心臓が早鐘を打つ。
口から漏れる吐息は荒い。
顔面は恐慌一色に侵され、その眼はしきりにきょろきょろとあたりを見回している。
そう、その男は焦っていた。
長身痩躯のその身体を落ち着きなく動かし、町をさまようその姿は哀れを通り越し道化のようにも見えた。
「クッ……ハァ、ハァ………」
自らを奮い立たせるように握られた拳は汗でゆるみきっている。
デイパックを持つ右腕は震えている。
この男は、焦っている。
だが、この男が焦っているのは『突然殺し合いという場に召喚されたため』ではない。
もっと、意外な理由がそこには存在する………
「……ちっ」
一方、時を同じくして、その男がいる場所からほんの十数メートルほど離れた場所に、もう一人男がいた。
がっしりした大きい体格に、頭は角刈り。
落ち着き払った細い目にあごには無精ひげが蓄えられたその姿は壮年男性を思い出させる。
彼の名は、中村元。
こう見えてもまだ高校二年生である。
その外見のため、彼は級友からは『おやじ』と呼ばれ親しまれている。
そんな彼は、怒っていた。
『殺し合い』という腐りきった事を嬉々としてやらせようとするあのメガネの男に。
そんな『殺し合い』の場に自分の大切な担任と友を連れてきた事実に。
中村は、もう既に『戦う』決意をしていた。
「…とは言ったものの、こんなものでどうやって戦えばいいんだ…?」
デイパックから『それ』を取り出した時だった。
何かが猛烈な勢いでこちらに向かってきて、自分の手から『それ』をひったくったのは。
彼からすれば、僥倖というべき事だった。
例えるならば、砂漠で遭難している時にオアシスを見つけた時のような気分。
例えるならば、試験終了直前で答えを閃いた時のような気分。
だが、これらの比喩も彼の前では意味をなさない。
何故ならば彼は―――
「パピッ!!ヨンッ!!」
―――『蝶』天才なのだから。
【B-5住宅街/1日目朝】
【蝶野攻爵@武装錬金】
[状態]健康、ハイテンション
[装備]パピヨンマスク@武装錬金
[道具]基本支給品一式(アイテムは確認済み。少なくとも核鉄は入っていません。)
[思考]1:蝶!サイコー!
2:…こいつ誰だ?
3:武藤と合流したい
【中村元@せんせいのお時間】
[状態]健康、やや困惑
[装備]なし
[道具]基本支給品一式(アイテム確認済み)
[思考]1:目の前の男を警戒。
2:クラスメイトと合流したい。
3:殺し合いには乗らない。
【備考】
パピヨンマスク@武装錬金は元々中村の支給品でした
最終更新:2011年07月10日 19:12