空っぽの器には何も入らず

21:空っぽの器には何も入らず

「ぎゃッ」

教室内に鮮血が飛び散る。

「げぉ……エ゛ッ…い、痛……ちょ、どうし、ぁ……」

刺された腹を押さえ、吐血しながら言葉を発する少女、佐藤光里は、
血塗れのサバイバルナイフを持った紅狐獣人の自分と同年代と思われる少女を見る。
感情の見えない、死んだ魚のような濁った眼が不気味だった。
意識が遠退き、ぐらりと視界が傾き、佐藤光里の意識は消滅した。

小神さくらと言う名前の、紅狐と言う狐の一種の獣人の少女がここにいる。
中々の美貌の持ち主だが、その目は異様に濁っており感情が感じられない。

「……」

さくらはサバイバルナイフの血糊をたった今殺害した少女の衣服で拭き取ると、
少女のデイパックを漁る。そして出てきた物は自動拳銃Cz75Bと、短機関銃IMIマイクロウージー。
そしてそれらの予備マガジンであった。
何も言わず黙々とそれらを回収し、マイクロウージーを装備するさくら。
その後、教室を後にした。

同時刻。

学校を訪れた少年、立津手斗と牛獣人勘解由小路左衛門三郎清廣。

「…鉄筋コンクリート製か…開催式の時の教室は木造校舎だったから、この学校は関係無いだろうな」

学校の作りを見て清廣が言った。

「結構広いし、誰かいるんじゃね?」
「見てみるか」

手斗はクロスボウ、清廣は薪割斧を携え校内の探索を始める。
職員室、保健室、放送室、用務員室、家庭科室……多くの教室があるが、人の姿は無い。
誰もいない学校は明るい内でも不気味なものがある。

「…そう言えば、今度試験あんだよな、学校で」
「ああ、手斗は高校生だったな…思えばワシも高校の頃が一番楽しかったかもなぁ」
「清廣さんどこの高校行っていたの?」
「ん…――――高校だ」
「え? 俺の従兄弟行ってる高校じゃん」
「マジか」
「マジ」

そんな他愛も無い話をしていると、二階へ続く階段に差し掛かった。
それと同時に上から下りてくる足音も二人は聞き取る。明らかに誰かが下りて来る。
一瞬で表情が強張る二人。階段の上を見上げる。
数秒後、踊り場に紅い髪を持った狐の少女が現れた。手には銃と思しき物を持っている。
少女は踊り場から、一階にいる帽子を逆に被ったパーカー姿の少年と、黒い体毛の大柄な牛獣人の男を見下ろす。

(…! 何だあいつ…? 目が、死んだ魚みてぇだ…! 生気がまるで…)

少女の異様な目に、手斗は言い知れぬ恐怖を感じた。一方で清廣は、少女と会話しようとした。

「あ、なあお前さん」

チャキ

だが、少女――小神さくらは返事をする代わりに手にしたマイクロウージーを清廣に向けた。

「なっ」

いきなり少女が自分に銃口を向けた事に対する驚きの声が勘解由小路左衛門三郎清廣の最期の言葉となった。
直後、無数の弾丸が彼の身体目掛けて放たれ、無数の穴が空き蜂の巣のようになってしまった。
横にいた手斗には幸い弾は掠りもしなかった。

「……あ、ああああ」

口を大きく開け、後ろに倒れ行く血塗れの黒牛獣人を目撃する手斗。
ついさっきまで会話し共に行動していた人物が、顔や胸、腹に穴が空きそこから赤い液体を噴き出し――――。

「ぎゃああああああぁああああぁあ!!!!」

手斗は絶叫し脇目も振らず逃げ出した。清廣はもう死んだ。あの様子では生きていないだろう。
実の所、まだ手斗はこの殺し合いが現実のものかどうか疑っている部分があった。
本当に殺し合う気の者などいるのかと、だが、目の前で同行者が銃撃され無惨な死を遂げた一部始終を目にした事により、
はっきりと実感する――自分は殺し合いの中にいるのだと。

手斗は走った。廊下を。廊下を走ってはいけないと言うのは学校で良くある文句だが、
この状況で守った所で何の利益にもならぬ。命が掛かっているのだ。咎める風紀委員や教師などいない。
いるのは明確な殺意を持った殺人者のみ。

背後から自分を追ってくる足音が聞こえた。手斗は走り続けた。廊下の奥に見える外への出口に向かって。

(冗談じゃねぇ、やめろぉ! 死にたくねぇ、死にたくねぇ、こんな所で死んでたまるかよ!)

涙を流し、ひい、ひい、と情けない声を出し、無様になりつつ、手斗少年は走り続けた。
だが、神はこの少年には微笑む事は無かったようだ。
銃声、そして、身体中を熱が貫く感覚を手斗は感じた。
今まで感じた事の無い苦痛、喉の奥から溢れ出る鉄錆味の熱い液体、力が抜けて行く身体。
その全てが彼にこれから先の自分の末路を指し示していた。

死。

どしゃっ、と、身体の前面から固い廊下に倒れ込む手斗。ぶつけた所より撃たれた所の方が痛い。
痛いと言うとりはとても熱いと言った方が良いだろうか。
息がまともに出来ない。身体も上手く動かせない。後ろから足音が迫る。
声を出そうとしても喉の奥から溢れる液体のせいでゴボゴボと言う音にしかならず。

それでも、前方の光に向かって、廊下を這う。
ずるり、ずるりと、薄い緑色の廊下に赤い液体で跡が残る。
失われて行く感覚、異常な寒気、霞んで行く視界の中、涙と鼻水を流しながら手斗少年は生を渇望し続け、


ダダダダダダダダダダッ


その望みは叶う事無く、死の運命に追い付かれた。


「……」

マイクロウージーの空になったマガジンを交換するさくらの表情には、相変わらず何の感情も感じられない。
淡々と、事務的、いや、機械的に物事をこなしていく。
元からそういったものが何一つ彼女には無いように。
殺害した二人の荷物を漁り、目ぼしい物は無いと判断すると、学校の正面玄関へと向かい歩いて行った。


◆◆◆


数分後。さくらが立ち去った後、再び学校を訪れる者がいた。
ハスキー犬種の獣人娘、安田愛である。

「……!!」

愛は一階廊下に転がる、無惨な二人分の銃殺死体を発見し戦慄した。
どちらも、機関銃のような物で撃たれたのだろう、身体が穴だらけになり血溜まりを作っていた。
濃厚な血の臭いが廊下には漂い、また僅かに火薬の臭いも混じり、それが二人がまだ殺されて、
然程時間が経っていない事を示していた。

「う……う゛ぉ…え」

強烈な吐き気を催し、その場で戻す愛。しかし特に何も食べておらず出るのは胃液のみ。
それでも吐けば少しは楽になる気がすると、愛は吐き続ける。しばらくしてようやく落ち着いた。
だが相変わらず血の臭いは酷い。

「……ハァ、ハァ」

徐々に鮮明になってくる、この殺し合いと言うゲームの本質。
先刻、一人の男性を殺害した犬獣人の男、三枝嘉隆もそうだが、この二人を殺した者のように、
殺し合いを進んでやる気になっている参加者が大勢いるのだろう。
自分のクラスメイトである中元梓紗はどうしているかは分からないが。

「…もう嫌だ…何なのよこれ……何でこんなゲームに参加させられてるの…死にたくないよ…!」

死と隣り合わせの異常状況にいつまでも耐えられる程愛は強く無い。

「…ぐすっ…うああああああん………やだぁ…誰か助けてぇ……うっああ…あああああ……!
ひぐっ、えっ……お父さん……お父さあああん……!」

涙を流し父親に助けを求めても届くはずも無く。
学校の廊下に少女の泣き声が木霊する。


【佐藤光里  死亡】
【勘解由小路左衛門三郎清廣  死亡】
【立津手斗  死亡】
【残り29人】


【早朝/?-?】
【小神さくら】
[状態]良好
[服装]白カッターシャツに茶色スカート
[装備]IMIマイクロウージー(32/32)
[持物]基本支給品一式、ウージー予備マガジン(32×4)、Cz75B(15/15)、
Cz75予備マガジン(15×3)、サバイバルナイフ
[思考]
1:殺し合いの遂行。
[備考]
※どこに向かうかは不明です。

【早朝/E-6学校一階廊下】
【安田愛】
[状態]絶望、嗚咽、死への恐怖
[服装]高校制服
[装備]バール
[持物]基本支給品一式
[思考]
1:死にたくない…。
2:三枝嘉隆に注意。
[備考]
※中元梓紗はクラスメイトです。


※E-6学校一階廊下に勘解由小路左衛門三郎清廣、立津手斗の死体及び所持品が放置されています。
また佐藤光里の死体及びデイパックが二階のどこかの教室に放置されています。


≪オリキャラ紹介≫
【佐藤光里(さとう ひかり)】
16歳の人間の少女。やや紫がかった髪で豊乳。とある学校で風紀委員を務めている。
校則に厳しいが、自宅の自室はゲームや漫画で溢れている。隠れオタク。
スポーツも勉強も出来るが料理は余り得意では無い。

【小神さくら(おがみ-)】
10代半ばと思われる紅い髪を持った狐獣人の少女。死んだ魚のような目をしており、
常に無表情。感情を全く表に出さず言葉もほとんど発さない。身体能力は異常と言える程高い。
進んで殺し合いに乗る姿勢を見せているが……?


愉快犯 時系列順 怖心忘我
愉快犯 投下順 怖心忘我
GAME START 佐藤光里 死亡
GAME START 小神さくら 虚無
コンプレックスと親近感 勘解由小路左衛門三郎清廣 死亡
コンプレックスと親近感 立津手斗 死亡
思いも寄らない、夢にも思わない 安田愛 削られるガラス玉

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最終更新:2011年04月05日 22:09
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