何この火力差ふざけてるの?

第十九話≪何この火力差ふざけてるの?≫

私――志水セナ(しすい・せな)は、他参加者を探して山中を歩いていた。
目的はただ一つ、このゲームの優勝者になる事。
私を含め50人もの人間(獣人も多いが)が最後の一人になるまで殺し合うなど、何と刺激的なイベントか。
普段、ありきたりの毎日、ありきたりの生活に退屈していた私にとって、まさに果報。
勿論、自分にも怪我の危険、あるいは死の危険が付き纏うが、楽しい事をするのにリスクは付き物。
今回はそのリスクが少し大きい、それだけの事だ。

ハーフ狐獣人である私には狐の耳と尻尾が付いている。尻尾はただ単にフサフサなだけだが、
耳は聴力が高くよく聞こえる。これは役に立つ。特に今のような殺し合いという状況では。
遠くから何種類もの銃声や微かに悲鳴のようなものが聞こえる。
やはり戦う気になっている参加者も多いようだ。
面白い。勝ち抜いてみせよう。フフフ。

幸い私の支給品は恵まれていた。入っていたのはサブマシンガンとショットガン。
サブマシンガンはイングラムM11A1。
よくアクション映画にも出てくる小型のサブマシンガン。
連射可能で相手を寄せ付けず一方的に倒せそうだが、弾の消費が早い。
後先考えず撃ちまくっていたらあっと言う間に弾切れになってしまうだろう。気を付けなければ。
ショットガンはレミントンM31。
小型のショットガンで、一度に2発までしか弾を装填する事が出来ないが、
散弾である12ゲージショットシェルならばロクに狙いを付けずとも相手にダメージを与えられる。
特に至近距離から撃てば恐らく、いやほぼ間違いなく撃たれた相手は死ぬ。
死ぬか生命に関わる大怪我を負うはず。
それにセミオートなので無駄撃ちも少ないはずだ。
二つとも少々の難点はあるが、十分強力な武装である事は間違い無い。
倒した相手から武器を頂戴していくのもいいだろう。
私は体力には自信は無いが、武器を上手く使えば優勝だって狙えるはずだ。

名簿を確認したが、知っている人は近所の食堂の店主である川田喜雄ただ一人。
自分もよく行く食堂の店主だが、別にそんなに親しい訳では無いので放置。

森を抜けると、開けた場所に出た。そこには朽ち果てた鉄塔がそびえ立っていた。
鉄骨は錆び、鉄塔根元部分のコンクリート製の建物は崩壊し瓦礫の山と化している。
鉄塔に登るための階段も完全に崩壊しており登る事は不可能だ。
いや、こんなボロボロの鉄塔、例え階段が無事でも登る気はしないが。

「!」

向こう、北の方角から誰か来る。
瓦礫に隠れて様子を見ていると、水色ショートヘアの少女がやってきた。
恐らく私と同年代、別の高校に通っているようだ。
私はイングラムの安全装置を外し、少女に狙いを定めた。




あの叫んでいる人の所から結構歩いたなぁ。
ここは……鉄塔があるからエリアD-4ね。
ここに来るまでに誰とも遭遇しなかったのは運が良いのか悪いのか。
決して単独行動したい訳じゃないんだけど、誰か強そうな人がいたら守ってほしいし。
まあいざとなったらこのリボルバー拳銃――S&Wスコフィールドで戦うしかないかなぁ。

ダダダダダダダダダダダッ

「!!?」

突然、機関銃のような音が響き、私の周囲の地面から土煙が噴き出した。
咄嗟に近くの瓦礫の陰に隠れる。

(お、襲われた!? 油断してた……向こうは機関銃か何かでも持ってるの!?)

ダダダダダダダダダダダッ

相手は瓦礫に隠れる私に向け尚も発砲してくる。
相手は恐らくこの瓦礫の山の反対側にいるのだろう。

「ねえ待って! 私は殺し合う気は無いわ!」

相手に戦う意思は無い事を訴える。殺し合いに乗っている訳では無いのは事実だし。
しかし、相手の返答は、

ダダダダダダダダダダダッ

再度の銃撃だった。どうやら私の話を聞く気は無いらしい。

「くっ!」

ダァン! ダァン!

私も負けじと撃ち返す。
しかし相手の姿も見えないのに当たるはずも無く、無駄弾だけが増えていく。
いわゆる膠着状態になってしまった。

ダダダダダダダダダダッ

まずい、向こうは連射可能な銃器、こっちは単発のリボルバー。
この火力差は半端無い。完全にこっちが不利だ。
この状態で距離を詰められたらアウトだ!
元来た道を戻ろうとも思ったけど相手が追いかけてくるかもしれないし。
どうにか出来ないかと辺りを見回しても見えるのは瓦礫の山と周囲に広がる森ばかり。
いやでも何とかこの状況を打開しないと、非常にマズいよ私!
あれ、私から見て左手側、よく見ると急な坂になってるみたい。
距離は10メートル弱、一気に走れば何とか行ける距離だ。
よし、このまま居ても何の解決策も出ない。ここは一か八か……!

私は意を決して、スコフィールドをデイパックの中にしまい、
そして瓦礫の陰から飛び出し、坂に向かって一気に駆け出した。
そして坂まであと一歩という所で、

ダダダダダダダダダダダッ

銃声と同時ぐらいに、背中から脇腹、胸元辺りにかけて熱い物が貫く感覚を感じた。

「あっ」

ちょ、ちょっと、もしかして私、撃たれた――?
そう思った瞬間、身体が宙に浮いたような気がして、そして――。

「きゃああああああーーーーーー!!!」

ズザザザザザザザザ。

私は坂を盛大に転げ落ち、途中で意識がぷっつりと途絶えた……。




「逃がした? それとも死んだ?」

所々木の枝が折れたり下生えが抉れた急な坂を見下ろしながら、
私はイングラムのマガジンを交換した。
かなり急な坂になっている。ここを転げ落ちれば無傷では済まないはず。
ましてやよく見えなかったが、数発胴体に被弾させる事に成功した。
生存の可能性より死亡の可能性の方が高いだろう、とは思うが……。

「まずは一人目かなー……いや死んでるかどうか分からないし、
まだ未定って事にしとこう」

私は地図を広げ、とりあえずは山頂を目指す事にした。

「さて、行きますか」

眼鏡を掛け直し、イングラムをデイパックにしまいレミントンM31を取り出し、
私は山頂へと歩き始めた。


【一日目/明朝/D-4鉄塔】

【志水セナ】
[状態]:健康、D-5山頂へ移動中
[装備]:レミントンM31(2/2)
[所持品]:基本支給品一式、イングラムM11A1(30/30)、イングラムの予備マガジン(30×9)、
12ゲージショットシェル(40)
[思考・行動]
基本:優勝を目指す。他参加者を積極的に殺していく。
1:D-5山頂へと向かう。
[備考]
※水色ショートヘアの少女(桂川八重)を殺したかどうか分かりかねています。




「う……ここ、は……くっ!」

気が付いたら私は草生えの上に倒れていた。
起き上がろうとして、身体中、特に胸元と脇腹に激痛を感じる。
見れば赤い染みが広がっている。そうだ、私は撃たれたんだ。
見上げれば急な坂が延々と上まで続き、途中地面が抉れていたり木の枝が折れていたりしている。

(思い出した……私は襲われて、逃げようとして……)

襲撃者から逃げようとして、弾が身体に当たって、坂から転げ落ちたんだっけ。

「いった……あ……」

身体中が痛い。撃たれた所なんて、ずっと火箸を押し付けられてるみたい。
口の中も切ったみたいだし……足も挫いちゃったみたい……。
あんな高さから落ちれば、当然か……撃たれた所、大丈夫かな……。

「せめて、撃たれた所だけは治療、しない、と……」

近くの木に掴まりながらゆっくりと立ち上がる。
撃たれた所や挫いた足に激痛が走るが、歯を食い縛って耐える。
確か、市街地に病院があったはず、そこに向かおう。
絶対、こんな知らない所で、死にたくない……!


【一日目/明朝/D-3森】

【桂川八重】
[状態]:胸元、脇腹に貫通銃創(命に別条無し)、身体中に擦り傷及び打撲、
左足捻挫、衣服が土汚れだらけ、G-2病院を目指し移動中
[装備]:無し
[所持品]:基本支給品一式、S&Wスコフィールド(1/6)、45LC弾(54)
[思考・行動]
基本:何が何でも生き残る。手段は問わない。
1:G-2病院へ向かい、傷の手当てをする。
2:仲間になってくれそうな人を探す(生存率アップのため)。
3:やる気になっている人と出くわしたら可能な限り逃げるかやり過ごす。
4:進んで殺し合う気は無いが、必要とあらば……。
[備考]
※襲撃者(志水セナ)の姿を確認していません。
※足を負傷しているため、移動速度は遅くなります。


※D-4一帯に銃声が響きました。




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最終更新:2009年10月10日 01:00
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