はじまり、はじまり


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暗闇。

頭痛。

人の気配。気配。気配。気配。気配。気配。

不穏。

覚醒。

そして、『それ』は始まる。

※   ※

鳴海歩が目を覚ました時、そこには大量の人間がいた。
いた、と言っても、暗闇の中だったので姿そのものは判別できない。
何十人ものざわめきと、濃密な気配でそうと知れただけだが。
ざわめきが孕むのは、困惑、恐怖、あるいは苛立ち。
その混乱から、彼らも歩と同じく『状況も理解できないまま、突然連れて来られた』のだと分かる。
(何が起こった……?)
歩とその身内だけなら、こんな事件に巻き込まれる心当たりはいくらでもあった。
今までだって何度も殺されかけ、拉致され、命の綱渡りをしてきたのだ。
しかしここに集められた人間は、年齢層も格好もバラバラだ。
大人。子ども。男。女。西洋人。東洋人。
ぼんやりとしたシルエットだけでもそれが分かる。
彼らが、何の意図で集められたかを推測することは困難だった。



そんな集団を壇上がら見下ろすように、一条のスポットライトが闇を裂いた。



光の下に立つ、一人の男。
周囲よりひときわ高いステージに立ち、舞台開幕の語りでも始めるように、両手を軽く広げて立っている。
浮かび上がったステージは、奇妙な空間だった。
フェルトのコラージュでつぎはぎしたかのような、異世界めいた背景。
ステージと群衆の間には、反抗防止用か、轍のような柵がめぐらされている。



「やあ諸君。『神の舞台』にようこそ」



白いスーツ。
ひときわ目立つ長身。
役者のように端正な顔。

鳴海清隆。

「兄貴っ……!」
歩の呼び声は、周囲のざわめきにかき消された。
それは、二年ぶりにまみえる実の兄の姿。
『名探偵』と呼ばれ、『神』と呼ばれ、『望んで叶わないことはない』と言われる頭脳、強運、カリスマの全てを備えた、高い城の男。
そして、鳴海歩が打倒すべき、最後にして最大の壁。
歩のいる世界を、陰から動かす黒幕。
「さて、状況を飲み込めない者が大多数だと思うので、説明を始めよう。もちろん、そういう状態で連れて来るように手配したわけだが」
各所で、どういうことだとか、何様のつもりだとか、そういう意味合いの反発があがる。
にも関わらず、清隆の声は実によく響き渡った。
「単刀直入に言おう。今日、君たちをこの場に呼んだのは、私の『実験』に参加してもらう為だ」
『実験』という言葉に、歩は身がまえた。
清隆の真意は分からない。
何の意味があって、これだけの人間を――それもどう見ても自分達に無関係な者も含めて――集めたのか。
しかし、この兄がまっとうな企みをするはずがないことは誰よりも知っている。
「私が君たちに望むことは、たったひとつ」



「――『生きる』。それだけだ」



反抗のざわめきが、困惑のさざなみへと変わった。
ただ『生きろ』と言われて、意図を汲みとれる人間はそういない。
「間もなく、君たちには会場へと移動してもらう。ゲームが始まるのは、会場に着いたその瞬間からだ。そして『最後の一人』が生き残った時、ゲームは終わる」
最後の一人。
その言葉の意味を理解して、群衆が凍りつく。
つまりそれは――自分以外の人間を死なせるということ。
「殺しても、奪っても、虐げても、騙しても、唆しても、手を組んでも、裏切っても、何をするのも自由。禁止するのは、二つだけだ。『辞退』と――」

「清隆様! 嘘でしょう!?」

その一人舞台を中断させたのは、少女の叫び声だった。
「いつもと同じで悪ぶってるだけなんですよね!? 皆を死なせたりしませんよね! だって清隆様は、私たちも救ってくれるって……」
痛切な叫び声を、清隆は最後まで言わせず、否定した。
「いいや、これは悪い冗談でもおふざけでもない。『運命』の為の、意味ある戦いだよ。
そう、いずれ殺される者は殺され、殺す者は殺す。あまり乱暴なやり方は好きじゃないが、ここは一番簡単に理解できる方法を選ぼう」

ぱっ

スポットライトが、その彼女に当てられた。歩の立ち位置から、それほど離れていない場所だ。
灰色のツインテール。小学生のような体駆。
すがりつくような目と、わなわな震える両手。
竹内理緒。


ブレード・チルドレンの一人であり、『爆発物のエキスパート』であり、誰よりも鳴海清隆を信奉していた少女。
頭の切れる少女で、普段なら黙って状況の把握に徹する冷静さを持っていた。
しかし、清隆に心酔する彼女としては、疑問を訴えずにいられなかったのだろう。
「え――?」
理緒自身は、唐突に照らされたことに困惑していた。

「近くにいる人は、彼女の首元を見てほしい。ああでも、近づいたりしたら駄目だよ。巻き込まれると危険だからね」

その時、歩は見た。
理緒の首筋に、蝶のような、しかしハートの形にも似た、奇妙な刻印があるのを――。
そして、


ぼん



あっけないほど間抜けな音を立てて、竹内理緒の首から上が消し飛ばされた。

「理緒さんっ!?」
「いやああああああっ!!」
「清隆っ! てめぇ――!!」

激しい怒声。恐怖の悲鳴。
その中には、理緒の仲間だった『ブレード・チルドレン』の声も混ざっている。
その混乱は、当然の帰結だった。
爆発物も何も無しに、少女の首が爆発したのだ。
そして、騒乱の中でもその男の命令は全員の耳に届く。

「『辞退』と『反抗』だ――今から、喋ることを禁じる」

静かだか打ちすえるような声に命じられて、全員が従った。
内心はどうあれ。

「君たち全員には、ある“呪い”がかけてある。
“魔女の口づけ”と呼ばれるものだ。
明るい場所に移動したら、全員の首筋に刻印が刻んであるのが分かるだろう。
本来は人間を“魔法”によって操る為のものだが、今回ばかりは用途が違う。」
集団のどこかから、息を呑む音が聞こえた。
歩は首筋に手を当てる。
触っただけでは判別できないが、全員の首にその“呪い”とやらがかかっているというのか。
「見ての通り、私の任意で君たちの“呪い”は発動するようになっている。
また、全員の首がけし飛ぶ場合もある。十二時間が経過するごとに、新たな死者がゼロだった場合だ」
沈黙を味方につけ、清隆は滔々と説明を続ける。
「他にも、ゲームを促進させる為に、君たちにおいおい指示を出すことがあるだろう。
その詳細は、六時間ごとに定時放送を流すからしっかり聞いておくように。
放送では、死亡者の名前と残り人数も発表するから、情報源としても利用すればいい
……さて、理緒が私の名前を叫んでしまったことだし、ここいらで自己紹介をしておこう。私の名前は清隆。『神』と呼ぶ人間もいる。
ファーストネームだけで失礼させてもらうよ。私の身元が知られると、余計な面倒を背負う参加者もいるからね。
それに世の中には、顔とフルネームが分かっただけで人を殺せる、まがいものの神様もいることだし」
名前で人が殺せる?
魔女?
『運命』やら『ヤイバの呪い』やらオカルトめいた話を聞かされてきた歩だが、それでも清隆の言葉はずっと非現実的だ。
清隆はそれらの意味ありげな言葉に説明をすることはなく、どこからか取りだしたディパックをその手に掲げた。
「あまりに突然のことで、説明をしっかり聞けなかった人もいるようだね。無理もないと思う。そこでこのディパックにルールブックと参加者名簿を入れておいた。
これを全員に支給するよ。他にも必要な道具いくつかと、ランダムな支給品が入っている。ランダム支給品の数は人によってまちまちだ。
中には立派な殺人兵器もあれば、可愛いハズレが入っていることもあるから、運次第で実力差を埋めることもできる」
実力差と言えば、と続ける。
「能力の不調を訴える人がいるかもしれないが、不公平を是正する為の措置と思ってほしい……まさに“誰が誰に殺されるか分からない”というわけだ」
意味ありげに付け加えて、清隆は言葉を切った。
「他に説明は……ああ、そうそう、大事なことを忘れるところだった。
先ほど、ルールを破った場合の制裁を説明したけれど、罰があるなら当然、褒美もある。
優勝者には大きな報償を与えよう。『望みをひとつ叶える権利』だ」
笑みをたたえて、一同の反応を楽しむように、
「金銀財宝でも満漢全席でも。例えば、死んでしまった人を生き返らせることでも、何でもありだよ。
……ただし『ひとつ叶える』という約束である以上、生き返らせたい人間は、一人までにしてほしい」
鳴海清隆は、大抵の不可能をものともしない存在だが、それでも決して魔法使いではない。
『神』を名乗ってはいても、『死者蘇生』などできるはずもない――はずだ。
歩はどういうことだと問いただしたかったが、スポットライトが消える方が早かった。
「では、そろそろ会場に移動してもらおうか。
それぞれの『飛ばされた』場所が会場のスタート地点になる。ディパックの中の地図で、現在地を確認するといい」
暗闇の中だというのに、清隆の不敵な笑みが見えた気がした。

「さぁ、頑張ってくれたまえ――私の歯車たち」



※  ※

参加者が転移させられ、がらんとした空間に鳴海清隆は立つ。

「さて、それでは彼らが『彼女』の予想以上の成果を上げてくれることを期待しようか。
君たちのやり方では『エントロピーを凌駕する』と表現するのだったか?」

彼の背後で、その独白に答えるように、
赤い瞳が輝き、白いしっぽがふわりとひるがえった。


【竹内理緒@スパイラル~推理の絆~ 死亡】

【ゲーム スタート】

【残り 70人】


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