終焉の時

38:終焉の時

「……もう、俺を入れて四人だけかよ……」

第二回目の放送を聞いたコヨーテ少年尾上誠人は愕然とする。
32人いた参加者は、今や自分を入れたったの四人しかいないと言うのだ。

「…ははっ…もう、いっその事…優勝目指すか?」

脱出を諦め、優勝を目指そうかと誠人が考えた時、放送主のセイファートが意味深な事を言った。

『それで、提案なんですが……。
私が特設ステージを用意しますので、生き残っている四人の方に、集まって頂きます』

「…は?」

『それじゃあ、宜しくお願いします。
尾上誠人さん、ディートリヒさん、中根玲奈さん、松嶋万里さん……』

「いや、宜しくお願いしますって……え!?」

放送が終わるとほぼ同時、誠人の足元に光り輝く魔法陣らしきものが現れ、
まばゆい光が誠人を包み込んだ。

「な、何だよ、う、うあああ……!?」

余りの眩しさに両腕で視界を保護し目を閉じている内、妙な浮遊感に襲われ、いつしか意識を失った。


……


「ん……」

気が付くと誠人は固い床の上で寝ていた。
身体を起こすと、先程までいた廃集落では無く、四角い石作りのリングのような場所だった。
自分の他にも、全裸の青髪少女、銀色の狼、黒髪ロングの美少女がいる。

「うーん……ここは……」
「ん…ま、万里ちゃん…」
「ディートリヒ……あれ、ここ……何?」
「……(こいつら…もしかして、俺以外の殺し合いの生き残りか……?)」

「…ようこそ、特設リングへ。生存者四人の方々」

突如響いた、聞き覚えのある女性の声に四人は声のした方向に目をやる。
リングからやや上部、ベランダのような場所に、オッドアイの女性、セイファートと、
腹心、白狼ヴェルガーがいた。

「てめぇ…!」

誠人が装備していたドラグノフ狙撃銃の銃口をセイファートに向けた。

「あらあら、落ち着きなさいな。首にはまだ首輪がはまってるのよ」

開催式の時に一人の少女を見せしめで首輪を爆破するのに使ったリモコンをちらつかせながら、
セイファートが脅すように言う。それを見て、誠人は必死に心を落ち着かせようとする。

「…ふふ(まあ、撃たれてもバリア張ってあるから一応は平気なんだけどね)」
「くっ……」
「…んで? セイファートさん、さっきの放送の事だけど……」

青髪少女、玲奈がセイファートに尋ねる。

「つまり、ここで殺し合ってもう優勝者決めろって事よね?」
「そうね。もう残り少ないし、ちょっとお膳立てしてあげようと思って」
「……」
「あ、あのっ」
「万里ちゃん?」

少女、松嶋万里が今度は質問する。

「何?」
「どうして…どうしてこんな殺し合いをしようと思ったんですか? 目的は何なんですか?」

万里が聞きたかったのはセイファートがこの殺し合いゲームを開催した理由。
数十人の男女を殺し合わせるその理由を知りたかったのだ。
セイファートは笑みを浮かべながらその質問に答え始めた。

「…いやねぇ…私結構長い事生きてるんだけれど……やっぱり身体の若さを保つ手段が必要になるのよ。
それでね……そのためには、活きの良い魂が必要なの」
「…………おい、ちょっと待てよ」

そこまで聞いて全てを察した誠人が、怒りに震えた声で言う。

「すると何か? ミリアさんや、布施さんや、一葉ちゃん、他の、死んだ奴らは、
あんたの若さ維持するための、生贄だったってのかよ?」

「んー…………そうだね(笑)」

「……ふざけんじゃねえええええ!!!!」

ダァン!! ダァン!! ダァン!! ダァン!!

怒り狂った誠人の手により四発の銃弾がセイファート目掛けて放たれたが、
バリアらしき物によって無効化され徒労に終わる。

「……はぁ、はぁ、はぁ」
「だから無駄だって……ほら、さっさとあなた達四人で殺し合って優勝者決めてよ」
「ふざけるな畜生!!」
「……制限時間30分ね」
「「「「!?」」」」
「30分経っても殺し合いを始めないようなら、全員首輪爆破。良いわね? じゃあ、今から、カウントスタート」

出場者達の了承を得られぬまま、デスマッチバトルは開始される。

「……」
「……」
「……」
「……」

四人は互いに視線を交えるが、動こうとはしない。
下手に動けば逆に反撃を受ける可能性があるからだ。

「…なぁ、俺は尾上誠人。そっちは…中根玲奈さん、そっちは…ディートリヒに、松嶋万里さんだな」
「ええ」
「ああ(何で俺だけ普通に呼び捨てなんだよ)」
「…そうだけど」
「…あんたらは、殺し合いに乗って…いや、乗ってたのか?」

誠人は三人に話し掛け始めた。

「……私は乗っていたけどね。もう二人殺してるわ」
「……俺と万里ちゃんは乗っていない」
「……(コクリ)」
「…そうか…それで、どうするよお三方? あのセイファートの言う事には、30分以内……」

「後25分」

セイファートが釘を刺すように言う。中々殺し合いを始めない四人に苛立っているのか、
その表情はやや不機嫌に見えた。

「…後25分以内に優勝者決めないようなら俺達全員死刑だとさ。どうする…?」

三人を見回しながら誠人が言う。
玲奈は考える。今ここにいる四人で殺し合う気になっているのは自分だけ。
ここで自分が誰かに攻撃を仕掛ければ、他の誰かが自分を攻撃する可能性が非常に高い。
つまり下手に動く事が出来ない。セイファートはお膳立てなどと言っていたが、
実際はただ単に膠着状態にさせただけなのだ。

(余計な事してくれちゃって…セイファートの奴)

互いに睨み合ったまま、時間ばかりが過ぎる。

ついにセイファートが痺れを切らした。

「はぁ、もういいよ。殺し合う気無いのね……中根玲奈さんは殺し合いに乗ってると思ったんだけど」
「…乗ってるわよ。でもねぇ、三対一で下手に動いたらこっちがやられるでしょうが。
あんたのせいよセイファートさん」
「……あらら。お膳立てのつもりが余計な事しちゃったみたいね」

残念そうな表情を浮かべながら、セイファートがリモコンのスイッチに指を置く。
その様子を見た四人は覚悟を決めた。ディートリヒと万里は抱き合い、固く目を閉じる。

(……ミリアさん、ごめん……俺、やっぱ死ぬみたい……)

せめてセイファートに一矢報いたいと誠人は思ったが、リングを囲むように張られたバリアにより、
それも叶わない。一方の玲奈も、乾いた笑いを浮かべていた。

(強姦されて…二人も殺したのに…こんな事になるなんて…とことん不条理よねぇ……全く)

「…安心して。あなた達の魂は無駄にはしないから♪ ……じゃあね」

セイファートはリモコンのスイッチを、押した。


……


……


ガチッ


四人の首輪が一斉に外れ、石造りの床の上に金属音を立て落下した。

「……え?」

今度はセイファート、そしてヴェルガーが驚く番であった。
セイファートは自分が操作したリモコンを確認する。確かに首輪爆破のボタンを押したはずだった。

「な、何で……!?」

まさかの事態に、セイファートは狼狽する。
死の首輪から解放された四人も、何が起きてるのか良く分からず困惑していた。


……ユるさなイ


空間に声が響く。女性の声だ。誠人はその声に聞き覚えがあった。

「……え? この声……」

「せ、セイファート様!」
「どうしたのヴェルガー……あぁ!?」

セイファートが悲鳴を上げる。
床から、地面から、血塗れの人間や、獣人、竜獣が這い出してきていた。

……イぁいヨぉ…わァヒの…のど…ガ……
……あソこ…壊れちゃっタ…もうエッチ出来ナい……あなたのセいで……
……お前なんカの…為に…死ンだってノカヨ…俺ハ……
……ユルサナイ……ユルサナィ……

首に穴の空いた少女。秘部がぐちゃぐちゃに損壊した少女。
首が無くなった白虎獣人の男。黒豹獣人の少年……。
それらは紛れも無く、セイファートの起こした殺し合いによって死んで行った参加者達であった。
死んだ瞬間の苦しみを感じ続け、理性を失いつつある参加者達の亡霊が、今、
主催者とその腹心に牙を剥く。

「な、何でこんな……! ま、まさか…魂を留めておくための『器』に、欠陥があったって言うの……!
やっぱりいきなり大人数から魂を貰うのは危険だった……!」
「う、ああああ、せ、セイファート様!!」

開催式の時の落ち着いた雰囲気からは想像も出来ない程焦燥しているセイファートの目の前で、
腹心の白狼ヴェルガーが亡霊達に囲まれていた。

……殺してヤる……
……許さない……
……お前モ来イ……
……ハハハハハハハハハッ……

「あが……が」

無数の亡霊の手によってヴェルガーの口が強制的に開かれる。
大きく開かれたその口の中に、背中に無数の刺し傷がある狐青年の亡霊が、
酷く錆びた裁切鋏を入れ、舌を挟んだ。

「……! おい、やめ、!!」

ヴェルガーの目に最後に映ったものは、ニヤリとこの世のものとは思えない笑みを浮かべる狐の青年の顔だった。
鋏の刃が閉じられ、ジョキリという生々しい音と共に、ヴェルガーの舌が切断された。
切断面から血が噴き出し、さらに舌根が喉の奥へと沈下し、ヴェルガーは激痛と呼吸困難に悶えた挙句、息絶えた。

次はセイファートの番だった。

「い、嫌、嫌……! そんな…やめて……!」

……今更何言ってんだ……
……死ねっテ、ほら……
……アハハハハッ、アハハハハッ……

胸に穴の空いたハイエナ少年が、金髪ショートの白衣の女性が、赤髪ツインテールの少女が、
他にも大勢の亡霊達がセイファートを取り囲んだ。
セイファートは亡霊達をかき消す魔法を発動しようとしたが、亡霊達の強大な負のオーラの前に逆にかき消される。
そして、いつの間にか亡霊達の手には、錆びた包丁や、メス、鋏が握られていた。

「ああ、あ、ああぁああぁ! 嫌ああああああぁあぁあぁぁぁああああああ!!!!」

絶叫するセイファートの目に、無慈悲に突き刺される鋏。
腹、胸、腕、太腿、秘部、ありとあらゆる所に刃物が刺され、抉られ、切られる。
もはやセイファートは悲鳴を上げる事も出来なかったが、意識だけは無情にもはっきりしていて。
身体中を切り刻まれる感触と激痛ははっきりと感じていた。
その命が消える瞬間まで、セイファートは苦しみ抜く事であろう。殺し合いの主催者の凄惨な末路である。

「あ…ああ」
「……」
「おいおい…」
「……(ブルブルブル)」

リングの上部のベランダで行われているであろう、亡霊達によるセイファートの解体ショーを、
尾上誠人、中根玲奈、ディートリヒ、松嶋万里は恐怖しながら見詰めていた。
良くは見えないが、溢れる鮮血、放り出される肉片、漂う血の臭いで何が起きているのかは大体予想がつく。

……誠人君……

「……!」

不意に、誠人の前に一人の亡霊が現れた。
しかし、セイファートを切り刻んでいる亡霊達とは違い、穏やかな雰囲気だ。
その亡霊は、身体に幾つか銃創が空いた、金髪の全裸の美女。

「……ミリア、さ……!」

見間違えるはずは無い、それは、誠人と行動を共にしていた、ミリア・クリスティーナであった。

「ミリアさん……」

『……誠人君、そして、玲奈さん、ディートリヒさん、万里さん…今よ……』

「え?」
「どういう事だ?」
「……あ! 見てみんな!」

万里がリングのある方向を指差す。そこにはいつの間にか橋と通路が出来ていた。

『……主催者セイファートは死んだわ。どうも、この殺し合いの会場は、セイファートが作り出した、
疑似空間だったみたい……でも、そのセイファートが死んで、この空間は乱れ、崩壊を始めている』

「何だって……?」

ゴゴゴゴ、と、どこからともなく地鳴りが聞こえ、地震が起こり始めた。
周囲の壁にヒビが入り、パラパラと瓦礫が降り注ぐ。

「う、うあ…!」
『あの通路の奥に進んで。私が、案内する。あなた達を元の世界に帰す道に、導くから』
「も、元の世界に…? か、帰れるんですか!?」

万里がミリアの亡霊に訊く。

『走って! 走りながら説明するから! もう時間が無いわ! それに……』


……ドこ行くんだヨ……
……あなた達も…一緒に行こう…よ……
……こっちの世界ニ…オイデ……
……俺達ハ死ンダノニ……お前らハ生きて帰ルつもりかよ……
……許さない……そんなの……
……オ前ラモ…死ネ……


セイファートを切り刻んでいた亡霊達が、今度は生き残った四人に狙いを変えた。
亡霊と化した参加者達はもはや理性を失いつつあり、生者に対し理不尽なまでの嫉妬と憎悪を抱いていた。
四人を永遠に続く苦しみの世界へと、道連れにする気なのだ。


「きゃあああぁああああ!?」
「くっ…万里ちゃん、俺の背中に乗れ!」
「う、うん……」
『急いで! 彼らはもう、理性を失っている! 捕まったら殺されるわ! 荷物は捨てて!!』
「あ、ああ…」
「……っ」


尾上誠人、中根玲奈、ディートリヒ、松嶋万里。
殺し合いを生き抜いた四人の、最後の戦いが始まった。


【ヴェルガー  死亡】
【セイファート  死亡】


【♂05番:尾上誠人】
【♂11番:ディートリヒ】
【♀11番:中根玲奈】
【♀13番:松嶋万里】
【以上4人  脱出開始】


【日中以降/?-?】
【♂05番:尾上誠人】
[状態]精神疲労(中)、上着無し
[装備]無し
[持物]無し
[思考・行動]
0:ミリアさんについて行く。この殺し合いから脱出する。
[備考]
※所持品を全て捨てました。

【♀11番:中根玲奈】
[状態]健康、全裸
[装備]無し
[持物]無し
[思考・行動]
0:ミリアさんについて行く。この殺し合いから脱出する。
[備考]
※衣服及び下着は引き裂かれF-4廃教会内に放棄しました。
※所持品を全て捨てました。

【♀13番:松嶋万里】
[状態]健康、ディートリヒの背に乗っている
[装備]無し
[持物]無し
[思考・行動]
0:ミリアさんについて行く。この殺し合いから脱出する。
[備考]
※所持品を全て捨てました。

【♂11番:ディートリヒ】
[状態]健康、松嶋万里を背に乗せている
[装備]無し
[持物]無し
[思考・行動]
0:ミリアさんについて行く。この殺し合いから脱出する。
[備考]
※所持品を全て捨てました。

≪番外≫
【♂14番:ミリア・クリスティーナ】
[状態]幽霊、永遠に続く痛み
[装備]無し
[持物]無し
[思考・行動]
0:誠人君達を救う。
[備考]
※幽霊です。身体の状態は死ぬ直前のものに準拠しています。


037:第二回放送(美女と野獣オリロワ) 目次順 039:ESCAPE FROM BATTLE ROYALE

034:生きてる喜びと痛みを 尾上誠人 039:ESCAPE FROM BATTLE ROYALE
035:駆け引きや嘘はもう捨てて 中根玲奈 039:ESCAPE FROM BATTLE ROYALE
033:黒夢 ディートリヒ 039:ESCAPE FROM BATTLE ROYALE
033:黒夢 松嶋万里 039:ESCAPE FROM BATTLE ROYALE
037:第二回放送(美女と野獣オリロワ) セイファート 死亡
037:第一回放送(美女と野獣オリロワ) ヴェルガー 死亡

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最終更新:2011年05月04日 12:34
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