想いは 正しく伝わらない


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月光の下、桐山和雄は二度目の人生を生かされていた。
そして、前回のゲームでもそうしたように、彼は今回もコインを投げて決めようとしていた。

表ならば、主催者と戦う。
裏ならば、ゲームに乗って優勝を目指す。
そこに、例えば本当に優勝なんてできるのだろうか、とか、主催者とどうやって戦うのだろうとか、そういった感情による迷いは存在しない。
彼の心は、生まれた時からそういう風にできていたからだ。
コインを右手にのせ、指ではじいて上空に打ち上げる。
コインは空中でくるくると回り、やがて桐山の手の甲に向かって落下を始める。
桐山はそれを受け止めようとした。

背中に刃物をあてられた。
「動くな。質問に答えろ」

彼はひとまず指示にしたがった。
直立不動の姿勢をとった。
女性の鋭い声が質問をした。
「君の名前は?」
「……桐山和雄だ」
「桐山和雄。……君は、このゲームに乗っているのか?」
桐山は、その質問について考えた。
投げたコインは、つかみ損ねて草むらの中に落ちてしまった。
つまり、彼はコイントスに失敗した。行動方針は決まっていない。
ならば答えは「No」になる。
「いいや。……乗っていない」
そう答えると、刃物が背中から離れた。
「そうか……警戒してすまなかった。もう動いてもらっていい」
振り返った先にいるのは、どこかの高校の制服を着た少女だった。
鼻筋に、横一文字の傷跡が横切っているのが特徴的だった。
両手に、チャクラムのような形の刃物を握っている。
「私の名前は津村斗貴子……信じがたいことかもしれないが、化け物を狩る戦士だ」



◇   ◇   ◇

津村斗貴子は、人食いの怪物『ホムンクルス』を抹殺する組織、『錬金戦団』に所属する戦士だ。
家族と友人をホムンクルスに皆殺しにされた体験から、『ホムンクルスは例外なく全て殺す』という、ある意味で惨忍な強い信念を持っている。
その容赦のない戦いぶりは、同じ戦士たちからさえも『スパルタン』『腹黒』と形容されるほどだ。
今回も、とある任務で埼玉県のある町に――部外秘で町の名は伏せたが――着任し、ホムンクルスをおびき寄せる策を実行。
まさにホムンクルスが網にかかろうとしていたところを、この会場に飛ばされてきたのだと、少年にありのままを説明した。
「これがホムンクルス絡みの事件なのかは分からないが、無辜の民間人を巻き込んだ凶悪かつ下劣な犯罪であることには違いない。……私は君を保護したい」
桐山少年は驚いているのか、受け入れているのか、奇妙に虚無的な目で斗貴子を観察していた。
斗貴子は、その瞳に少し困惑する。
ある種の人間が持っている“どぶ川の濁ったような目”とも違う。
むしろ、驚くほど濁りのない、純粋な目だった。
桐山少年はゆっくりと口を開いた。
「ひとつ……尋ねたい」
「構わないが」
「お前の、このゲームでの、行動方針を教えてほしい」
「決まっている。このゲームに理不尽に巻き込まれた力なき者を保護する。そして、力にまかせて彼らを虐げる化け物どもがいれば全て殺す。ホムンクルスではなかろうと、それと同列の存在ならば関係ない」
斗貴子の胸に、憎しみと怒りがないまぜになった、戦闘衝動が湧きあがる。
どんな事情があろうとも、平和な時間を生きている罪なき人々を脅かすものならば、それは例外なく『悪』だ。

もし、斗貴子がこの場に呼ばれたのがもう少し後の時間だったならば、彼女はここまで険のある言い方をしなかったかもしれない。
ある少年と出会って、その少年の影響を受けて。
もう少し柔らかい言い方で、もう少し柔軟な対応を心掛けて、もう少しだけ穏当な、甘い判断をしたかもしれない。
そして、そうならなかったことが、桐山の行動方針に少なからず影響を及ぼした。
しかし、それはこの時の斗貴子には関知できないことである。

その時のことだった。
東方向から、斗貴子の耳に微かな、しかし甲高い悲鳴が届いたのは。

「今の声が聞こえたか?」
「……ああ。悲鳴のようだった」
「君はここで待っていてくれ。私は悲鳴の正体を確認してくる」
斗貴子は硬い声で指示を出し、チャクラムを足首に装着。
彼女の支給品は、愛用の武器である核金だった。
しかし何故か、それは彼女固有の武器『バルキリースカート』ではなく、戦団に所属する後輩、中村剛太の固有武器『モーターギア』となった。
とはいえ、訓練を共にした後輩の武器だ。戦闘に用いる上で支障はない。
スカイウォーカーモードによって機動力を得た斗貴子は、もはや桐山を振り返らず、悲鳴の方角に向けて走り去った。



◇   ◇   ◇

桐山和雄は、津村斗貴子を観察しながら、己の行動方針について考えていた。

コインをはじいて行動方針を決定することは、斗貴子の介入によって邪魔されてしまった。
そこで、桐山は別の方法で方針を決定することにする。
それは、コイントスを中断させた原因の、津村斗貴子と同じ行動方針を取ること。
だから桐山は、彼女に行動方針を尋ねた。
彼女は答えた。

――力なき者を保護する。そして、力にまかせて彼らを虐げる化け物どもがいれば全て殺す。

桐山は、その行動方針をなぞることに決めた。
ならば、と桐山は立ち上がり、津村斗貴子の後を追って走り出した。
悲鳴があがったということは、悲鳴の元では誰かが――『力なき者』が――襲われている可能性が高い。
だからこそ、津村斗貴子はそこに向かって急行したのだろう。
それなら、同じ行動方針を取る自分もそうしよう。
斗貴子の後を追って、その中学生離れした脚力で駈ける。



ところで、ここに両者とも想ってもみなかった誤解がある。
彼は、津村斗貴子の「力なき者を守る」「化け物」という言葉を、そのまま言葉通りの意味として解釈した。
彼は人並みの感覚を欠落させていたので『虐げられる社会的弱者は守らねばならない』という暗黙の常識的な倫理を度外視していたのだ。
つまり、桐山和雄の保護対象は『弱者』であって、『被害者』ではない。
そして、殺害対象も『化け物』つまり『強者』であって、『悪人』ではない。

たとえ、相手がゲームに乗った惨忍なマーダーだったとしても、一般人ならば保護する。
逆に、相手が善良な対主催派だったとしても、実力者と判断したならば殺害する。
桐山和雄は、そのつもりだった。


【F-3/森の中/深夜】

【桐山和雄@バトルロワイアル】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、不明支給品1~3(確認済み)
[思考]基本:「力なきもの(一般人)」を保護し、「化け物(強者と判断したもの)」は殺す。
1・悲鳴の正体を確認しにいく。悲鳴の主が「力なきもの」であれば助ける。
2・津村斗貴子の言うことは行動指針の手本なので、一応尊重する。

【津村斗貴子@武装錬金】
[状態]健康、殺し合いに対する怒り
[装備]モーターギア@武装錬金
[道具]基本支給品一式、不明支給品1~2(確認済み)
[思考]基本:力なきもの(民間人)を保護し、化け物(殺戮者)は殺す。
1・悲鳴の正体を確認しにいく。誰かが襲われていれば助ける。
2・ゲームの打倒。

※武装錬金1話、巳田に襲われる直前からの参戦です。

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