恐ろしい程ルナティック


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第十三話≪恐ろしい程ルナティック≫

怖かった。暗闇が怖いとか事務所の社長が怖いとか、そういう”怖い”じゃない。
いつ、誰が襲い掛かってくるか、いつ、殺されるか、分からない、死への恐怖。
何で? 何でこんな事になったの? 私が一体何したって言うのよ!?
そりゃあ、雑誌に出してもらうために、相手方のプロデューサーとかの偉い人に取り入ったり、
目障りな他のモデルのありもしない嫌な噂流したりしたけどさ。
だけどそんなのみんなやってる事よ! 私だけじゃないわよ! 何で、何で、殺し合いなんかしなくちゃいけないのよ!!

「はぁ……」

あの教室の惨劇の後、私は気が付いたらこの衣装戸棚がある部屋にいたの。
丸い窓から外を見たら海と陸地、そして船のブリッジのような物が見えたから、ここは船なんだなと思ったの。
教室でオジサンが首を吹き飛ばされて殺されたのを思い出して私は吐き気が込み上げた。
自分の首にはオジサンを殺したのと同じ首輪がはまっている。
絶対嫌だ。あんな風に死にたくない。死にたくない。私はそう思った。
すぐ脇にデイパックがあったから、急いで開けて中身を確認した。
名簿を見たら知っている名前は有名野球選手の長谷川投手の名前だけ。他はみんな知らない名前。
誰も知り合いは呼ばれていない……安堵の気持ちと共に淋しさが込み上げて来た。
私は一人っきり。自分以外、全員が私を殺そうとするかもしれないこの殺し合いの場に一人っきり。
涙が込み上げてきた。淋しい。心細い。死にたくない。
泣きそうになるのを必死でこらえ、次に地図を確認する。するとG-5に「座礁客船」なる場所があると表記されていた。
多分今私がいるのがここだ。殺し合いの会場は周囲を海に囲まれた小さな島らしい。
地図を置いて、メモ帳、赤黒二色ボールペン、懐中電灯、コンパス、懐中時計、水の入ったペットボトル、おにぎりやパン、
そして最後に出てきたのは、鈍く光を反射するピストルと、ピストルの物と思われる予備のマガジンが数個。
ピストルを手に持ってみる。ずっしりとした重みと金属の質感が手の平から伝わってくる。
玩具なんかじゃなく、間違い無く本物のピストル。
試しに壁にかかっていた絵に向かってピストルを撃ってみた。

バンッ!

……絵に小さな穴が空いた。
反動は大きかったけど、思っていた程じゃない。十分気を付ければ私でも扱える。

「………………」

でも、私は段々怖くなってきた。今持っている物は、本当に人を殺す事の出来る、武器。
改めて自覚した。自分は本当に殺し合いの場にいるんだと。
殺し合いの主催者らしい男の人がスピーカー越しに言っていた事を思い出す。

”皆さん方50人で、最後の一人が決まるまで殺し合いをして頂きます”

最後の一人になるまで。最後の一人になるまで殺し合いは終わらない。
自分が生きて帰るには最後の一人にならなきゃならない。他の49人を、全員殺して。
でも、でも、私、人殺しなんて、そんな。出来ないよ、そんなの。
でも、死にたくない。生き残りたい。生きて帰りたい。死にたくないでもそのためには。殺さなきゃ。
殺さなきゃ、でも、殺したくない。でも殺さなきゃ。殺さないと。死にたくない。殺さないと。でも殺したくない。
死にたくない。殺したくない。でも殺さなきゃ。死にたくない。
殺さなきゃ死にたくない殺したくない殺さなきゃ殺したくない死にたくない殺さなきゃ殺したくない死にたくない殺さなきゃ殺したくない殺さなきゃ
どうすればいいの? 私はどうしたらいいの? どうすれば
どうすればいいどうすればいいどうすればいいどうすればいいどうすればいいどうすればいいどうすればいいどうすればいいどうすればいいどうすればいいどうすればいいどうすればいいどうすればいいどうすればいいどうすればいいどうすればいいどうすればいいどうすればいいどうすればいいどうすればいいどうすればいい――。

「あ、そっか」

襲われたら、殺せばいいんだ。だって、正当防衛になるし、罪にならないよね。
襲われそうになったら、殺せばいいんだ。だって。正当防衛に。なるし。
なんでこんなかんたんなことにきがつかなかったんだろお。

「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」

ガチャ。

あれ? ドアが開く音が聞こえたよ? うん。後ろを振り返ってみよう。
憲兵の制服を着た女の人が立っていた。綺麗な人。濃い紫色の長い髪。私には負けるけど。
あれえ? 手に持ってるのって、剣だよねえ?
あーそうかぁ。それで私を殺す気なんだねぇ? うんうん分かったぁ。でもねぇ、私は殺されないよ? だって――。


殺される前に殺すからね。


ダンッダンッダンッダンッダンッダンッ

ガチッ、ガチッ、ガチッ。


あれ? 弾切れ? 何だぁ、少ないなぁ。でもいいや、憲兵さん死んだみたいだし。
身体に6発も撃ち込んだんだもん、生きてられるはず無いよね。
あー危なかった。だって殺さなきゃ私が殺されてたもん。
でもこれは大丈夫だよね。立派な正当防衛だから、罪にはならないよね。
うんうん。この調子。襲われそうになったら殺せばいいの。殺される前に殺せばいいのよ。

簡単じゃない。

「あはははははは!! ははははははははははは!!」

歪んだ笑みと高笑いをあげながら、彼女――瀬山はるか(せやま・はるか)は船の出入り口へと向かう。
彼女は狂ってしまった。もう二度と彼女に平穏は訪れないであろう。

廊下に仰向けに倒れた女性憲兵――松宮深澄(まつみや・みすみ)はピクリとも動かない。
だが、静かに呼吸をしていた。


【一日目/明朝/G-5座礁客船内部】

【瀬山はるか】
[状態]:絶賛発狂中、思考回路破綻
[装備]:コルトM1900(0/7)
[所持品]:基本支給品一式、コルトM1900の予備マガジン(7×10)
[思考・行動]
基本:”襲われたら”、”襲われる”前に殺す。正当防衛だから問題無し。
1:生き残る。
[備考]
※正常な判断が出来ません。武器を持っていたり、少しでも敵意があると思われるような言動を目の当たりにすると、
「襲われる」と思いこみ、攻撃を仕掛けます。
※精神状態が元に戻るかどうかは不明です。
※憲兵の女性(松宮深澄)を殺害したと思っています。




「う……う……」

あれから幾ら時間が経っただろうか、私は目を覚ました。
どうやらあの金髪の女性はどこかへ行ったようだ。幸いにも自分が持っていた剣とデイパックは無事だった。
胴体に僅かな痛みを感じ、制服の胸元と腹の辺りに空いた複数の穴を見る。

「不覚だった……着ていなかったら間違い無く死んでいたな」

制服の下に着込んだ防弾チョッキ……これが無ければ間違い無く致命傷だっただろう。
もっとも至近距離から何発も撃ち込まれたため、衝撃で気を失ってしまったが。

「あの女……完全に狂っていたな」

銃声の次に女の高笑いが聞こえてきたので、声のする方向へ向かい当人がいると思われる客室に入ると、
そこにはロングヘアーを金色に染めた10代後半から20代前半ぐらいの若い人間の女がいた。
声をかけようと思った矢先、問答無用で胴体に6発も弾丸を撃ち込まれたのだ。
意識を失う直前に見た女の両目は血走っており、口からは涎が出ていた。明らかに正気では無かった。
この殺し合い――”バトルロワイアル”という異常状況下に精神が耐え切れなかったのだろう。
しかし大勢の人数で最後の一人が決まるまで殺し合いをさせるとは、どこの誰だか知らんが酔狂な催しを考えたものだ。
私は殺し合いに乗る気は無いが、乗ってしまった馬鹿に出くわしたらそれなりの対処はする。
だが自分と同じくこの殺し合いから脱出する意思のある者は仲間に引き入れたい。
但し、明らかに戦えない者は足手纏いになるだけだ。そういった者は殺す。
一番の課題はこの首輪だ。この首輪をどうにかして外さない限り、逃げる事も主催側に反する事も出来ない。
何かサンプルとなる首輪と、コンピューター……ノートパソコンでもあれば、何とか出来るかもしれんのだが。
そういった物も探さなければならないな。

私はゆっくり立ち上がり、制服に付いた埃を払い落した。
落ちていた自分の支給武器――ダマスカスソードを拾い上げる。
この座礁客船には特に何も無いようだ。場所を移動するべきだろう。
プロムナードデッキに出て外を眺めると、数キロ先に市街地が見える。そこからは銃声も聞こえてくる。
目的地は決まった。あの市街地へ向かうとしよう。


【一日目/明朝/G-5座礁客船プロムナードデッキ】

【松宮深澄】
[状態]:胸元、腹部に軽度の痛み
[装備]:ダマスカスソード、防弾チョッキ
[所持品]:基本支給品一式
[思考・行動]
基本:殺し合いからの脱出。首輪の解除。
1:仲間になりそうな他参加者を探す。但し足手纏いは切り捨てる。
2:殺し合いに乗っている者には容赦しない。
3:首輪のサンプル、首輪解除に必要と思われるツールを探す。


※G-5座礁客船周辺に微かに銃声が響きました。






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