悪魔の判決

第十六話≪悪魔の判決≫

はっきり言おう、俺、緒方修二(おがた・しゅうじ)の気分は、史上最悪レベルだ。
ただでさえ現在連載中の漫画が恐ろしいくらい不人気で、
今週も担当から「このままだと打ち切りです」と通告されて気分は最悪だったのに。
何だって「最後の一人になるまで殺し合ってもらうゲーム」にお呼ばれしなくちゃならないんだ!
それで今、俺は支給品のモップを携え、同じく支給品のミント味のガムを噛みながら、
人気の無い市街地を進んでいた。
モップとガムが支給品だなんて、何という外れを引いてしまったのだろう。
せめてカッターナイフでもいい、もっとマシな武器が欲しい。
名簿に自分の知り合いの名前が無かったのは救いだろうか。
そんな事を考えながら曲がり角付近で一旦止まり、建物の陰から右折路屋の様子を窺う。

「!!」

すぐに建物の陰に身を隠した。そこにはガタイのいい牛獣人の男がいた。
手には――恐らくあれはサブマシンガンという奴だろう――を持っている。
やばい。やばい。やばい。やばい。どうするべきだ?
ここは見つからないようにすぐ逃げるべきか?
い、いや、もしかしたら向こうは殺し合いには乗っていないかもしれない。
それなら是非一緒に同行してもらいたい。一人でいると不安なんだ、凄く。
普段一人暮らしだから一人でいるのは慣れているはずなんだが、
今は「いつ殺されるか分からない」という不安要素があるからだろうな。
だがもしかしたら殺し合いに乗っているかもしれない。
もしそうだったら、相手はサブマシンガン、こっちはモップ、どう考えても勝負は見えている。
う、う~ん、どうすれば……。




わし、喜連川為郎(きつれがわ・ためろう)は、
自分の支給武器であるサブマシンガン――GM M3”グリースガン”を構え、
周囲を警戒しながら市街地を進んでいた。
おいそこ、変な名前だとか言うな! 気にしてるんだ!
しかしバトルロワイアルとは……昔、黒い分厚い小説か何かで読んだような気がするな。
まさか現実になろうとは、そして自分が巻き込まれるとは夢にも思わなんだ。
わしは殺し合う気は無いが、襲われたら戦うつもりではいる。
しかしそこら中に自転車や馬車、自動車が放置されているな。
店舗も多くが固く閉ざされているし……。
ここに住んでいた人々はどうしたんだ。つい最近までは住んでいたようだが、
どこかに避難したのか?
まあそんな事を考えていても仕方がな――

ドォン!!




「何だ? 今の、銃声?」

静かだった市街地に爆発音のような音が響いた。
どうも牛獣人のいた方向から聞こえたような気がする。
勇気を振り絞って見てみる。

「……!!」

牛獣人が、うつ伏せに倒れている。
牛獣人のすぐ前方の歩道には、大量の血が飛び散っていて、肉片のような物も見える。
牛獣人は大きな血だまりを作り、ピクピクと痙攣していた。
そしてその牛獣人を見下ろしている、人間の男。手には拳銃らしき物が。
状況からして、あの男が牛獣人を撃ったのだろう。間違い無い。
人間の男は牛獣人の持っていたサブマシンガンを拾い上げ、満足そうな笑みを浮かべている。

「あ……やばい、だろ、おい……」

あいつは間違い無く、この殺し合いに乗っている。
しかも人を撃っておいて平然としているし、
武器を拾って笑みを浮かべているというのは相当ヤバイ奴に違い無い。
あの牛獣人が生きている気配も無い。こ、これは早々に逃げ……。

「あ」

男と思い切り目が合ってしまった。
それは悪魔が俺に死刑判決を下した瞬間だったのかもしれない。
俺は脇目も振らず一目散に来た道を走り始めた。
逃げなきゃ。逃げなきゃ。逃げなきゃ。逃げなきゃ。逃げなきゃ。逃げなきゃ。
逃げなきゃ、確実に、殺される――!

タタタタタタタタタタッ

タイプライターのような小気味良い音と同時に、俺の足が無数の何か熱い物で刺し貫かれた。
次の瞬間にその熱さは今まで感じた事の無い激痛へと変換され俺の脳へ伝えられる。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っーーー!!」

悲鳴を上げて俺は路上に倒れ込んだ。倒れた拍子に俺の鹿獣人特有の角が折れ、
何箇所か強打し擦り剥くが、足の痛みに比べれば何とも無かった。
恐る恐る自分の足を見る――ああこれは酷い。
ズボンが血塗れでビー玉大の大きさの穴がいくつも空き、
そこからドクドクと熱い血が流れ出ている。
ズボンの布の下はもっと酷い事になっているのだろう。

タタタタタタタタタタッ

今度は全身。俺の全身に灼熱の槍が降り注ぐ。
喉の奥から鉄の味がする液体が溢れ出てくる。
もはや痛覚が無い。そう言えば痛みが限界に達すると、
もはや痛みも感じなくなるって、よく漫画でそう言われたりするけど、本当なんだなぁ。
だってさ、だってさ、右手なんか、人差し指と中指吹き飛んでるんだよ?
これで痛くないっておかしいでしょ、ねえ?

「あ……が……」

もう呼吸もほとんど出来ない。
霞む視界の中、俺を見下ろして笑みを浮かべるさっきの人間の男が見えた。
そして、サブマシンガンの銃口を俺に向ける。
ああ、そうか、もう終わりかぁ。俺、ここで死ぬのかぁ。
35年生きてきたけど、こんな人生の結末を迎えるなんてなぁ。
頑張って夢だった漫画家になったけど、全然人気が出なかったし、でも、せめて完結させたかった。
打ち切りだっていいから、最後まで、やり遂げたかった、な。




弾倉に残っていた全ての弾丸が緒方修二の身体に撃ち込まれ、
緒方修二の命は消えた。
人間の男――高野雅行は、鹿獣人――緒方修二が完全に息絶えたのを確認すると、
彼の持っていたデイパックを拾い上げ、元来た道を戻る。
そして牛獣人――喜連川為郎のデイパックも拾い上げ、その場を後にした。
雅行が立ち去った後には、背中から44マグナム弾を撃ち込まれ、
胸に風穴が空き絶命した牛獣人の中年男と、
45ACP弾を全身に受け、所々肉体が欠損した鹿獣人の男の二人の死体が残った。


【一日目/明朝/G-2病院周辺市街地路上】

【高野雅行】
[状態]:健康、愉悦、返り血(少)
[装備]:GM M3”グリースガン”(0/30)
[所持品]:基本支給品一式、S&W M29(5/6)、44マグナム弾(43)、グロック19(5/15)、
グロック19の予備マガジン(15×8)、濃硫酸(2)、藤倉直人の水と食糧、喜連川為郎のデイパック、
緒方修二のデイパック
[思考・行動]
基本:殺し合いを楽しむ。
1:他参加者を見つけ次第、殺す。
2:二つのデイパックの中身を確認する。荷物の整理。
[備考]
※特に優勝を目指す訳では無く、純粋に殺しを楽しむのが目的のようです。


【喜連川為郎  死亡】
【緒方修二  死亡】
【残り42人】


※G-3病院周辺市街地路上に喜連川為郎の死体、緒方修二の死体、モップが放置されています。
※G-3一帯に銃声が響きました。




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最終更新:2009年10月08日 22:58
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