ESCAPE FROM BATTLE ROYALE

39:ESCAPE FROM BATTLE ROYALE

身勝手な魔女が作りだした殺し合いの空間は、創造主の死により崩壊の時を迎えていた。
地震が起こり、地面がひび割れ、老朽化した建物が次々と倒壊する。
周囲を囲んでいた海は真っ赤に変色し、島を取り囲むように深い奈落が現れ、
海の水が奈落へと滝の如く流れ込み、その奈落はどんどん広がり島に迫る。
一方、島の至る所に起きた地割れが大きくなり、奈落へ変化してもいた。

ミリアの亡霊に誘導され、殺し合いを生き残った尾上誠人、中根玲奈、ディートリヒ、松嶋万里の四人。
セイファートの特設リングから現れた暗い通路を抜けた先は、何と廃屋の納屋だった。

「な、何でこんな所に…?」

余りに突拍子も無い場所に出た事に驚く誠人。
他の三人も同様の反応だ。

『この空間が崩壊してるにつれて、次元も歪んでいるのよ……』

亡霊と化したミリアの言葉に四人が外の風景を見渡す。
空は赤黒く染まり、形容し難い空模様と化しており、遠方で建物が崩れ土煙が上がっている。
激しい地震が断続的に続き、正に世界の崩壊の様相を呈していた。

ゴゴゴゴゴゴゴゴ………

「こ、これは、早くした方が良さそうだな……!」
「ミリアさん! 私達はどこに行けばいいんですか!?」

万里がミリアに尋ねる。

『私について来て! 灯台に向かうわ! あそこが元の世界に一番近いのよ!』
「……ああ!」
「分かった」
「分かった!」
「……っ」

もはや考えている猶予は無い。どんどん世界は崩壊してゆき、更に、
背後からは生存者達を冥府へ道連れにしようとする、殺し合いの犠牲者達が迫ってきている。

……待テエエエ……
……逃ゲルナアア……
……殺ス…殺シテヤル……
……ウフフフフッ…アハハハハハハッ……
……殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺……

完全に理性を失った亡霊達は、生存者達に襲いかかろうとする。

地割れや瓦礫を避けつつ、四人はミリアの誘導に従い灯台を目指した。

元々は田圃だったと思われる草むらを走り抜け、目的の灯台まで残り数百メートルまで来た時だった。

ドゴォ!!

最後尾にいた玲奈の足元が突然崩れ、奈落が出現した。

『!! 玲奈さん!!』
「玲奈!!」

ミリアと誠人が駆け寄ったが、玲奈は悲鳴を上げながら奈落の底へと落ちていった。
深い闇へと落ちる中、玲奈はこれまでの人生の事を思い出していた。いわゆる走馬灯と言う奴だろうか。

「……もしかしたら生き残れるって思ったけど……そう甘くないのね……」

生き残るため殺し合いに手を染めた自分でも、
もしかしたら元の世界へ帰れる、生き延びられると思っていたが、
やはりそう上手くはいかないようだと、玲奈は観念し、自分の運命を受け入れた。

また一人目の前で命が無くなるのを目にし、ミリアと誠人はやり切れない思いに駆られる。

『…行こう、誠人君』
「……(コクリ)」

殺し合いの舞台はどんどん崩壊して行く。
まだ悲しむ間も無い。三人となった生存者と一人の亡霊は再び灯台を目指し走り始めた。

島の大部分が崩落し奈落へと消えた。

螺旋階段を駆け上り、三人は灯台最上階へと辿り着く。

『…道を作るわ…私の、最後の力で…!』

そう言うなり、ミリアは灯台ベランダの手すり付近に移動し、水平線――いや、暗黒の空間に向け、
右手を翳し、目を閉じて強く念じた。

「……!!」

手すりが消滅し、灯台ベランダから空間の向こうに伸びる、光の道が現れる。

『…さあ、三人共。この道を真っ直ぐ進んで!』

ミリアが三人に命じた。

三人は光の道に足を踏み入れ、歩き始める。

『そう……そのまま……真っ直ぐ進んで……』
「……ミリア、さん」

もうこれで、本当にお別れだと、誠人は察した。
察したからこそ、最後に、少しだけ話をしたかった。

『……誠人君』
「…ありがとう、死んでまで、俺達を助けてくれて」

ディートリヒと松嶋万里も、思わず足を止め、ミリアの方に向き直る。

「…ありがとう」
「ありがとうございます、ミリアさん」
『……(ニコッ)』
「……俺、忘れないから。ミリアさんの事……将来、他の女の人と結婚したりしても……。
忘れろなんて…言うなよ?」
『……ありがとう……でも……私より…良い女なんて一杯いるよ……誠人君…良い男なんだから……』
「そ、そうかな……」
『自信持ちなよ。誠人君ルックスも良いし、おち○ちん結構立派だし、エッチも上手かったし』
「ちょw」
『何より…格好良いもの、外見じゃなくて、人柄の意味でね』
「……」
『さあ…早く行って』

三人は、光の道を再び進み始める。今度はもう、振り返る様子は無かった。
殺し合いの舞台が崩壊する轟音が響く。
ついに灯台が建っている場所も、崩落し、奈落へと消えた。

光の道を進む三人の背中を見ながら、ミリアは自分でも知らない内に涙を流していた。
死んだ後でも、涙は出るものなのか。


『……私の分まで……生きてね……誠人君……』


もう振り返らない。振り返ったら、もう帰れなくなる気がするから。
いつの間にかディートリヒと万里の間に、並ぶように歩いていた誠人。
ディートリヒと、万里はコヨーテ獣人の少年の目に、光る物が流れているのを、間違い無く見た。


――ありがとう。ミリアさん。本当に……。





……


……




「……っ」

湿った雑草の上で、誠人は意識を取り戻す。
身体を起こすと、そこは森の中だった。
周囲を見渡すと、銀色の巨躯の狼と、黒髪ロングの美少女の姿が。
駆け寄り息を確認する――生きているようだ。

「ここは……」

誠人は森の様子に見覚えがあった。
近くに市街地が見える崖があったので、急いでそこに走り、眼下に見える街を眺める。

「…俺の、住んでる街……!」

誠人が住んでいる、見慣れた街の風景が広がっていた。

「……帰ってこれたんだ……俺達……! あはっ、あはははははは…!!」

生還した喜びを噛み締め、笑い出すコヨーテの少年。
だが、その笑い声は、すぐに嗚咽へと変わった。

「…うっ……ぐすっ……う、ううううっ……」

緊張の糸が解れたのだろう。

「う、あ、あああぁあぁあ……!!」

地面に崩れ落ちた誠人は、子供のように泣きじゃくった。



【♀11番:中根玲奈  死亡】



【♂05番:尾上誠人】
【♂11番:ディートリヒ】
【♀13番:松嶋万里】
【以上3人  バトルロワイアルより――――生還】



038:終焉の時 目次順 040:変わらないものひとつもって旅に出よう

038:終焉の時 尾上誠人 040:変わらないものひとつもって旅に出よう
038:終焉の時 中根玲奈 死亡
038:終焉の時 ディートリヒ 040:変わらないものひとつもって旅に出よう
038:終焉の時 松嶋万里 040:変わらないものひとつもって旅に出よう

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最終更新:2011年05月04日 13:29
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