古城銃撃戦

第二十二話≪古城銃撃戦≫

B-6古城の玄関扉が軋んだ音を立ててゆっくりと開く。
中の様子を確認しながら入ってきたのは、野球のユニフォームに身を包んだ男――長谷川俊治。
彼を出迎えたのは静寂に包まれた広い玄関ホール。
両脇に二階へ続く階段が設けられ、真っ直ぐ進むと木製の両開きの扉。
天井には明かり取り用の繊細な鉄細工が施された円形の巨大な天窓が造られている。
床には厚く埃が積もり、割れたガラスの破片や鳥の糞が風化し固まった物が散乱しているが、
それでも城内にはかつての荘厳さの名残が残っていた。

「こんな辺鄙な島に、随分不釣り合いな城だな……一体どんな奴が住んでいたんだ?」

どこか木々が生い茂る山奥にあるならまだ分かるが、ここは小さな島。
しかもこの城は草原地帯にぽつんと建っている。
かつてこの城にどのような人物が住んでいたのか俊治は少々気にはなったが、
今そんな事を詮索しても仕方無いだろう。

「とりあえず、まずは――」

ダンッ!

「一階から調べよう」と言おうとしたその時、
銃声と共に俊治の被っていた黒い野球帽が弾き飛ばされ、床に落ちた。
そして立て続けに銃声が響き、俊治の足元の床に小さな穴が数個空いた。
一瞬突然の出来事にたじろいだ俊治だったが、
銃撃された事に気が付くと、すぐ近くの太い円形の石柱の陰に隠れる。
そして再び銃声が響き、円柱の一部が抉れた。

(くそっ、俺とした事が油断していた……!)

いつ襲い掛かられるか分からない状況にいると言うのに、
他愛も無い疑問に完全に注意が逸れてしまっていた自分の不明を悔やむ俊治。
微かに床に小さい金属質の音が複数落ちる音と、
カチャ、カチャという何かをセッティングしているような音が聞こえる。
弾を込めている音だろうか。
俊治は自分を攻撃してくる者に向かって大声で叫んだ。

「待ってくれ! 俺は殺し合うつもりは無い!!」
「……」

だが返事は無い。

「聞いてくれ! あんたはこんなふざけたゲームに乗るつもりか!?
もしそうなら余りにも馬鹿げてるぞ! 考え直せ!!」
「……」

尚も返事は無い。

「おい――」

ダァン!!

今度は返事が返ってきた。銃声という名の。

「くそっ!」

敵はどうやら説得に耳を傾ける気は無いようだ。
こうなったらやむを得ない。ここで殺される訳にはいかない。
俊治は腰に差していた自動拳銃――ラドムVIS-wz1934を引き抜き、
射撃手のいる方向に向かって引き金を引いた。

バンッ! バンッ! バンッ!

生まれて初めて銃を撃ったが、思ったより反動は少なかった。
しかしどうやら向こうは二階部分の石柱に隠れているらしく、
俊治の放った弾は石柱や全く違う方向の壁に当たるばかりだった。

ダァン! ダァン! ダァン! ダァン! ダァン!

向こうも銃撃で応答してくる。俊治も負けじと撃ち返す。

バンッ! バンッ! バンッ! バンッ! バンッ! ガチッ、ガチッ。

「!? くそっ、弾切れか!」

ラドムがスライドオープン状態となり全弾撃ち尽くした事を俊治に知らせる。
説明書に書いてあった通りにマガジンキャッチを押し空のマガジンを排出し、
デイパック内の予備のマガジンを装填する。
向こうも弾を装填しているようだ。

バンッ! バンッ! バンッ!

「くっ!」

このままでは埒が明かない。
ふと、俊治は自分のデイパックから僅かに顔を出している物に気が付いた。
それは自分のもう一つの支給品、マークⅡ手榴弾――いわゆるパイナップル手榴弾である。
俊治は、迷ったが――。

(やむを得ない、か)

俊治はデイパックから手榴弾を取り出し、口で安全ピンを抜き、
自慢の投球力とコントロールで射撃手に向かって投擲した。
数秒後、壁に小さな金属製の物が当たって床に落ちる音。
直後、奥へ駆け出す足音。
そして。

ドガアアアアアアアアアアン!!!

雷が近くに落ちた時のような、凄まじい轟音が響き渡り、
周囲に細かい破片が散らばり粉塵が巻き起こった。古城全体が振動したのを俊治は感じた。
土煙を吸い込むのを防ぐため袖を口に当て、目を瞑る俊治。
しばらくして少し粉塵が収まってきたので、銃を持って警戒しながら石柱の陰から出る。
そして目に飛び込んできた光景に絶句した。
城玄関から右手の二階部分、恐らく元々廊下へ続く両開きの扉があった場所が、
黒焦げになり凄まじく破壊されていた。
僅かだが炎もメラメラと燃えている。
階段を上がり二階部分へ移動し、爆発現場に近付いてみる。
まだ粉塵を上げ、パラパラと小さな破片が天井から降っていた。

「……な、何て威力だ……ま、まさか……」

ここに来て俊治の胸をよぎる不安。
この爆発では、先程の射撃手は無傷では済まないはずだ。
いや、もしかしたら、命に関わっているかもしれない。

「……」

俊治はゆっくりと爆発現場の奥へと歩みを進めた。
とにかく自分の目で確認しなければ。もしかしたらまだ生きているかもしれない。
自分を襲ってきた襲撃者とは言え、見捨てる訳にはいかなかった。
巻き起こっている粉塵を防ぐために左手で口元を押さえながら、俊治は奥の廊下へと入って行く。
廊下は粉塵が凄く数メートル先も見えない状況である。
左手で口を覆っているとは言え完全に粉塵を防げる訳では無いので、
少しせき込みながら足を進める。

「おい! 大丈夫か!? 返事をしてくれ!!」

視界が聞かない粉塵に向かって叫ぶ俊治。
だが、返事は無い。俊治の心に焦燥の念が浮かび始めた。
その時。

バンッ! バンッ! バンッ! バンッ! バンッ! バンッ!

6発の銃弾が俊治の身体を貫き、何が起こったか分からぬまま、
俊治は大量の血を吐きその場にうつ伏せに倒れ、絶命した。




俊治を襲撃し、そして今、俊治に銃弾を撃ち込み倒した襲撃者――新藤真紀は、
俊治の持っている拳銃とデイパックを拾い上げ、呆れたように言い放った。

「大丈夫な訳無いでしょ……手榴弾の爆風食らったのよ?」

俊治が放った手榴弾を確認した直後、真紀はすぐに背後の廊下の奥へ全速力で走った。
数秒後に背後で手榴弾が炸裂し、粉塵と爆風が巻き起こり真紀は数メートル前方に吹き飛ばされた。
爆音で聴力が一時的に低下した事と、破片による掠り傷、床に叩き付けられた事による打撲。
けっして軽い怪我では無かったが、重傷では無かった事はまさに幸運だった。
しかしまさか手榴弾を投げられるとは真紀自身も予想だにしなかった事である。
まだ爆音の余波で平衡感覚が覚束無い真紀は、
ふらつきながら俊治の死体を通り過ぎ、玄関ホールへ出た。

「ごめんなさい。長谷川投手……あなたのファンには悪いけど……。
私、優勝を目指しているから」

真紀は俊治の死体に向かって謝罪の念を述べると、
荷物を整理するため城内の別の部屋へと向かった。

玄関ホールの床にぽつんと、日除けの部分が大きく裂けた野球帽が落ちていた。


【一日目/明朝/B-6古城玄関ホール二階部分】

【新藤真紀】
[状態]:身体中に掠り傷及び軽度の打撲、一時的な聴力低下及び平衡感覚の狂い
[装備]:二六年式拳銃(0/6)
[所持品]:基本支給品一式、9㎜×22R弾(38)、ラドムVIS-wz1934(5/8)、長谷川俊治のデイパック
[思考・行動]
基本:優勝を目指す。積極的に他参加者と戦う。
1:荷物の整理。出来れば傷の手当てもする。
2:古城内部を探索し、武器になりそうな物を探す。
3:知人(須牙襲禅)とは出来れば会いたくない。
4:狐の少女(葛葉美琴)はまた会ったら今度は必ず仕留める。


【長谷川俊治  死亡】
【残り39人】


※B-6古城の玄関ホール二階部分東側が爆発により破壊されました。
※B-6古城の玄関ホール二階部分東側に長谷川俊治の死体、
玄関ホール一階床に長谷川俊治の野球帽が放置されています。




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最終更新:2009年09月23日 19:16
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