻すことはできない。
ワルプルギスの夜の日まで生きのびない限り、私はこの現実を『なかったこと』にできない。

――なら、私が優勝して生還する? まどかも他の68人も、全員殺して初めからやり直す?

そんなことを考えてしまう。
そして、私ならおそらくそれができるだろうとも思う。
繰り返してきた時間軸の中では、まどかや美樹さやかにトドメを刺した時間もあったのだ。
心が痛むには違いないが、殺せない事はないだろう。
そんな風にきっぱり分析できてしまうことに、自虐する。
どうやら私の魂も、相当に擦り切れているらしい。
でも、だからといってさっさと優勝しましょうという気持ちにもなれない。

――皆殺しにして優勝したからって、帰してくれるとは限らない。

優勝したとしても、主催者が約束通りに願いを叶えてくれる保障なんてないのだ。
「殺し合え」などと平然と命令した相手が、最後の一人には慈悲をかけてやるという都合の良い真似をするかどうか、私にはそれが信用できない。
何より、主催者の白スーツは“魔女の口づけ”を利用してみせた。それも、長い時間を繰り返してきた私でさえ全く未知の方法で。
となると、このゲームには『魔女を生みだすモノ』である、あのインキュベーターたちも関わっている可能性が浮かぶ。
というか、『魔女』に関わることなら、あいつらが絡んでいるしか思えない。
そしてだからこそ、「何でも願いを叶えてくれる」などという言葉を信用できない。
『彼ら』が「願いを叶えてあげる」と声をかけた少女たちは、例外なく破滅していったから……。
そもそも『あいつら』が人の命を使い捨ての部品程度にしか思っていないことは、きっと私が誰よりも知っている。
だからこそ奴は――奴らは――まどかに執着し、私の邪魔をしてきたのだから。

そこまで考えたところで、私の頭は衝撃を受けた。
まどかが魔女になったのを、初めて見た時以来かもしれない。
それぐらいの、“最悪”の可能性。



――もし、この会場にもあのインキュベーターがいたらどうなる?



この会場は、外界から隔離されているように見える。
インキュベーターが主催側にいるのでなければ、主催側は彼らの介入を防ぐ措置を取るだろう。
しかし、インキュベーターならそんなことお構いなしに介入を試みるだろう。
ましてや、主催者が“魔女”と関わっているなら、彼がインキュベーターの協力者だろうとそうでなかろうと、主催に介入しようとする方が自然だ。
そして、アイツらはまどかを契約させたがっている。
どういうわけか、繰り返すごとにどんどん執拗になるやり方で、彼らはまどかの魂を狙い続けている。
そんな彼らが、会場内にまどかを見つければ、契約を持ちかけないはずがない。

今の私は、まどかがどこにいるか分からない。
もし、一人でいるまどかに、インキュベーターが契約を持ちかけたりしたら。
まどかが、“殺し合いを止めさせる”という願いと引き換えに、魔法少女になろうとしたら。

私の知っている鹿目まどかなら、そうしてしまうだろう。
69人の命を救う為に、進んで自らの魂を犠牲にするだろう。

そして、それは最悪の展開だ。



――キュゥべえにだまされる前の、ばかなわたしを……助けてあげて、くれないかな? 



ワルプルギスの夜が来なくても、まどかが魔法少女になった時点で、私はまどかを救えなくなる。
どころか、願いの内容次第では、魔法少女まどかの動き次第では、最悪の魔女が生まれる。
まどかは死んで、私もワルプルギスの夜を迎える前に魔女に殺される。
繰り返せなくなる。
永久に、まどかを救えなくなる。
そうなったら、
そうなったら、



私は走った。
まどかがどこにいるのか分からなくても、あてがなくても、とにかく走った。
(まどか……まどか……! お願い、無事でいて。魔法少女じゃない、そのままのまどかでいて!)

魔法少女の姿をしたまどかに、出会わないことだけを祈りながら。

【A-8/森/深夜】

【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]健康、変身後
[装備]盾(魔法少女の武器)、ソウルジェム(魔力満タン)
[道具]基本支給品一式、 ベレッタM92(残弾15/15)@魔法少女まどか☆マギカ、
[思考]基本:もしまどかが“契約”していたら…???
1・鹿目まどかを一刻も早く何としても保護する
2・主催者の言葉をあまり信用していない

※参戦時期は「まどか☆マギカ」9話、杏子死亡後から、11話以前のどこかです。
※会場内にキュゥべえがいる可能性を考えています。


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最終更新:2011年05月10日 20:19
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