BAD POLICE

第十八話≪BAD POLICE≫

「く、来るな! 来るなぁ!!」

エリアH-3に位置する港。それに隣接する倉庫街。
「15」と書かれた倉庫の中で、壁際に追い詰められた作業着姿の人間の男が、
恐怖に怯えきった表情で自動拳銃――トカレフTT-33を構えていた。
その銃口の先には、茶色と白の狼獣人の警官が立っていた。
普通なら、殺し合いという状況下に置かれ錯乱した男が警官に銃を向けていると思うだろうが、
男の右太腿には銃創があり、そこから決して少なくない量の血液が流れ出ている。
警官の右手には銃口から煙を吹いている自動拳銃――ベレッタM92が握られている。

「畜生! アンタ警官だろ!? 何でこんな事するんだよ!?」
「何でだぁ? 馬鹿かお前、これがこのゲームのルールなんだろーが」

そう、先に襲い掛かってきたのは警官の方だった。
男――石井剛夫(いしい・たけお)はゲーム開始後、自分の支給品だったトカレフを握りながら、
倉庫街を警戒しつつ歩いていた。
そこで、警官の格好をした狼獣人――須牙襲禅(すが・しゅうぜん)を発見し、
警官なら大丈夫だと思い安心して声をかけた所――有無を言わさず発砲されたのだ。

「警官だから守ってくれるとでも思ったのか? あのなァ、世の中良い警官ばっかじゃねーんだぜ。
俺みてぇな警官もゴマンといるんだよ。分かったかボケ」

警官とは思えない粗暴な口調で話す襲禅。
信じられない、本当に警官なのか、と、怒りを露わにする剛夫。

「それはそうとよォ、お前知ってっか?」
「な、何がだ?」

襲禅が不意に剛夫に問いかける。

「お前が大事そうに持ってるその銃……安全装置外さねぇと撃てねぇって事」
「……え?」

自分が両手で構えているトカレフを視線だけ動かして見る剛夫。
直後、襲禅のベレッタが火を噴いた。
剛夫の額に小さな穴が空き、衝撃で剛夫の身体が大きく後ろに反り、背後の壁に激突する。
その拍子にトカレフが剛夫の手から離れ、コンクリートの床に落下した。
剛夫は背後の壁にべっとりと血糊と脳漿のペイントを施し、
壁にもたれて座るよう姿勢になり、二度と動かなかった。

「……トカレフには安全装置は付いてねーんだよ、バーカ」

吐き捨てるように言いながら、襲禅は剛夫の持っていたトカレフを拾い上げ、
剛夫のデイパックを開けて中身を漁り、トカレフの予備マガジンと水、食糧を自分のデイパックに移し替える。

襲禅は地方都市の警察署に勤務する警官だった。
しかし押収品を横取りする、被疑者に対する過度の暴行、過度の銃器使用など、
およそ警官にあるまじき行為を繰り返す、いわゆる不良警官であった。
数々の問題を起こしていながら免職されないのは、
彼の警官としての能力の高さと抜群の検挙率を誇っているからであろう。
だが、彼は周囲の人間が思っているよりも危険な人物だった。
彼は「銃が好き」だった。いや、正確に言えば「銃で生き物を撃つのが好き」だったのだ。
彼が警官になった本当の理由は「正々堂々と人を撃てるから」というものだった。
しかし警官と言えどもそう簡単に発砲する事は許されない。
無関係な市民を巻き添えにする危険があるからだ。
まあ襲禅の場合はそういった法規などほとんど無視していたが。

そして今、彼は殺し合い――バトルロワイアルの場に立っていた。
彼は喜んだ。殺し合いという事は、何のしがらみも無く人を撃ち殺す事が出来るのだ。
首輪をはめられたのは気に入らないが、こんな素晴らしい舞台を与えてくれた主催者には感謝していた。
名簿には自分の知人である、10歳ぐらい年下の人間の女性――新藤真紀の名前があったが、
正直それ程親しい訳では無い。何度か一緒に食べに行ったり、遊びで身体を重ねさせてもらった程度。
はっきり言って合流する気も助ける気も無い。
恐らく向こうも同じ事を考えていると思う。そんな微妙な関係だった。

「ククク……こりゃ楽しくなってきたぜ」

鹵獲したトカレフと自分の支給武器であるベレッタを眺めながら、
もはや完全に警官失格の警官、須牙襲禅は笑みを浮かべていた。


【一日目/明朝/H-3港・倉庫街15番倉庫内】

【須牙襲禅】
[状態]:健康
[装備]:右手=ベレッタM92(10/15)、左手=トカレフTT-33(8/8)
[所持品]:基本支給品一式、ベレッタM92の予備マガジン(15×10)、トカレフTT-33の予備マガジン(8×10)、石井剛夫の水と食糧
[思考・行動]
基本:殺し合いに乗る。人を撃つのを楽しむ。
1:さて、次はどこへ行くとするか……。
2:真紀の奴は……まあ、ほっとくか。




15番倉庫の割れた窓から、赤色のブレザーを着た灰色竜人の少年が、
作業着を着た人間の男を警官の服を着た狼獣人の男が射殺する所を目撃していた。

(や、やば。早く、逃げないと)

少年――本庄忠朝(ほんじょう・ただとも)は物音を立てないように、
しかし素早くその場から走り去った。

(や、やっぱり、殺し合いは始まってるんだ。ああ、どうしよう!?
死にたくない、死にたくない……)

忠朝は頭の中で考えを巡らせながら、前方遠くに見える灯台を目指して走った。


【一日目/明朝/H-3港・倉庫街道路】

【本庄忠朝】
[状態]:健康、恐怖、H-4灯台へ移動中
[装備]:不明
[所持品]:基本支給品一式、不明支給品(1~2個、本人確認済)
[思考・行動]
基本:殺し合いには乗らない。死にたくない。
1:狼獣人の警官(須牙襲禅)から逃げる。
2:どうしよう……どうすればいいんだ……。


【石井剛夫  死亡】
【残り41人】


※H-3港・倉庫街15番倉庫周辺に銃声が響きました。
※H-3港・倉庫街15番倉庫内に石井剛夫の死体、石井剛夫のデイパック(水と食糧抜きの基本支給品一式入り)が放置されています。




Back:017長寿が故の苦悩、そして新たな旅立ち 時系列順で読む Next:019何この火力差ふざけてるの?
Back:017長寿が故の苦悩、そして新たな旅立ち 投下順で読む Next:019何この火力差ふざけてるの?
GAME START 石井剛夫 死亡
GAME START 須牙襲禅 Next:029魔手接近
GAME START 本庄忠朝 Next:023それは微妙な出会いなの

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2009年09月22日 14:27
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。