同盟


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

小学校の校門を出ると長閑な港町の風景が広がっていた。

黄泉島と呼ばれるこの島には、急峻な山並みが東から西に続き、島を北と南に二分している。
監督官の話では、琉球から移り住んだ人々が南の山を切り拓き、そこに港町を築いたそうだ。
北側は険しい山が広がるばかりで、人工物は気候観測所と電線を繋ぐ鉄塔のみだ。
北側には南側の港から船に乗り込み、島をぐるりと回り込んでいくしかない。
あまりに急峻な山並みは、現代に至っても人の到来を拒み続け、北側には住民は一人もいない。

政府はこの地形を考慮し、相互処刑の舞台を南側のみとし、北側に移動した者、
あるいは移動しようとした者に対してはペナルティを課すという特別ルールを制定した。

黄泉島の港町は、急峻な斜面に住宅がへばり付いているという印象がある。
斜面の最下層には港が開かれ、下層から中層には住宅や店舗、交番や学校などの公共施設、
上層には棚田が整備され、神社と墓もそこにある。現在、島の住民達は何らかの事情で島に残る者を除き、
殆どが本土に自主的に退去している。相互処刑の流れ弾に当たってはたまったものではないからだ。
未だに島に残っている者はそうした危険を諸共しない連中ばかりだ

柚木は上着のポケットから煙草を取り出し、火を付ける。
もしかしたら最後の煙草になるのかもしれない。煙草を眺めてそう思った。
ゲームが始まったら、煙草を吸うのは止めにしなければならない。
火の明かりや煙で、他の参加者に居場所を勘ぐられては厄介だ。

腕時計に目をやると、時刻は11時。残り1時間でゲームが始まる。
ゆったりと道路を歩き、地図を睨んであらかじめ決めておいた隠れ家に向けて坂を登っていく。

坂を登っていくに連れ、少しずつ立ち並ぶ民家が疎らになっていく。
柚木の進行方向の先、古びた純和風の民家の傍に立つ樹木の影に、スーツ姿の強面の男が佇んでいた。
その男はサングラス越しに、柚木にじっと視線を向けている。

――――殺しは正午を過ぎてから。
しかし、柚木はズボンのポケットに入っているハンドガンに手を掛け、身を強張らせた。
明らかに堅気の人間には見えない。彼がルールを無視する可能性も否定できない。

仕方がない、回り道をするか……。面倒事は極力避けたい。
その民家の正面にある三差路を左に曲がる。視界の端で、強面の男がぴくりと動くのが見えた。

「すんまへん。時間貰うてよろしいか?」
 威圧感のある声が聞こえてくる。
「あんた、柚木医院の先生とちゃいますか?」
 思わず振り向く。

「わしは島野組の越智秀雄言うもんです」
 すると、この男は『ヤクザ』というわけか。やはり、という気がした。
「以前、うちの親分が撃たれはった時分、先生にお世話になったんですが、覚えてますやろか」
「……ああ、あの時の」

大阪の裏社会を支配する島野組の組長、桜田銀一。彼が敵対組織の鉄砲玉の襲撃にあい、
柚木の開業する医院に飛び込んできたのは、確か3年前になる。
越智秀雄は桜田の舎弟であり、島野組傘下の朱雀会という組織の会長を務めている。
聞いた話では、彼は島野組きっての武闘派であり、桜田と共に島野組躍進の立役者として畏れられているそうだ。



「兄貴も今ではずいぶんとようなっております。あの時はホンマに世話になりましたな」
「いや……私は医者ですから。当然の事をしたまでです」
「そうでっか。それにしても、こんなところで再会するとは、また因果な話でんな」
 全くもってその通りだ。ハンドガンを握る手に汗が滲む。

「どうでっしゃろ。ここは一つ、顔馴染み同士、同盟を結ぶというんわ。
 名簿を見る限り、名うての軍人やら、跳ね返りが仰山おりまして、一人で生き残りを計る言うんは、
 どうも甘い考えやと思いますんや。ここは協力して、互いに生き残りを目指していくのはどうやろか」
「……ですが、生き残れるのは一人だけでしょう?」
「分かっとりま。最後には先生とわしで一対一、正々堂々の決闘いう事になりますな」
 柚木は沈黙する。魅力的な話だが、一度顔を合わしただけのヤクザと一対一、つまり二人になるまで協力関係を保てるのだろうか。
いつ背中を撃たれるか分からないというリスクを背負う程の価値があるものなのかどうか……。

「わしは二枚舌を使うような真似は断じてせんし、堅気の背中を撃つような真似も誓ってしませんわ。
 とはいえ、どれだけ取り繕っても、わしなど所詮は世間のはみ出し者。先生も信用し切れんところがあるんちゃいますか?」 
「まあ、確かに……。相手が堅気であっても、状況が状況だから信用できないと思うがね。
 なにせ、命が懸かってるから」
「そうでっか」変わらぬ表情のまま越智は言う。

「分かっとると思いますが、一対一、つまり二人になるまで言うたんは、あくまでも例えばの話や。
 先生と安心して協力出来るなら、同盟は残り20人になるまででも10人になるまででも、何でもええと思っとります。
 無論、どれだけ同盟の条件をすり合わせても、信用し切れんところはあると思います。
 思いますが、賢いあんたのことや、リスクを背負う価値が十二分にある事、よう分かっとる筈や。悪い話やないと思うで」
 柚木は煙草を吸いながら、越智に懐疑的な視線を向け続ける。腕時計に目をやると、時刻は11時15分。

「問題は……信用云々じゃない。こんな状況で他人を信じられる筈がない。
 重要なのは信頼関係ではなく利害関係を結ぶ事だと、俺は思う」
「全くもってその通りでんな」
「だから、いくつか話を聞かせてくれないか? 失礼な言い方だが、越智さんとの同盟がどれ程の価値を生むのか、
 越智さんは俺にとってどれだけ使える男なのか、計りたいんだ」
柚木は短くなった煙草を民家の壁に押し付ける。捨てようとしたが、考え直してデイパックのポケットに詰め込んだ。
シケモクも何かに使えるかもしれない。越智は感情の見えぬ表情を浮かべている。

「……面接試験でっか。ほなら、ちょっと移動しましょうか」
「移動……?」
「わしの隠れ家や。先生は知らんと思うが、ここら辺の住宅にはすでに四、五人が潜み、わしらを監視しとる。
 連中に長話を聞かせる筋合いはないし、当然、聞かれたくない話もあるんや」
柚木の眼光が鋭くなる。
「……そうして物陰に俺を連れだし、殺すつもりか?」
「殺すのは正午からやで。それまでは殺し禁止や。忘れたんか、先生」
ルールを順守するヤクザなどいる筈がない、と思ったが、流石に口には出さない。

「先生。わしは先生と同盟を結ぶため、自分が使える男やと最大限アピールしておきたいんや。
 そのためにはわしのとっておきの武器やら情報やらを、先生に包み隠さず教えてやらなあかん。
 誰にも見られず、話も聞かれん隠れ家でないと、出来ん話なんや」
「……分かった。なら、条件がある。隠れ家まで移動するまでの間、
 常に俺に背を向けて案内して欲しい。隠れ家に着くまで、絶対にこちらを振り向かないでくれ」
越智はしばらくの沈黙の後、「そうでっか」と言った。
「気を悪くしないでくれ。命が懸かってる。石橋を叩くチャンスがある時は、叩けるだけ叩いておきたいんだ」
「叩き過ぎたら壊れるゆう事も忘れたらあかんで。ほな、行こか」

 ▼ ▼ ▼


「もう後ろ向いてええか?」
邸宅の前で越智はそう言う。柚木は「ああ」と返した。

島の大地主の屋敷であるという邸宅の窓は、外から室内を窺われないようにするためか、全て雨戸で閉ざされていた。
邸宅の中に土足で上がる。越智は建物の中に誰か侵入していないかどうか、確認を始める。
誰かが揉み合った形跡と、倒れた車椅子に目が留まり、柚木の背筋に悪寒が走った。

「誰もおらんようですわ」
「これはなんだ?」
車椅子を指差し、言う。
「先生も見とるやろ? 参加者で唯一車椅子に乗っていた参加者、『巨漢』の持田俊のものや」

――――持田俊。

誰が見ても一目で『巨漢』だと分かるその体格。一人では歩く事も出来ない彼は、常に特注の車椅子に乗っている。
鈍重そうな外見、経歴もぱっとしないが、彼は持田コンサルタントの会長、
稲村清三の隠し子であるという噂が実しやかに流れている。持田俊は清三から金を強請り私腹を肥やしているらしく、
その所為であれだけ太ってしまったそうだ。

「それが何故、ここにあるんだ?」
「わしが襲ったからや」
「正午までに襲うのはルール違反じゃないか」
「監督官に言われたんは「殺すな」いう事や。気絶させたり監禁させたりしたらあかんとは言われとらん」
屁理屈だ、と柚木は思った。

「規則の間隙を突くんが、わしらの得意分野でっせ」
そう言いながら、越智は和室の奥の襖を開ける。
その先に、縛られ猿ぐつわをされた『巨漢』が涙を浮かべて倒れていた。
涙を流しながら哀願するように柚木と越智に顔を向ける彼の姿は酷く醜い。
その顔は、脂と涙が混ざり合い、見るに堪えない光沢を放っている。

「どうして、こんな危ない真似を……。ペナルティを食らったらどうするんだ。
 監督官はあんたの言い訳なんかに耳を貸したりしない……」
「だが、わしは未だに罰せられとらん。仮に違法やとしても、隠しとうせばいいだけの事や。
 先生、それにな、わしは考えなしにこのブタを捕えた訳とちゃうで」
柚木は越智の目を見た。
「わざわざ危ない橋を渡った理由は、何かあるのか?」
「この男が金持ちやからや。例の噂は真実や。財力で言うと『富豪』の大村勇雄に次ぐ第二位」
越智は畳に座布団を敷き、どっかと腰を降ろした。勧める越智に従い、柚木も同じように腰を降ろす。

「堅気の先生には分からんことと思うがな。殺し合いの最中、
 最も重要なんは武力でも知力でもない。財力、つまり金や。
 『富豪』の大村はわしより早くに小学校を出たから、捕まえれんかったんですわ」
柚木の脳内に疑問符が浮かぶ。確かに、金は重要だ。金があればある程、強力な武器を購入する事が出来る。
しかし、それは殺し合いが始まる前の話だ。殺し合いの最中、いくら金を持っていても、関係ないのではないか。
柚木はその事を越智に伝えると、彼は首を横に振った。

「殺し合いが始まっても金は力を発揮するんですわ。この島の住民は殆どが自主的に退去したが、
 一部、残っとる住民がおるという話は聞きましたな? 連中は、実は元から島の住民だったわけやないんですわ。
 正体は2週間くらい前に島に移り住んできたチンピラや」
「何のために……」
「殺し合い中の参加者に武器を売るためや。人殺しの道具を嬉々として売りつける外道共。
 頃合いを見計らって、連中は営業活動を始めるでしょうな。『富豪』の大村勇雄や持田俊の財布に期待して、
 今年は銃火器は勿論の事、身一つでは島に持ち込めんようなえげつない兵器も扱っとるゆう話ですわ」
「兵器って……例えば」
「朱雀会の調べでは戦車とか。まあ、確証はないが」
柚木は呆気にとられ、しばらく何も言えなくなった。医者の俺が戦車に太刀打ちできる筈がない。



「だから、持田俊に先制攻撃を……」
「せや。金を握った者が殺し合いを動かしていく。『スナイパー』や『暗殺者』といった
 殺しのエキスパートにわしらが対抗していくには、金を利用せん手は考えられん。
 わしはな、先生。この殺し合い、極平凡に推移したら、序盤は動いた者から死んでいく我慢比べになると考えとる。
 プロレスのバトルロイヤルのように強者が徒党を組んだ弱者を倒され、
 最終的に優勝するんは四番人気か五番人気ってところやろ。
 わしらが勝つには定跡を崩す事。先制攻撃、奇襲、搦め手。邪道を駆使するのが肝要や。
 せやけど、邪道いうても一人では出来る事も限られる。だが、二人なら……。コレがわしが先生を誘う理由や」

越智の言う事は的を射ている。柚木はそう思った。
正攻法では勝てない。自分は少しばかり人体を弄くる程度の、医者なのだから。

「越智さん、ちなみに聞いとくが、あんた武器は何を持ってる?
 財力が重要なのは分かるが、武力と知力を疎かにしていいという訳ではないだろう?」
「アサルトライフルに手榴弾を三つ。ライフルは分解して、スーツの中に仕込んどる。
越智は背広を開いて、体に巻き付いたライフルの部品の数々を見せつける。
「ちなみに支給品は果物ナイフでしたわ」
「……完璧だな」
柚木は思わず嘆息した。

「持田から奪った金はカードと大量の貴金属。現金はありませんでしたわ」
「紙だとかさばるからか。考えたな」
持田に視線を向ける。相変わらず涙を浮かべて、柚木と越智にもごもごと哀願している。



「どうでっしゃろ、先生。同盟、組んで頂けますか」
柚木はわざと沈黙を試し、考え込んでいるふりをした。心はすでに決まっているが、
即答してしまえば、越智に嘗められ、主導権を奪われていいように使われてしまう危険がある。
散々悩み抜いた末に漸く決めた、という演技をしてから、柚木は答えた。

「分かった。組もう、越智さん」
「すまんな。先生」

柚木は腕時計に目をやる。
「59分……正午まで残り、30秒だな」
「正午と同時に持田を殺りますか」
「ああ、そうだな。殺ってから、同盟の条件について話し合う事にしよう」
足元で持田が必死にすり寄って来た。醜いが、さすがに哀れだ。
しかし、柚木はポケットからハンドガンを取り出し、銃口を持田に向けた。
この島においては殺人は禁忌ではない。躊躇ってはいけない。

「わしが殺したろうと思っとったが、さすがは先生。見込み通り骨のある人やな」
「褒めなくていい。生き残りたいなら、殺すのは当然の事だろう?」

正午。一発の銃声が黄泉島に響いた。
それは『医者』と『ヤクザ』の同盟締結の祝砲であり、相互処刑開始の合図でもあった。


【エリア[2-b]時刻[一日目・12:00]】
【巨漢・持田俊 死亡】

★→現在地

 .1 2 3 4 5 6 7   .園→公園
a 山山山田田山山   灯→灯台
b 山山田田田田山   田→田畑
c 山墓家田田田神   学→小学校
d 山★学学家病病   神→神社
e 家店店家交家家   家→民家
f .家店店家園園家   交→交番
g 港港港港港港港   病→診療所
h 灯海海海海海海   店→店舗


○アイドル            ●政治家
○アクションスター          ○大学教授
○暗殺者                 ○脱獄囚
○医者              ○探偵
○野人              ○超能力者
○格闘家.               ○天才
○歌手              ○忍者
○狩人              ○ハッカー
○吸血鬼.               ○富豪
●巨漢              ○魔法使い
○警察官.               ○麻薬中毒者
○サイボーグ              ○漫画家
○侍                ○ヤクザ
○住職.                ○傭兵
○スナイパー            ○霊媒士


                      【残り28人】

                     To be continued........
オープニング(妄想実現) 投下順 野生
オープニング(妄想実現) 医者(柚木敏夫) 野生
GAME START ヤクザ(越智秀雄) 野生
GAME START 巨漢(持田俊) 死亡
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。