31:重過ぎる委託
使われ無くなり久しい様子の、鉄骨が錆びた送電用鉄塔。
その基部の所に、不細工な青年下村正人と、人狼の女性アルシオーネはやって来た。
互いのスタート地点であった廃工場内を探索していたが結局本当に何も無かったため、
廃工場を出て森を歩き鉄塔に訪れた。
「はぁ…はぁ…アルちゃん、ちょっと休憩しようぜ、足がもう」
「だらしないわね……まあ、放送も近いし、休もう……あら」
「? どうし……え? あ?」
二人は先に鉄塔に辿り着いていた人物を発見する。
シェパード種の犬獣人の青年、赤川隆顕だった。
地面に横たわり、苦しげに身体を震わせている。慌てて二人が駆け寄ると、
青年は予想以上に重傷らしい事が分かる。
口から血反吐を吐き、ガクガクと震え呼吸がおかしい。
「がはっ……あ……ア、あ、あんたらは…?」
「私はアルシオーネ」
「俺は下村正人…あ、あんた、どうしたんだ?」
「ゲホッ…ゼェ、ゼェ、ゼェ、お、折れた肋骨が…は、い゛、にっ」
「……!?」
どうやら何らかの理由で肋骨を骨折し、それが肺に刺さってしまったらしい。
「…あの、野郎、あの、アマ、ぁ……倉持、房、めっ……」
「倉持房…? そいつにやられたの?」
アルシオーネが尋ねると、隆顕はコクリと頷く。
「……ガハッ!! ぁ……ああ」
「お、おい、しっかりしろよ!」
「……っ」
隆顕が血の塊を吐き出す。
アルシオーネも正人もどうにかしたかったが外傷ならともかく、
内部で骨折し内臓を損傷しているのならどうしようも無い。
自分達は外科医では無い。顔に継ぎ目のある黒い医者なら何とか出来たかもしれないが。
「し…死にたくねぇ……死にたぐね…ぇ……死にたく………ぁ…………」
唐突に、隆顕の動きが止まる。死んだのだ。
「……」
「……し、死んじまった、のかよ……」
「ええ……」
アルシオーネが開かれたままの隆顕の目を閉じさせやり切れない表情を浮かべる。
「……うぷっ」
一方生まれて初めて死体を目にした正人は吐き気を覚え、
すぐ近くの茂みに駆け寄り、戻してしまう。
「…大丈夫?」
「…な、何とか」
「……放送も近いしここで休みましょう」
「死体…どうする?」
「…埋葬する道具は無いわ。可哀想だけど……」
「……」
今や物言わぬ屍と化したシェパード種犬獣人に正人は目を向けた。
【赤川隆顕 死亡】
【残り21人】
【朝方/D-4廃送電鉄塔】
【下村正人】
[状態]吐き気
[服装]私服
[装備]錆びた太めの鉄パイプ(調達品)
[持物]基本支給品一式、完全自殺マニュアル、ロープ
[思考]
1:殺し合うつもりは無い。死にたくない。
2:アルちゃんと行動。放送を待つ。
[備考]
※倉持房を危険人物と認識しました。
【アルシオーネ】
[状態]良好
[服装]無し(服を着る習慣無し)
[装備]コルトM1917(6/6)
[持物]基本支給品一式、.45ACP弾(クリップに6発×3)
[思考]
1:殺し合うつもりは無い。脱出手段の模索。仲間を集めたい。
2:正人と行動。放送を待つ。
[備考]
※倉持房を危険人物と認識しました。
最終更新:2011年02月26日 16:15