仮装パーティー?

「ううう……どうなってんだよ、これ……」

 夜の市街地を、その不思議な物体は歩いていた。
 膝程の高さしかない全長に、モコモコと暖かそうな毛皮に包まれた身体。
 頭には×印が描かれたシルクハットのような帽子が鎮座している。
 帽子の横側から伸びるのは二本の角。
 くりくりした愛くるしい瞳の間には、青色の鼻がある。
 それを一言で言い表すなら『珍獣』であった。

「本当に殺し合いなんて起こってるのかよぉ……怖ぇえよ〜……」

 珍獣の名はトニートニー・チョッパーといった。
 麦わら海賊団船医にして、50……ベリーの懸賞金を懸けられた正真正銘の海賊である。
 ただ海賊にしては優しすぎ、純粋すぎ、臆病すぎるのが玉に傷であった。
 それでも心魂に宿る信念には芯が通っており、その信念を守る為ならば恐怖を押し殺して戦いに身を投じられる。
 優しく純粋で臆病でありながら、チョッパーはしっかりとした勇気を持っていた。

「ルフィ〜……ゾロ〜……サンジ〜……」

 だが、今この瞬間においては臆病風が彼を支配する。
 唐突すぎる事態に、恐怖が心を包んでいた。
 周囲をキョロキョロと見渡しながら、暗闇の市街地をトボトボと歩いていくトニートニー・チョッパー。
 周囲に彼の望む仲間の姿はない。
 まばらに設置された街灯が薄ぼんやりと暗闇を照らしているだけであった。

「ナミ〜……ウソップ〜……ロービーン〜……」

 つぶらな瞳を涙で潤ませながら、珍獣は市街地をひた歩く。
 モコモコの身体を恐怖に縮こませ、仲間の姿を求めて辺りを見回すその姿。
 本人からすれば心外であろうが、今のチョッパーを一言で表すならば『愛くるしい』の一言であった。

「フランキー〜……ブルック〜……みんなぁ〜……」

 震える言葉で仲間を呼ぶも、答える者は何処にもいない。
 ただ静寂だけに包まれた世界。
 しかし、ふとチョッパーの鼻にある匂いが届いてきた。
 それは、人間離れした獣の嗅覚だからこそ嗅ぎ取れたのだろう。
 遠くから漂ってくる、甘ったるい独特な香り。
 チョッパーはその臭いを知っている。
 この特徴的な香りは女性のものだ。
 その香りはだんだんとコチラへと近付いてきている。

(他の参加者か……? ど、どどどどどうしよう……)

 接触するべきか、否か。
 チョッパーは恐怖にパニックになりかけながらも、思考する。
 こんな殺し合いの最中だ。誰かと一緒にいて恐怖を和らげたい気持ちはある。
 だが、他の参加者との接触が危険だということも分かる。
 相手が女であろうと、出会った瞬間に問答無用で襲いかかられる事もなきにしもあらずであろう。

(どうしようどうしようどうしよう)

 そうこうしている内にも臭いは近付いてくる。
 右を向き左を向き焦燥の様子でチョッパーは決断をしようとしていた。
 チョッパーの選択は逃亡か、邂逅か。
 数秒後、殆ど追いたたれたかのようにチョッパーは決断する。

(ダメだ、こえ〜よおおおおおおお!)

 臭いの方角へと背中を向け、全力で疾走を始めるチョッパー。
 今のこの状況で、仲間以外の人間と会うには余りに覚悟が足りなかった。
 結局、チョッパーは全速力で逃げ出す事を選んだ。
 そして、


「お、おおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」


 一つ目の角を曲がると同時にチョッパーは遭遇した。
 2メートルは優に越える巨大な鎧姿の男と。






 そして、暗闇の市街地にチョッパーともう一つ少年の声が響き渡った。
 叫び声と同時に全力疾走を始めるのはチョッパーであった。
 後ろも振り返らずに、ただひたすらに前へ。
 涙ぐむどころか、双眸から滝のような涙を流しまがら。
 全力の全力でチョッパーは走っていた。

「うおお、何だ、あれぇぇえええええ!!」
「た、狸が喋っ……!? ちょ、ちょっと待って、君!」

 気配はまるでなかった。
 人間ならば誰もが有する臭いも感じ取れない。
 視認した現在でさえも臭いはせず、鎧の金属的な臭いしかしない。
 まるで鎧の中身には誰もいないかのような―――、そんな恐ろしい想像がチョッパーの脳裏によぎる。

「待って!」

 鎧は、その容姿には似つかない少年のような高い声でチョッパーを呼び止める。
 勿論、その制止の言葉をチョッパーは完璧に無視する。
 元々、仲間以外の他の参加者とは出会わないように決断した所なのだ。
 そのタイミングで、いかにもな鎧姿の男と遭遇すれば冷静な思考など何処かへ吹き飛ぶ。

「お、おおおおおおお、追ってきたー!」

 逃げ出す珍獣に追い掛ける鎧。
 繰り広げられるは不毛な鬼ごっこ。
 そして、そんな鬼ごっこを遠くから見ている者がいた。

(な、何よあれ……!)

 チョッパーと鎧から数十メートル程離れた建物の影に、少女はいた。
 半袖のYシャツの上に茶色のチョッキ。
 紺色のスカートは腹部で巻かれ膝の遙か上にまで位置している。
 胸元には刺繍で彩られた校章があった。
 そのありがちな姿格好は、誰の目にも少女が学生である事を知らしめていた。
 殺し合いという異常な状況に置かれた年端もいかない少女。
 その表情は恐怖で支配されている―――、


「か、可愛い……」


 ―――なんて事はなかった。
 少女の視線は数十メートル先で爆走を続ける珍獣へと集中しており、またその瞳はキラキラと輝いている。
 まるで純朴な子どものような瞳であった。

「あ、あの狸も参加者なのかしら……肉体変化(メタモルフォーゼ)の能力者とか? 学園都市にも数人しかいないって話だけど。……な、なら」

 少女は瞳をキラつかせながら右手を掲げる。
 その矛先は、珍獣を追い掛ける鎧姿の男へと向いている。
 ―――バリィ!
 そして、少女の右手から青白い閃光が走り、鎧へと直撃した。
 空気が弾けるような高音が響き渡り、刹那の閃きが闇夜を切り裂く。
 鎧がピタリと動きを止めた。

 「うおおッ!?」

 思わず驚愕を零したのはチョッパーであった。
 後方から唐突に聞こえた音に振り向けば、青白いの光が鎧を照らしていた。
 何が起きたのかも分からず、チョッパーは変転していく事態にビクビクと身体を震わせる事しか出来なかった。

「大丈夫だった? 災難ね、いきなりあんなのに見つかっちゃうなんて」

 声がした方へと視線を送れば、学生服に身を包んだ少女が近付いてきている。
 閃光の残滓を身体に纏いながら接近してくる少女は、チョッパーからすれば充分に恐怖の対象であった。

「あなたは能力者なの?」
「え、あ、ああ……うん。そ、そうだけど……お前は?」

 警戒を緩める事なく、チョッパーは眼前の少女っへと問い掛ける。
 キラキラと輝く瞳が意味する感情にチョッパーが気付く事はない。

「私は御坂美琴よ。あんたは?」
「俺か? 俺はトニートニー・チョッパーだけど」
「何だ、外国の人だったの? じゃあ、よろしくね」
「へ?」
「一緒に行動しようって言ってんの。……こんな訳の分かんない状況だしね」

 少女―――御坂美琴は勝手に話を進めると、屈み込んで手を差し伸べる。
 その行動が意味する事はチョッパーにも理解出来る。
 仲間になろうというのだ。
 この殺し合いを生き残る為の、この殺し合いを打破する為の、仲間に。
 その手をチョッパーは無言で見詰める。
 胸中には疑心や不安が渦巻いているのだろう。

「…………分かった。よろしく、頼むよ」

 数秒の逡巡の後に、短い蹄で器用にその手を握り締めるチョッパー。

「うおお、何かビリッときたーーーー!」

 そして、驚愕に跳ね上がる。
 蹄へと唐突に衝撃が走ったのだ。

「あ、ゴメン。私、無意識に電磁波だしてるらしくて、動物にはちょっとキツいのかもしれないのよねー」
「そ、そうなのか? お前も能力者なんだな」

 言われてみれば、眼前の少女からは何か嫌な感じがする。
 人間としての理性を持つチョッパーであれば我慢のできる範囲だが、それでもその空気は感じ取れる。

「まあね。ていうか御坂美琴って聞いた事ないの?」
「うーん、ないなー。ロビンとかなら知ってるのかもしれねえけど」
「ふーん。……でも、肉体変化(メタモルフォーゼ)の能力者かあ。凄いじゃない、相当レアな能力なんでしょ」
「めたもるふぉーぜ? 俺の能力は『ヒトヒトの実』って能力だけど」
「『ヒトヒトの実?』 何か変な能力名ね」
「そ、そうか? 別に普通だと思うけどな……」

 どうにも噛み合わない会話を続けながら、二人は歩き始めようとする。
 その後ろで動いている物の存在に、二人は気付かない。
 気付かずに進み始めようとしている。
 勿論、その物がそれを許す訳がない。
 何がどうしてこうなったかは分からないが、誤解は解かなければいけない。
 こんな異常な殺し合いの状況ならば尚更だ。


「……あ、あのー」


 声を掛けた瞬間、チョッパー達の肩がビクリと震えた。
 振り返ったチョッパー達の表情は片や驚愕、片や恐怖であった。
 視線がぶつかる。
 その雰囲気にいたたまれず、その物は挨拶でもするかのように右手を掲げた。

「や、やぁ」

 出来るだけフレンドリーな感じに声を掛ける。
 だが、一瞬後にはその行動が間違いであったと気付かされる。

「ぎゃあああああああああああ、生きてるううううううううううううう!!」
「嘘っ、あれだけの電撃を食らって……!?」

 チョッパーは叫び声を上げて後退り、御坂は電撃を放電しながら臨戦態勢といった様子で構える。
 完全に誤解されていた。
 警戒と敵意が身にしみる。
 別に何かした訳でもないのに……、と知らぬ間に溜め息が零れかける。
 その鎧の身体に吐く息など、存在しないのだが。

「あのー、まずは誤解を解くところから始めない? 勘違いしているようだけど、僕は殺し合いには乗ってないよ」

 両手をホールドアップしながら、鎧が言葉は吐いた。
 警戒と恐怖に満ちていた二人の瞳が、キョトンと見開かれる。
 こうして、鎧の男―――アルフォンス・エルリックの受難から、凸凹三人組のバトルロワイアルは始まった。



【一日目/深夜/D-4・市街地】
【トニートニー・チョッパー@ONE PIECE】
[状態]疲労(小)
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
0:仲間と合流したい。鎧、怖い
1:へ……?
2:ミサカと一緒に行動する。仲間を探す
[備考]
※御坂を悪魔の実の能力者だと思っています

【御坂美琴@とある魔術の禁書目録】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
0:殺し合いには乗らない。
1:え……?
[備考]
※チョッパーを『肉体変化』の能力者だと思っています

【アルフォンス・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×1~3
[思考]
0:殺し合いには乗らない
1:誤解を解く。というか何で、こんな事に…。
2:あれはキメラ? 女の子の方は錬金術師?
[備考]
※首輪は血印を囲うように設置されています。




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最終更新:2011年03月13日 20:46
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